8 / 36
第一話「壁の中にいる何か」⑦
しおりを挟む熱い。
重たいキスだった。
獣に喰われるというのはまさにこのことなのだろう。強引に唇をこじ開けられ、舌を絡め取られる。
逃げようと思ってもできない。彼の舌は執拗にセレスティナのそれを追い回し、捕らえ、押し付けられ、嬲られる。
貪るように腔内を弄られ、互いの唾液が混ざりあった。
結婚式の日、交わされなかった口づけが、このような形で実現するとは。
夢に見るような触れるだけの優しいものとは全然違う。激しくて、重たくて、鈍い。
セレスティナはただただ翻弄された。息継ぎすら許されず、そのままぐいっと押し倒される。
気がつけばベッドの上で組み敷かれていて、身動きが取れなくなっている。
「っ、ぁ! リカルド、様……っ」
ようやくわずかに唇が離され、彼の名を呼ぶ。しかし彼は止まることなく、再び強く唇を喰まれた。
くちゅくちゅと、あえて音を出すようにかき混ぜられ、その淫靡な響きにセレスティナの瞳が潤む。
(どうして、いきなり。リカルド様……っ)
先ほどまで、拒絶の言葉を投げかけられていたから余計に、わけが分からない。
彼の優しいところは見つけたつもりでいたけれど、好かれている自覚もなかった。なのにどうして、突然こんなキスをされるのか。
長い口づけのあと、ようやく唇が離される。
酸素が欲しくてはくはくと息をするも、まだまともに頭は働かない。
「どう、して……」
「〈糸の神〉にわざわざ囚われに来て、その言い様ですか? あなたは神話を学んだ方がいい」
「え…………」
「俺が。俺がどれほど、あなたを渇望していたかも知らずに……っ」
「あ、待って……!」
「待てるか!」
ブチブチブチッ、と胸元のボタンが引きちぎられる音がした。乱暴に襟ぐりを開かれると、日光を知らぬ白い肌が現れる。
一年かけて、ようやく一般的なサイズに戻った双丘がまろび出た。それを睨め付けながら、リカルドはほの暗い笑みを浮かべる。
「無防備にのこのこやってくるなんて、あまりにおめでたすぎませんか? 聡明だと聞いていましたが、男に関してあなたは無知すぎる。〈処女神〉セレスの加護を受けただけある」
「あ、あ……」
「俺が〈糸の神〉の加護を受けていたことを忘れていませんか?」
ぞくりとした。
渇望、と彼は言ったが、彼の瞳に宿る色彩はもっと深く、暗い。
底冷えするような黒。そして、はらりとこぼれ落ちた前髪の隙間から、隠れていた左眼が現れる。
深淵の黒の奥に、赤い閃光が灯った摩訶不思議な瞳に、セレスティナは目を奪われた。
「この血がね。呪いのような、この加護が。あなたを喰えとずっと言ってるんですよ。わかっていますか、俺の女神?」
「リカルド、様……?」
「俺は、一度捕らえたら離さない。そう言ってるんです……!」
がぶりと、今度は胸元を喰まれた。
ちくっとした痛みが走り、彼が強く胸元に吸いついたのだと理解する。
ひとつやふたつでは足りない。まるで、自身が所有者であることを刻みつけるようにいくつも印を落としていく。
さらに、圧倒的な力で彼はセレスティナのドレスを引き裂いていき、セレスティナの真っ白い肢体が露わになる。
それを見下ろしながら、リカルドはギラギラした目でセレスティナの双丘を嬲っていった。
柔らかな肉が形を変えるほどにぐにぐにと揉み拉き、その先端をつまみ上げる。
あっという間に、先端はぷくりと硬くなり、彼はあえてそれをころころと転がした。
「ぁ、ぁぁんっ! 待って、それは……っ」
「待つわけないでしょう」
強く揉み拉かれながら、乳首を甘噛みされる。ビリビリとした甘い刺激が走り、セレスティナの身体は跳ねた。
「清楚な方だと思っていたのですがね。こんなに淫らでしたか」
「ぁ、ぁ……だって」
今の刺激は何だったのだろう。
一瞬頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。
でも、彼が淫らだというのは、あながち間違っていないのかもしれない。
身体の芯が熱い。疼くような鈍い感覚が満たされなくて、もっと、もっとと欲が膨らむこの感覚。彼に強引に嬲られ、喜んでいる自分を自覚したから。
戸惑って何も言い返せないでいると、リカルドは自嘲するように吐き出した。
「我慢したのに。あなたを不幸にしないと、決めたのに」
「え?」
「あなたのせいですよ」
ハッキリと言い切られ、セレスティナは目を見張った。
セレスティナを見下ろしながら、リカルドは己のコートを脱ぎ捨てる。
黒騎士と呼ばれる由縁の、真っ黒なコート。中のシャツの襟元も軽く緩め、やがてガチャガチャとベルトを外した。
彼がズボンの前側をくつろげると、ギンギンに反り返った怒張が顔を出す。血管がボコボコと浮いたその凶器。
禍々しいと呼べるほどのソレの姿に、セレスティナは言葉を失う。
だって、否が応でも、彼が何をしようとしているのか理解させられた。
待って、と止めようとするも、リカルドはすでにボロボロになっているセレスティナのドレスを捲り上げ、さらに下着を取り払う。
そのままセレスティナの股の間に身体を割り入れ、強引に彼女の膝を持ち上げた。
「可哀相に。〈糸の神〉に魅入られたばっかりに――」
今まで、誰にも暴かれることのなかったセレスティナの秘部が空気にさらされる。ヒヤッとしたその感覚にセレスティナは呻いた。
それを拒否だと思ったのか、リカルドは自嘲するように笑い、それでも強引に己の鋒をあてがった。
「――現実でも、こうして好きでもない男に一生囚われることになる」
「――――っ!?」
次の瞬間。
ドスン! という重い衝撃が全身を駆け抜けた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

糠味噌の唄
猫枕
ホラー
昭和60年の春、小6の町子は学校が終わって帰宅した。
家には誰もいない。
お腹を空かせた町子は台所を漁るが、おやつも何もない。
あるのは余った冷やご飯だけ。
ぬか漬けでもオカズに食べようかと流し台の下から糠床の入った壺をヨイコラショと取り出して。
かき回すと妙な物体が手に当たる。
引っ張り出すとそれは人間の手首から先だった。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》
【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています。(内容の筋は変わっていません)】

ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる