暗闇の記憶~90年代実録恐怖短編集~

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第三話「赤いコートの女の子」⑧

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「そうだね。そろそろ、皆部屋に戻ってくる時間だから、ちょっとトーン落とそうか。あと、俺もスト2大会混ぜてくれよ。俺の小足リュウで全員まとめて、泣かせてやるよ!」

 さすがに、もう勘弁して欲しい……そう思ったので、敢えて明るく振る舞う。
 ビビっても、しょうがない……今更、あの手狭な元の家に戻るとか、御免こうむりたい。

 ここが人外魔境だろうが、幽霊屋敷だろうが、俺にはもう選択の余地はない。
 もはや、開き直るしか無かった。

「言っとくけど、ハメ技もありだからな。どんな負け方をしても文句は言わせねぇぜ? ゲーセンじゃ、お前らに負け越してるけど、スーファミ版なら話は別だ……悪いが、今日は勝たせてもらうぜ? ハメ師としてな!」

 与志水がなんだか、カッコいいんだか、カッコ悪いんだか良く解らないセリフをほざく。

「思いっきりハメ解禁なんだ。そりゃまた不毛な戦いの予感しかしないね……」

 灰峰姉さんが苦笑する。
 ゲーセンでは、禁じ手とされるハメ技と呼ばれるダーティな戦法の数々。
 
 それを含めてのスト2と言う意見もあったけど、少なくとも仲間内では、その手のハメ技は禁じ手とされていたのだった。

「いつものパターンっすよ。前に徹夜スト2やってた時は、プレイヤーへの直接攻撃、脇腹手刀アタックとか、くすぐりとかもありありで、もうメチャクチャでしたからな。でも、見延リュウとか、めっちゃムカつくんだよなぁ……あの小足コンボが腹立つの何の!」

「見延、頼むぜ……山久のヤツ、ちょっと調子に乗ってっからさ。見延が山久に勝つと、一気に弱体化するのが常だしさ! って言うか、さっきから延々、山久とばっかやってて、そろそろ飽きてきたんだ」

 与志水も出て来て、参戦を促す。

「そうなんだよなぁ……。この人とやると、俺いつも調子崩される……。どうせ、迎撃なんてしないだろうって思ってたら、暴発大昇竜で絶妙なタイミングで、サイコクラッシャー撃ち落とされるとか食らってみ? 泣きたくなるよ……とにかく、読めない! 訳がわかんねー!」

「しょうがないじゃん。俺、昇龍拳確実に打てないんだもん。スーファミとか尚更だよ!」

 そう言って、スーファミのコントローラーを握ると、対戦に没頭する。
 
 ……なお、先程の灰峰姉さんの件は、俺の中では完全に棚上げ状態だった。

 現実逃避とも言う。

 だって、考えたって、しょうがないし、こんなもんどうしょうもねぇっての!
 
 考え出すと、もう色々と想像してしまって、ビビリ入ってしまう。

 俺のビビリが伝染して、急遽総解散とかなってしまったら、俺はこの旭興荘で一人、眠れない夜を過ごすことになる。

 どのみち、明日にはそうなるのは解ってるのだけど……。
 今夜、何も起きなかったら、明日もきっと何も起きない……根拠はないのだけど、そんな風に思い始めていた。
 
 灰峰姉さんも徳重もこのならざるものが見えて、認識は出来ても、追い払ったり、話し合いとか出来るわけでもない。

 灰峰姉さんも、自分ちに夜な夜なラップ音やら、見知らぬ子供が現れて、ずいぶん悩まされていたそうなのだけど……。

 結局、ほっとくしか出来なかったらしい……なお、話しかけたりしても、大抵は徒労に終わる。
 怒鳴ろうが、泣き入れようが、向こうはお構いなし……。

 姉さんの話だと、向こうにはこっちの声とかは届かないし、向こうの声もこっちには聞こえない……どうも、そんな感じらしい。
 
 おまけに物理的に干渉も出来ないので、追い払うと言っても、塩撒いたり、怒鳴りつけたりする事で、一時的に追い払うことは出来る……みたいなんだけど、大抵、すぐに舞い戻ってくる。
  
 なんとも、タチが悪い……そんなものらしい。
 フラフラ彷徨ってるタイプは、そのうちどこかに行くんだけど、土地に憑いてるようなのとか、誰かにくっついて回ってるようなのは、頑として動かないから、自分から避けるとかそんな方法しかないって話だった。
 
 現状、俺に出来ることは……もう、気にしないこと。

 いずれにせよ、先住民が二年も住んでて、問題なかったのなら、少なくともこの部屋にいる分には問題ないと言うことなのだろう。
 
 もう知らねぇ! 俺は開き直ることにした。
 
 ……このメンツでのスト2対戦は、なんと言うかジャンケンの法則のような相性があって、良い感じで選手交代が続いて、割とエンドレスに盛り上がる。
 
 例えば、山久は緻密で隙のない戦い方するタイプ、守りの固いカウンターとか、待ち系と言われるプレイスタイルで、はっきり言って手強いのだけど。
 
 相手の先読みを重視するあまり、予想外の行動や逆にカウンターをもらって動揺すると一気に崩れる……その関係で、フェイントや意味のないアクションを多用し、予想外の動きで相手を翻弄するトリッキーファイター系の俺相手だとよく負ける。
 
 なにより、俺は当時、スト2の投げのタイミングに関しては、天下一品と言われていて、投げたつもりが投げ返される……これで一気に崩れた所を押し切るというプレイスタイルで猛威を奮っていたのだ。
 
 とは言え、俺が最強かと言えば、そんなことはなく、俺は俺で、灰峰姉さん辺りが相手だと、良いようにやられたりする。

「そして、調子に乗った見延を私が粉砕すると……ふふっ、いつものパターンだね」

 灰峰姉さんはと言うと……こう見えて、攻撃一辺倒のバーサーカースタイルなので、フェイントも何も関係なく正面からのゴリ押しで粉砕されるという……。
 
 主な使用キャラは、ザンギ、ブランカ、ケン、たまにダルシム。
 こんな感じ……身内対戦だと、ケンが多い。

 と言うか、対戦ともなると実力差がはっきり出て、まんべんなく強いリュウ、ケンを使うってのがある種のセオリーでもあった。

「灰峰姉さん……投げカウンター食らっても、動じねぇんだよなぁ……」

 俺から見た灰峰姉さんは、まさに鋼メンタルのバーサーカーって感じ。
 
 どれだけ、屈辱的なコンボ決めたって、ありえないタイミングで投げカウンター決めようが、お構いなしで何事もなかったかのように、猛攻を仕掛けてきて、押し負けると言うのが常だった。
 
 けど、灰峰姉さんは守りがザルと言う欠点があるので、山久辺りが相手になると、普通に負けるという……。
 
 なんと言うか、まさに三すくみ……。
 他の与志水、徳重、須磨さん辺りは、どちらかと言うと下位陣に属するので、そこまで粘れない。
 
 これは、ゲーセンでも同じで、この三人が揃ってると、ローテーションが早くなると言うのが常だった。
 
 ちなみに、仲間内で最強と言われてるのは、柳鉄雄(やなぎてつお)と言う男で、こいつは地元ローカル大会チャンピオンを撃破する程度には強い。
 
 プレイスタイルは、オーソドックスに強い……俺から見ると、山久の上位互換なんだけど、山久のように予想外のカウンター一発で崩れることもなく、何をやっても全然動じず、鉄壁の守りで着実に削ってくる上に、メンタルの強さも灰峰姉さんに引けを取らない……まさに、死角なし。
 
 なので、普通に勝てないという。
 
 ゲーセンでの対戦成績は、柳>>灰峰、見延、山久>その他大勢。

 概ね、こんな感じ……けれど、たまに与志水や徳重辺りが妙に神がかる事があって、手に負えなくなる事もある。
 柳もメインはリュウなんだけど、たまにエドモンドやブランカ、ザンギあたりの色物を使ってくるので、その辺はそこまで強くないから、結構勝てる。
 
 なので、特定の誰かがいつも連戦連勝と言うわけにはいかない……それが俺らの対戦のミソだった。
 
 今日は、柳と言う絶対的なチャンピオンが居ないので、スト2も良い感じで選手交代が続いて、大いに盛り上がってるようだった。
 
「んじゃま、俺らも参戦するとしますかね」

「いいね。ただでやれるスト2とか、最高だね」

 かくして、俺と灰峰姉さんも交えてのスト2大会が始まった。
  
「……いやぁ、やっぱ灰峰姉さんに負けるなぁ……なんで、あそこで、すかさず仕掛けてくるかねぇ」

 参戦するなり、与志水、徳重、山久と立て続けに軽く撃破して、イケイケモードに突入した俺を止めたのは、灰峰姉さんの操るケンのアッパー大昇竜だった。
 
 なお、こんな大技で決められるとか、普通あんまりない。
 その一発で、一気に崩れて逆ストレート敗退……もはやぐぅの音も出なかった。

「ふふふふふ……。君との対戦は、いつも正面からの殴り合いだからねぇ。実に楽しかったよ」

 姉さんがドヤ顔で勝ちゼリフをキメる。
 なんと言うか、ゲーセンでもよくある光景だった。
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