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第四話「巣食うモノ、狩るモノ」PART1
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「……ミリア中尉殿……なぜ、貴女はこうも聞き分けがないのでしょうねぇ……死んでしまっては、元も子もないではないですか……」
町長宅の一室で町長のガスターフは呆れたように言葉を続けようとする。
「黙れっ! 貴様らのような化物に屈してなるものか! いっそ殺せばいい! 私も国を守る誇り高き騎士だ! 覚悟などとっくに出来ている!」
後ろ手に縛られ、武装解除させられ、全裸で這いつくばらせられているミリア。
室内にはコアを失い蠢くだけとなったスライムや、町長が金で雇っていた用心棒と思わしき、人間の死体がいくつも転がっており、ここで激しい戦いがくりひろげられたのは明らかだった。
「……いけませんねぇ……我々はそのような野蛮な手段は使いません。ですが、我々も貴女の扱いには困っていたのですよ……特異魔術の使い手で、王都の護庭七家の一員……実に厄介だ。消そうにも、王都の派遣将校が不審死したとなると大問題になってしまいます……ですので、我々は貴女にここでは何も見なかった、何も知らない……そのように便宜を図っていただきたいと、そうお願いしているのです」
「……ふざけるな! 護庭の騎士として、貴様らのような存在を見て見ぬふりなど出来るかっ!」
ミリアはキッパリと拒絶の言葉を口にする……戦いに敗れ、挙句に化物に屈するくらいならば死を選ぶ……それ以外はあり得ない。
それ故に当然の言葉だった。
「……ガスターフ君、もうよしたまえ……マクミリア君は誰もが認める高潔なる騎士の中の騎士だ……彼女を説得できるなんて思ってはいけないよ。ここは本人のご希望どおり、後腐れなく殺してしまう他あるまい」
軍服姿の大男が椅子に座ったまま、偉そうに葉巻を吹かす。
「ベルクリア総隊長……簡単に言うが、この女には成り代わりが使えんのだ……外見上の体裁は整えられても、あっけなく正体がバレてしまっては元も子もないであろう……殺すにしても立場が立場だ……どうやって、誤魔化せばいいのだ……。
そもそも、彼女は君の部下なのだろう? 軍隊において、上官の命令は絶対のはずなのに、なんだねこの体たらくは? おかげで、私の手駒が皆殺しにされてしまったよ……計画に修正が必要なレベルの損害だぞ……これは!」
「彼女は形式上、私の部下ではあるのだが……拒否権があるため、事実上命令できる立場ではないのだ。それでも、形だけの兵隊ごっこで満足しているようだったから、あえて放置していたのだよ。
なぁに……我々がこの場で殺してしまう事が問題になるのであって、ここはひとつ任務中の名誉の戦死でも遂げてもらえばよいであろう? 正義感と功名心にかられて、ゴブリンの巣に無謀にも一人で乗り込んだマクミリア中尉! 増援が到着した頃には、ゴブリン共に陵辱された挙句自決していた……残念無念の最期! こんな感じの筋書きでどうだろうか? どのみち生かしておいても、この化け物じみた戦闘力……後々の憂いにしかならんだろう……むしろ、もっと早く対処しておくべきだったな……」
「なるほど、そうなると……このままゴブリンの巣にでも放り込んで、始末は奴らに任せればいい……そう言うことだね?」
「そうそう……我々と違って、奴らの女の扱いは酷いものだからねぇ……まともな神経なら精神が壊れるか、むしろ自決の道を迷わず選択するであろう……マクミリア君、君はどの程度までゴブリン共の責め苦に耐えられるかな?」
「……貴様ら……この場で殺さなかった事を必ず、後悔させてやる……」
「はっはっは! その有様でどうするつもりなのかね? それにしてもさすが、ベルクリア殿! さすが、あのお方直々に調整を受けただけのことはありますな! 実に頼もしい限りです! この女が単身乗り込んできて、追求してきた時はどうなるかと思いましたが……」
「私はレベル3認定を受けているからね……なかなかに楽しませてもらったが……所詮は人間……私の敵では無かったという事だ……マクミリア君ももう少し実戦経験を詰めばいい騎士になれただろう……実に惜しい……けれど、君に明日は来ないんだ……残念だったね!」
そう言って、二匹のスライム人間はさも可笑しそうに笑い合う。
その光景にミリアも歯ぎしりして悔しがる……けれども、今の彼女は無力化されてしまい為す術もない。
彼女の特異魔術、身体能力強化も一回使えばしばらく使えないし、その力を持ってしてもこの変異スライムのベルクリアの前には、まったく歯が立たなかったのだ。
「くっ! 殺せッ!」
二匹の人外を睨みつけながら、ミリアが叫ぶ。
その叫びは誰にも届くこともなく、彼女の命運はここで尽きる事になる。
……そのはずだったのだが。
ーーベルクリアが何かに気付いたように視線を窓に向けると立ち上がって、一歩下がる。
「ベルクリア君……どうかしたのかね?」
そう言って、町長が背後の窓に向かって振り向いた瞬間……窓ガラスが爆発したように砕け散ると、何かが飛び込んでくる!
いくつもの槍状の物が部屋の中に飛び込んできて、窓際に立っていた町長に突き立つと、町長は盛大に透明な体液を撒き散らした。
「ガ……グ……ガ……ナ、ナンダコレハ!」
ハリネズミのような有様になりながら、苦しそうに顔をかきむしりながら町長は、ぺたりと座り込む。
更に続いて、窓から赤い鎧の怪人が飛び込んでくる!
そのまま町長の頭部目掛けて飛び蹴りを炸裂させると、パンッ! 言う音と共に町長の頭部がはじけ飛び、糸の固まりのような丸いものがちぎれて床に落ちる。
直後、町長の身体は崩れて、液体状になってひしゃげる。
宙を軽く一回転して着地し、姿勢を低くしたままサトルも改めて、室内を見渡す。
ミリアは、とっさに転がりながら物陰に隠れて、難を逃れていたらしい。
ガラスの破片であちこち切り傷を作っていたが、赤い血が流れているならば、それはまだ無事だという証左でもあった。
「そこのお前っ! 後ろだ!」
ミリアが叫ぶのと、サトルの背後から天井に張り付いていた軍服の男が斬りかかるのがほぼ同時だった。
……金属音と共に、軍服の男……ベルクリアの剣が折れる!
サトルは背中に背負った小剣を抜きながら、背後からの一撃にカウンターを決めるという芸当を見せつけていた。
「……レベル2の個体が容易く屠られたと聞いていたが……その反応速度! 確実に不意を突いたと思ったんだが……よもや、止められるとはな……思った以上に厄介そうな相手だな! 貴様一体何者だ? 本当に人間か?」
「悪いな……スライム風情に告げる名前などない……スライムは駆除するのみだ!」
そう言って、振り返りながらの斬撃! ベルクリアは軽くのけぞるとその斬撃を躱すっ!
「その声は……サトルっ……! 君なのか! その姿はいったい……それに、なぜ!」
まさかの援軍の登場に思わず、泣きそうになりながらも、ミリアは叫ぶ!
「ははっ! 声だけで解るもんなんだな……けど、名前を覚えててくれて嬉しいよ! どのみち、ここには来るつもりだったんだ……ちょっと予定が早まっただけさ。ミリアさん、怪我はないかい? 悪いが、手が放せそうもないから、動けるなら自力でなんとかしてくれ」
そう言って、サトルはミリアに一本のナイフと身にまとったマントを投げつけながら、ベルクリアへ向かって立て続けにナイフを投げつける……4本のナイフは曲線を描くと、一斉にベルクリアへ向かう!
確実に避けきれないコースとタイミング……けれども、ベルクリアにそのすべてを避けもせずに棒立ちのまま受け止める……硬い金属音と共にほとんどのナイフが弾かれてしまう!
「……ほう、これが報告にあったスライムを殺す剣かな? だが、こんなもの私には効かんぞ……こんな軽い攻撃……我が装甲外殻の前には児戯の如しだ!」
そう言って、一本だけ肩に突き刺さっていたナイフを抜くと、ベルクリアは不敵に笑う。
その顔や腕は黒い小さな鱗のようなものにびっしりと覆われている……頭部もつるりとした坊主頭のようになっており、目鼻すらも消失している。
「なるほど、外皮を装甲化しているのか……色々変種がいると聞いていたが、貴様もその類か……。トカゲや蛇のように、鱗状装甲化する事で、機動性と防御力を両立と言ったところか……けど、このナイフはカミソリのように薄いからな……ほんの僅かな隙間からでも貴様の体内に潜り込み、灼熱の毒が染み込むことになるぞ?」
「薄く鋭い刃で外皮を切り裂き、塗布された化学物質による発熱効果で体組織を破壊か……良く我々を研究しているのだな……昨夜もこの街に潜入を試みた一団が似たようなものを持っていたが、あれは貴様の手のものか? たまたま当直だった私が街の外で相手をしたのだが……うっかり、全滅させてしまってな……あれだけ死体を作ってしまうと、処分が大変だ……同胞達は人肉にありつけて、大はしゃぎだったがな」
「……」
ベルクリアの言葉に、サトルは無言で佇む……けれど、強く握りしめたその拳だけが、彼の怒りを雄弁に物語っていた。
町長宅の一室で町長のガスターフは呆れたように言葉を続けようとする。
「黙れっ! 貴様らのような化物に屈してなるものか! いっそ殺せばいい! 私も国を守る誇り高き騎士だ! 覚悟などとっくに出来ている!」
後ろ手に縛られ、武装解除させられ、全裸で這いつくばらせられているミリア。
室内にはコアを失い蠢くだけとなったスライムや、町長が金で雇っていた用心棒と思わしき、人間の死体がいくつも転がっており、ここで激しい戦いがくりひろげられたのは明らかだった。
「……いけませんねぇ……我々はそのような野蛮な手段は使いません。ですが、我々も貴女の扱いには困っていたのですよ……特異魔術の使い手で、王都の護庭七家の一員……実に厄介だ。消そうにも、王都の派遣将校が不審死したとなると大問題になってしまいます……ですので、我々は貴女にここでは何も見なかった、何も知らない……そのように便宜を図っていただきたいと、そうお願いしているのです」
「……ふざけるな! 護庭の騎士として、貴様らのような存在を見て見ぬふりなど出来るかっ!」
ミリアはキッパリと拒絶の言葉を口にする……戦いに敗れ、挙句に化物に屈するくらいならば死を選ぶ……それ以外はあり得ない。
それ故に当然の言葉だった。
「……ガスターフ君、もうよしたまえ……マクミリア君は誰もが認める高潔なる騎士の中の騎士だ……彼女を説得できるなんて思ってはいけないよ。ここは本人のご希望どおり、後腐れなく殺してしまう他あるまい」
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「ベルクリア総隊長……簡単に言うが、この女には成り代わりが使えんのだ……外見上の体裁は整えられても、あっけなく正体がバレてしまっては元も子もないであろう……殺すにしても立場が立場だ……どうやって、誤魔化せばいいのだ……。
そもそも、彼女は君の部下なのだろう? 軍隊において、上官の命令は絶対のはずなのに、なんだねこの体たらくは? おかげで、私の手駒が皆殺しにされてしまったよ……計画に修正が必要なレベルの損害だぞ……これは!」
「彼女は形式上、私の部下ではあるのだが……拒否権があるため、事実上命令できる立場ではないのだ。それでも、形だけの兵隊ごっこで満足しているようだったから、あえて放置していたのだよ。
なぁに……我々がこの場で殺してしまう事が問題になるのであって、ここはひとつ任務中の名誉の戦死でも遂げてもらえばよいであろう? 正義感と功名心にかられて、ゴブリンの巣に無謀にも一人で乗り込んだマクミリア中尉! 増援が到着した頃には、ゴブリン共に陵辱された挙句自決していた……残念無念の最期! こんな感じの筋書きでどうだろうか? どのみち生かしておいても、この化け物じみた戦闘力……後々の憂いにしかならんだろう……むしろ、もっと早く対処しておくべきだったな……」
「なるほど、そうなると……このままゴブリンの巣にでも放り込んで、始末は奴らに任せればいい……そう言うことだね?」
「そうそう……我々と違って、奴らの女の扱いは酷いものだからねぇ……まともな神経なら精神が壊れるか、むしろ自決の道を迷わず選択するであろう……マクミリア君、君はどの程度までゴブリン共の責め苦に耐えられるかな?」
「……貴様ら……この場で殺さなかった事を必ず、後悔させてやる……」
「はっはっは! その有様でどうするつもりなのかね? それにしてもさすが、ベルクリア殿! さすが、あのお方直々に調整を受けただけのことはありますな! 実に頼もしい限りです! この女が単身乗り込んできて、追求してきた時はどうなるかと思いましたが……」
「私はレベル3認定を受けているからね……なかなかに楽しませてもらったが……所詮は人間……私の敵では無かったという事だ……マクミリア君ももう少し実戦経験を詰めばいい騎士になれただろう……実に惜しい……けれど、君に明日は来ないんだ……残念だったね!」
そう言って、二匹のスライム人間はさも可笑しそうに笑い合う。
その光景にミリアも歯ぎしりして悔しがる……けれども、今の彼女は無力化されてしまい為す術もない。
彼女の特異魔術、身体能力強化も一回使えばしばらく使えないし、その力を持ってしてもこの変異スライムのベルクリアの前には、まったく歯が立たなかったのだ。
「くっ! 殺せッ!」
二匹の人外を睨みつけながら、ミリアが叫ぶ。
その叫びは誰にも届くこともなく、彼女の命運はここで尽きる事になる。
……そのはずだったのだが。
ーーベルクリアが何かに気付いたように視線を窓に向けると立ち上がって、一歩下がる。
「ベルクリア君……どうかしたのかね?」
そう言って、町長が背後の窓に向かって振り向いた瞬間……窓ガラスが爆発したように砕け散ると、何かが飛び込んでくる!
いくつもの槍状の物が部屋の中に飛び込んできて、窓際に立っていた町長に突き立つと、町長は盛大に透明な体液を撒き散らした。
「ガ……グ……ガ……ナ、ナンダコレハ!」
ハリネズミのような有様になりながら、苦しそうに顔をかきむしりながら町長は、ぺたりと座り込む。
更に続いて、窓から赤い鎧の怪人が飛び込んでくる!
そのまま町長の頭部目掛けて飛び蹴りを炸裂させると、パンッ! 言う音と共に町長の頭部がはじけ飛び、糸の固まりのような丸いものがちぎれて床に落ちる。
直後、町長の身体は崩れて、液体状になってひしゃげる。
宙を軽く一回転して着地し、姿勢を低くしたままサトルも改めて、室内を見渡す。
ミリアは、とっさに転がりながら物陰に隠れて、難を逃れていたらしい。
ガラスの破片であちこち切り傷を作っていたが、赤い血が流れているならば、それはまだ無事だという証左でもあった。
「そこのお前っ! 後ろだ!」
ミリアが叫ぶのと、サトルの背後から天井に張り付いていた軍服の男が斬りかかるのがほぼ同時だった。
……金属音と共に、軍服の男……ベルクリアの剣が折れる!
サトルは背中に背負った小剣を抜きながら、背後からの一撃にカウンターを決めるという芸当を見せつけていた。
「……レベル2の個体が容易く屠られたと聞いていたが……その反応速度! 確実に不意を突いたと思ったんだが……よもや、止められるとはな……思った以上に厄介そうな相手だな! 貴様一体何者だ? 本当に人間か?」
「悪いな……スライム風情に告げる名前などない……スライムは駆除するのみだ!」
そう言って、振り返りながらの斬撃! ベルクリアは軽くのけぞるとその斬撃を躱すっ!
「その声は……サトルっ……! 君なのか! その姿はいったい……それに、なぜ!」
まさかの援軍の登場に思わず、泣きそうになりながらも、ミリアは叫ぶ!
「ははっ! 声だけで解るもんなんだな……けど、名前を覚えててくれて嬉しいよ! どのみち、ここには来るつもりだったんだ……ちょっと予定が早まっただけさ。ミリアさん、怪我はないかい? 悪いが、手が放せそうもないから、動けるなら自力でなんとかしてくれ」
そう言って、サトルはミリアに一本のナイフと身にまとったマントを投げつけながら、ベルクリアへ向かって立て続けにナイフを投げつける……4本のナイフは曲線を描くと、一斉にベルクリアへ向かう!
確実に避けきれないコースとタイミング……けれども、ベルクリアにそのすべてを避けもせずに棒立ちのまま受け止める……硬い金属音と共にほとんどのナイフが弾かれてしまう!
「……ほう、これが報告にあったスライムを殺す剣かな? だが、こんなもの私には効かんぞ……こんな軽い攻撃……我が装甲外殻の前には児戯の如しだ!」
そう言って、一本だけ肩に突き刺さっていたナイフを抜くと、ベルクリアは不敵に笑う。
その顔や腕は黒い小さな鱗のようなものにびっしりと覆われている……頭部もつるりとした坊主頭のようになっており、目鼻すらも消失している。
「なるほど、外皮を装甲化しているのか……色々変種がいると聞いていたが、貴様もその類か……。トカゲや蛇のように、鱗状装甲化する事で、機動性と防御力を両立と言ったところか……けど、このナイフはカミソリのように薄いからな……ほんの僅かな隙間からでも貴様の体内に潜り込み、灼熱の毒が染み込むことになるぞ?」
「薄く鋭い刃で外皮を切り裂き、塗布された化学物質による発熱効果で体組織を破壊か……良く我々を研究しているのだな……昨夜もこの街に潜入を試みた一団が似たようなものを持っていたが、あれは貴様の手のものか? たまたま当直だった私が街の外で相手をしたのだが……うっかり、全滅させてしまってな……あれだけ死体を作ってしまうと、処分が大変だ……同胞達は人肉にありつけて、大はしゃぎだったがな」
「……」
ベルクリアの言葉に、サトルは無言で佇む……けれど、強く握りしめたその拳だけが、彼の怒りを雄弁に物語っていた。
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