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【8】
【後】始まりの日
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鎧戸の隙間から白い光が筋状に伸び、床へと落ちている。赤々と燃える暖炉で火の粉がパチパチと跳ねてはステップを踏むように落ちていく。
芳しく香る花も艶やかに光る装飾も無く、楽師達が奏でる情緒豊かな旋律が流れているわけでもない。
辺境にあるさして大きくもない集落、苔生す屋根の宿にある小さくて質素な部屋に二人はいた。雪が白く森を包む季節ではあったが、部屋は真綿で包むように温かい。
そんな中、彼の言葉を聞いたポルトは目の前の現実に一瞬気が遠くなるのを感じる。倒れ込まないように自身を支える腕を…フォルカーの腕を強く掴んだ。
ファールン王国に伝わる聖神具リガルティン。扱うにふさわしい、古き血脈に連なる者が望めば全ての知恵を授けるという叡智の指輪。ただし、代償として肉体の一部を捧げねばならない。
今目の前にいる王子には、身体にるべきものが無かった。色だ。ルビーレッドの髪も健康そうだった肌も雪のように白く、愛したエメラルドの瞳は深い海のような蒼色に変わっていた。
そして熱。生きていれば誰しもが持っているそれを、彼からは感じられない。肌はどこに触れても水のように冷たい。外気で身体が冷えたというにはあまりにも違和感がある。
「指輪を…使った……?」
その事実は再会の喜びを吹き飛ばし、ナイフでえぐられたような痛みを重く鋭く胸に刻む。
衝動を押さえられず、彼の胸ぐらに掴みかかった。
「ば…馬鹿じゃないの!?死んじゃったらどうするの……!!」
腕を前後にガクガク揺らせば、銀色の髪が流星のように流れた。
何が贄となるのかは指輪の気分次第。首や心臓を抜かれて死んだ王もいたのだという。
ファールンにたった一人しかいない王太子である彼のとった行動は、誰が見ても短絡的且つ愚行でしか無い。
「私は…!私は貴方にそんなことさせるために城を出たんじゃないっ!!」
「いてててててっ。だ・だってしょうがねぇじゃんッ!」
「しょうがなくないっ!もし何かあったら――……」
「自分でも馬鹿なことしたなってことはわかるよ!歴代の王族の中で一番の阿呆かもなっ」
「っ!」
王子の言葉に思わず揺さぶる腕が止まり、その両手をもう一つの手が握った。
蒼い瞳から強い視線が少女に注がれる。
「でも俺はこれっぽちの後悔もしてねぇ。もしこれが賭けだったとしても、俺は絶対に失敗しない。そう決まってんの」
「は…はぁ!?その出所不明の過剰な自信で動くのやめてくださいよ……!いい大人なんですから、少しは考えてものを――……っ」
「不明じゃねぇよ。一応道筋は通ってる」
「一体どこにですかっ」
「例えば指輪のせいで俺が死んだとする。でもお前、ついてくるんだろ?」
「!?」
「だから失敗のない賭けだったんだよ。俺には、な」
「あ……」
「あ?」
「アホオォォォォオオオオォォ!」
ゴンッ!両手を握られていたポルトは額を彼の頭に勢いよくぶつける。その衝撃と痛みに互いが「おぉぉお………」と背を丸めた。
「そ・そういうのをド阿呆っていうんです!!私が…そんなことして喜ぶと思ったんですか!?こっちの努力を全部ムダにするようなことして……!!馬鹿!!馬鹿王子!!!」
もしこの人が死んでしまったらやっぱり自分も生きていける気がしない。それでは彼の思うつぼではないか。この言葉は嬉しくて悲しくて、望んでいて望まないものだった。
普通の人間ならきっとこんなことはしない。
彼は身分が恵まれすぎて常識を逸脱し、度を過ぎた我儘息子に育ってしまったのだ。そうに違いない。
押さえきれない感情を表す語彙力はなく、ポカポカと胸板を叩いては滝のように涙が止まらない。涙腺が壊れてしまったんじゃないだろうか。
その状況を知ってか知らずか、王子は嬉しそうに表情を和らげる。
「はははっ。そーだな。俺、お前と一緒で阿呆で馬鹿だからさ、お前がいなくちゃなんか駄目っぽい」
「ち・違うでしょ!殿下はそうしようとしてないだけ!私がいなくても立派に……」
「もう、肉体関係が管理できない。城中こじれてマジでヤバい」
「こじれてるのはアンタの理性だっ!!!」
「わっはっはっはっ!」
久しぶりに聞いた高笑い。一方、その声に安心したのか再び語彙力の無くなった少女は「アホ」と「バカ」しか言わなくなった。
「つまりな?お前がいなくなったら、ド阿呆になってまた指輪使っちゃうかもしれないわけさ」
「は!?だ・駄目ですっ」
「じゃ、どうすればいいかわかるな?」
少女はその言葉にまたぐっと言葉を飲み込んでしまう。視線も沈み、苦しそうに唇を噛む。
「……でも…私が生きていて……しかも貴方の側にいるってことはまた……」
つまり全てが振り出しに戻るということ。終わったと思っていた悩みのタネが再び芽を出すということだ。
「俺だって適当に言っているわけじゃない。指輪にお前の居場所だけ聞いてきたと思ったら大間違いだぞ。お前の隠していた事、心配していること…全部見てきた」
「全部……?ど・どういうことですか?」
「全部教えろって指輪に聞いたからな。やましいことを中心にだいたいは見てきた」
「何を?」と言いかけて喉の奥にくっと飲み込んだ。
ポルトの脳裏を走るのは胸の奥に抱き続けてきた暗く重い記憶。偽りの父への慕情。兄妹達への贖罪。哀れで卑しい亡霊のような日々。
無知は罪なのだと誰かが言っていた。その理由は心にも身体にも刻まれている。
「い・言っておくがな!本当はお前が言い出すまで知るつもりはなかったんだぞっ。でもお前ってば俺に言う前にどっか行っちまうし。何の解決も出来ねーままだったからな。まあ、お前の居場所を聞くついでに…って所だ」
「あの廃教会…ウィンスターでのことも……?その後のことも……?」
その問いにフォルカーは頷いた。
指輪が見せた世界を瞼の裏に反芻すれば、彼女を守ってやれなかった悔しさ、歯がゆさが、より一層腕の力を強くさせる。
どれも変えることは出来ない『今更』の過去。今も尚、彼女を縛り続ける鎖でもある。
「ある程度は予想していた。それでも…まぁ……お前らしいもんばかりだったな。城を出た気持ちもわかる」
その言葉に少女は悲しい表情を浮かべ唇を噛んだ。
「俺も考えたさ。お前を側に置き続けた時のこと…そして起きるだろう問題も。考えて…考えて考えて、わかった」
「わかった……?」
大きく頷いたフォルカー。
生まれた瞬間から勢力闘争の中にいた。年長者達の謀略の網を今までかいくぐってきた彼はその瞳に自信をみなぎらせ、声を張る。
「細けぇことは良いんだよッッッッ!!!」
自身の悟りを説く王子に国民を代表して少女が心からの疑問符「は?」を行使する。しかし彼にはその重みがまるで伝わっていないようで、ややウザそうにため息を一つ落とした。
「あーもうさー。全部細けぇ!結局何をどうしたって何かしら起きるもんなの!要は対処出来ればいいの!そういうもんなの!」
「ちょ…それがこの国一番の教師を付けた王太子の言うことですか!?私のこと…全部見てきたんでしょう!?この世でできる悪いことは大体コンプしてきましたみたいな奴…一緒にいて良い訳ないでしょうがっっ!酒場の酔っぱらいみたいなことシラフで言うの止めて下さいよっ!貴方はこの国の王子なんです…!責任者なんですよ……!」
「うっせー!バーカ!王子だろうがなんだろうが、どうせ後悔するなら自分の選んだ道が良い!だから俺は俺を曲げない!」
「ただの我侭でしょ!」
「そーだよ!命がけの我侭だッ!!」
「ッ」
ウルリヒ王の言う通り、本来なら出会うはずもない二人だった。奇跡にも近い可能性を手繰り寄せて、今、共にいる。この出会いに意味が無いわけなんてない。
「違う声で起こされるのも、変に静かな部屋も、暖炉の火が入らねぇ隣の物置も、犬がしょぼくれててるのも…もう嫌なんだよ……!」
「でも……っ」
「俺はこれからもっと強くなる。だからお前も強くなれ。守りたいものを守れるように、もっと強く。お前なら出来る。俺はそう確信した……!だから迎えに来た!」
「っ!」
金色の瞳が大きく丸く見開く。
「一緒に帰るんだ……!」
語気は強いまま。彼の揺るぎない決意を表している。
何度も同じ問答を繰り返し、そして今も諦めの文字などまるで知らないかのように決断を迫ってくる。
ポルトはぎっと奥歯を噛んだ。
「で…も……っ」
王子の言葉に自分でもわかるほど引きずられている。
決死の思いで断ち切った縁が再び結ばれようとしている。
強引に引き寄せられて、ぶつけられている感情のまま繋がれてしまうのだろう。
抗わなければと思う自分と、このまま自由を奪われたいと願う自分が葛藤する。
「絶対に……絶対に後悔しますよ……っ。絶対に絶対に絶対に……!!」
これが今出来る最後の抵抗。
口から出た言葉とは裏腹に、もう一人の自分が「どうかこの選択に後悔をしないで」と胸の奥で泣いている。いつか未来で「お前がいなければ良かった、なんて思わないで」、と顔を覆い肩を震わせている。
涙で濡らしてしまった胸板を押し返す力はもう残っていない。
「後悔ならもうしてる」
そんな少女の思いを知ってか知らずか、小さな身体を強く抱きしめたフォルカーは、口元にふっと笑みを浮かべた。
「お前を手放した時に、死ぬほどな」
芳しく香る花も艶やかに光る装飾も無く、楽師達が奏でる情緒豊かな旋律が流れているわけでもない。
辺境にあるさして大きくもない集落、苔生す屋根の宿にある小さくて質素な部屋に二人はいた。雪が白く森を包む季節ではあったが、部屋は真綿で包むように温かい。
そんな中、彼の言葉を聞いたポルトは目の前の現実に一瞬気が遠くなるのを感じる。倒れ込まないように自身を支える腕を…フォルカーの腕を強く掴んだ。
ファールン王国に伝わる聖神具リガルティン。扱うにふさわしい、古き血脈に連なる者が望めば全ての知恵を授けるという叡智の指輪。ただし、代償として肉体の一部を捧げねばならない。
今目の前にいる王子には、身体にるべきものが無かった。色だ。ルビーレッドの髪も健康そうだった肌も雪のように白く、愛したエメラルドの瞳は深い海のような蒼色に変わっていた。
そして熱。生きていれば誰しもが持っているそれを、彼からは感じられない。肌はどこに触れても水のように冷たい。外気で身体が冷えたというにはあまりにも違和感がある。
「指輪を…使った……?」
その事実は再会の喜びを吹き飛ばし、ナイフでえぐられたような痛みを重く鋭く胸に刻む。
衝動を押さえられず、彼の胸ぐらに掴みかかった。
「ば…馬鹿じゃないの!?死んじゃったらどうするの……!!」
腕を前後にガクガク揺らせば、銀色の髪が流星のように流れた。
何が贄となるのかは指輪の気分次第。首や心臓を抜かれて死んだ王もいたのだという。
ファールンにたった一人しかいない王太子である彼のとった行動は、誰が見ても短絡的且つ愚行でしか無い。
「私は…!私は貴方にそんなことさせるために城を出たんじゃないっ!!」
「いてててててっ。だ・だってしょうがねぇじゃんッ!」
「しょうがなくないっ!もし何かあったら――……」
「自分でも馬鹿なことしたなってことはわかるよ!歴代の王族の中で一番の阿呆かもなっ」
「っ!」
王子の言葉に思わず揺さぶる腕が止まり、その両手をもう一つの手が握った。
蒼い瞳から強い視線が少女に注がれる。
「でも俺はこれっぽちの後悔もしてねぇ。もしこれが賭けだったとしても、俺は絶対に失敗しない。そう決まってんの」
「は…はぁ!?その出所不明の過剰な自信で動くのやめてくださいよ……!いい大人なんですから、少しは考えてものを――……っ」
「不明じゃねぇよ。一応道筋は通ってる」
「一体どこにですかっ」
「例えば指輪のせいで俺が死んだとする。でもお前、ついてくるんだろ?」
「!?」
「だから失敗のない賭けだったんだよ。俺には、な」
「あ……」
「あ?」
「アホオォォォォオオオオォォ!」
ゴンッ!両手を握られていたポルトは額を彼の頭に勢いよくぶつける。その衝撃と痛みに互いが「おぉぉお………」と背を丸めた。
「そ・そういうのをド阿呆っていうんです!!私が…そんなことして喜ぶと思ったんですか!?こっちの努力を全部ムダにするようなことして……!!馬鹿!!馬鹿王子!!!」
もしこの人が死んでしまったらやっぱり自分も生きていける気がしない。それでは彼の思うつぼではないか。この言葉は嬉しくて悲しくて、望んでいて望まないものだった。
普通の人間ならきっとこんなことはしない。
彼は身分が恵まれすぎて常識を逸脱し、度を過ぎた我儘息子に育ってしまったのだ。そうに違いない。
押さえきれない感情を表す語彙力はなく、ポカポカと胸板を叩いては滝のように涙が止まらない。涙腺が壊れてしまったんじゃないだろうか。
その状況を知ってか知らずか、王子は嬉しそうに表情を和らげる。
「はははっ。そーだな。俺、お前と一緒で阿呆で馬鹿だからさ、お前がいなくちゃなんか駄目っぽい」
「ち・違うでしょ!殿下はそうしようとしてないだけ!私がいなくても立派に……」
「もう、肉体関係が管理できない。城中こじれてマジでヤバい」
「こじれてるのはアンタの理性だっ!!!」
「わっはっはっはっ!」
久しぶりに聞いた高笑い。一方、その声に安心したのか再び語彙力の無くなった少女は「アホ」と「バカ」しか言わなくなった。
「つまりな?お前がいなくなったら、ド阿呆になってまた指輪使っちゃうかもしれないわけさ」
「は!?だ・駄目ですっ」
「じゃ、どうすればいいかわかるな?」
少女はその言葉にまたぐっと言葉を飲み込んでしまう。視線も沈み、苦しそうに唇を噛む。
「……でも…私が生きていて……しかも貴方の側にいるってことはまた……」
つまり全てが振り出しに戻るということ。終わったと思っていた悩みのタネが再び芽を出すということだ。
「俺だって適当に言っているわけじゃない。指輪にお前の居場所だけ聞いてきたと思ったら大間違いだぞ。お前の隠していた事、心配していること…全部見てきた」
「全部……?ど・どういうことですか?」
「全部教えろって指輪に聞いたからな。やましいことを中心にだいたいは見てきた」
「何を?」と言いかけて喉の奥にくっと飲み込んだ。
ポルトの脳裏を走るのは胸の奥に抱き続けてきた暗く重い記憶。偽りの父への慕情。兄妹達への贖罪。哀れで卑しい亡霊のような日々。
無知は罪なのだと誰かが言っていた。その理由は心にも身体にも刻まれている。
「い・言っておくがな!本当はお前が言い出すまで知るつもりはなかったんだぞっ。でもお前ってば俺に言う前にどっか行っちまうし。何の解決も出来ねーままだったからな。まあ、お前の居場所を聞くついでに…って所だ」
「あの廃教会…ウィンスターでのことも……?その後のことも……?」
その問いにフォルカーは頷いた。
指輪が見せた世界を瞼の裏に反芻すれば、彼女を守ってやれなかった悔しさ、歯がゆさが、より一層腕の力を強くさせる。
どれも変えることは出来ない『今更』の過去。今も尚、彼女を縛り続ける鎖でもある。
「ある程度は予想していた。それでも…まぁ……お前らしいもんばかりだったな。城を出た気持ちもわかる」
その言葉に少女は悲しい表情を浮かべ唇を噛んだ。
「俺も考えたさ。お前を側に置き続けた時のこと…そして起きるだろう問題も。考えて…考えて考えて、わかった」
「わかった……?」
大きく頷いたフォルカー。
生まれた瞬間から勢力闘争の中にいた。年長者達の謀略の網を今までかいくぐってきた彼はその瞳に自信をみなぎらせ、声を張る。
「細けぇことは良いんだよッッッッ!!!」
自身の悟りを説く王子に国民を代表して少女が心からの疑問符「は?」を行使する。しかし彼にはその重みがまるで伝わっていないようで、ややウザそうにため息を一つ落とした。
「あーもうさー。全部細けぇ!結局何をどうしたって何かしら起きるもんなの!要は対処出来ればいいの!そういうもんなの!」
「ちょ…それがこの国一番の教師を付けた王太子の言うことですか!?私のこと…全部見てきたんでしょう!?この世でできる悪いことは大体コンプしてきましたみたいな奴…一緒にいて良い訳ないでしょうがっっ!酒場の酔っぱらいみたいなことシラフで言うの止めて下さいよっ!貴方はこの国の王子なんです…!責任者なんですよ……!」
「うっせー!バーカ!王子だろうがなんだろうが、どうせ後悔するなら自分の選んだ道が良い!だから俺は俺を曲げない!」
「ただの我侭でしょ!」
「そーだよ!命がけの我侭だッ!!」
「ッ」
ウルリヒ王の言う通り、本来なら出会うはずもない二人だった。奇跡にも近い可能性を手繰り寄せて、今、共にいる。この出会いに意味が無いわけなんてない。
「違う声で起こされるのも、変に静かな部屋も、暖炉の火が入らねぇ隣の物置も、犬がしょぼくれててるのも…もう嫌なんだよ……!」
「でも……っ」
「俺はこれからもっと強くなる。だからお前も強くなれ。守りたいものを守れるように、もっと強く。お前なら出来る。俺はそう確信した……!だから迎えに来た!」
「っ!」
金色の瞳が大きく丸く見開く。
「一緒に帰るんだ……!」
語気は強いまま。彼の揺るぎない決意を表している。
何度も同じ問答を繰り返し、そして今も諦めの文字などまるで知らないかのように決断を迫ってくる。
ポルトはぎっと奥歯を噛んだ。
「で…も……っ」
王子の言葉に自分でもわかるほど引きずられている。
決死の思いで断ち切った縁が再び結ばれようとしている。
強引に引き寄せられて、ぶつけられている感情のまま繋がれてしまうのだろう。
抗わなければと思う自分と、このまま自由を奪われたいと願う自分が葛藤する。
「絶対に……絶対に後悔しますよ……っ。絶対に絶対に絶対に……!!」
これが今出来る最後の抵抗。
口から出た言葉とは裏腹に、もう一人の自分が「どうかこの選択に後悔をしないで」と胸の奥で泣いている。いつか未来で「お前がいなければ良かった、なんて思わないで」、と顔を覆い肩を震わせている。
涙で濡らしてしまった胸板を押し返す力はもう残っていない。
「後悔ならもうしてる」
そんな少女の思いを知ってか知らずか、小さな身体を強く抱きしめたフォルカーは、口元にふっと笑みを浮かべた。
「お前を手放した時に、死ぬほどな」
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