行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第14話 素材

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俺たちが助けた獣人らしき男の子は、マックスといって、この道の先にある村に住んでいるそうだ。

「それで、マックスくんはどうしてこんなところに一人でいたの?」

「あ! そうだ、薬草! 薬草を取ってこなきゃ!」

聞かれて目的を思い出したらしく、マックスは慌てて草原の方を振り返る。

「薬草? 誰か病気とか怪我とかしてるの?」

「うん、…お母さんが病気なんだ。この先の草原に薬草があるから、それを採りに行こうと思って…。」

「え、モンスターが出るようなところに一人で? お父さんとか、誰か一緒に行ってくれる人はいないの?」

「お父さんは半年前に死んじゃったから…。それに、この辺りは滅多にモンスター出ないんだ」

マックスは少し俯きかげんになり、そう説明した。

「じゃあ一緒に草原まで行こうか! いいよね、ユウ兄」

「ああ、どのみち俺たちも、荷物取りに戻らないといけないからな」

マックスの悲鳴を聞いて駆けつけるときに、ナップサックや手に持っていたペットボトルを放り出してきてしまっていた。それに、知らない村に急に俺たちだけで訪れるよりも、マックスと一緒の方が都合がいいかもしれないからな。

そういうわけでマックスと一緒に草原に戻り、荷物を回収して、ついでに薬草探しを手伝う。

目的の薬草は「イトマキ草」という、解熱作用のある植物だそうだ。エノコログサ(通称猫じゃらし)のようなフォルムで、その先っぽに名前の通り糸が巻き付いたような植物らしい。
そしてもう1つ、「ニベア草」という体力回復効果を持つ薬草。こちらは、夕方の数時間だけ薄紫の小さな花を咲かせる植物だと言う。ニベア草は、花が咲いている時間帯でなければとても見つけにくいため、夕方近くになって採りに来たそうだ。

広い草原から自生している植物を探し出すのは思った以上に時間がかかり、マックスが必要だと言っていた各10本を見つけるのに、30分以上かかってしまった。探し終えた時には18時前になっており、もうだいぶ空が暗くなってきていた。
日本にいた時は夏休みに入ったばかりの7月の終わりだったが、気温や日の暮れ方を日本の感覚に当てはめると、今は9月中ごろじゃないだろうか。まぁ、この世界に四季があるのかもわからないが…。
とにかく、完全に暗くなってしまう前に村に入りたいので、少し急ぎ足で出発する。

「ミーコ姉ちゃん達は冒険者? 旅人さん? どこから来たの?」

薬草探しの間にかなり打ち解けたが、特にミーコに懐いているようだ。精神年齢が近いからか?

「えーと、あたし達は旅人かな? 人を探してるんだ。すごーく遠いところから来たんだよ」

「遠いところって、外国? そういえば姉ちゃん達、変わったカッコしてるよな」

ああ、服装とか考えてなかったな。マックスの格好は裾を紐で縛った感じの長いズボンに、上は膝上くらいの長さがある長袖Tシャツのような形のもので、腰紐が付いている。ゴムやボタンはなく、基本は紐で縛るという感じだろうか。
現代日本とは、デザインもそうだが、素材もかなり違うようだな。現地の服を調達するまでは、あまり人目に付かない方がいいかもしれないな。

「うーん、そうね…」

言葉につまってミーコは視線をさまよわせる。

「とってもとっても遠い国から来たの。だから、この国のこととか全然わからなくて。いろいろ教えてくれるかな?」

サーヤがミーコに代わってにこやかに言うと、マックスは顔を赤くして視線を逸らす。

「あ、う、うん」

「あれ? マックスくんってば照れてるの? かわいい~!」

「っ! て、照れてなんかない!」

「え~、そーかなー? あ、耳がへにょ~んってなってる! ちょっと触らせて!」

言いながら、ミーコはすでに耳をモミモミしている。ズルイぞ…。オレが触ったらまた変態とか言われそうで我慢してるってのに。

「わ! や、やめろ! 触るな~!」「わ~、モフモフ! 気持ちい~!」

「ミーコ、いい加減にしなさい! 耳触られるのはイヤなんだね。ごめんね、マックスくん」

「嫌っていうか、…くすぐったいから。でもサーヤ姉ちゃんなら触ってもいいよ!」

「あら、いいの? じゃ、ちょっとだけ」

「あ、ずるいサー「ミーコ姉ちゃんはダメ!」え~」

「ふふ。ふわふわなんだね~。ありがと、マックスくん」

「ハイハイ! 自分も触りたいっす! いい?」

「うーん、コータ兄ちゃんはちょっとだけな!」

あ、コータまで!

「あ、そうだ! このホーンラビットも持って帰らないと!」

マックスの声に少し前方を見ると、ちょうど先ほど倒したホーンラビットのところまで戻ってきていた。

「あ! やっぱコイツ『ホーンラビット』って言うんだ」

コータが小声で呟くと、ミーコがマックスに質問する。

「持って帰ってどうするの?」

「え? 知らないの? ホーンラビットは肉も食えるし、角も牙も毛皮も売れるんだぜ。せっかく倒したんだから、置いていったらもったいないよ! 結構おいしいんだぞ」

「そうなんだ~」

売れるし食えると聞けば置いていく手はない。どうやって運ぶかしばし考えたが、棒2本の間にロープを何周にも渡して簡易的な担架のような物を作って乗せることにした。これなら2人で持てるから運びやすい。本当はTシャツとかでやれば早くできるのだが、わざわざモンスターの血で汚すのは嫌なので、面倒だがロープを使う。
男3人で作業をしていると、ミーコが思い出したようにマックスに問いかけた。

「そうだ、マックスくん、この羽も売れたりする?」

そう言ってミーコは巨大鳥の羽をナップサックから出して見せる。

「!!! な、ななな、なんでそんなの持ってんの!?」

マックスは飛び上がって驚いている。比喩じゃなくホントに飛び上がった。

「コレってそんなに驚くようなもんなの?」

「それ、ジャイアントピーコックの羽だろ? まさか倒したの?」

「いや、倒してはないよ。襲われそうになったのを森に逃げ込んでしのいだんだ。これは木にぶつかったりして落ちてたのを拾っただけ」

あんまり驚くので、戦闘の部分はぼかして伝えた。

「ユウ兄ちゃん…、なんだそっか、驚かさないでよ~。もし倒してたら、村に入れないところだったよ! でもじゃあ、あそこの崖を通ってきたんだ。よく無事だったね!」

「え、ちょ、ちょっと待て! 村に入れないってどういうことだ!?」

今、なんか割りと重要なことをサラっと言ったぞ!

「ウチの村では、ジャイアントピーコックは山と森の守り神って言われてるんだ。だから殺したりしちゃダメなんだよ !けど、羽は貴族様とかに人気で、内蔵も貴重な魔法薬の材料になるらしくて、冒険者や素材収集家が狩りに来ることもあるんだ。強いからそうそう狩られることはないんだけどね!」

「守り神か~」「確かに、綺麗で神秘的な感じだったもんね」

「狩りに来た人なんかは村には入れない決まりになってるから、姉ちゃん達もその羽は隠しておいた方がいいよ!」

なるほど。先に聞いてなかったら危なかったな。

「そっか。ありがとうね、マックスくん。よかったら、もっと色んな事教えてね!」

サーヤがお礼を述べると、今度は照れつつも得意げな顔になる。

「う、うん。オレに任せとけよ!」

話しているうちに簡易担架ができ上がったので、ウサギ改めホーンラビットを乗せて出発した。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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