行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第12話 急襲

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駆け出した俺たちは目に入った光景に絶句し、思わず足を止めた。
腰を抜かしたように座り込むミーコとサーヤの向こうの森には、今までなかったはずの道ができていたのだ。木々が不自然に曲がり、人がちょうど一人通れるくらいの幅で空間ができている。それがずっと向こうまで続いているのだ。

見たことあるぞ。あれだ、数年に一度はテレビ放送される、国民的人気アニメ映画のワンシーン。女の子が初めてトト○と出会う時に、森の木がサーっとトンネルになるやつ。
まさか、この先にあのモフモフが!ってそんなわけあるか!!むしろ警戒すべきなんじゃないのか?

「ミーコ、サーヤ、これは一体どうなってるんだ?」

少し気分が落ちついたので、2人のもとに歩きながらたずねる。

「どうって言ったって。森に入ろうとしたらいきなりこうなったんだよ。私にもわかんないよ。」

ミーコも衝撃から復活して、そう答える。

「何かきっかけとかなかったのか?しゃべってたこととか、何かの動作とか。」

「えーっと、なかなか春樹さんの痕跡が見つからなくて、ミーコがちょっとイライラしてきちゃったんです。
それで、ミーコが『早くハル兄を探した「あああっ!ちょっ、サーヤそれ以上言っちゃダメ!」』」

「ん?何がダメだって?」

ミーコがサーヤの説明を遮った。阻止したところで、それじゃあ俺に聞かれると都合が悪いってことが丸わかりだろうが。ジロっとミーコを横目に見ると、サッと目を逸らしているし。
笑顔でミーコに近付き、首根っこをつかんで、サーヤに話の続きを促す。

「ミーコが早く春樹さんを探したいから、もうちょっと奥まで見てくるって言って、森に突入しようとしたら急にこうなったんです。」

ミーコの勝手な行動にサーヤも怒っているんだろう。ミーコが邪魔しようとジタバタ暴れるのを無視して、淡々と説明してくれた。それにしても…コイツめ、また一人で突っ走るところだったのか。
とりあえずミーコには『こめかみグリグリの刑』を執行しておいた。

「それにしても、スゴイっすね、コレ!やっぱ魔法とかがある世界なんすかね!?おおー、普通に硬い木だ。どうやって曲がったんだ?」

コータが嬉々として言う。後半はトンネルの一部になっている木に触りながら、独り言のように感想をもらしている。

「確かに凄いが、なんなんだろうな、いきなり。…何かの罠か?進んだ先に化け物がいるとか、途中で道がなくなって迷うとか…。」

「罠って…。きっと、神さまが導いてくれてるんだよ!」

「おお!なるほど!神秘的な感じっすもんね!」

ミーコとコータの2人は楽観的な意見だ。

「神さま、罠…。どっちも無いとは言えませんよね。ワクワクもしますけど、やっぱりちょっと不安もありますね。」

どちらかと言えば慎重派なサーヤまでが「ワクワクする」というのは意外だな。まぁ実はかくいう俺も、最初にト○ロを思い浮かべたせいか、あまり不安などは感じない。
いや、もしかすると危険や不安を感じなかったからこそ、○トロを思い浮かべたのかも?

まぁ、どちらが先か、今は大して問題ではないか。この場でにわとり卵の問答しても意味がない。とにかくこれからどうするか。時計を見ると、15時半を過ぎてしまっている。皆おおむねこの事態を好意的に受け止めているしな…。

「この道を信用していいのかわからんが、他に進む方向に当てはない。時間も15時半過ぎだ。覚悟を決めてここを進むか?」

「進もうよ。私はこの道、怖い感じしないよ。」

皆に問いかけると、すぐにミーコが答える。

「自分もそうっすね。ここはもう探しつくした感じだし、行かなくて後悔するより、行って後悔する方がいいっすよ!」

うーん、どちらかと言うと行って後悔する事態の方がヤバイ気がするんだが…。

「私はちょっと不安はありますけど、行ってみてもいいかと思います。ミーコの勘は意外と当たるから。」

サーヤも賛成か。なら決まりだな。

「そうだな、野生動物の勘は鋭いからな…。他に手がかりもないし、とりあえずこの道を進んでみよう。」

「うん!」「了解っす!」「はい!」

「早くハル兄追っかけよ!って、野生動物ってあたしのこと!?もー!ユウ兄ひどい!」

皆の意見が一致したので、そのまま進むことになった。本物の野生動物に襲われる心配もあるため、一応ないよりはマシかと、木の棒をそれぞれ持っていくことにした。

先頭を行くコータが歩き出したところで、サーヤが一瞬だけ祠の方を振り返った。その横顔に、かすかに寂しげな表情を浮かべた気がしたが、すぐにこちらを向いて笑顔を見せ「行きましょう、優介さん。」と2人に続いて歩き出した。

ーーーーーーーーーー

「ユウ兄、外だよ!やっと森を抜けるみたい!」

いつの間にか先頭を歩いていたミーコが明るい声を上げたのは、森を歩き続けて20分程が経過した頃だった。ようやくこの薄暗い森を抜け出せる、と嬉しさから少し足取りが軽くなるが、今日はすでにずいぶん山歩きや探索をしている。運動不足でなまった身体は重く、走り出したミーコとコータとの距離が開いていった。さすが、普段から運動してるヤツラは元気だな。

それから数秒して違和感に気付いた。もう森を出たはずの、ミーコとコータの声が聞こえないのだ。にぎやかな2人が、このタイミングで無言なのは少々おかしい気がする。

何かあったか?

不安を覚えてサーヤと一緒に急いで森を抜ける。そして、その先に広がる景色に思わず息を呑んだ。

森を抜けた先は幅3mくらいの道だった。ここまで俺たちが進んできた森のトンネルと、垂直に交わるように左右に延びている。どうやらここは山の中腹で、右に行くと上り道、左に行くと下りになっているようだ。道の向こうは崖になっており、かなりの高さがあるのに柵などはない。
崖の向こうは四方を山に囲まれた狭い盆地になっている。その盆地には、高層ビルのような極端に細長い岩山が、いくつも地面から突き出るようにそびえ立っている。
盆地を挟んだ対面は、岩肌がむき出しになった崖で、崖の途中にある穴から大量の水が流れ出して滝になっているようだ。滝の水は白く見えるが、滝壺は絵の具を垂らしたように鮮やかな、緑と黄色と蒼の湖(?)になっている。
そして、空には孔雀くじゃくのように鮮やかで派手な飾り羽を持つ大型の鳥が飛び交っている。どうやら、盆地から突き出ているような細長い岩山のてっぺんを巣にしているようだ。

現実とは思えないほどの美しく雄大な景色に圧倒され、俺たち4人はしばし言葉もなく、その光景にただ魅入みいっていた。

しばらく景色を堪能たんのうしてから、これからについて相談を始めた。

「今いる場所は高い山の中腹のようだな。とりあえず見える範囲に町や村はない。登るか下るか、どうする?」

「ハル兄はどっちに行ったのかな?」

「ミーコ、春樹のことは後回しだ。とりあえず町なり村なり見つけて情報を得ないことには、どうにもならないだろ。それに今夜の寝「ちょっ!ヤバイっすヤバイっす!!あの鳥こっち来るっすよ!」」

コータの声に慌てて崖の向こうを見ると、確かにあのデカイ孔雀のような鳥が1羽、こちらに向かって飛んできている。

「皆、森だ!森に逃げ「優介さん!森の道がなくなってます!」」

「なっ!いや、とにかく森に入るんだ!あの大きさはヤバイ!急げ!!」

一番崖に近かった俺が1、2歩森に入ったところで、例の鳥が突っ込んで来た。間一髪だ。近くで見ると体長は2mほど、長い尾羽を含めれば全長は5m近いんじゃないだろうか。デカイおかげで木に阻まれ、森には入って来れないようだ。
それでも首とくちばしを差し入れてきて、つついたり噛み付こうとしてくる。俺が最後に森に入ったからか、標的は俺のようだ。綺麗な見た目のくせに凶暴だな。よく見ると、嘴の中に歯のような突起がたくさんあり、足にも鋭い爪がある。巨体を木に押し付けているせいで、少しずつ木がミシミシと音をたて始めた。

「ああ、鳥は恐竜から進化した説が有力だったな。」と俺の頭が現実逃避しかけると同時に、ミーコが持っていた棒で巨大鳥の身体に突きを入れた。

「ゲギャー!」

巨大鳥が怒り狂って、嘴の突きがさっきよりも激しくなる。

「おい、怒らせない方がいいんじゃないか!?」
「でも、コイツ諦めそうにないよ!他のも来るかもだし、追い払ったほうがいいって!」
「こんな棒で追い払うなんて無理じゃないか?」
「ユウ兄ナイフ持ってたじゃん!」
「あんな短いのでできるかよ!怖ぇよ!」
「大丈夫ですか、優介さん!手伝います!」
「さっさと追い払うっすよ!」

俺とミーコが言い合いしているうちに、サーヤとコータも近くに来て応戦し始める。俺以外はなぜか好戦的だ。仕方がないので俺も応戦するが、木の棒ではあまり有効な攻撃にはならないようで、鳥は諦める様子がない。

「コータ、首か目を狙えるか?鳥には有効なはずだ!」
「はい!首ならなんとか。やってみるっす!」

その後、コータが首を2~3回叩いたところで動きが鈍り、そこですかさずミーコが目の周辺を突いて、ようやく鳥は諦めて去って行った。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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