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しおりを挟む「…はい。ありがとう…これお礼です」
アダムの腕に森で捕まえたフクロウが偵察を終えて戻ってきた。
今、私達は丘向こうに行けば魔王城がある距離までたどり着いた。
「ジャンさん、間違いないです。今のフクロウもさっきのトラもこの先に魔王城があるのを確認しています」
その言葉に皆、緊張が高まっていく。
やっとだ。
やっと、カイトに会える。
すぐに明仁をぶっ飛ばして、早くカイトに会いたい
ソレばかり思ってしまう。
ドクドクドク…
「…ァ…アア…」
またあの動悸がしてくる。
ぐるぐる目の前が回り始め、覚えのあるノイズが頭をかき乱す
「やっほ~!騎士団の皆さ~ん」
サキュバスはいきなり木の陰から上機嫌で出て来て、
苦しむ私をチラリと見て、楽しそうに笑う。
「やっぱりお出ましか!サキュバス」
キランと剣を抜き、戦闘態勢に入るジャスティンと他の皆。
スワロフだけ詠唱し、皆のサポートに回っている。
一斉に飛びかかるとカキンッ!と金属同士がぶつかる音が聞こえる。
「ひゃっほーい♪いいよいいよ!」
サキュバスの爪が長く伸びて、剣をとめていた。
その爪は四方八方から来る剣を素早く止める
「…アア…アツイ…ンア…」
と1人で悶える。
ジャスティンにされたばかりなのにまたその渦に飲まれてしまう。
「咲っ!アレを飲め!…効かなかったらこいつぶった切ってからまたしてやる!」
ジャスティンの声で気づいたアレをポケットから取り出す
クラウン王国でジャスティンが手に入れた
媚薬落としの薬
だ。
頭の中のノイズが動きを遅くさせるが、
ゆっくりと味わいながら飲み干していく
ゴクゴク…
「うっわ~!まっず~!!」
苦いような臭い様な
酸っぱい様な不思議なマズサだった。
喉の奥にはまだネバネバと残っている
「ええ!?まさか僕の術が解けたのっ!?」
剣を振り払いながらサキュバスは驚いていた。
「よそ見するなよ、くそガキっ」
動揺していたのだろう
一瞬の隙を突いて、ロジャーの一撃がサキュバスの右足に入る。
ブシャーと傷口からあふれ出る鮮血
「あーあ…一発食らっちゃった♪」
痛そうなのにサキュバスはその斬りつけられた傷から出る血をペロリと舐めて笑み浮かべる
「…ぶった切ったつもりなのに浅かったか」
と悔しそうなロジャーが言った。
ジャスティンが詠唱して、氷の岩を何個も投げつける。
アダムは毒グモと連携を取りながら進む。
それを目隠しにしてマリアンヌの強烈なパンチが炸裂する。
攻撃が終わると辺りには土埃と
まだ立っているサキュバスの、姿があった。
「もう、自分が痛いのは嫌だな~…変わりにこいつでお前ら殺っちゃうから~!!」
ジャスティンが先程放った氷の上に、召喚陣を出すと、中から大きな遠吠えと共にドラゴンが出て来た。
「なにっ!?氷竜(アイスドラゴン)だとっ?」
とジャスティンが言った。
皆、その強烈な姿に、たじろいでしまう。
吐く息は白く、ドラゴンからの冷気で
辺りは先程までと変わり、真冬の様な寒さになってしまう。
ガクガクと震えているのは恐怖からなのか寒さからなのか。
目線を合わす事すら出来ない大きさだ。
マリアンヌが全力を出しても割れない氷に覆われているドラゴンは
力を貯めて一気に吠える。
「ガァァァ!!」
口の中から出てくる冷気に、遠く向こう側にある火山が、凍ってしまった。
皆がドラゴンの冷気を躱しながら体を斬りつけるもびくともしない。
「キャハハー♪僕の作った氷竜つよ~い」
血だらけだった足はいつの間に完治しているサキュバス
平気でジャンプをしながら喜んでいる。
サポート担当のスワロフが見かねて、炎魔術を放るも、
ドラゴンに届かずに凍りつきながら失速してしまう。
「スワロフ!辞めろ!ただでさえ予定以上の援護魔術で魔力使ってんだ。これ以上使ったら倒れちまうぞ!」
スワロフを見ると肩で息をしている。
その様子に私は彼に駆け寄る。
近くで見ると、顔は青白くいつもの元気がない。
額には汗が噴き出している。
「氷竜はただの剣じゃ倒れせないよ…聖剣なら話は別だけどね」
サキュバスはジャスティンの腰にある、勇者の聖剣を見ながらいやらしくそう言った。
「はぁはぁ…無理だ…あれは、選ばれし勇者しか使えない…」
話を聞いていたスワロフが苦しそう呼吸をしながら言った。
「クソうぜーな、クソ魔族!煽ってんじゃねーよ」
ロジャーがぶち切れて1人で斬りかかって行く
氷竜がロジャーの足元目がけて冷気を口から放出する
バリバリ…
「なんだよ…これ…」
ロジャーの足から腰まで氷漬けにされてしまい、身動きが取れないで、上半身だけもがいている。
「……チッ、ふざけんじゃないわよ」
マリアンヌも左肩は外れ、右の拳は大きく腫れて血だらけだった
「…ハァ…ハァ…ハァ…っ」
体力自慢のアダムさえ、酸素が足らず横たわって過呼吸をしている。
もうダメだ…
おしまいだ…
皆、ココで……
と諦めかけた時だった
ジャスティンが長い長い詠唱を終えて、
勇者にしか使えないとされた聖剣を振りかざす。
「…人をなめるなよ…魔族が…」
その、聖剣は紅い光を帯びて炎に包まれていた
その炎はみるみる大きく、大きくなっていく
「は?聖剣は勇者しか使えないはずなのに!?なんでよ?」
とサキュバスの負けを確信した驚きと共に
ドラゴンよりおおきくなった炎がドラゴンに振り落とされた。
……ーーーーー
ーー…
「負けた…この僕が…ただの人に」
足から崩れ落ちて泣き始めるサキュバス。
氷竜の消滅と共にロジャーを覆っていた氷は解け、
辺りも元に戻った。
「信じられない…あのドラゴン倒したの?」
マリアンヌが負傷した所を押さえながら言った
自分でやってのけたのを信じられない様子にジャスティン。
聖剣を鞘に収めて、こちらに駈け寄ってくる
「俺が…聖剣を…」
と興奮が収まらない様で震えが止まらない
全力を出し切った面々は喜びを分かち合い、抱き締め合う。
先ほどまでスタミナが切れてきた人達とは思えるはしゃぎっぷりだ
その様子を見ていたサキュバスが悔しそうに涙を拭いながら
「やだ!もう1回!今度は本気出すから!ね?もう1回!」
と言っている
その姿は年相応に見えて、なんだか愛らしく思える。
すると、
急に視界に ドーンっと魔王城が現れた。
正面の大きな扉が開くと
コツンコツン
と言う足音と
ペタペタ
と聞き覚えのある歩幅の小さい足音が聞こえた。
「ママっ!!」
そこには魔王に手引かれたカイトの姿があった。
カイトが私を見つけ呼ぶのと同時に魔王は手を離す。
去り際のカイトを優しく見つめる視線は父親そのものだったように思える。
あの子がこちらに向かって走ってくる姿に目頭が熱くなる
「カイトっ…カイト!」
フワッとカイトの香りがすると、勢いよく胸に飛び込んで来る我が子。
久しぶりの温もりに更に涙が溢れる
「ママ~!お迎え遅かったね」
と変わらぬ笑顔を向けてくれるカイト
「ごめんね…カイトなんともない?大丈夫?嫌な事されてなかった?」
顔や体を確認するもどこも異常は無い。
本人も平気な顔をしている
むしろ、少しふっくらとしたかもしれない
「うん!パパ達がすんごく遊んでくれたよ、楽しかったよ~」
パパ達?
遊んでくれた?
魔王に視線をやると
いきなり辺りが明るくなった。
変な陽気な音楽を流れてきて
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は?
なにこれ?
さっきまでの邪悪な森感
どこ行った?
パンパーン…!!
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戦って負けていった
メデューサ
ヴァンパイア
シルバーウルフが
魔王の後ろで楽しそうに踊っていた。
「魔王城到着おめでとう!!咲ちゃーん!!いえーい!」
と口を揃えて言っている
「は?なにこれ…どういうこと?」
先程来まで悔しくて泣いていたはずのサキュバスがこちらにやって来て
「とりあえず、お城でお菓子でも食べよっか!あっ!そっちの団長達もね~♪どーぞー!」
と言った
人がかわった様に可愛げのある少年になっていた。
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