宇宙（そら）きゃんっ！ 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました！

第二話「ユリちゃんの夏休み」②

「んっと、そっちのユリコちゃんだっけ？　君、なんで、カタコトなんや？　と言うか、無口な子やなーって思ってたけど、一応言葉喋れたんやな」

　……カタコトとか無口言うなぁ……。
　こっちはこれでも一生懸命なの……でも、初対面だとそんな印象なんだろうね。
　
　人と人は、言葉を交わして始めて解り合える……その言葉によるコミュニケーションが下手くそな私は……。
　皆が懸念したように、これから先、生きていくのに色々と苦労するだろう……。
　さすがに、少しはなんとかしたいとくらいは思ってるんだけどね……。

「あはは、この子ちょっとシャイでね。ホントは、話してる言葉の十倍くらいの事を言いたいんだけど。話しながら、うまい具合にまとめるってのが苦手なのよ。メールとかだと、だぁーっと饒舌になるんだけどね。やって見せれば早いんじゃない？」

『……と言うか、端末と身体直結して、文字データとして打ち出したほうが早い。私、秒間100文字くらいアウトプットできる。本日は、お二人ともご協力に感謝！　ありがとう、素敵なレディー達。お二人は年上のようですが、オシャレですね。とっても可愛いですよ！　私もオシャレとか興味あるんですが、こんな出で立ちなのでなかなか、似合うのが解りません。そう言うのとかやはり、自分の感覚よりも他人の評価、感覚でってのが良いと思うのですが、良かったらアドバイスとかください。あとアヤメさん、とってもいい匂いします！　香水なんてやつなんですか？　教えてくださいっ！』

　携帯端末にコネクタつなげて、ダイレクトアウトプット。
　文字データ表示なら、二秒もあれば出来る。

　思わず笑顔になりながら、二人に端末のモニターを見せる。

「おわっ！　めっちゃながっ！　あ、あたしの香水は……100均の安物やで？　みかんの匂いがする奴なんやけど、試してみる？」

　スプレー式の安っぽい容器にみかんの絵が書いてあるのを手渡される。
　
　軽く手に振るととってもみかんの香りっ！　私、みかん大好きっ！
　
　首筋にちょっと付けると、ユリもみかんっ！
　大人っぽいフレグランスってのもいいけど……私は、こんなでいいなぁ。
　
　ニコニコとしながら、香水の瓶を返すと嬉しそうに微笑まれる。
　
「ユリも……みかんっ！　あ、ありが……とぅ」

　……うう、また尻窄みになったし……もっといろいろお話したいっ！
　
　はっきり言って、あーだこーだと話すとなると、もうまどろっこしくてしょうがない。
　言いたいことを要約しないと……とか思ってると、カタコトみたいになる。
　
　お医者様によると、脳の情報処理能力が、ユリの場合一般人より高速かつ複雑化しており、思考速度と発声のタイムラグで、言語処理過程で問題を起こしてるようで、それが原因で上手く言葉に出来ない感じらしい。
　
　病気と言うより、私の脳機能自体が言語処理や思考過程がデータ処理向けに最適化されてる……要するに人工知性体のそれに近くなってるらしく、その弊害のようなのです。
　
　これは私のように、脳の未開放領域を解放、身体能力をナノマシン等により機械的に増強させた強化人間（アドバンスド）特有の問題なので、割り切るべきじゃないかなって言われてる。
　
　私も、こう言う手段で意思伝達出来るし、そこまで苦にしてるわけじゃない。

　と言うか……そもそも、仲良く話のできる友達なんて居ない……。
　話し相手っても、これまでも家族位しか居なかったような。
　
　同年代の子達と話したのも随分久しぶりの気がする……うん、いわゆるボッチ属性。
　
　エスクロンでも、私は普通の高校には行かずに、独自カリキュラムの通信制教育で済ませて来た。
　カリュキュラムが恐ろしくスローペースなので、むしろ暇を持て余して困ってるくらい。
　
　だから、夏休みもこの8月を過ぎても、まだ余裕ある。

　次の登校日は9月の下旬……とっても先は長い。
　
　さりとて、こんな出先ではいいところ、携帯端末程度しか持ってこれず、いい暇つぶしも思いつかず、そろそろ退屈してたのも事実だった。
　ゲーム機持って来れば良かった……。
　
「端末を操作しないで、文字を入力って……なんだか、凄いのですね……。わたくしも他の星系の方って何度か見てますけど。こんな身体改造者とかって始めてみましたわ」

　ちっこい人が私の手首から伸びてるサイバーコネクトを見ながら、不思議そうな感じで尋ねてくる。
　やっぱり、珍しいんだね……こっちじゃ。

「まぁ、この子は割と特別製なのよ……強化人間って聞いたことないかな？」

　キリコ姉の言葉に、二人共揃って首を振る。
　
　確かに、あんまり知られてないか……本来、軍用技術だし……。
　普通の所で、普通の生活をしてる限り、こんな風に人間以上の能力なんて必要となんてされない。
　
　エスクロンでは、人間を超えた人間を人工的に作り出して、社の幹部社員として登用して、様々な分野で活躍させており、私以外にも何人もこの強化人間と言える人物が存在していた。

　大人になってからの強化措置は、色々問題が起こるので、この強化措置は子供のうちに施すのが効率もいいとされていて、私はその第三世代群と呼ばれる強化体だった。
　
「なんかアニメとかに出てきとったヤツやったっけ？　ロボット戦争アニメに出てたような」

「ああ、それなら知ってますわ。ロボットに乗って、エースパイロットになったりするんですよね」

　……あー。
　なんとなく、何のアニメの話か解った。
　
　もとを正せば、600年も前に放映してたと言われる古典アニメシリーズだ。
　
　宇宙に適応して進化したニュータイプって人達がロボットに乗って戦うヤツ。
　でも、ちょっと違うかな……これは。
　
「うーん、そう言うのとは違うかな。この子、子供の頃、事故で大怪我してね。あっちこっちをサイバネティックス化やナノマシン強化せざるを得なくなったのよ……だから、戦争のためとかとは違う。基本的にちょっと内気な普通の子だから、変な目で見るのは駄目。君達だって、他の星の人からみたら、相当な変わりモノなんだからね」

　まぁ、間違ってないかな。

　けど、人間を強化改造したりすることが当たり前って感覚は、エスクロン人特有の考えだから、他所の星の人達には、適当にボカして説明したほうがいいとは言われてたからね。
　
　そこら辺は、キリコ姉もわきまえてるらしい。

「あはは……あたしら、コロニー生まれのコロニー育ちですからなぁ……。皆、選択の余地があるなら地上生活を選ぶ……そんなもんやって聞いてます。あたしらみたいな完全コロニー育ちの二世世代が育つまで、コロニー生活で頑張るような連中は少数派って聞いとりますよ。確かにテレビなんかでも、目がレンズの人とか見かけるし、たまにやってくる観光客でもロボットみたいなんもおるなぁ……」

「そうよ。銀河連合ってのはいろんな価値観を持った色んな星系の人達が集まった連合体だからね。お互いの違いは認めないといけないし、身体も生身じゃ生きるのが、大変だから改造するって事かほとんどなのよ」

「コロニーの環境は、良くも悪くも温室……良く聞く話やね。それに、エーテルロードでは、戦艦の操艦専門ドライバーみたいなのもおって、そいつらのおかげで、宇宙は平和って話も聞いてるよ……あたしらは恵まれてるのかもしれんね」

「エーテルロードの戦争屋の方々でしたっけ。再現体（リビルダー）と頭脳体（スターシスターズ）……。あの人達って、人工知性体の一種って話なんですよね」

「そうね……。詳しくはあたしも知らないけど……。あの人達は人間じゃない……そんな風に聞いてる。でも、人権が認められてる以上、彼らもまた人間……なのよ」

「みたいですわね……。実際、こないだ実家の方に休暇で観光に来たって人達が挨拶に来て、お話を伺ったんですけど、とても人工知性体には見えませんでした……。わたくし達の世界ってこのちっぽけなコロニーに収まってるから、もう遠い異世界の話みたいに思ってたんですけど、あんな人達もいるんだって、思いましたね」

　……お父さんやエリコお姉さまから、色々聞いてるから、私も知ってる。
　古代の人間の人格を再現した有機アンドロイド……再現体、要は前線指揮用の指揮ユニットなんだけど、昔の人そのまんまだから、変わった価値観の人が多いらしい。
　
　一度だけ、お姉さまと懇意にしてる「大佐」って再現体の人にもお会いしたのだけど、優しげな微笑みの影に、現代人にはない独特な目の奥の暗い光……みたいなのがあって……。

　そして、まとわりつくような重たい気配みたいなのをまとってて、何ていうか明らかに違う世界の住人って感じがした。
　
　正直、ちょっと怖い……なんて思っちゃったんだけど……。
　エリコお姉さまは、その人に個々からの敬意を持ってるみたいで、ユリには何も言えませんでした。
　話によると、大気圏内での空戦のエースパイロットでもあるらしい……。

　ユリもVRなら、空戦そこそこ自信あるけど……あれが本物って事なら、全然勝てそうもない。
　リアルで空の上で戦うなんてなったら、きっと逃げ出しちゃうと思う。

　頭脳体ってのは、正式には戦闘艦艇頭脳体……バトルシップガールなんて呼ばれ方もある。
　エーテル空間戦闘艦と言う古代地球の海を戦場とした実弾兵器を満載した巨大兵器を我が身として操る、戦闘マシーン端末だって聞いてる。
　
　その異常なまでの個体戦闘力や巨大戦艦のバックアップによる演算力は、もう桁違いで、私のような強化人間ですらまったく足元にも及ばないような、ある意味怪物だった。
　
　けど、こないだテレビで見かけた永友提督という再現体は、温厚そうでスイーツ作りとお料理が得意……なんて、インタビューで応えていたし、その副官……祥鳳ってのと初霜ってのも、頭脳体って話なんだけど、ごく普通の女の子みたいで……私達と何ら違いがないように見えた。
　
　中には、私みたいな10代の女の子も居るって話も……なんだっけ……天風さんって名前だったかな。

　そんな人達が最前線で、黒船……エイリアン共と日夜戦いつづけていて、永友艦隊ってのは連戦連勝の無敵艦隊なんて言われてるらしい。
　
　一体どんな戦いぶりなのか、興味はあるけど、戦争のことって私には良く解らない。

　強化人間は、戦争への転用も想定されてたみたいだけど、実際戦場になったのは、想定されてた地上世界や宇宙空間じゃなくて、永世中立のはずだったエーテルロード。
　
　私達、強化人間はスペック不足とされ、お呼びじゃなかった……。

　ユリ達の次世代型強化人間では、エーテル空間での戦闘も想定した強化を施すって話なんだけど、実戦投入なんてなるともう10年以上先の話だし、その必要性も、疑問視されていた。

　所詮、私達は人間である以上、強化してもちょっとタフで力持ちな普通の人間止まり。

　演算力も外部ハードウェアで増強する事を想定してるので、頭の出来も普通よりちょっといい程度……単品では、字面の印象ほど、凄くない。

　体内ナノマシンの維持に必要な薬物を、毎日せっせと摂取しないといけないし、定期的に専門の技術者に見てもらわないといけない。

　私みたいな成長期だと、自前の骨格と強化骨格が微妙にズレて、とっても痛くなったりすることもあるので、調整も頻繁に必要……強化人間ってのも、色々と大変なのだ。