行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第2話 失踪

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「それで、お前はここに梨を食いにきたのか?」

俺もフォークを梨に突き刺しながら、すでに口いっぱいに梨を頬張っているミーコに尋ねる。

「ほんあわへらひれひょ!」

「口の中なくなってから言え。」

コイツは17にもなってか。17歳って「花も恥じらう乙女」とかいう年頃じゃないのか?

「もう、ミーコってば…。あのね、優介さん。わたしもここに来る前に断片的に聞いただけなんだけど、どうも、春樹さんがいなくなったみたいなの。」

サーヤが、少し心配そうな表情を浮かべてミーコの代わりに話す。

「いなくなった?」

「そうなの!ハル兄が帰ってこないの!」

やっと梨を飲み込んだミーコが悲しそうな焦ったような顔で言う。

「帰ってこないって、いつから?」

「んっと、ハル兄は1週間前から剣道の合宿に行ってて、昨日の夜帰ってくるはずだったんだけど、帰ってこなくって…。」

なんだ一晩か。大学生の男が一晩くらい帰ってこなくても、それほど大騒ぎすることもないだろう。大ゲサな…まぁミーコは極度のブラコンだから仕方ないか。兄を尊敬というか、もはや崇拝してるような感じすらある。春樹は春樹で妹の前では本性を隠して「強くて優しくて硬派」な理想の兄を演じているしな。

春樹は顔がよくて剣道が強くて外面がいい。学校や家では、正に王子サマかアイドルかといった感じの振る舞いで、誰に対しても平等に優しく接する。正直モテまくっていた。けどそれは猫を10匹くらいかぶっている状態で、実はアイツの本性はタラシだ。ごく親しい友人なら知っているが、後腐れなく遊べるような女を選んではテキトーに遊んでいるし、情の深そうな女や真面目な女には絶対に手を出さない。その上自分の家じゃマズイからって、に女連れ込むようなヤツだぞ。ミーコもいい加減目を醒ませ。

「まぁガキじゃないんだから、一晩くらい帰ってこなくたってそんなに慌てる事ないだろ。バイトのシフトが急に変わったとか。案外その剣道部の女の子とか、どっかのお姉さんと楽しく過ごしてるんじゃないのか?」

「なっ!ハル兄はそんなことしないもん!ユウ兄みたいな変態メガネと一緒にしないで!」

は?変態メガネ?!メガネはともかく、俺のどこが変態だ!聞き捨てならんな。

「…変態メガネ?どの口がそんなこと言うんだ?んん?」

ミーコの両頬をギュ~っと摘まんで引っ張り、笑顔で尋ねる。

「い~~~!いひゃいいひゃいいひゃい~~~!!らっへ、ハルりいあいっへはほう~!」

春樹が?あのヤロー、次会ったらぶん殴る!いや、あいつには避けられそうだな。だったら絶対に言い逃れできない状況で、ミーコに本性を暴露してやろう。うん。
サーヤは苦笑いで見ながら、先程のミーコの発言も今の状態もスルーして聞く。うるさいのでミーコは放してやった。

「春樹さん、遅くなる時はいつも連絡してきてたよね。何も連絡ないの?」

「うん。昨日の朝には「昼から打ち上げやるから、夜はちょっと遅くなると思う。」ってメールが来てたんだけど、夜になっても今朝になってもハル兄からは連絡なくて。こっちから電話かけても呼び出し音はするのに出ないし…。」

頬っぺたを擦りながら、ミーコが暗い顔になりつつ答える。

「それは珍しいな。」

1年と少し前、俺と春樹が大学に入学してすぐの頃、おじさんとおばさんが事故で亡くなってからは、春樹は特にミーコを不安にさせないように気を遣っていた。両親の生命保険やら学資保険やらがあったおかげで生活に困ることはなかったみたいだけれど、金があっても心は埋まらない。だから、二人は恋人か!ってくらい連絡を取り合っていた。それなのに丸一日ミーコに連絡せず、着信にも出ないのはおかしい。

「ん?連絡がないって言ったか?他の誰かから連絡があったのか?」

「うん。サーヤがうちに来る直前に、剣道部の人から電話があったの。」

「アホか!それなら早く言え!!」

ミーコの頭をペシっと叩く。

「痛ったぁ!もう!暴力反対!!」

暴力って、これくらい痛くもなんともないだろ。早く話を進めろ。

「それで、どんな内容だったの?」

サーヤが先を促す。やっぱりミーコのどうでもいい言動は綺麗にスルーしている。さすが、俺よりミーコの扱いに慣れてるな。

「えっと、昨日の昼前に買い出しに行って、帰り道で急にどっかにいなくなっちゃったって。」

急にいなくなった?春樹が行き先とか言わずに自分からどこかへ行ったってことか?合宿中に急にいなくなってそのままというのは、アイツらしくない。裏ではいい加減でだらしなくて、面倒事は他人に押し付けるのが巧いヤツだが、合宿中ならそういうは見せないはずだ。思ったより事態は深刻かもしれない。

「ミーコ、ちゃんと電話の相手が言っていた通りに話せ。」

俺はミーコの目を見て真剣な表情で改めて聞くと、ミーコも真剣な顔になって少し考えてから答える。

「言ってた通りにって言われても、『先輩がいなくなって、戻ってこなくて』っていうの聞いたら頭の中真っ白っていうか、目の前が真っ暗っていうか、とにかく何も考えられなくなっちゃって…。だからよくわからなくて…。」

ミーコは俯いて泣きそうな顔になっている。春樹のことが心配なのと、不安なのと、しっかり聞いてなかったことを後悔しているんだろう。けど、チラっとこっちを窺いつつも目を合わさないのは、俺に怒られると思ってビクビクしてるからだな。長い付き合いだから、顔やしぐさでだいたいわかる。

「はぁ。別に怒ってはない。ちょっと呆れてるだけだ。」

「うぅ…」

落ち込まれても、焦らせても話が進まない。ここは少しずつ情報を引き出して確認していこう。

「それで、電話は剣道部の後輩からからだったんだな?」

春樹を『先輩』と呼んでるなら後輩だろう。面倒だが、なるべく確実に答えられそうなところから始める。自信を持って答えられることがあると、ミーコも多少落ち着くだろうからな。淡々とした口調でゆっくりめに話すのも大事だ。こちらが感情を出したり早口になると焦らせるからな。

「うん。それは間違いないよ。」

「家の電話にかかってきたのか?知ってる人?」

「うん。家の電話にかかってきたよ。知らない人だった。名前はえっと…、いぬ、いぬ…いぬなんとかって。早口で聞き取れなくて…。」

家の電話なら着信履歴は残らないか。調べる方法がないかネットで見てみるか。俺はスマホで検索を始めた。その間にサーヤは名前を思い出させるように誘導を始めている。

「いぬから始まるのね。ん~、イヌイとかイヌガミとか…イヌカイとかじゃない?」

「ん~、そんな感じだった気もするけど、なんか違う気もする。」

「部活の名簿とかないかな?申し訳ないけど春樹さんの部屋を探してみるとか…。」

「あった!固定電話でも、一番新しい着信なら1回30円くらいで調べられるらしい。ミーコ、家に戻るぞ。」

言いながら立ち上がり、そのまま玄関へ向かう。部屋着のままだが、隣だし、庭から庭へ直接行けるから問題ない。

「うん!」「よかったね、ミーコ!」

ミーコとサーヤの顔に少し笑顔が戻り、二人もすぐに付いて来た。
まぁ、その後輩より後でかかってきた電話があったらアウトだけど、そうじゃなければ後輩のいぬなんたらクンから少し手がかりが得られそうだ。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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