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第三話「仄カナ灯火」PART1
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警備隊の詰め所を後にして、町外れの聖光教会に向かったサトル達を、みずほらしい姿の神父が出迎えてくれた。
まずは、二人の神職同士の挨拶とお互いへの祝福が始まる。
続くサトルは……どちらかと言うと、二人に祈りを捧げられる側だった。
別にサトルに祈っても、ご利益なんてないのだけど……サトルは女神様の意志を受けて地上に降臨した神の使徒であり……いわば生き神様のようなもの。
サトルの権威は聖光教会においては絶対に等しかった。
サトルの命であれば、彼らは皆、死すら厭わない。
故にサトルももう慣れたものだった……。
「ありがとう……ハサウェル神父だったかな? 貴方に女神様の祝福と加護のあらんことを……。
君の報告で僕らが動くことになったんだからね……まずは、そうかしこまらずに楽にして欲しい。悪いけど、一時的にここを僕らの活動拠点にさせてもらうよ……それにしても、ここは君だけしかいないのかい? それに随分と寂れた教会じゃないか……酷い有様だな」
そう言いながら、サトルは周囲を見渡す。
時刻はすでに夜……明かりも神父が手にした小さなランタンがあるのみで、教会だった建物は荒れ果てて、ボロボロ……廃墟と言われても何ら疑問も沸かない……その程度には、酷い有様だった。
「申し訳ありません……当教会はすでに私一人のみを残すのみでございます……他の同志達は、憎きスライム共に一人、また一人と殺されました……町長を始め街の有力者、街を護る警備隊の者達も総隊長や幹部の殆どがスライム共に成り代わられているようで、我々の訴えは完全に黙殺されてしまいました」
スライム共の抵抗勢力の最右翼を自負する聖光教会の者にとって……スライムに支配されつつある現状はもはや周知の事実だった。
その成り代わりの事実についても、かなり早い段階から把握しており、世の中に警鐘を鳴らし続けていたのだが。
現状、カルト教団扱いされており、まともに耳を貸すものは少数派となってしまっていた。
「あのなんとかって小隊長と副官は始末したけど、トップの総隊長もスライムなのか……もっと徹底して、掃除するべきだったな……しかし、警備隊がその有様だと、ミリアさん、良く成り代わられなかったもんだな……ヤバイんじゃないか? あの人」
「マクミリア卿の事ですか? あの方は王都の護庭七家の一員で、要するに実績作りの為に派遣された客員将校ですからね。特異魔術ユニークマジックの使い手でもあるので、成り代わりは恐らく不可能でしょう……そう言う意味では、運が良かったのかもしれませんな」
「なるほど、社会的地位もあって、特異魔術の使い手では手出しは出来ないだろうな……つまり、見逃されていた……と言うことか。けど、彼女はスライムの脅威を知ってしまったからね……余計なことをしなければよいのだけど……」
そう、スライムが成り代われない存在というのがいくつかあるのだ。
魔術の使い手もそのひとつだった。
……なぜならスライムは、基本的に魔術を使えないから。
広義的には魔力回路を発現させた人間……。
要するに魔術師、レインのような神官と呼ばれる神聖魔術の使い手も同様にスライムは成り代わる事ができない……。
他にも錬金術師や、一部の鍛冶師、薬草などからポーションなどを作る薬師もまた、魔力を操る魔術師の一種であり、同様成り代わられた事例はない。
彼らは総じて、社会的地位も高い格好の獲物のはずなのだが……スライムの擬態では魔力回路を複写できない為に、結果的に彼らについては難を逃れていた。
精霊に近い存在の亜人種……エルフやドワーフなども生まれながらにして、魔力回路を発現させているので、これらもまたスライムにとっては対象外。
獣人種などは、魔力回路自体を持たないのだけど、彼らは基本的に鼻や感覚器官が人より優秀なので、スライム特有の匂いを敏感に察して、スライムと人を容易に見分けてしまう為、むしろ、スライムにとっては、非常に危険な存在だった。
その為、獣人は目障りだとして、迫害され排除される方向へ向かいつつあった……。
かつては、獣人王に率いられた世界最大規模の獣人達の軍事大国があったのだけど、スライム王の陰謀により徹底的に焦土化された挙句、住民も皆殺しにされ、かろうじて逃げ延びた者達が隠れ里を作ってほそぼそと隠れ住んだり、奴隷に落ちて社会の片隅で生きながらえる……そんな有様になっていた。
魔力回路の保持者達もまた同様に、スライム共にとっては排除対象とされ、ゆっくりではあるが各国の要職から追放され、神官たちを多数抱える宗教団体もカルト教団のレッテルを貼られ、社会の片隅へ追いやられ迫害されていた。
時折、抵抗勢力の最右翼たる聖光教会が起こすスライムの排除活動も、無実の人々をたびたび巻き込んだりとやり方に非常に問題があって、テロ行為呼ばわりされるようになってしまい、ここオルタンシアの教会のように、ゆっくりと一人ずつ人員を消して行くというようなやり方で衰退させられていた。
真綿で首を絞めるようにゆっくりとゆっくりと、スライムにとって都合のいいように世の中が作り変えられていく……。
邪魔者はゆっくりと時間をかけて確実に消していく。
これが恒久平和を謳う転生者により演出されたこの世界の実態だった。
さしものサトルも、この這い寄るように侵攻するスライムのやり方に背筋が寒くなるような思いを抱く。
「……使徒様……何もありませんが、お茶でもどうぞ」
ハサウェル神父が差し出したお茶を受け取りながら、サトルもようやっと一息つけた気分になっていた。
……挨拶も済み、落ち着けた所で早速とばかりにレインがワガママを言いだしたので、先程までそのワガママを叶えるために奮闘していたのだった。
「……そう言えば、教会の武装神父一個小隊が先行してたはずなんですけど……こちらに来てませんか?」
そう言いながら、物陰で湯浴みをしていたレインが髪を拭きながら顔を覗かせる……。
結局、警備隊の詰め所での騒ぎで、身体を洗いそびれたレインはここに来るなり、ヌルヌルが気持ち悪いからお風呂に入りたいと言い出した……。
思い切り敵地であり、その上この教会の状況を見た上で、酷いワガママもあったものなのだけど、備え付けの井戸とタライくらいはあったので、サトルは自らの能力でいい感じにお湯を温めて、即席お風呂を用意したのだった。
宿屋にだって、お湯のお風呂なんてめったに無いのだけど……水にファイアボールを放り込むような乱暴な方法ではなく、水を張って手を突っ込むだけと言う、実にスマートなやり方でお風呂を用意したその手際に、レインは今後は、毎日お風呂に入れるとご機嫌だった。
ハサウェル神父も女神の使徒を何だと思っているのかと、内心穏やかではなかったのだけど、レインはこう見えても教団でも有数の神聖魔術の使い手であり、年少ながら司教の称号を持つ幹部の一人なのだ。
序列的にも神父より格上であり、意見を言える立場ではなかった。
おまけに、肝心のサトルも喜々として、お風呂作りを楽しんでいる様子だったので、ハサウェル神父もその大らかな人柄を、むしろ高く評価したのだった。
もっとも、レインもレインで、羞恥心がないのかどうか解らないのだけど、いきなりサトルの目の前で脱ぎ始めて、サトルも日頃のクール気取りが台無しになる程度の醜態を晒す羽目になったのだけど……。
まぁ、これはちょっとした余談。
嵐の前の静けさの中の貴重な一時だった。
まずは、二人の神職同士の挨拶とお互いへの祝福が始まる。
続くサトルは……どちらかと言うと、二人に祈りを捧げられる側だった。
別にサトルに祈っても、ご利益なんてないのだけど……サトルは女神様の意志を受けて地上に降臨した神の使徒であり……いわば生き神様のようなもの。
サトルの権威は聖光教会においては絶対に等しかった。
サトルの命であれば、彼らは皆、死すら厭わない。
故にサトルももう慣れたものだった……。
「ありがとう……ハサウェル神父だったかな? 貴方に女神様の祝福と加護のあらんことを……。
君の報告で僕らが動くことになったんだからね……まずは、そうかしこまらずに楽にして欲しい。悪いけど、一時的にここを僕らの活動拠点にさせてもらうよ……それにしても、ここは君だけしかいないのかい? それに随分と寂れた教会じゃないか……酷い有様だな」
そう言いながら、サトルは周囲を見渡す。
時刻はすでに夜……明かりも神父が手にした小さなランタンがあるのみで、教会だった建物は荒れ果てて、ボロボロ……廃墟と言われても何ら疑問も沸かない……その程度には、酷い有様だった。
「申し訳ありません……当教会はすでに私一人のみを残すのみでございます……他の同志達は、憎きスライム共に一人、また一人と殺されました……町長を始め街の有力者、街を護る警備隊の者達も総隊長や幹部の殆どがスライム共に成り代わられているようで、我々の訴えは完全に黙殺されてしまいました」
スライム共の抵抗勢力の最右翼を自負する聖光教会の者にとって……スライムに支配されつつある現状はもはや周知の事実だった。
その成り代わりの事実についても、かなり早い段階から把握しており、世の中に警鐘を鳴らし続けていたのだが。
現状、カルト教団扱いされており、まともに耳を貸すものは少数派となってしまっていた。
「あのなんとかって小隊長と副官は始末したけど、トップの総隊長もスライムなのか……もっと徹底して、掃除するべきだったな……しかし、警備隊がその有様だと、ミリアさん、良く成り代わられなかったもんだな……ヤバイんじゃないか? あの人」
「マクミリア卿の事ですか? あの方は王都の護庭七家の一員で、要するに実績作りの為に派遣された客員将校ですからね。特異魔術ユニークマジックの使い手でもあるので、成り代わりは恐らく不可能でしょう……そう言う意味では、運が良かったのかもしれませんな」
「なるほど、社会的地位もあって、特異魔術の使い手では手出しは出来ないだろうな……つまり、見逃されていた……と言うことか。けど、彼女はスライムの脅威を知ってしまったからね……余計なことをしなければよいのだけど……」
そう、スライムが成り代われない存在というのがいくつかあるのだ。
魔術の使い手もそのひとつだった。
……なぜならスライムは、基本的に魔術を使えないから。
広義的には魔力回路を発現させた人間……。
要するに魔術師、レインのような神官と呼ばれる神聖魔術の使い手も同様にスライムは成り代わる事ができない……。
他にも錬金術師や、一部の鍛冶師、薬草などからポーションなどを作る薬師もまた、魔力を操る魔術師の一種であり、同様成り代わられた事例はない。
彼らは総じて、社会的地位も高い格好の獲物のはずなのだが……スライムの擬態では魔力回路を複写できない為に、結果的に彼らについては難を逃れていた。
精霊に近い存在の亜人種……エルフやドワーフなども生まれながらにして、魔力回路を発現させているので、これらもまたスライムにとっては対象外。
獣人種などは、魔力回路自体を持たないのだけど、彼らは基本的に鼻や感覚器官が人より優秀なので、スライム特有の匂いを敏感に察して、スライムと人を容易に見分けてしまう為、むしろ、スライムにとっては、非常に危険な存在だった。
その為、獣人は目障りだとして、迫害され排除される方向へ向かいつつあった……。
かつては、獣人王に率いられた世界最大規模の獣人達の軍事大国があったのだけど、スライム王の陰謀により徹底的に焦土化された挙句、住民も皆殺しにされ、かろうじて逃げ延びた者達が隠れ里を作ってほそぼそと隠れ住んだり、奴隷に落ちて社会の片隅で生きながらえる……そんな有様になっていた。
魔力回路の保持者達もまた同様に、スライム共にとっては排除対象とされ、ゆっくりではあるが各国の要職から追放され、神官たちを多数抱える宗教団体もカルト教団のレッテルを貼られ、社会の片隅へ追いやられ迫害されていた。
時折、抵抗勢力の最右翼たる聖光教会が起こすスライムの排除活動も、無実の人々をたびたび巻き込んだりとやり方に非常に問題があって、テロ行為呼ばわりされるようになってしまい、ここオルタンシアの教会のように、ゆっくりと一人ずつ人員を消して行くというようなやり方で衰退させられていた。
真綿で首を絞めるようにゆっくりとゆっくりと、スライムにとって都合のいいように世の中が作り変えられていく……。
邪魔者はゆっくりと時間をかけて確実に消していく。
これが恒久平和を謳う転生者により演出されたこの世界の実態だった。
さしものサトルも、この這い寄るように侵攻するスライムのやり方に背筋が寒くなるような思いを抱く。
「……使徒様……何もありませんが、お茶でもどうぞ」
ハサウェル神父が差し出したお茶を受け取りながら、サトルもようやっと一息つけた気分になっていた。
……挨拶も済み、落ち着けた所で早速とばかりにレインがワガママを言いだしたので、先程までそのワガママを叶えるために奮闘していたのだった。
「……そう言えば、教会の武装神父一個小隊が先行してたはずなんですけど……こちらに来てませんか?」
そう言いながら、物陰で湯浴みをしていたレインが髪を拭きながら顔を覗かせる……。
結局、警備隊の詰め所での騒ぎで、身体を洗いそびれたレインはここに来るなり、ヌルヌルが気持ち悪いからお風呂に入りたいと言い出した……。
思い切り敵地であり、その上この教会の状況を見た上で、酷いワガママもあったものなのだけど、備え付けの井戸とタライくらいはあったので、サトルは自らの能力でいい感じにお湯を温めて、即席お風呂を用意したのだった。
宿屋にだって、お湯のお風呂なんてめったに無いのだけど……水にファイアボールを放り込むような乱暴な方法ではなく、水を張って手を突っ込むだけと言う、実にスマートなやり方でお風呂を用意したその手際に、レインは今後は、毎日お風呂に入れるとご機嫌だった。
ハサウェル神父も女神の使徒を何だと思っているのかと、内心穏やかではなかったのだけど、レインはこう見えても教団でも有数の神聖魔術の使い手であり、年少ながら司教の称号を持つ幹部の一人なのだ。
序列的にも神父より格上であり、意見を言える立場ではなかった。
おまけに、肝心のサトルも喜々として、お風呂作りを楽しんでいる様子だったので、ハサウェル神父もその大らかな人柄を、むしろ高く評価したのだった。
もっとも、レインもレインで、羞恥心がないのかどうか解らないのだけど、いきなりサトルの目の前で脱ぎ始めて、サトルも日頃のクール気取りが台無しになる程度の醜態を晒す羽目になったのだけど……。
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