外れジョブのJC錬金術師は、姉幽霊と共に、勇者軍団のラスボスとして、異世界魔王との決戦に挑みます! でもむしろ、へるぷみーっ!

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プロローグ「帰ってきたお姉ちゃん」①

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「何処か遠い遠い……誰も知らないところに行きたいな」

 それが私のお姉ちゃんの口癖だった。

 お姉ちゃんは、なんでも出来るし、何をやらせても、私なんか遠く及ばない……。
 私にとっての憧れであり、未来永劫超えられそうもない目標だった。
 
 そんなお姉ちゃんがどうして、遠くに行きたいなんて言うんだろう?
 子供の頃の私は、いつもそう思っては、お姉ちゃんに「どうして?」って問いかけたのだけど。
 
 お姉ちゃんは、決まって曖昧な笑みを浮かべては、私のことを抱きしめてくれた。
 
 あの頃のお姉ちゃんの……姉の思いは、未だに解らない。 
 けれど、どこか遠くに行きたいと言う願いなら、叶ったんじゃないかって気もする。
 
 ――だって、姉は……遠い異世界にいってしまったのだから。
 
 
 
 私には姉がいた。
 姉……山神結弦(ヤマガミユズル)は、ある日突然居なくなってしまった。
 
 何の前触れも、何の痕跡もなく……。
 そんな者など、始めから居なかったように……忽然と姿を消してしまった。
 
 最後の便りは、メールでの何気ない一言。
 
「今駅だよ。これから帰るね」
 
 それっきりだった。
 姉がどうなったのかは、未だに家族である私達ですら、知れない。
 
 私達、家族は……とても深い悲しみに包まれる事となった。
 
 そりゃ、そうだよ……。
 家族なんていて当たり前、それがある日突然、何の前触れもなく居なくなってしまったのだから。
 
 文字通り、家の中にとても大きな穴が空いてしまったような。
 そんな途方もない喪失感と、もう一度会いたい……そんな思いと共に、残された者はいつまでも待ち続ける事になる。
 
 ……姉は公式には、行方不明者扱いとなった。
 警察も必死で探してくれたのだけど、かなり早い段階で、捜査も手詰まりになってしまった。
 
 事故死とか病死なら、まだ遺体くらいは残るし、ケジメだって付けられるけど。
 ある日プッツリと何の痕跡もなく、居なくなってしまうと言うのは、思いの外辛い。

 唐突に帰ってくるんじゃないか。
 朝寝坊したら、普通に起こしに来るんじゃないかって。
 そして、早く起きろって、げんこつの一つでも食らって……。
 
 そんな風に期待して、一人目を覚まし、空っぽの二段ベッドの姉の布団を見ては、ため息をつく。
 これはもう毎朝の習慣になってる。
 
 或いは何処か知らない所でひどい目にあって、助けを求めてるんじゃないかって。
 そんな事も考えて、居ても立ってもいられなくなったりもする。
 
 警察も大勢の捜査員を動員し、公開捜査に踏み切ってまで探してくれたのだけど、姉の行方はまったく解らず。
 防犯カメラの映像や聞き込み調査でも、ほんの50m程度のカメラの死角、時間にして1-2分程度の間に、消えてしまったとしか思えない……そんな結果を伝えられた。
 
 探偵だの霊能力者を雇って調べてもらっても、結果は同じで、学校帰りの最寄り駅から自宅までの1kmにも満たない道のりで、唐突に消えてしまったとしか思えない……警察と変わりない、結果報告が返ってきただけだった。
 
 ……やがて、時が経ち。
 姉が居なくなって、3年目の冬がやってきた。
 
 当時、小学生だった私も中学に上がり、13歳の誕生日を迎えて、あと2年もすれば姉の年に追いついてしまうようになった。
 
 私も含めて、家族皆が少しづつ、姉の事を忘れて行こうとしていた。
 思い出の中の人……お婆ちゃんがそうだったように、姉もそんな感じで……私の記憶の一部になる。
 
 ……そんな風に思い始めていたある日。
 
 深夜遅くにお風呂に入って、姉の好きだった歌を口ずさんでいたら、唐突に輪唱が始まった。 
 何事と思う間もなく、お風呂場の壁からファンタジーっぽいコスプレをした姉がニューっと現れた。

「やほー、シズルちゃん元気だった?」

 第一声は、いつもどおりの軽い調子で、聞き慣れた声で……。
 挑戦的な太ツリ眉、長い黒髪を三つ編みに結って、前に持って来る……いつもどおりな髪型。
 
 何もかもが、私の記憶の中のお姉ちゃんそのままで……。
 
「お、お姉ちゃん?! な、なんでっ! そのカッコは……な、なに?」

 ……3年間。
 ずっと会いたかったのに……。
 
 第一声は、意外と気の利かないセリフが口を突いて出た。
 
「ああ、このカッコ? カッコよくない? これは剣の勇者の最終形態コスチュームなのよ……素敵でしょ」

 最終形態って……確かに、凄くキラキラした胸甲に、ゴッツイ大剣、ミニスカ風の何で出来てるか良く解らない、腰回りを覆った鎧。
 ファンタジー剣士でSSRとか付いてそうな感じではある。

 ……いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてさ! 
 
 お姉ちゃんが……帰ってきた?
 ああ、もう嬉しいんだか、泣きたいんだか、良く解らないっ!
 
 と言うか、そこでハタと気づいた。
 
 お姉ちゃん……壁にお尻が半分めり込んでるっ!!
 しかも、どう見ても壁を通り抜けてきたように見えた……。
 
 ……前々から、化物じみた所があったけど、これじゃ本物の化物……いや、お化けだっ!
 
 お化けなんだけど、お姉ちゃんっ!
 ……怖いんだか怖くないんだか! ああ、もうっ! 何が何だか解んないよっ!
 
「うわうわうわ、あうあうあう……お姉ちゃん! ユズルお姉ちゃん! 背中! 背中とお尻がぁっ!」

 私がそう言うと、振り返っててへぺろみたいな感じで舌を出すと、一歩前に出る。
 
「あちゃー、失敗したなぁ……。いきなり、ネタバレってしまったよ。感動の再会を台無しにしてしまって、スマヌ妹よ。まずは落ち着け、こう言うときは素数でも数えるといいよ」

 とりあえず、深呼吸して素数を数える。

「1、2、3、5、7、11、13、15は違う……17っ!」

 現実逃避とも言う。
 指折り数えて、一生懸命計算する。
 
 その次は、19、23、29、31……ああ、素数ってなんか気持ちいいよね。

「うんうん、相変わらず、お姉ちゃんの言うことはちゃんと聞いてくれて……偉いね! シズルちゃん!」

「そ、そう? だって……お姉ちゃんの言うことは、いつも正しいからっ!」

 褒められて、思わずにへらーと頬が緩くなる。
 ああ、なんだか良く解らないけど、これは間違いなく姉だ。
 
 こんなやり取りで、確信できてしまう程度には、私は姉の妹なのだ。
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