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第六話「地上世界のアフターカーニバル」①
しおりを挟む『……さて、皆様。大変お待たせしました……。現在惑星クオン、赤道上空35000km……現在当艦は、対地同期軌道状態……毎秒10kmの速度にて定位中です。これから如何致しますか?』
静止衛星軌道とも言う……。
惑星上から見て、止まって見えることからそう呼ばれるのだけど、実際は秒速10kmと言う結構な速さで動いている。
今、私達は惑星クオンの上空、35000kmにいる。
艦体もすでにプラズマフィールドも解除、キャノピーを惑星方向に向けた状態で、相対定位状態にあった。
「……はぁ、クオンをこんな間近で見るのは始めてやなぁ……」
眼下には、地上世界がいっぱいに広がっている。
茶色多めの殺風景な光景だけど、赤道周辺を中心に緑色や青が広がっていて、着々と環境改善が進んでいるようだった。
「そうですわね……こんな大きいなんて……先輩達が一度見たら忘れられない……なんて、言う訳ですわ」
ちなみに、惑星エスクロンはクオンの約二倍……当然もっとデカいし、9割が海と言う海洋惑星だから、なかなか見応えがあると言う評判だった。
運がいいと、超巨大なメガストームを衛星軌道上から見れたりするから、観光客には人気なんだけど……。
ぶっちゃけ地上は大騒ぎ……それが見れる=しばらく、衛星軌道上で待機ってなる。
ユリも見たことあるけど……もう、バカバカしくなるくらいに大きい。
……地球に例えると、アメリカ大陸? がまるごと収まるくらいの超巨大台風……。
機会があったら、二人を私の里帰りに付き合わせるってのも悪くないかも……なんて思う。
エスクロンの海浜リゾートって、他の星系からも観光客やお金持ちがバカンスにやってくるくらいには、有名だし、エスクロンなら、外国人でも操艦免許とか取れるんだよね……。
『……クオン上空管制より、リアルタイムの惑星環境データが転送されてきました。ここ数年ほどで、ずいぶん環境も良くなったようですな……赤道付近の気温は20度と安定、酸素濃度も18-19%、以前より良くなってますね。本日は赤道付近なら、天候も落ち着いてます。これなら、いっそ地上降下するのも悪くないかと』
……え? 惑星降下するの……?
地上用装備なんかも一式積んであるし、出来なくもないと思うんだけど……。
「地上降下っ! ええな……それぁ。うちらコロニー暮らしにとっては、大地に立つなんて、もう憧れなんやでっ! 地平線に果てしなく続く高い空……ええなぁ!」
「そ、そうですわね……。こんなもう手が届きそうな所まで来ておいて、引き返すなんて……ユ、ユリコさん。駄目かしら?」
……ユリは頼まれたら、断れない子なのです!
「エルトラン……このまま降下は可能?」
『問題ないかと思われます。降下ポイントはどの辺りに致します? お勧めとしては、やはり赤道付近、本日の環境予測データからすると、この24箇所ほどが候補となります』
モニター上に、赤道付近の緑や青多めのスポットが列挙される。
多すぎっ! クオンの地上の予備知識がないから、何がどうお勧めなのかさっぱり解らない。
「よく解んないので、お任せなのです!」
『かしこまりました。お任せされました……では、一応恒例となっている降下ポイントがありますので、そこを目的地として、只今より減速、地上降下フェイズに入ります。大気圏内飛行モジュールなしでの飛行につき、重力機関降下となりますので、少々揺れますが。ご心配なく……降下、カウントダウン……30、29、28……』
エルトランのカウントダウンが始まり、二人も慌ててシートベルトチェック。
重力機関降下……重力機関により、機体上方に疑似重力場を発生させ、見かけ上の機体重量を極限まで下げた上での低速自由落下。
大気圏に突入する際、高速で落下することによる大気と機体の圧縮熱による高温が一番の問題になるのだけど、この方法だと降下速度がゆっくりとしたものとなるので、この問題が起こらなくなる。
大型艦も重力機関を使えば、大気圏突入離脱も容易なのだけど……。
その場合、その大質量に比例して、大出力、大規模重力場を作り出すことになるので、自然重力との干渉の結果、地上に重力異常地帯を作り出したり、最悪地上にマイクロブラックホールが出来る……なんて事故が起こりうる。
なので、重力圏内での疑似重力場の出力は上限が厳しく管理されている。
その辺もあって、惑星往還船ってのは、20m程度の小型艦に限定される……50年前は、その小型艦を亜光速ドライブ対応させるなんて、無理をやってたので、エトランゼみたいな化物地味た小型艦が作られていたのです。
今の20m級の艦艇は、母艦とセットになった長距離宇宙空間航行を想定せず、大気圏内飛行と大気圏突入と離脱機能のみを備えたものが大半で、重力機関も最低限の出力のもので、機体の重量軽減目的で搭載され、あくまで補助的な扱いとなっている……。
建造コストとなると、多分エトランゼ一隻分で、今の20m級の小型艦なら10隻だか20隻くらいは作れる。
それを考えると、エトランゼがどれだけ贅沢な艦かよく解る……実際、当時の艦は今の時代ではオーバークオリティの貴重品と言う事で、結構な数が個人所有されていたり、現役で活躍してたりもするのです。
かくして、ユリ達は……惑星クオンの大気を流れる流星となり……。
準備もプランもなんにも無しで、地上へと降り立ったのでした。
もちろん、降下してからも色々ありまして……。
冒頭の火炙りにされたヤカンをユリが救出……。
第一ミッション……お茶を淹れて、飲む……達成!
とまぁ、こんな感じがこれまでのあらすじなのです!
「ほら、ユリちゃんの分もおねーさんが入れてやったで! まぁ、お湯に合成コーヒータブレット入れただけやけどな」
言いながら、アヤメ先輩がコーヒーの入ったプラカップを差し出してくれる。
黙ってそれを受け取ると、肩に手を回されて、焚き火の元へと連れて行かれる。
私はこの二人と違って、制服の環境保護シールドをオンにしてるから、炎の熱とかも解らないんだけど。
この二人は、さっきからずっとオフにしてるらしい。
外気温だって、日が傾き始めた事で10度切ってるのにも関わらず、二人は制服……それもミニスカ仕様になんてのにしてる。
寒くないのかなーって思う。
「……先輩、寒く……ない?」
チラッと二人の足元を見る。
……いわゆる生足状態。
布切れ一枚、下ガラ空きのスカートなんて、これっぽっちも防寒の役になんて立たないから、もう裸も同然だろうに……。
よく見ると鳥肌立ってて、寒そう。
私は……制服の環境保護シールドに加えて、発熱素子入りの長袖シャツに分厚い黒レギンスを着用。
エスクロンは、昨日真夏日、今日零下とかトチ狂った気候も珍しくなかったから、この手の防寒装備は必需品。
環境シールドもあくまで非常用だから、寒い時は着込む……これは宇宙時代になっても一緒。
年中快適なコロニーでは、使う機会もなかったんだけど、いつもの習慣で、通学カバンに忍ばせてたんで、ご利用中なのです。
クオンは、エスクロンみたいな過酷な惑星と違って、いくらかマイルドだけど、まだまだ開発中だけに気温は全般的に低め……赤道付近は、多少マシみたいだけど、極点付近は氷結地獄なのは間違いない。
降下ポイントは、エルトランが比較的まともな環境を選んだようなのだけど、季節的には冬……普通に寒い。
二人も、制服にはちゃんと環境保護シールド機能くらいあるのに……なにやってんだかなぁ……なのです。
「……なんや、ユリちゃん。うちらが寒そうって?」
私の視線に気づいたのか、アヤメ先輩がそんな事を言ってくる。
とりあえず、頷いとく。
「ふふふ、当然寒いですわ……。けど、敢えて文明の利器に頼らず、暑い寒いを含めて、生身で自然を満喫する! それが宇宙活動部の理念なんですのよ!」
部長……鼻水たれてて、汚いです。
やせ我慢もここまでくれば立派……?
「どや、ユリちゃんも環境シールド切ってみたらどうや? アタシらにとっては、この寒さすらも普段は出来ない貴重な体験なんやで! しかもこれでもまだ全然序の口なんやろ? 氷点下とかなんて、どうなるんやろな……」
言いながら、アヤメさん足がガクブルしてるのです。
只今の気温は8度……まぁ、寒い。
コロニーの20度台の環境からだと、かなーり寒く感じる。
「……氷点下20度のブリザード……コンビニで肉まん買いに行こうとして、遭難しかけた」
エスクロンで実際にあった事。
……まつげにツララ出来るとか、洒落にならなかったのです。
いくらユリが強化人間でも寒さに耐えられる限度ってものがあるのです。
「それって、どんなんなんやろな。ああ、でも寒い分、焚き火ってのが、ありがたいって、よぉわかるな……。こりゃ確かに先輩方が地上降下した時の定番にしてたのも頷けるわ」
「ですわね。合成品のコーヒーもやけに美味しく感じますの」
……二人共焚き火にあたって、暖かそうにしてる。
環境シールドを張ってる限り、焚き火の温もりも遮断されてしまう。
確かに、お二人の言うことももっともなのです!
……ユ、ユリもチャレンジするのです!
「……一緒」
ユリも環境シールドを切って、焚き火にあたる。
一気に寒くなるのだけど、火に向かってる方はポカポカと温かい。
酸素の方は……19%くらいはあるみたいなので、若干薄いものの問題になるほどでもない。
火の方は、酸素タブレットを直火状態から、脇に移したので、さっきほどは盛大に燃え盛ってない。
燃料も……とりあえず、今回はエトランゼに積んでた凝縮炭素棒を使ってる。
……この森……森と言っても、まだまだ木が低いので、薪代わりの枯れ枝とかが全然なかったのです。
大きめの石が転がってたので、それを椅子代わりに腰掛けて、二人に習って手をかざす。
うん、温かい。
顔と手が……ほのかな温もりに包まれる。
冷えかけていたつま先がジンジンする。
でも、一陣の風が吹くと背中がとってもひゃっこくて、何より石越しに伝わってくる寒さでお尻が冷たいのですっ!
「温かいんだか、寒いんだかよく解んないのです……それに、煙い」
うーん、こんなんだったかなぁ……。
おとうさんキャンプでは、焚き火とかあまりやらなかったし……。
巨大な昆虫(クリーチャー)が火を目印に、襲いかかってきたりするので、控えてたような気もする。
やっぱり、アレはハードにすぎたと思うのです。
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