行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第8話 責任

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「俺もまだ信じられないが、転移したって考えは妥当だと思う。それに、周りの植物の様子から言って、少なくともここは地球ではないんだろう。」

「つまり、私達は異世界に転移した可能性が高いってことですね。」

俺が言うと、サーヤが確認するように小さく呟く。すると、ミーコとコータが俯いて肩を震わせる。はっきりとサーヤが言葉にしたことで、実感というか、確信したというか、とにかくショックを受けたんだろう。

「みんな、ごめん!あたしのせ「うおおおぉっ!スッゲー!!マジ異世界?魔法とかあんのかな?ぅあ~!やっべー、超楽しみ!」」

ミーコが責任を感じて謝罪の言葉を発するのとほぼ同時にコータが立ち上がり、ガッツポーズで天を仰いで叫ぶ。ショックを受けたわけじゃなく、嬉しさで興奮しているようだ…。

「コ、コータくん?」

ガバっと頭を下げていたミーコが、驚いて恐る恐る顔を上げ、戸惑いがちに声をかける。

「あ、ああああ!ご、ごめん!先輩見つかってなくてこんな事態なのにっ!喜んでる場合じゃないっすよね!ほんっとごめん!」

コータは顔の前で手を合わせ、頭を下げてミーコに謝る。

「え?い、いや、そんな!あたしの方こそ、焦って崖から落ちて、こんなことに巻き込んじゃって、ホントにごめんなさい!サーヤもユウ兄も、ごめんね、あたしのせいで…。」

ミーコは改めて深々と頭を下げ、だんだんと涙声になりながら謝罪を口にする。

「自分は大丈夫っすよ、ホント!そりゃこんなことになるなんてビックリっすけど、自分はもともと剣でモンスターとかをこう、ザシュっと切りまくって、魔法でドカーンと吹っ飛ばしてって感じの勇者に憧れて剣道始めたんっすよ!まぁ、剣道と剣術じゃ全然違うんすけど。いやー、まさか夢が叶うとは!!あ、モチロン子どもの頃の夢っすよ!」

コータはジェスチャー付きで楽しそうに語っているが…、先走りすぎだろ。突っ込みどころ満載過ぎだ!まだ異世界(らしきところ)に来たってだけで、勇者になったわけじゃないんだから、夢は叶ってないだろ!そもそも魔法やモンスターが存在する世界なのかもわからないし。だいたい、子どもの頃の夢とか言ってるが、今もだろ!

…モンスターか。いるなら生態とか詳しく調べてみたいな。食性は肉食が多いのか?いや、生き物を襲う目的が捕食とは限らないよな。むしろそれは少なそうだ。やはり縄張りだとか巣を守ってとか…。
そうだ、生殖活動はどうなってるんだ?そういうものはあるのか?小説やゲームだと勝手に湧いてくるっていうパターンも多いが。求愛行動とか面白そ…って、いやいや、今出遭ったら軽く全滅とかありえるだろ!コータの能天気につられて、危うく妄想の世界に旅立つところだった。年長者なんだからしっかりしろ!

「う、うん…。でも、これから危険な事があるかもしれないし、もう地球に戻れないかもしれないんだよ?家族とか友達とか、彼女とかにも会えないかもだし…。」

コータの勢いに押されたのか、能天気過ぎる発言への戸惑いなのか、ミーコが遠慮がちに言うと、コータは『彼女』というフレーズに赤くなって狼狽うろたえる。

「えっ、や、か、か、彼女なんていないっすから!全然!これっぽっちも!
あ~、家族はまぁ心配すると思うっすけど、そこはもうしょうがないし…。」

『これっぽっちも』ってなんだよ。手を握って照れてた時から薄々思っていたが、コイツはチェリー君決定だな。

「ミーコ、確かにあの時崖で無茶をしたのは、あなたが悪いと思うわ。みんなが大怪我するとこだったんだから。でも、異世界ここに来たのはあなたのせいじゃない。だから、謝るのは無茶をしたことと、みんなの忠告を聞かなかったことよ。」

「でも!私が落ちなきゃ転移なんて起こらなかったかもしれないし、そもそもハル兄を探すのに付きあわせなきゃ「私は自分の意志で春樹さんを探しに付いてきたんだよ。自分で決めて行動したことの責任を、ミーコにとって欲しいなんて思わないわ。それに、きっとミーコが無茶するだろうから、私が止めなきゃって思って付いて行ったの。止められなかった私にも責任があるわ。」」

ミーコは自分のせいだと主張するが、サーヤがそれをさえぎる。サーヤの理論はちょっと強引だが、彼女らしいな。

「自分も志願して捜索に加わったっすよ!それに、最後は自分で飛び込んだようなもんだし。」

「「「…はぁ!?」」」

予想外のコータの言葉に皆が驚くと、コータはあわてて言い直す。

「あ、いや、自分で飛び込んだ、は言い過ぎっすけど…。あの時自分は崖の上の地面から飛び出した木の根っこにつかまってたんすよ。すぐにい上がれば自分は吸い込まれなかったかもしれないんすけど、どうしようって迷っちゃって…。」

「迷った?」

俺たちを助けようとしたのか?俺たちとは、ほんの数時間の付き合いでしかない。危険をおかさずさっさと自分だけでも安全確保すればよかったろうに。

「最初はなんとか助けられないかなと思ったんすけど、それは無理そうだったんで、だったら助けを呼んで来なきゃと思ったんすよね。でも自分、方向音痴なんで。一人でちゃんと帰れるかな?とか、助けを呼んでこのほこらまで戻ってこれるかな?とか、こんなこと信じてくれる人いるかな?とか、下手したら自分、先輩も含めて4人の殺人容疑とかかけられちゃうんじゃ?とかいろいろ考えちゃって。で、考えてるうちに結局、掴まってた根っこの周りの土も崩れて落ちそうになって、それでビックリして手を離しちゃったっすよ。」

「「「……」」」

「いや~、カッコ悪い感じだったんでなかなか言い出せなくて…」なんて、照れたように頬をポリポリきながら言っているが、ああ、確かに最後はマヌケだな。かける言葉も見つからん。

だが、方向音痴云々うんぬんはともかく、知り合いと山に入って一人だけ無事戻るなんてことが続いたら、確かに疑われる可能性は高いし、実際にの当たりにでもしない限り、この怪現象を信じてくれる人はいないだろうな。
仮にコイツが誰にも言わず、何事もなかったように過ごしたとしても、いなくなった事にもなかなか気付かれない俺や森野家の2人はともかく、サーヤの両親はすぐに捜索願いを出すだろうし、調べればコイツに辿たどり着くのは時間の問題だろうしな。
そう考えれば、コータにとっては最悪の事態を免れたってことか?こうして無事生きてるわけだし、夢が叶ったとか言ってるし…。

さて、いつまでもゆっくり話してるわけにもいかない。幸い(?)コータのおかげで悲観的な空気はないし、じっとしていないで行動をおこさないとな。
そのためにも、まだ表情が硬いミーコをなんとかしないといけないか。2人が責めないから、自責の念が行き場をなくして、どうしたらいいかわからないんだろう。ここは一発お仕置きしておいてやるか。

「よし、とりあえずミーコ、お前は尻叩きの刑だ。ケツ出せやコラ。」

おもむろにミーコに近付き、少しすごんで言う。

「ハア!?ちょ、ユウ兄、ななな、何言ってんのよ急に!」

「いいからケツ出せ!お前ら兄妹のおかげで迷惑こうむってんだからおしおきだ!」

逃げようと後ずさるミーコを捕まえて後ろを向かせると、ミーコが必死に抵抗する。サーヤは無表情で傍観しているが、コータは顔が赤くなった後、今度は青くなってオロオロしている。やっぱりコータの反応は面白いな。

「ギャー!ユウ兄の変態!セクハラ!ヤーメーテー!!」

「何がセクハラだ!クソガキのしつけは尻叩きと、相場が決まってんだよ!」

「イヤー!!放して~!やっぱり変態メガネじゃんか~。」

お、ミーコもだいぶ調子が戻ったな。あとはゲンコツで勘弁してやろう。

ゴンッ!!「いっったあぁぁっ!!」

手を放して、間髪かんぱつ入れずに強めのゲンコツをくれてやると、ミーコは頭を押さえてうずくまった。ちょっと涙目になっているようだ。

「しょうがないからコレでチャラにしてやる。お前は人の注意をちゃんと聞き入れて、もう突っ走らないように、よ~く反省しろ!」

ミーコに言ってから、今度はサーヤとコータに向き直って話す。

「商店のおばさんのおかげで食料と水分はあるが、日暮れまでになんとか寝る場所を確保する必要がある。それに、まだ帰れないと決まったわけでもないだろうから、まずは周辺を少し調べよう。何があるかわからないから、慎重にな。」

探索範囲はお互い声が届く距離を保つことにして、俺とミーコ、コータとサーヤの二手に分かれ、周辺の探索を開始した。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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