スライムスレイヤーZ! スライムに転生して俺Tueeeとかやってる馬鹿が影で支配する世界を僕はブチ壊す。

MITT

文字の大きさ
上 下
27 / 29

第七話「宰相フランネル」PART4

しおりを挟む
「大丈夫? ねぇ、ちょっとあなた大丈夫?」
その小さな肩を揺すり、声をかけ続けた。
今はこのフローズン・シャドウホールのどこかすら分からない。
ただ、その一室。いやもう大きな空間と言ってよいだろう。その場所に足を踏み入れると、アリアたちの視界に広がったのは瓦礫の海だったのだ。
誰がなんの目的で建てたのか、壮大な神殿の残骸がそこにも存在していた。
キョウたちと出会ったあの場所と似ている雰囲気と言えばよいか。
重厚な石柱は、時の重みで折れ、傾き、その上部はもはや見えないほどの暗闇に消えている。その傍らには石碑が散らばり、何かの文字が刻まれているものの、その意味を解読する者は既にこの世に存在しないのではないかと思わせた。
床の石は長い年月を経て滑らかになり、冷たく、静寂を纏っている。ここはまさしくフローズン・シャドウホールの名にふさわしい、冷たく暗い空間だ。
空気は静まり返り、古代の息吹が凍てつくような寒さと共に漂っている。自分たちの息すらも白く霧となって立ちこめ、その冷たさは肌を刺し、心臓を打つ。
そんな冷たい空間を歩いていたアリアとランディの前に突如として何かか降ってきていた。
それは一人の少女だった。
最初は少女の死骸かと思ったが、かすかに呼吸で肩が揺れていた。
それにしても愛らしい少女だった。
身体の線はあくまで細く、明るい空色の髪の毛をしていた。
服装は濃い藍色の長衣ローブのみという地味な格好だった。
手には一本の杖を握りしめ、その胸元には地味な衣服とは対照的に豪奢な装飾の首飾りをしていたが、惜しむらくはその中央の大きな宝玉がひび割れて欠けているという点だろう。
そこを見てしまってもなんだか痛々しい感じのする少女だった。年の頃は10代前半から半ばくらいであろうか。
しきりに声を掛けていたが、彼女から返事はない。
ただ苦しそうに「はぁ、はぁ…!」と荒く白い呼吸を繰り返すのみである。
「アリア、これを…!」
ランディが気を利かせて自身の毛布を差し出した。
アリアはそれで彼女を手早く包んだ。
外傷はなさそうに見えた。
どうして彼女が意識をなくしているのかは分からなかったが、この冷たい空気に体温を奪われないようにしなくてはならなかった。

            ◆◇◆

ランディとアリアはその迷宮ダンジョン内の構造物の瓦礫に寄りかかって座っていた。
二人とも毛布にくるまってはいるが、眠ってはいない。
その二人の間に先ほどの少女が今はすやすやと寝息を立てていた。
アリアは先ほどから度々彼女の寝顔をのぞき込んで、その顔を眺めていた。
どうにも彼女はこの少女の寝顔が気に入っているようだ。
今もまた「様子を確かめる」という名目で、少女の横顔を眺めていた。
「見て、ランディ…。この子凄くカワイイ…!」
まるで、拾った子兎の寝顔でも見るかのような感想をいちいち上げてくるアリアである。
確かに「カワイイ」のは分かるし、類い希なほどに整った顔立ちをしているのも認める。
ランディもけしてその辺りは否定しないが、アリアのそれはちょっと自分のそれとは異なる気がしていた。
「お前さんとの付き合いはそこそこあるが、子供好きだったなんて初耳だぞ」
「だって本当に可愛いんだもの。ほら、ほっぺなんかぷにぷに…」
そう言って、指先で寝ている少女の頬をつつく。
先ほどからずっとこんな調子のアリアを見て、さすがに付き合いきれない。
「わたしも昔はこんなんだったのかな? 姉さんが拾ってくれたときはこんな気持ちだったのかも知れない」
ぼそりとそんなことをアリアは呟いた。
「…死んだんだっけか?」
「…うん。『虫穴迷宮インセクト・アビス』で魔物にね」
とてつもなく寂しそうな顔つきをするアリア。
彼女は昔話としてその「姉」と呼ぶ人物のことを楽しそうに話すが、結局は「姉」の最後に言及して寂しそうな顔をするのだ。
「…俺も昔仲間をなくした。もっとも俺は病気だけどな」
「病気…?」
「ああ。疫病をまき散らす魔物と戦った。魔物は倒したが、俺以外はその病気にかかって死んだ。六人いたが、生き残ったのは俺だけだった」
迂闊だったのだ。依頼は疫病に感染した村まで薬師を送り届ける簡単な護衛だった。
しかし、旅の途中にあの魔物に襲われた。その魔物こそが疫病をまき散らした張本人だった。
前もって色々と調べておけば良かったのだ。
そういった魔物が過去に存在したか否かを。
そうすれば魔物から病気をもらうことも防げたかも知れない。あるいは仕事自体回避できたかも知れなかった。
「アリア…お前は死ぬなよ。お前の姉さんと同じようにその子を残して死ぬなよ」
そう言ってランディはアリアたちに背中を向けた。
色々と考える。
この女の子がどうしてこんなところにいるのか等は、もうこのフローズン・シャドウホールにおいては意味のない疑問だろう。
むしろ、この子をどうするか。
果たして自分たちはここから出られるのかのほうがはるかに問題だ。
「あっ…!」
様々なことを考え始めた矢先である。
アリアが突如として声を上げたので、ランディは振り返った。
少女が目を覚ましていた。
その小柄な上半身を起こして辺りを見渡している。
瞳は大きい。色は金色である。
まだ意識が冴えないのか、瞳はどこか虚ろげである。
「ここはどこ……?」
その涼しげな風貌と同じように涼しげな声だ。
辺りを見渡してその小さな彼女は自分のいる場所を確認しようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...