シングルマザー 子供と、異世界へ行く!【完結】

チャップスティック

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「ママ~!ダンス下手っぴだね~」

子供は素直だ。
お世辞なんてまだ知らない。

カイトが向こうから 
ライナー王子と駈け寄って来てそう言った 
 

その後を 
ゆっくり人をかき分けながら 
シヴァが歩いてくる。 

アダムも 
移動する度に引き留められつつココへ向かっている様子 
 



「はは…ダンスなんてやったことないし、私には無理だわ」


こんなに大勢居る前で、 
恥ずかしい思いは 
もうたくさんと散々な、 
ダンスデビューとなった。

 

「あぁ、そうなのか?次は俺と 
どうかと誘いに来たところだったが辞めておく」

と王になりたてのシヴァが言った。

グイッと 
後ろから私を抱き寄せてシヴァを 
睨み付けるのは先程のダンスで足を痛めたジャスティンだ。

「ダーメ!咲は俺以外と踊らねーの! 
クラウン国王の足なんか踏んだら国際問題になんだろ?」 
 


確かに! 
国王の足を踏みまくるなんて事したら 
お供の方が黙っていないだろう。 


この会場にも何人もクラウン王国からお偉いさんが来ているはずだ、 

 キョロキョロとその人達はどこにいるのが探している時




 こちらを見て、ヒソヒソと話す集団を見つけた。



目が合うと 
その中の一人がこちらに歩み寄ってくる

耳の尖っていて、 
鼻筋がすーっと通って高い、 
目の形もいわゆるアーモンドアイってやつだ。 
男の人なのに髪の毛は腰程まであり、 
サラサラと歩く度に揺れている 



「失礼致します。勇者様の母君  
咲殿でございますね?私エルフ族のリンと申します」

と膝をつけ挨拶される     

エルフなんてこの世界に、 
いたんだと不思議に思った 
 

「…ちなみにこの人、100歳過ぎてるって話だぜ」   
 


100歳すぎっ!?
おじいちゃんじゃん!
20歳そこらにしか見えないけど… 




どうやらエルフ族は 
長命なためある程度 
歳を行ったら成長がゆっくりになるらしい

その100歳とは思えない若々しさと、 
美しさのあるリンが 
向こうにエルフ族の長がいるので
話を聞いて欲しいと言うことで、話を聞く事になった。


あの集団な中で唯一、腰のまがったしわだらけのお年寄りが長だった。

「…あれ?初代勇者の従者だった方じゃ?」
 

気づいたのはアダムだった。


初代勇者?
もう何百年前の話じゃ… 

そのお年寄りはゆっくり震えながらも 
ちゃんとしっかり立っている。

「…そこの母君と騎士団長はどうやら恋仲の様にお見受けするがどうじゃ?」
 


しゃがれた声で言った


私とジャスティンは 
顔を見合わせて少し照れる仕草をする。 
 

それをみたお年寄りエルフが 
はぁ…とため息をつきながら 
長い長い思い出話をしてくれた
 







「…わしは当時魔王討伐の 
村人の一人じゃった。 
ある日、異世界から勇者が現れてな… 
なにかの手違いがあったのか 
その妹も一緒について来ていた。 
凄く綺麗な娘じゃった…



その娘は良く瘴気に当てられて、 
倒れてはわしが抜いてあげておったわい。


そりゃ、わしも若かったからの… 
二人はすぐ恋仲になった。


魔王討伐が終えてもずっとその娘と共に生きて行けると思っておった…… 

だが、その娘だけ帰っていったのじゃ。 

時の女神に無理矢理連れて行かれての…」


そう言う彼は 
その娘を懐かしむ様に
うっすら涙を浮かべながら話をしてくれていた。


勇者は異世界人という衝撃もあったが、 



その妹さんが
時の女神とやらに 
強制送還されたと言う 事実に驚きを隠せない


話を聞き終わる頃には
ジャスティンの顔に 
戸惑いの色が隠せなくなっていた
 


「…なぜ、その妹だけが帰されたのでしょう?」
と私も不安を露わにして聞いた 


「そうじゃの…時の女神にわしもその娘も泣きながら問うた… 


 
『その娘の存在をこの世界が認識していない。その内、存在を無いモノにしようとする…ならば新月で異世界へと繋がるのだから帰してあげよう』 

 
と言っておった…」 
  


この世界が
存在を認識していない!? 

確かに、この世界で生まれた訳ではない
私はこのまま居れば…この世界に存在を消されてしまうのか
   


カイトを独りにする訳にはいかない。


でも… 



ジャスティンと離れる事になるのは辛い。
それにこの世界と関わった人達共、離れたくない!!

 

「エルフ族の長よ…どうにか残れる方法はないのでしょうか?」 



ジャスティンは 
私の肩をぎゅーっと力強く 
抱き寄せて小刻みに震えながらも言った 


「方法は無い…あったらわしも…」

そこまで言って口を閉じた。
 
このエルフのおじいさんは 
今もまだその娘を思っているのだろう。
胸元には、明らかにこの世界の物ではない女性用のペンダントがぶら下がっている
 




「新月って…今夜だよな?」

近くに話を聞いていたロジャーが深刻そうな顔をして言った。

 


そうか…今夜か…。
いきなりだな… 
 


「ふざけるな。咲を帰す訳ねぇだろ!その時の女神っつー奴ぶっ飛ばしてやる!」

荒ぶるジャスティンを 
よそに私は覚悟を決めるしかないのだろう。

帰りたくない… 
でも存在を消されるのは嫌だ
カイトの成長を見届けたい 

私のスカートの裾を 
握る我が子の顔を見てそう思った。

「…なんかねぇのかよ」
 
そう呟くと
ジャスティンは足早に 
国王と大賢者スワロフの元へと 
行ってしまう 

きっと、知恵を貰いに言ったのだろうと察する 

「…騎士団全員でかかればどうにかならねぇか?」
とロジャーも味方をしてくれる 

「相手は神だぞ…そんな事したら何が起こるか分からない」


と話を聞いていたシヴァは冷静だった。
 

神様相手に 
戦うにしても 
魔力の持っているだけの人なんて 
赤子の手を捻る様なものだろう。

 




私はこの運命から逃げられないんだ。

「うぅ…っ」 

我慢をしていた涙が溢れて 
、泣き崩れてしまう。 
 


私、帰らなきゃ…
カイトを連れてまた二人で 
魔力の使う事無い元の世界へ…
 



最初は二人で居たんだ 
元どおりになるだけ。


たまたまこっちに来て
人の温かさを知っただけ。

 

たまたま恋に落ちただけ。  




 
ジャン…あなたを愛して私は幸せだった 
 



どうか、私を忘れて欲しい  



どうか、私じゃない誰かと恋をして 
可愛い子供をたくさん育てて欲しい 
 


どうか、一生を笑顔で過ごして欲しい
 

私はこの世界から居なくなるけど、 

 
私は   

私だけは


あなたの事は忘れない。ずっとずっと… 





覚悟は決まった。




 



ーーーーー 
ーーー 
ー… 


「……」

シーンとまるでお通夜の様な 
薔薇の香りに包まれる 
私達の借りていた部屋 
 
勇者従者二人もエマとライナー王子も 
シヴァ、ロジャーとアダムも来て、 
お別れ会と言う訳だ。
  



皆は別れの覚悟は決まっている様子だが、

ジャスティンだけは諦めていないのだろう、

団長権限で騎士団を 
ベランダから庭まで整列させて 
本人も外で時の女神を待っている 


「最後くらい一緒に居てくれてもいいのにね…」

と窓越しに見えるジャスティンに視線を向けながら言った 

あのエルフのおじいさんから 
話を聞いてからほとんど口を聞いていない。

ジャスティンは城中を駈けまわり、 
なにか方法はないかと 
重役に聞き回っていた。


空は珍しく星すらも出ていない程の 
暗さで、やっぱり 
今日が新月なのだと分からせる 


「…はぁ。やんなっちゃうわ~お別れ会は楽しくやりましょうよ!しんみりして涙でお別れなんて私はいやよ!」

マリアンヌらしい一言だった。

「そうだね!そうしてくれると嬉しいかも!」
 
空元気の私に合わせて 
皆いつも通り 
笑顔の耐えない笑い話をしてくれる。


ロジャーの故郷でのスワロフの話に、
城での私とジャスティンのケンカの話。


エマが捕らわれて居たときの明仁達の様子に、

魔王の森でのアダムのテイムした動物達の話  


新国王となったシヴァのこれからの国政の計画、

様々なこの世界での出来事に 
懐かしい気持ちと寂しい気持ちが、 
ごじゃまぜになってくる。


私は涙はみせないと必死に目頭に力を入れる
 

「皆、ありがとう、元気でね!楽しかったよ!普通のシングルマザーに戻りま~す」

右手をあげてワザとふざけてみる私。
 



…ピカァァァ!! 

すると真っ暗な暗闇の夜空から
眩い光がこの部屋に差してくる。


その先には 
時の女神だと思われる髪の長い人が 
数人を引き連れてゆっくりと降りてくるのが見える。


「…そろそろかな?」


やっぱり耐えられなかった目元はポツリポツリと涙が流れてしまう。


外ではジャスティンの指示で騎士団員が身構えていた。

「ジャン!!こっちに来てよ…」

私の泣き声を聞きつけたジャスティンは走ってこちらにやって来る。


彼の顔にも涙が流れている。
 

「咲っ!!…行くな!離れるな!お願いだ…」

ぎゅうと力強く抱き締めてられて、 
余計に涙が溢れ出てくる。
 

何度も何度も 
行くな、離れるなという彼の声を聞きながら
向こうからやって来る時の 
女神のシルエットを見ていた。

「…ジャン、大好きだよ…」
「あぁ…なら行くな」 
「無理だよ…好きよ?」
「…俺もだ。離れるな」 
「ワガママいわないで?」
「……生まれ変わったら必ず迎えに行く!待ってろ」
 



生まれ変わったら 
必ず迎えにきてね?
 


いつまでも 
いつまでも待ってるから… 


ありがとう 
ジャスティン・アルテミス 



本当に愛していました

 





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