行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第3話 迷子

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家の庭の塀を越えて隣の森野家の庭に入る。
うちと森野家の間の塀は、それ自体は高さ1mくらいで、その上に50cm程度の柘植つげの木が植わっている。けど、10年くらい前に春樹と俺で一部分だけ木をどけてしまった。もちろん通りやすくするためだが、あれはなかなか大変な作業だったな。それに、提案したのも最初にやり始めたのも春樹だったのに、アイツは途中で飽きて俺に押し付けやがった。作業も終盤にさしかかった頃、俺が一人で木の根と格闘していて傍で春樹は昼寝していた時、ちょうど親父が帰ってきたんだったな。ちゃんと母さんに許可をとってやっていたのに、勝手にやってると勘違いした親父から、俺だけゲンコツを喰らった。あ~、思い出したら腹立ってきたな。

木がなくなっても塀の高さは1m、幅は40cmくらいはあるから、両側に踏み台を置いている。まぁ、今は俺と春樹は踏み台が無くても問題ないが、ミーコもいまだにこのルートを通ってうちに来るからそのまま置いている。でも今日はスカートのサーヤに合わせて表からグルッっとまわってくるようだ。数年前はサーヤを気にせず庭ルートを通っていたから、ミーコも少しは成長してるんだろう。

森野家の玄関前で待っていると、走って来たんだろう、すぐに二人が追い付いてきた。ミーコが急いで鍵を開けて入り、俺とサーヤもそれに続く。ないとは思っていたが、やはり春樹が帰って来ている様子はない。
そのまままっすぐ固定電話のところへ行き、受話器を上げて先程スマホで調べた「ナンバーお知らせ」のサービスに繋がる番号を押す。音声ガイダンスに従ってプッシュボタンを押すと、すぐに直近にかかってきた電話番号を教えてくれて、そのまま折り返し電話をかけることができた。番号を一旦控える必要もないのは便利だな。

トゥルルルル…と呼び出し音が鳴る。ミーコもサーヤも傍で固唾かたずを呑んで待っている。ミーコがうちに来てる間に他から電話が入っていないことを祈るしかない。

「もしも「はい。もしもし、犬山っす!えっと、森野さん?春樹先輩の妹さんっすよね!良かった、やっと繋がった~!」」

繋がったと思ったら、こちらが名乗る前に犬山クンとやらが早口でまくし立てる。どうやらミーコが言っていた、電話をかけてきた春樹の後輩で間違いなさそうだな。

「もしもし、犬山さんですね。すみません、こちらは森野の家の電話ですが、私は隣に住んでいる春樹の幼馴染の早瀬と申します。」

とりあえず丁寧に名乗る。女の子だと思ってしゃべっていて急に男の声がしたら、不審がられて切られかねないからな。春樹の名前を出しとけば、とりあえず大丈夫だろう。

「え?幼馴染って、あの変態メガネの…って、うわっ!いや、ち、ち、違うんです!すみません!すみません!は、早瀬さん、えーっと確か…、優介さん!そうだ、早瀬優介さんですよね!ほんっとすみません!」

またかよ。違うってなんだよ。何故俺が、会ったことも無いヤツに変態呼ばわりされなきゃならん!まさか一日のうちに2度も「変態メガネ」なんて呼ばれ方するとは、夢にも思わなかった。春樹のヤロー覚えてろよ!!
腹は立つが、犬山クンに「変態」の件の責任は無い。それに、電話の向こうでペコペコ頭下げていそうな勢いで侘びをいれてくれているので、とりあえずそこには触れずに置いておこう。悪いのは春樹だからな。絶対見つけ出してシメてやる。

「えーと、犬山クンだったかな?春樹のことで、今朝この電話にかけてきてくれたのは君だよね?春樹の妹は兄貴が心配で電話の内容はほとんど頭に入っていなかったらしいんだ。それで俺に泣き付いてきてね。悪いんだけど、今時間があったら、もう一回詳しく話して欲しいんだけど、どうかな。」

犬山クンは、とりあえず俺が「変態」発言に怒っていないようだと安心したのか、はい、はいと相槌を打ちながら聞いている。早口で捲し立てるばかりじゃなくて、ちゃんと話を聞けるヤツのようだ。

「はい、もちろんっすよ!というか、今、合宿の時の先輩の荷物を届けようと思って家に向かってるとこなんすけど、ちょっと道に迷っちゃって。さっきから妹さんに何回か電話かけてたんっすけど、出てくれなくて困ってたとこで…。」

わざわざ家まで荷物を届けてくれるとは、いい後輩だな。迷子になるあたり、ちょっと頼りない気もするが。

「それは、わざわざありがとう。えーと、今はどこにいるのかな?」

それから彼の現在地を確認したら、割と近くまでは来ていたようで、歩いて5分くらいのところだった。迎えに行くほどでもなかったので、そこからの道順を教えて来てもらうことにした。
また迷子になった時のために、ミーコはそのまま電話の前で待機。サーヤは目印代わりに家の前の道に出てもらった。その間に俺はいったん着替えに戻る事にした。


俺が着替えて森野家に戻ってきたのはちょうど5分後くらいだったが、犬山クンはまだ到着していなかった。どうやら案の定途中で再び迷子になったらしく、一度電話があったらしい。結局、彼と合流したのは俺と電話で話した10分後くらいだった。あの場所からは、そう複雑な道順ではなかったはずなんだが、どうやら彼はちょっと方向音痴のようだ。
犬山クンは森野家に着くやいなや、玄関先で挨拶を述べる。

「ちわっす!犬山いぬやま幸多こうたっす。コータって呼んでください!先輩にはいつもお世話んなってます!よろしくお願いします!」

ハリのある、ちょっと大きめの声でそう言って、勢いよく頭を下げてきた。体育会系のミーコはともかく、俺とサーヤはその勢いにちょっと引いてしまった。

玄関先では何なので、森野家に上がってもらい、リビングに通す。ミーコが春樹の荷物を受け取って中身を確認したが、携帯と財布は入っていなかった。それ以外は合宿に持って行った荷物の通りだったようだ。ミーコはわざわざ届けてくれたコータくんに改めて礼を言ってから、とりあえず荷物を春樹の部屋に置きに行った。その間にサーヤが人数分のお茶を用意してくれたので、お茶を飲みながら改めて簡単に自己紹介を済ませた。

コータくんは春樹の大学の後輩で、高校は違ったけど同じ県内出身なため、高校時代から剣道の試合やなんかで知り合いだったらしい。
身長180㎝くらいでがっしりとした体つきは、いかにもスポーツマンといった感じで、ノリやしゃべり方もモロ体育会系だな。でも、イイ身体してる割には目がかわいらしいく、クリクリッとしている。なんというか、ゴールデンレトリバーのような人懐っこい大型犬のイメーシだ。女の子にイマイチ免疫がないのか、それともどちらかが好みなのか、女子高生二人を前にソワソワと落ち着きの無い感じが、余計に犬っぽい。
裏表なく素直そうなこの感じは、たぶん、春樹のお気に入りだと思われる。アイツなりに可愛がってるんだろうけど、そのぶん上手く丸め込まれて、気付かないうちにイロイロ押し付けられてるクチだろうな。

自己紹介も終わったし、そろそろ本題に入ろう。

「コータくん、春樹がいなくなった時のこと、順を追って話してくれるかな。」

「はい!」
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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