シングルマザー 子供と、異世界へ行く!【完結】

チャップスティック

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岩だらけのゴツゴツとした崖を踏み外さない様に、気をつけながら歩く

下を覗くとさっきまで私より何倍もおおきかった木がアリンコの様に見える高さだ。

ピューと風が吹けば踏み外してしまうかも知れないと思うと少し足が震える
 
「おーい!ここまで来れば広くなってるぜー!気をつけてなー!!」

先に行ったロジャーが向こう方で大きな声で教えてくれる


あと、数㍍だろう、言われていた所まであと少しもう少しと慎重に足を出していく。


「…いや、待て。何か聞こえる」

とジャスティンが言うので耳を澄ませて聞いてみる。

グルルルル…

犬のうなり声の様な声にかすかに聞こえてくる。
今から行こうとしている方からなのだ

「なに?犬の魔獣かなんか?」

岩肌に手頃な取っ手を見つけて、少しずつ進む。 
その、開けた所まで到着すると
大きな犬?…いや、狼だ。

銀色の二㍍位の狼が先程聞こえていたうなり声をあげながらロジャーと闘っていた。

「大丈夫か?ロジャー!」 

すかさずジャスティンも参戦する。  
後ろにいるアダムもひょいと私を抜けて参戦して行く

その銀狼は体の割に俊敏でスピードもある。体当たりをされれば、ひとたまりも無いだろう。

大きな爪を剥き出しにして飛びかかっている。

スワロフのシールドのおかげで、3人は体当たりを直接受けていないものの、 
余波は凄まじく、こちらまで爆風が吹いてくる。
落ちないようにマリアンヌが私を支えてくれている
きっと一人なら今頃真っ逆さま落ちていたに違いない

何度も体当たりと噛みつきをするもの皆には効かない


「…この姿ではダメだ…」

と銀狼が低く恐ろしい声で喋った。

「やっぱり魔獣じゃなかったんですね、何度もテイムをしようとしていたのに、出来なかった…君は…もしかして…」
  
アダムは表情から焦りが見える。

ジャスティンとロジャーも同様だ。

ぐあああ!!と醜い叫び声と共にその銀狼は人型へと姿を変える。

銀髪の体格の良い青年だ。

銀髪…の…体格のいい…
あの人…もしかして…

ジーっと私はその人に目を凝らすして見てみる

バチッ!

と目と目が合うと、すぐに焦った様に逸らされる 

「…やっぱり、ギンジ君?」

呼びかける様に、優しく言った。

「…」

反応は無いものの
その人の耳はぴくぴくと動く

「やっぱりその耳のクセ…ギンジ君じゃん!」


と再度強気に確かめていく。

ギンジとは明仁の、バンド仲間の仲で私とは 
1番仲が良かった 
先日の夢の中で見た目姿のままだったので気づく事が出来た。
 

ギンジははぁ…ため息をつくと申し訳無さそうに 

「咲ちゃん久しぶり…コレには訳があって…ごめん」

と言うと
筋肉がモリモリっと倍に浮き出て、拳を地面にぶち当てる
 

衝撃で地上が揺れて、マリアンヌの手が私から離れてしまった。 

殴られた地面からひび割れが四方に別れていく。

そのひび割れは私の足下にもやって来て、

バリンッ!…

私の所だけ綺麗に割れる

一瞬で浮遊する自分の体、 
皆がはっとした顔をしてこちらを見ている 

「咲っ!!!」
とジャスティンの叫び声が聞こえたと思うも
勢いよく落下していく。

あぁ…コレ死ぬ奴だ…

と思っていると
向こうから走ってくる人影が見えた。  


ーーーーー 
ーーー 
ー…… 


落ちていく体と言うのは 
内蔵がを全部浮いるからか、吐き気がする。 

その、気持ち悪い吐き気が目を覚ましてくれる

「…うぅ…きもぢわるい…うぇーっ…」

喉の奥に突っかかる吐瀉物
吐きたくても、ろくな物を食べていないからかと出て来てくれない 
 
「コレを飲むといいよ」
後方で聞き覚えのある声が聞こえた 
 
「…ギンジ君」

あの人影はギンジ君だった 

私を空中で上手に抱きかかえると、なんの躊躇いもなく数百㍍の高さを見事降りてきたのだ。 

そのままものすごいスピードでこの川辺に走り抜いて、 今となる。


ギンジがくれた森の果物の果汁を怪しむ事なく飲み干す。

元の世界にいた頃と変わらぬ姿に安心したからもあるが、
彼の性格も知っている。

私と同じ怖がりで、昔、明仁とホラー映画を見にいったとき他の観客の事を忘れて2人して叫びちらした仲だ。

それに、人一倍優しく、気遣いな男性なのだ


どうしてあんな事をしたのかが気になる。

周りを見渡してもジャスティンたちの姿は無い、声も聞こえない。

「咲ちゃん…オレと逃げよう。足には自信あるから逃げ切ってみせるから…ね?」

とまるで子犬の様な目をこちらに、向けて訴えてくる。  

その姿に感謝の気持ちが溢れてくる。

この世界に来て、私もだいぶ強くなった 前の私なら二つ返事だったかもしれない。

 
「ううん…私、逃げないよ…、カイトの事心配だし…」
 


頭の中に浮かぶのは 
かわいい我が子と 
彼の逞しく優しい背中   

今もきっと血眼になって私を探しているはず
 
「…そっか。咲ちゃん立ち直ったんだね。昔魔王様と見に行った時より強くなった…母親に強し!ってやつだね」

 
と優しいギンジらしい微笑みを向けて言った。

その言葉の中にザワザワとしたものを感じる  

「…今なんて言った?」

と聞き返す。

「え?母は強しだねって」

ときょとん顔で答えるギンジ。

だが、すぐ自分が言った言葉を思い出した様に、ハッとした表情は曇り


「…ごめん、これ以上は言えない」

と濁して言った。



「咲っ!!!ここにいた!無事か?」

ハゲワシ数羽の、足に掴まってジャスティン達がこちらに、空から向かってくる。
 
「…もう、オレ行くから…次はサキュバスだよ…次の魔王様になる人だ…気をつけて」

シュルシュルと人型から大きな銀狼に姿を変えて、ポーンと森の暗闇の中へ飛ぶと、姿は消えて行ってしまった
 


ハゲワシに無事に送り届けて貰ったジャスティン達が 
血相を変えてこちらに走ってくる

「大丈夫か?今あのデカい狼といなかったか!?」 
 
ジャスティンは私の事を抱き締めながらギンジの行った方向を見て悔しそうに行った。 


「大丈夫!傷ひとつないよ!」 

と元気に答える私にジャスティンはホッとした様にさらにきつく抱き締めてくる


「…俺からもう離れるな」

耳元で今にも泣きだしてしまいそうなか弱い声だった。

その声に胸の奥が締め付けられてしまう。

「…うん」

とだけ返事をして両腕の背中に回す。


「咲さん狼煙なんてよく知ってたね~感心!感心!」

とロジャーがそこにある火の消した後を見ながら言った

さっきギンジが魔術でポッと指先から付けていたのを思い出す。
 

何に使うのだろうと思っていたけど、こういう事だったのか
 

魔力が無い私のためにこうして騎士団が見つけてくれるのを見越して狼煙をあげていたんだ。
 
森の中に入っていく時に自分の足で消していた。
 
火事にならないように…って事なのかな?


どこまでも優しいギンジに胸が暖かくなっていくのが分かった。
 
産まれた場所が同じだったら
良い友達…いや、
恋人同士になれたかもしれない




 



 




 



 








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