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第一話「異世界召喚」①

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「……そうすると、お姉ちゃんはその……異世界の何とかって王国の王様に召喚されて、無理やり魔王ってのと戦わされて、挙げ句に死んじゃったってこと? 酷すぎっ!」

「まぁ、ざっくり言うと、そんなかなぁ。でもまぁ、別にそこまで無理やりって感じでもなかったし。どっちかと言うと成り行きでって感じだったんだけどね……。なんだかんだで結構、楽しかったしね」

「……で、もうすぐ私が代わりに異世界に召喚されると? なにそれ! ふざけんなっ!」

 あれから、部屋に戻って、姉から色々と経緯を聞くことになった。
 
 姉が帰ってこなかったあの日。
 姉は、異世界のグランデュエール王国ってとこの王様に、問答無用で召喚されたらしい。
 
 そこで姉は勇者の剣だかなんだかに選ばれて、剣の勇者と言う存在となり、王国に攻め込んできてた魔王軍との戦いに巻き込まれた。
 
 姉が剣の勇者……それは、なんとなく納得できる。
 姉は、元々剣道やってて、全国大会に出るくらいの実力者だった。
 
 成績も優秀で、足も早ければ、運動神経も抜群で……。
 生徒会の副会長なんてのまでやってて、色んな人から慕われてた。
 
 そりゃもう、なんでもこなせる完璧超人みたいな人だった。
 
 そんなのが、勇者の剣の力で人間離れしたパワーと加護を受けた結果、もはや姉無双みたいな感じで暴れまわり、他にも召喚された勇者たちや、王国の騎士達がバタバタ殺される中、孤軍奮闘を続け、ラスボスの魔王との一騎打ちにまで持ち込めたそうなんだけど。
 
 その魔王様がチートで、全然勝てそうもなくって、勇者の剣の力で魔王を捨て身で封印した。
 
 要するに、結局倒せなくって、封印して時間を稼ぐのがやっとだったと。
 お姉ちゃんも、必死で頑張ったんだけど、力及ばなかった。
 
 ……封印が力を失うまでの幾年かの時間稼ぎ。
 それが姉に出来た精一杯。
 
 引き換えに、姉を含めた勇者も全滅し、王国軍も壊滅……なんと言うか、散々な結果だったらしい。
 
 結局、魔王軍は健在だし、魔王本人も封印されただけで、復活は時間の問題。
 王国は、再度の勇者召還に望みをかけて、なりふり構わず、それを強行しようとしている。
 
 そして、次の召喚では、他ならぬ私が召喚される。
 
 これは、ほぼ確実な未来なのだと言う。
 
「……ごめんね。シズルを巻き込みたくはなかったんだけど、今際(いまわ)の際にそう言う未来を見ちゃったんだ……。だから、もうどうしょうもない……。王国の人達は、この期に及んで他力本願……。本来は勇者の召喚魔法って10年単位の時間をかけて、膨大な魔力を溜め込まないと、使えないはずなんだけどね」

「……そうなると、もしかしてその異世界召喚って、10年、20年先とかそんな感じだったりするの?」

「んにゃ……その辺は、裏技があるのよ。膨大な魔力の代わりに、術者の生命を捧げる……本来、禁忌なんだけど」

「……ハイリスクもいいとこじゃない。禁忌の自己犠牲って……そんなのやる人いるの?」

「多分、そんなのお構いなしだと思う……その程度には、王国も追い詰められてたからね。自分達の国諸共、魔族に殺されるか、勇者召喚に希望を託して、その犠牲になる……。こんな二択なら、後者を選ぶって人だっているでしょ」

 言ってることは、ハードなんだけど、呑気そうにお茶なんか飲んでるから、何とも締まりがない。
 
 ちなみに、お姉ちゃんのリクエストで紅茶出した。
 驚いたことに、普通にカップ持って飲んでるんだけど、テーブルの上の紅茶はそのままという不可解な事になってる。
 
 テーブルに置いてあったお菓子なんかも、普通に摘んでるように見えるんだけど、一向に減ってない。
 幽霊だって、その気になれば、飲み食いできるらしい……理屈はよく解んないけど、お供え物みたいなものなんだとか。
 
「それより、予知って……なに?」

 色々ツッコんでたら、話進まないから、肝心要な事を聞いてみる。

「予知能力は、予知能力としか言いようがないなぁ……。要するに、チート能力ってヤツよ」

 なんでも、姉は、向こうに行って覚醒したチート能力で、予知能力みたいなのが使えるようになったらしい。
 それは未来の光景が見えるって代物で、戦いでは相手が何をするのかが見える、いわば先読みチート。
 
 そんなのがあったから、一対一の戦いでは負け知らず。
 遠くから狙撃とかも華麗に回避。
 
 事前に敵の奇襲や待ち伏せを察したり、誰かが死ぬ未来を変えられたりとかも、出来るんだそうな。
 もちろん、直近とか近い未来だけじゃなく、一ヶ月先とかの未来もふとした拍子に垣間見えたりもする……。

 ……うん、チートだ。チート。
 元々チート臭かったけど、それに加えて、未来予知とか超級チート能力。
 
 どんだけなんだ……ユズルお姉ちゃん。
 
 でも、そんなのがあっても、魔王には勝てなかった。
 その程度には、魔王ってのはデタラメなんだそうな……。
 
 けど、そんなのと戦えとか……私、生き残れる気がしない。

「で、お姉ちゃんの未来予知だと、私も異世界に召喚された挙げ句、錬金術師の勇者とか言うハズレジョブ掴まされるって訳ね。つか、それ……なんとならないの? 予知能力で未来を変える事が出来るんでしょ? それでなんとか……」

 まぁ、姉の予知で見てきた未来ってのは、そんな感じなんだとか。
 私にとっては、夢も希望もない……絶望的な未来を突きつけられた気分だった。
 
 でも、未来を予知出来るなら、対策だって出来るような気がするんだけど……どうなんだろう。

「……残念ながら、そうなっちゃう未来は変えられないのよ。未来を見て、それを変えることが出来るっても、それはあくまで、その未来に干渉できる事が前提なの。要するに、雨が降るって予知が出来て、傘を用意することは出来ても、そもそもその土地に、雨を降らなくさせる事が出来るかと言えば、そんなの無理な相談よね?」

「……未来を予知出来ても、干渉の余地が無い事象は変えようがない。そういうこと?」

「ご名答……さすが、シズル。理解が早くて、お姉ちゃんとっても嬉しい。とにかく、理屈としてはそう言うこと。つまりシズルが異世界に召喚されるって未来も、錬金術師の勇者となる未来も、私達が干渉する余地がない以上、もう変えようがないのよ」

 不可避のろくでも無い未来……要するにそう言う事。
 これは、なかなかどうして、ハードモードの予感だった……。

『私、勇者召喚されましたが、ハズレジョブ引いたので、死6分前です』

 タイトルつけるとしたら、こんなん?
 ……勘弁してください。

「……どうしょうもないってことは解った。でも、錬金術師の勇者って、そんな使えないの?」

 錬金術師が主人公のシリーズモノのゲームとかあるし、ショタ兄さんが主人公な鋼のヤツとかあるし。
 創意工夫でワンチャンあるかも? 

「基本的に戦闘力は皆無。一応、勇者補正が付くから、普通の人よりは強いけど、勇者の中では最弱かも。回復ポーションとか魔力回復ポーションとか作れるし、力や素早さ、魔力なんかの一時ブーストを付与できるブースト系の魔法とか、パワーアップアイテムを作ったり出来る。ネトゲで言うところのバッファーってのが近いかもね。仲間にいると心強いけど、一人じゃ厳しいってのは、想像に難くないでしょ」

「バッファーって、確かに解りやすいなぁ……。要するに、一人じゃ何も出来ない系じゃない。確かに使えないね」

 ちなみに、お姉ちゃんも私も思いっきりゲーマーだから、この辺は話が早い。
 
 お姉ちゃんが居た頃は二人でネトゲとか、携帯ゲーム機で協力プレイとかよくやってた。
 MMORPGなんかだと、お姉ちゃん大抵、脳筋近接系一辺倒で、私は支援職ってのが定番だった。
 
 なんでまぁ、支援系は一通りやった。
 回復職は基本だったし、バッファーとかエンチャンターなんかも経験済み。
 
 お姉ちゃん……生産スキルとか、面倒くさいとか言って取ってくれなかったから、そう言う面でバックアップするのはもっぱら私の役目。
 
 アレはあれで楽しかったなぁ。
 お姉ちゃんはお姉ちゃんは、私のことをちゃんと守ってくれたから、死ぬ順番はいつもお姉ちゃんが先だった。
 
 どんな無理ゲー状況でも、気合と根性で踏ん張るその背中は、とっても頼もしかった。

 ゲーム以外でも、いつだって、どんな時でもお姉ちゃんは一緒に居てくれた。
 5つも離れた妹に付きまとわれて、迷惑だっただろうに嫌な顔ひとつもせずに、相手してくれた。

 ……そう結局、私はどこまで行っても、お姉ちゃんの背中を追いかける妹なのだ。
 3年間……一人で過ごして、どれだけ姉に頼り切りだったか……痛感した。

 どこに居ても、誰といても、結局、いつも姉の背中を探してしまう。
 
 ……悪い癖だと思ってたけど。
 それだけ依存してた……とも言う……自覚はある。
 
 ホント言えば、お姉ちゃんと一緒に、私も異世界転移されればよかったなぁって思う。

 お姉ちゃんと一緒なら、異世界で倒れても、それは本望……そんな風に思うし、何よりも姉を死なせるなんて事も無かったかも知れない。
 
 もう叶わない願いなんだけど……。
 
 お姉ちゃんの馬鹿! なんで、置いていったのさ。
 
 ……なんて、心の中で毒づいたりもする。
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