8 / 29
第三話「仄カナ灯火」PART2
しおりを挟む「イザーク?」
間近の、幼馴染の端整な顔をリアは、瞬いて見た。
「私もあなたを信頼しているし好きよ?」
彼は呟く。
「俺の好きはそういうのじゃなくて……」
「え?」
「……いや」
「ドレス、押さえているからもう大丈夫よ」
「ああ」
彼は腕を解いて離れた。
「……着るの手伝うよ。リボンを付ければいいのか?」
「ええ」
彼はリアの後ろに回り、ドレスのリボンを結んでくれ、言った。
「ちゃんとできてるか、わかんないけど」
リアは鏡で、背を映してみる。綺麗にまとまっていた。
「ありがとう、イザーク。助かったわ」
これで帰れる。
「私、屋敷に戻るわ。メラニー様に、帰ったと伝えておいてくれる?」
「了解。馬車まで送るよ」
それでリアは、彼と部屋から出た。
お茶会でジークハルトと顔を合わさずにすみ、残念に思うのと安堵が入り混じっていた。
ジークハルトと会えば、感情が揺れて仕方ないのだ。
※※※※※
メラニーは目の前の少年を熱い眼差しで見つめる。
「ふうん、そうなんだ。姉上と君の兄上がね……」
「はい」
(ああ、今日もなんて素敵なのかしら。カミル様……)
メラニーは、リアの弟──カミル・アーレンスに、恋焦がれていた。
名門アーレンス公爵家は、美貌の血筋で有名だ。
彼の父も年齢を感じさせない若々しさで、美青年と呼べるほどだし、カミルの叔母も、月の女神と評された綺麗な女性で、現皇帝が皇太子だったときに、一目惚れして婚約が決まったらしい。
アーレンス家の血を引く、オスカーとカミルの二人は、女性人気が凄まじい。
メラニーも彼らを慕う一人である。
オスカーもカミルもメラニー好みだ。どちらも大好きだが、特に弟のカミルが好きだった。
カミルと庭園の彫像前で落ち合い、今日あった出来事を報告していた。
彼は柔らかい雰囲気の少年で、姉──といっても従兄弟──と似ていない。
彼ら同様、リアもアーレンス家の人間なので、綺麗だ。だが美少女すぎ、纏う空気が冷たくみえ、悪役っぽい。
そのため誤解されやすい。
メラニーが、リアにいじめられたと周囲にほのめかせば、信じてもらえる。
皇太子に近づく女性──特にメラニーをリアがいじめているという噂を、メラニーはせっせと広めていた。
だがさすがに、リアと一緒に暮らしているカミルやオスカーには嘘だとバレてしまう。前にちらりとそれらしいことを話したら、日頃声を荒げないカミルに叱責されてしまった。
だから、そういったことは話していない。
カミルには事実のみを告げている。
(ジークハルト様も素敵だし、皇太子という唯一無二の存在だけど、威圧感があるし)
一つ下のカミルは母性本能を擽られる可愛らしさと、どこか小悪魔的な婀娜っぽさがある。
そんな彼にメラニーは夢中だ。
数年前、カミルからジークハルトに近づいてほしいと言われたときはショックだった。
だがカミルの言う通りにすれば、彼と接点をもてる。
報告する際、他の幾多のライバルを押しのけて彼と話ができる。
それに皇太子であるジークハルトに気に入られれば、正妃は無理だとしても愛妾になれるかもしれない。
それはそれで魅力的だ。
メラニーはカミルの言葉に従い、彼の喜ぶ顔もみたくて、逐一報告していた。
カミルの兄オスカーは、リアと結婚をしたいらしく、ジークハルトとリアの仲をこわすよう、弟のカミルに命じているらしい。その手助けをメラニーはしているのだ。
「ん、ありがとう。よくわかったよ」
にっこりとカミルは天使のような笑顔を浮かべた。
「ということは、君は殿下に求婚されたってことだね」
「そうです」
「おめでとう。幸せになってね」
彼はとても嬉しそうで、メラニーは複雑な心持ちとなる。
愛妾でも、と思っていたところ、ジークハルトに結婚を考えると言われ、歓喜したが、メラニーが恋しているのはカミルなのだった。
「でもわたしが本当に好きなのは……」
カミルと結ばれるのが、メラニーの最上の願いだ。
カミルは小首を傾げ、人差し指をメラニーの唇の前に柔らかく立てた。
彼は優しく囁く。
「君は帝国において、将来、最も高貴な女性となるんだ。何も口にしないで。ね」
メラニーはぽうっとする。
「じゃあね」
笑顔で優雅に立ち去るその姿を、メラニーはうっとりと見送った。
間近の、幼馴染の端整な顔をリアは、瞬いて見た。
「私もあなたを信頼しているし好きよ?」
彼は呟く。
「俺の好きはそういうのじゃなくて……」
「え?」
「……いや」
「ドレス、押さえているからもう大丈夫よ」
「ああ」
彼は腕を解いて離れた。
「……着るの手伝うよ。リボンを付ければいいのか?」
「ええ」
彼はリアの後ろに回り、ドレスのリボンを結んでくれ、言った。
「ちゃんとできてるか、わかんないけど」
リアは鏡で、背を映してみる。綺麗にまとまっていた。
「ありがとう、イザーク。助かったわ」
これで帰れる。
「私、屋敷に戻るわ。メラニー様に、帰ったと伝えておいてくれる?」
「了解。馬車まで送るよ」
それでリアは、彼と部屋から出た。
お茶会でジークハルトと顔を合わさずにすみ、残念に思うのと安堵が入り混じっていた。
ジークハルトと会えば、感情が揺れて仕方ないのだ。
※※※※※
メラニーは目の前の少年を熱い眼差しで見つめる。
「ふうん、そうなんだ。姉上と君の兄上がね……」
「はい」
(ああ、今日もなんて素敵なのかしら。カミル様……)
メラニーは、リアの弟──カミル・アーレンスに、恋焦がれていた。
名門アーレンス公爵家は、美貌の血筋で有名だ。
彼の父も年齢を感じさせない若々しさで、美青年と呼べるほどだし、カミルの叔母も、月の女神と評された綺麗な女性で、現皇帝が皇太子だったときに、一目惚れして婚約が決まったらしい。
アーレンス家の血を引く、オスカーとカミルの二人は、女性人気が凄まじい。
メラニーも彼らを慕う一人である。
オスカーもカミルもメラニー好みだ。どちらも大好きだが、特に弟のカミルが好きだった。
カミルと庭園の彫像前で落ち合い、今日あった出来事を報告していた。
彼は柔らかい雰囲気の少年で、姉──といっても従兄弟──と似ていない。
彼ら同様、リアもアーレンス家の人間なので、綺麗だ。だが美少女すぎ、纏う空気が冷たくみえ、悪役っぽい。
そのため誤解されやすい。
メラニーが、リアにいじめられたと周囲にほのめかせば、信じてもらえる。
皇太子に近づく女性──特にメラニーをリアがいじめているという噂を、メラニーはせっせと広めていた。
だがさすがに、リアと一緒に暮らしているカミルやオスカーには嘘だとバレてしまう。前にちらりとそれらしいことを話したら、日頃声を荒げないカミルに叱責されてしまった。
だから、そういったことは話していない。
カミルには事実のみを告げている。
(ジークハルト様も素敵だし、皇太子という唯一無二の存在だけど、威圧感があるし)
一つ下のカミルは母性本能を擽られる可愛らしさと、どこか小悪魔的な婀娜っぽさがある。
そんな彼にメラニーは夢中だ。
数年前、カミルからジークハルトに近づいてほしいと言われたときはショックだった。
だがカミルの言う通りにすれば、彼と接点をもてる。
報告する際、他の幾多のライバルを押しのけて彼と話ができる。
それに皇太子であるジークハルトに気に入られれば、正妃は無理だとしても愛妾になれるかもしれない。
それはそれで魅力的だ。
メラニーはカミルの言葉に従い、彼の喜ぶ顔もみたくて、逐一報告していた。
カミルの兄オスカーは、リアと結婚をしたいらしく、ジークハルトとリアの仲をこわすよう、弟のカミルに命じているらしい。その手助けをメラニーはしているのだ。
「ん、ありがとう。よくわかったよ」
にっこりとカミルは天使のような笑顔を浮かべた。
「ということは、君は殿下に求婚されたってことだね」
「そうです」
「おめでとう。幸せになってね」
彼はとても嬉しそうで、メラニーは複雑な心持ちとなる。
愛妾でも、と思っていたところ、ジークハルトに結婚を考えると言われ、歓喜したが、メラニーが恋しているのはカミルなのだった。
「でもわたしが本当に好きなのは……」
カミルと結ばれるのが、メラニーの最上の願いだ。
カミルは小首を傾げ、人差し指をメラニーの唇の前に柔らかく立てた。
彼は優しく囁く。
「君は帝国において、将来、最も高貴な女性となるんだ。何も口にしないで。ね」
メラニーはぽうっとする。
「じゃあね」
笑顔で優雅に立ち去るその姿を、メラニーはうっとりと見送った。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる