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「えぇー!!魔王の森すぐそこじゃない~、クラウン王国寄ってから行くの?ハァ…きいてなーい」
ため息をつきながら
マリアンヌがそう言った。
まもなく魔王の森へ入るのでと
せっかく似合っていた女装を辞めて、
動きやすい格好をしてくれたのが
無駄になってしまった。
「ちぇ~、もうちょっと、スカート、穿いてられたじゃないのよ~。股がムレるんだけど?」
服装に合わせて派手なメイクを辞めて
髪も後ろで1つにまとめている。
その姿は男装の麗人の様に思える。
まあ元から男だけど…
いつも首元に巻いているスカーフは
喉仏を隠すものだと、気づいた。
話す度に立派なものが
上下で動くのを見て、
本当に男性だったんだと思わせる。
「クラウン王国かぁ…初めて行くんだけど、悪い噂多いよな?」
と暇なので寝そべっているロジャーと
「他国と交流を持たない国なのに入国出来るんですか?」
今日は好青年のアダム
皆の会話によると
クラウン王国は
このホワイトローズ国の隣に 位置する小国だ
屈強な男達による軍隊が存在していて、
国王自ら、指揮をとる軍事国家だ。
また、女性の扱いが雑だという。
王は妻を何人も持ち
子供も沢山居るが
愛があって作った訳でなく、
ただ、王の欲望のために…なのだという
その方針は国民にも伝わっていて
女性はまるで子を産むだけの奴隷。
「…うわぁ、それは同じ女として引く…」
顔を引きつらせながら言った
性欲のはけ口にされるだけの人生…
クラウン王国の女性に産まれたらと
考えるとゾッとしてしまう。
「……っ…だから……そう…」
「…俺…丈夫…心……」
荷馬車を降りた
ジャスティンとシヴァが珍しく二人で
歩きながら話している。
作戦会議なのだろうか
ガラガラというタイヤの音と
皆の話し声とで
聞こえない。
二人は深刻そうな顔をしているのが
気になる。
「と言うことは咲殿は入国拒否の可能性があるではないか…そもそも我々も国境で銃を向けられるかも知れぬ」
さすが大賢人スワロフだ
その予想は当たっていた。
国境には大きな関所を設けられていて
いかにも強いです!
っていう男達が何十人と
怖い顔をしてこちらに
銃や槍を向けている。
「入国は出来ない!!帰ってくれ!」
「よそ者は本国に足を踏み入れる事が許されていない」
と同じ事を繰り返す門番兵達
その雰囲気は今にもこちらを襲って来そうで
マリアンヌの後ろに隠れる
「魔王討伐のため立ち寄ると便りは出したはず、話のわかる者に変わってくれないか」
とジャスティンが言うも
「ダメだ」「そんなモノは来ていない」「帰れ」
の一点張り
丁寧に対応していた
ジャスティンもそろそろキレそうな雰囲気
「ハァ…埒があかねーよ。諦めて魔王の森行こうぜ」
ロジャーは早々に諦めて
その辺に座り込んでいる。
「いや、この国にしか…」
と言いかけた瞬間、
…びゅっ!!
と1つの矢がジャスティンの頰を掠めた。
「…なめられてるな。人と戦うつもりで城を出たつもりはねぇんだよ」
ユラリ…と腰の剣を抜く。
キレたジャスティンを
スワロフとアダムが押さえつけ、
なだめている。
「…すまないな、ジャン」
スクッと後ろから
今まで大人しかったシヴァが
ジャスティンに一言謝ると
皆の前に立つ。
「…貴様ら、俺の顔が分からないのか?」
いつもの声のトーンで
相手の兵達に言うと
ヤイヤイ言っていた兵達が大人しくなった。
しばらくして
キィ…と関所の門が開くと中から
男の人が1人やってきて
シヴァの前で跪く。
「お帰りなさいませ。ベルシヴァ王子。長旅お疲れ様でございます」
え?
ベルシヴァ王子?
騎士団の皆も知らなかったのかザワつく中
ジャスティンだけが冷静でいた。
どうやら
シヴァは
ベルシヴァ・クラウンというのが本名で
この冷酷な軍事国家で有名な
クラウン国の
次期国王ということが発覚した。
城へ向かう途中
「言って下さいよ~シヴァさん」
と仲の良いアダムが涙ぐみながらシヴァに言っていた。
ロジャーも
「めっちゃ悪口言っちゃったじゃんか!!」
と王子の目の前で反省している様子だ。
…ーーーー
ーーーー…
城に着くと
一応客人扱いしてくれるのだろう、
立派な応接室に通された。
そこには国王とその后、
側室の数名だという女性も居た。
側室の1人がこちらに駆け足でやってきて
シヴァに抱きつく。
顔の雰囲気は似ていないものの
ムラサキ色をした髪の毛は
シヴァに似ている。
「お帰り…ベルシヴァ。無事に帰って来てくれて母は嬉しいわ」
そう言ってる彼女は
見た目がかなり若く、
私とそんなに歳が変わらない様に見える。
童顔なのか?
「我が息子よ!帰ってきたと言うからには、分かっているな?」
母の様にシヴァに労う言葉はなく、
その男性は言った。
身長が高く恰幅のいい鬚の生えた
その人は
シヴァの父親だろう。
両脇にお気に入りの側室を抱えていた
シヴァは少し間を置いて
「…はい。その覚悟で戻りました」
すると父親はニタリと笑い
機嫌がよくなる。
酒を持ってくる様に使用人に指示すると、
いつものパターンなのか
すでに用意されてあったものが
すぐにこちらにも振る舞われた。
ゴクゴクと口から、
溢れてさせながら飲む姿は
本当に国王なのだろうかと疑う位下品で、
私は飲む気が失せるが
シヴァの顔を立てるため仕方が無く
一口だけ口にする。
その様子を見ていた
父親が
「ところでソレは、俺への土産ではないのか?」
ソレと言うのは私の事だろう。
女卑思想が強い国と言うのは
本当のようだった。
チラリと横目でシヴァは
私に申し訳なさそうな視線を送ると
「…この方は…俺の…恋人です、手は出さぬ様にお願い致します」
と言った。
隣に居るロジャーが含んでいた酒を噴き出すが、
ジャスティンは大人しく聞いている
「そうか。さすがの俺も跡取りのモノには手は出さぬ…クハハ」
表向きはそう言ってるが
目は私をなめ回す様に見てくる。
息子の帰りが嬉しかった様で、
酔いつぶれた
父親はお気に入りの側室を
連れて部屋を出て行った。
「…見せたいものあるんだ。」
シヴァにそう言われついて行った部屋は
沢山の子供達がスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。
全員シヴァの弟妹だという。
確かに弟や妹が多いと聞いていたけど、
こんなにいるとは思わなかった。
ヌク…と起きた
1人の男の子がシヴァに駆け寄る。
「兄さん帰ってきたんだね!」
赤い髪色をしてこの子はシヴァに
1つも似ていない。
半分しか血の繋がらない弟でも愛しそう
に頭も撫でるシヴァ。
その姿はまるでこの子達を守る父親の様。
強い意地が伝わってくる。
ふと気付くとジャスティンの姿がない。
ロジャーに聞くと
「なにか用事があるらしいぜ」
と言うので、1人でどこかに行ってしまったみたいだ。
ーーーーーー
ーーーー
ー…
今晩はここで…
と使用人に連れてこられた
広く豪華な部屋にシヴァと二人きり。
「…先ほどはすまない。ああ言っておけば、父は咲殿に興味が無くなると思ってだ。」
そう言うことか。
何も聞いていなかったから少し驚いたのもあるが
おかげで今の所、無事でいる。
そう言うとシヴァは
スルスル…と
上着を脱ぎ始めてた。
服を着ていても分かる
腹筋は見事に割れていて、
色の黒さもあって、やけに色っぽい。
肌着を脱ぐシヴァにドキッとするが
胸元にある刺青に目が行く。
なんの模様なのだろう?
見慣れないソレをジーと見てしまう。
「あ、すまない。自室なのもあって無意識に着がえてしまった…それにそんなに見られると俺も恥ずかしい」
寡黙なイメージのある
シヴァだがたまに天然な所もあって
ギャップがある男性だ。
「そ、そうだよね!ごめん!」
バッと自分の目を
両手で覆ってすぐに後ろを向いた。
バサッバサッと服が落ちていく音が後ろから聞こえてきて
「もういい。すまない、手間を取らせた」
と彼が言った。
さっきから二人して謝ってばかり
普段はこんな事ないのに
そうなってしまうのは
この部屋に、二人きりだからだろう。
シーンと静まり返える部屋の中。
なんて話かければいいのか分からない
気まずい雰囲気を、変えようと口を開く
「私、そこのソファーで寝るからシヴァはベッドで寝てね」
シヴァは横に首を振ると
「咲殿がこちらに…」
とベッドを指さす。
さすがにお邪魔している身だし、
持ち主の物を使うのは心苦しい
だからと言って
私がソファで寝ると言えば彼の事だ
ベッドで寝るよう言うだろう。
「…うーん。じゃあ一緒にねる?…なんちって」
場を和ませようと
ちょっとした冗談のつもりだった。
…ドンっ!
と軽くシヴァに押されると
私はコロンとベッドに
不格好に転がってしまった
ドサッとシヴァが私の上に覆い被さる。
「…一緒に横になると言う事はこういう事だろうか」
シヴァの短い前髪が
私の額にかすめる位の近距離
少し動けばキスも出来てしまうだろう。
彼は私に驚く隙を与えない。
ピチャ…
と湿っぽい唇を私の首筋にあてる。
両手は押さえつけられて
動けないため
払い退けられないでいる
「…シヴァ…やめっ…」
するとすぐに辞めてくれて、
彼はベッドの節に座り直した。
「冗談でもそう言う事言うものではない…それにこの間言った事覚えていないのか?」
この間?
カイトと三人で一緒に寝た時のやつかな?
「覚えてるけど、あれこそ冗談じゃないの?」
照れ笑いしながら言う私を見て
シヴァは真剣な眼差しを送ってくる
スゥ…と私の頰に手を添える
リーチの長い腕は、
ベッドの節に居る彼が
私に触れるには簡単なことだった。
添えられる手から
彼の温かさを感じてしまう
「違う。本気だ。…本当にカイト様の親になりたいと…そして咲殿に妻になって貰いたいと思っている。」
ドクドクっ…
心臓音が徐々に大きくなっていくのが分かる。
私の見開く目を見て
彼の表情は優しく微笑む。
「俺は咲殿に好意を寄せている…好きなんだ、あなたが」
なんてストレートな表現なのだろう
照れる素振りを、見せず
真っ直ぐ
私のココに彼が発した言葉が入ってきた。
やばい。
完全にときめいている
「…シヴァ…私っ…!」
言いかけようとすると
彼の大きく豆だらけの
手の平が私の口を覆う
チュ…
と彼は自分の手の甲にキスをする。
「…今は言うな。…ただ…つけいる隙があるのなら、俺の事も考えて欲しい」
シヴァの表情はいつもより柔らかく、
目には優しさで溢れている
こんなの聞いてない
シヴァがこんなにカッコいいなんて聞いてない
今、彼を一人の男して見てしまっている
胸の中の小さな箱は大きく揺れて
今にも弾とびそうだ。
何も言えない私に、シヴァは優しく髪を撫でて
「おやすみ、また明日」
そう言って、ソファに横になり背中を向けて寝始める。
そんな彼を見て
ポーしてしまうのだ。
シヴァから言われた
あの一言が忘れられない。
あの表現、
あの雰囲気、
あの匂い
全てが頭をぐるぐると駆け巡る。
明日どんな顔をしてシヴァを見ればいいのだろう
ため息をつきながら
マリアンヌがそう言った。
まもなく魔王の森へ入るのでと
せっかく似合っていた女装を辞めて、
動きやすい格好をしてくれたのが
無駄になってしまった。
「ちぇ~、もうちょっと、スカート、穿いてられたじゃないのよ~。股がムレるんだけど?」
服装に合わせて派手なメイクを辞めて
髪も後ろで1つにまとめている。
その姿は男装の麗人の様に思える。
まあ元から男だけど…
いつも首元に巻いているスカーフは
喉仏を隠すものだと、気づいた。
話す度に立派なものが
上下で動くのを見て、
本当に男性だったんだと思わせる。
「クラウン王国かぁ…初めて行くんだけど、悪い噂多いよな?」
と暇なので寝そべっているロジャーと
「他国と交流を持たない国なのに入国出来るんですか?」
今日は好青年のアダム
皆の会話によると
クラウン王国は
このホワイトローズ国の隣に 位置する小国だ
屈強な男達による軍隊が存在していて、
国王自ら、指揮をとる軍事国家だ。
また、女性の扱いが雑だという。
王は妻を何人も持ち
子供も沢山居るが
愛があって作った訳でなく、
ただ、王の欲望のために…なのだという
その方針は国民にも伝わっていて
女性はまるで子を産むだけの奴隷。
「…うわぁ、それは同じ女として引く…」
顔を引きつらせながら言った
性欲のはけ口にされるだけの人生…
クラウン王国の女性に産まれたらと
考えるとゾッとしてしまう。
「……っ…だから……そう…」
「…俺…丈夫…心……」
荷馬車を降りた
ジャスティンとシヴァが珍しく二人で
歩きながら話している。
作戦会議なのだろうか
ガラガラというタイヤの音と
皆の話し声とで
聞こえない。
二人は深刻そうな顔をしているのが
気になる。
「と言うことは咲殿は入国拒否の可能性があるではないか…そもそも我々も国境で銃を向けられるかも知れぬ」
さすが大賢人スワロフだ
その予想は当たっていた。
国境には大きな関所を設けられていて
いかにも強いです!
っていう男達が何十人と
怖い顔をしてこちらに
銃や槍を向けている。
「入国は出来ない!!帰ってくれ!」
「よそ者は本国に足を踏み入れる事が許されていない」
と同じ事を繰り返す門番兵達
その雰囲気は今にもこちらを襲って来そうで
マリアンヌの後ろに隠れる
「魔王討伐のため立ち寄ると便りは出したはず、話のわかる者に変わってくれないか」
とジャスティンが言うも
「ダメだ」「そんなモノは来ていない」「帰れ」
の一点張り
丁寧に対応していた
ジャスティンもそろそろキレそうな雰囲気
「ハァ…埒があかねーよ。諦めて魔王の森行こうぜ」
ロジャーは早々に諦めて
その辺に座り込んでいる。
「いや、この国にしか…」
と言いかけた瞬間、
…びゅっ!!
と1つの矢がジャスティンの頰を掠めた。
「…なめられてるな。人と戦うつもりで城を出たつもりはねぇんだよ」
ユラリ…と腰の剣を抜く。
キレたジャスティンを
スワロフとアダムが押さえつけ、
なだめている。
「…すまないな、ジャン」
スクッと後ろから
今まで大人しかったシヴァが
ジャスティンに一言謝ると
皆の前に立つ。
「…貴様ら、俺の顔が分からないのか?」
いつもの声のトーンで
相手の兵達に言うと
ヤイヤイ言っていた兵達が大人しくなった。
しばらくして
キィ…と関所の門が開くと中から
男の人が1人やってきて
シヴァの前で跪く。
「お帰りなさいませ。ベルシヴァ王子。長旅お疲れ様でございます」
え?
ベルシヴァ王子?
騎士団の皆も知らなかったのかザワつく中
ジャスティンだけが冷静でいた。
どうやら
シヴァは
ベルシヴァ・クラウンというのが本名で
この冷酷な軍事国家で有名な
クラウン国の
次期国王ということが発覚した。
城へ向かう途中
「言って下さいよ~シヴァさん」
と仲の良いアダムが涙ぐみながらシヴァに言っていた。
ロジャーも
「めっちゃ悪口言っちゃったじゃんか!!」
と王子の目の前で反省している様子だ。
…ーーーー
ーーーー…
城に着くと
一応客人扱いしてくれるのだろう、
立派な応接室に通された。
そこには国王とその后、
側室の数名だという女性も居た。
側室の1人がこちらに駆け足でやってきて
シヴァに抱きつく。
顔の雰囲気は似ていないものの
ムラサキ色をした髪の毛は
シヴァに似ている。
「お帰り…ベルシヴァ。無事に帰って来てくれて母は嬉しいわ」
そう言ってる彼女は
見た目がかなり若く、
私とそんなに歳が変わらない様に見える。
童顔なのか?
「我が息子よ!帰ってきたと言うからには、分かっているな?」
母の様にシヴァに労う言葉はなく、
その男性は言った。
身長が高く恰幅のいい鬚の生えた
その人は
シヴァの父親だろう。
両脇にお気に入りの側室を抱えていた
シヴァは少し間を置いて
「…はい。その覚悟で戻りました」
すると父親はニタリと笑い
機嫌がよくなる。
酒を持ってくる様に使用人に指示すると、
いつものパターンなのか
すでに用意されてあったものが
すぐにこちらにも振る舞われた。
ゴクゴクと口から、
溢れてさせながら飲む姿は
本当に国王なのだろうかと疑う位下品で、
私は飲む気が失せるが
シヴァの顔を立てるため仕方が無く
一口だけ口にする。
その様子を見ていた
父親が
「ところでソレは、俺への土産ではないのか?」
ソレと言うのは私の事だろう。
女卑思想が強い国と言うのは
本当のようだった。
チラリと横目でシヴァは
私に申し訳なさそうな視線を送ると
「…この方は…俺の…恋人です、手は出さぬ様にお願い致します」
と言った。
隣に居るロジャーが含んでいた酒を噴き出すが、
ジャスティンは大人しく聞いている
「そうか。さすがの俺も跡取りのモノには手は出さぬ…クハハ」
表向きはそう言ってるが
目は私をなめ回す様に見てくる。
息子の帰りが嬉しかった様で、
酔いつぶれた
父親はお気に入りの側室を
連れて部屋を出て行った。
「…見せたいものあるんだ。」
シヴァにそう言われついて行った部屋は
沢山の子供達がスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。
全員シヴァの弟妹だという。
確かに弟や妹が多いと聞いていたけど、
こんなにいるとは思わなかった。
ヌク…と起きた
1人の男の子がシヴァに駆け寄る。
「兄さん帰ってきたんだね!」
赤い髪色をしてこの子はシヴァに
1つも似ていない。
半分しか血の繋がらない弟でも愛しそう
に頭も撫でるシヴァ。
その姿はまるでこの子達を守る父親の様。
強い意地が伝わってくる。
ふと気付くとジャスティンの姿がない。
ロジャーに聞くと
「なにか用事があるらしいぜ」
と言うので、1人でどこかに行ってしまったみたいだ。
ーーーーーー
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ー…
今晩はここで…
と使用人に連れてこられた
広く豪華な部屋にシヴァと二人きり。
「…先ほどはすまない。ああ言っておけば、父は咲殿に興味が無くなると思ってだ。」
そう言うことか。
何も聞いていなかったから少し驚いたのもあるが
おかげで今の所、無事でいる。
そう言うとシヴァは
スルスル…と
上着を脱ぎ始めてた。
服を着ていても分かる
腹筋は見事に割れていて、
色の黒さもあって、やけに色っぽい。
肌着を脱ぐシヴァにドキッとするが
胸元にある刺青に目が行く。
なんの模様なのだろう?
見慣れないソレをジーと見てしまう。
「あ、すまない。自室なのもあって無意識に着がえてしまった…それにそんなに見られると俺も恥ずかしい」
寡黙なイメージのある
シヴァだがたまに天然な所もあって
ギャップがある男性だ。
「そ、そうだよね!ごめん!」
バッと自分の目を
両手で覆ってすぐに後ろを向いた。
バサッバサッと服が落ちていく音が後ろから聞こえてきて
「もういい。すまない、手間を取らせた」
と彼が言った。
さっきから二人して謝ってばかり
普段はこんな事ないのに
そうなってしまうのは
この部屋に、二人きりだからだろう。
シーンと静まり返える部屋の中。
なんて話かければいいのか分からない
気まずい雰囲気を、変えようと口を開く
「私、そこのソファーで寝るからシヴァはベッドで寝てね」
シヴァは横に首を振ると
「咲殿がこちらに…」
とベッドを指さす。
さすがにお邪魔している身だし、
持ち主の物を使うのは心苦しい
だからと言って
私がソファで寝ると言えば彼の事だ
ベッドで寝るよう言うだろう。
「…うーん。じゃあ一緒にねる?…なんちって」
場を和ませようと
ちょっとした冗談のつもりだった。
…ドンっ!
と軽くシヴァに押されると
私はコロンとベッドに
不格好に転がってしまった
ドサッとシヴァが私の上に覆い被さる。
「…一緒に横になると言う事はこういう事だろうか」
シヴァの短い前髪が
私の額にかすめる位の近距離
少し動けばキスも出来てしまうだろう。
彼は私に驚く隙を与えない。
ピチャ…
と湿っぽい唇を私の首筋にあてる。
両手は押さえつけられて
動けないため
払い退けられないでいる
「…シヴァ…やめっ…」
するとすぐに辞めてくれて、
彼はベッドの節に座り直した。
「冗談でもそう言う事言うものではない…それにこの間言った事覚えていないのか?」
この間?
カイトと三人で一緒に寝た時のやつかな?
「覚えてるけど、あれこそ冗談じゃないの?」
照れ笑いしながら言う私を見て
シヴァは真剣な眼差しを送ってくる
スゥ…と私の頰に手を添える
リーチの長い腕は、
ベッドの節に居る彼が
私に触れるには簡単なことだった。
添えられる手から
彼の温かさを感じてしまう
「違う。本気だ。…本当にカイト様の親になりたいと…そして咲殿に妻になって貰いたいと思っている。」
ドクドクっ…
心臓音が徐々に大きくなっていくのが分かる。
私の見開く目を見て
彼の表情は優しく微笑む。
「俺は咲殿に好意を寄せている…好きなんだ、あなたが」
なんてストレートな表現なのだろう
照れる素振りを、見せず
真っ直ぐ
私のココに彼が発した言葉が入ってきた。
やばい。
完全にときめいている
「…シヴァ…私っ…!」
言いかけようとすると
彼の大きく豆だらけの
手の平が私の口を覆う
チュ…
と彼は自分の手の甲にキスをする。
「…今は言うな。…ただ…つけいる隙があるのなら、俺の事も考えて欲しい」
シヴァの表情はいつもより柔らかく、
目には優しさで溢れている
こんなの聞いてない
シヴァがこんなにカッコいいなんて聞いてない
今、彼を一人の男して見てしまっている
胸の中の小さな箱は大きく揺れて
今にも弾とびそうだ。
何も言えない私に、シヴァは優しく髪を撫でて
「おやすみ、また明日」
そう言って、ソファに横になり背中を向けて寝始める。
そんな彼を見て
ポーしてしまうのだ。
シヴァから言われた
あの一言が忘れられない。
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全てが頭をぐるぐると駆け巡る。
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「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
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