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第九話「それは、当たり前の日常」③

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「……こ、好奇心にかられて……ついっ! なんか生えてない感じに見えたんで、確かめたくて……」

 ……思わず、顔が真っ赤になる。
 ちなみに、ユリのお肌は強化人工皮膚なので、髪の毛や眉毛以外の体毛のたぐいはそもそも生えてないし、汗も保湿用程度しかかかない。
 
 第2世代型までは、ハードスキンが採用されてたんだけど、ユリの代……第3世代型からは、普通の人間とほとんど同じのソフトスキンに仕様変更されている。

 おかげで、こんな風に素肌を晒しても、好奇の視線で見られることもなかったんだけど……。
 そこら辺は、さすがに皆と一緒って訳じゃないのですよ……。

「……そ、そこは触れないで欲しかったのですよ……お、お子様だからって訳じゃないのですよ? 出来れば、内緒に……」

 マリネさんの耳元に、口を寄せてボソボソと囁いておく。
 さすがに、下のアレを生やしてなんて、リクエストは……無理だろうなぁ……。

 髪の毛とかは、人に見られるから人間同様にって理由で、人工毛髪が備えられてるけど、あっちは普段人に見られるような場所じゃないし……。
 
「そ、そうね……。ユリコちゃん、ごめんねっ! この事は二人の秘密にしとくからっ!」

 マリネさんが頭を下げてくれる。
 
「お願いするのですよ……?」

「……解ったわ。お詫びに……私の事、好きなだけ触っていいわ! これでおあいこでしょ?」

 マリネさん……下着姿のままで、両手をバンザイして堂々たる態度。
 えーっ! 好きにってどうしろと?

「うーん、じゃあ……えいっ!」

 困った時は……先輩達にやってたみたいに、抱きつきっ!
 違うのは、お互い下着姿ってだけ。

「え? そ、そう来る……?」

 ちょっと戸惑ってる感じだけど、押しのけられたりはしなかった。
 あ、お肌同士で直に触れ合いって、なんか良いかも? マリネさんって、凄くヤワヤワで、暖かくって、いい匂いがするのです。

 けど、なんか周りできゃーとか大胆っ! とか言われてる……。

「わっ! ユリコちゃん、マジでお肌すべすべっ! それにちょっと体温高い? 超ぬくいっ! これいーわー。うん、私……女の子も大好きだから、むしろこう言うのって、大歓迎っ!」

 ギュッと抱き返されて、頬ずりとかされてるのです。
 
 でも、イヤじゃない……こんな風に他人に積極的に触れられるなんてのは、ちょっと新鮮。
 なんか、ドキドキしてきちゃう……。

「ちょっと! ユリコさん、ストップ! あなたも、何やってるのよっ!」
 
 委員長さんが慌てたように割って入ってきて、引き離される。
 
「もぅっ! いけずーっ! いいじゃないの……ねぇ、ユリコちゃん!」

「……委員長さんも、えいっ! なのです」

 せっかくなので、委員長さんにも抱きつきっ!
 
「ええっ! 私も? た、確かにユリコさんって、お肌綺麗ね……おまけにとってもあったかいし、目や髪もすっごくキレイ……。って違うでしょっ! え? え? なに、エスクロンの人って、そんななのっ?」

 委員長さんも意外と胸が凄い……羨ましいなぁ……。
 
 でも、委員長さんもなんだか、甘いような匂いがするのです……抱き心地も先輩ともマリネさんとも違う。
 スレンダーな体型のマリネさんと違って、程よくボリュームあって、これはこれでいい感じ。

 お母さんに抱っこされてるみたい……なのです。

「アヤメ先輩が、女子高じゃ挨拶みたいなものだって教えてくれましたよ。仲良しのハグって言ってました」

「アヤメ先輩? こないだ教室に来てた二年の近松先輩の事? ……あ、あの人もまた要らないことを……と、とりあえず、皆見てるから、ちょっと離れましょう? ねっ!」

 もうちょっと、抱っこしてたかったんだけど。
 ここは、素直に従う……なんか、知らないけど……委員長さんの言うことは聞かなきゃって気がしてくる。

「じゃあ、ユリコちゃん、さっきの続きしよっ! なんなら、そこのカーテンの影でっ!」

 マリネさんが窓際のカーテンの側で、おいでおいでしてる。
 なお、相変わらず下着姿……ユリもなんだけど……。

「駄目よっ! ユリコさんを貴女の毒牙になんてかけさせないっ! ユリコさんは私が守るっ!」

 委員長さんがユリを守るようにギュッと抱きしめてくれる。
 あれ? なんか変な展開になってきたのですよ?

 委員長さんとマリネさんの視線が交差して、なんかバチバチ言ってるような気がする。

「三人共、じゃれ合うのもそれくらいにしときなよー。皆、もう行っちゃったよぉ? と言うか、マリネとユリコちゃん……いつまでそんなカッコでいる気?」

 リオさんが半ば呆れながら、そんな事を言う。
 気がついたら、もう皆、着替え終わって、ぞろぞろと教室の外へ出ていくところなのですよ。
 
「ま、待ってー! なのです!」
 
 大慌てで、Tシャツ着て、短パン履いて、皆とお揃いのダサダサジャージに着替えて、バタバタとグラウンドに向かう。

 結局、委員長さんと、マリネさん、リオさんとユリは堂々たるビリッケツ!
 
「遅いっ! 菅原まで何やってんのよ……遅れた4人は、罰として全員グラウンド三周! 他の娘達は準備体操はじめーっ!」
 
 ……キリコ姉……容赦なかった。
 言われたように、グラウンドの周りをグルグルとランニング開始。
 
「……もうっ! 私まで巻き込まれたーっ!」

「ご、ごめんなさいなのですよ! 委員長さん」

 ペコペコと謝り倒す……ユリが調子に乗ったせいなのですよ。

「さ、冴よ……せ、せっかくだから、委員長さんとかじゃなくて、名前で呼んでよ。ユリコさん……」

 ちらっとこっち見ながら、委員長さんがそう告げる。
 名前で呼ぶとか……お友達っぽいのです……。

「冴さん……こう呼ぶと、なんか、お友達みたいなのです」

「そ、そうね……。うん、実は……友達になりたいなぁ……って、思ってたの。ユリコさん、なんか一人ぼっちになってたみたいだったし……」

「冴さん、いい人なのです……よろしくお願いするのですよ!」

 そう応えると、冴さん……なんか真っ赤になって、一人だけペースを上げる。

「ユリコちゃんって、無愛想だと思ってたけど、別人みたいに良くしゃべるようになったのね。なんかあったの?」

 マリネさんが追いついてきて、そんな事を言ってくる。
 確かに……自分でもビックリするほど、ハキハキ喋れるようになってる。
 
 多分、先輩達と遊んだり、色々おしゃべりしたから……かも。

 あんな風に人と接する事なんてなかったんだけど……いい意味で影響受けたのかも。
 お医者様は、脳の処理系の問題とか言ってたけど、要するに、ユリが人とお話するのに慣れてなかっただけなのかも……。
 
 と言うか……今まで、生きてきて最高に幸せーって……プチケーキ食べながら、思ったのです。

 お友達とお買い物して、色々お話しながら、美味しいものを食べる……小さな幸せだったけど。
 ユリとしては、始めて尽くし……。
 
 だから、同じような感じで、皆と接してみた……それだけの事なんだけど。
 随分と、好意的に受け入れられたようだった。
 
 ……なんだ、始めからこうすればよかったのか。

「あ、それ私も思った……。こないだまで、ボソボソとしか話してなかったのに……もしかして、彼氏出来たとか?」

「え? それマジ? 確かに女の子って、彼氏できると大化けするって言うけど……。で、でも、男の子なんかより、女の子の方が良いと思うわよ!」

「おだまりなさいっ! 同性だろうが、異性だろうが不純なのは許しませんからっ! と言うか、か、彼氏? ユリコさん、そんなの……い、いるの?」

 冴さん、先に行ったと思ったのに、いつの間にか近くにいた。
 と言うか、早くもバテてるっぽくって、露骨にペースダウン中。

「ゆ、ユリに彼氏とか……無理なのですよぉ……。皆さんこそ、どうなんですか?」

 ユリがそう言うと、全員揃いも揃ってショボーンとうつむいたり、遠い目をしたり……。
 なんとも微妙な反応が返ってくる。
 
「じょ、女子高生にそれ聞いたら駄目だよ……。あのさ、私ら男に縁があるように見える? 女子高で彼氏いるなんて、一割くらいらしいし、実際そんなもんだと思うよ? ちなみに、私は9割勢……皆も……お察し?」

 リオさんがぼそっと呟く。
 
 こんな女子高生が4人も集まれば、一人くらいって思うだろうけど。
 この様子だと、全員一致で男っ気なし……一割どころか、ゼロ%……コンマ1%ですらない。
 
 二人の先輩方もそんな気配は皆無……ユリの知ってる人で、彼氏持ちとか皆無なんじゃ……。
 
「か、悲しい現実なのですよ……」

 思わず、そう返すと皆、どよーんとした感じになる。
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