シングルマザー 子供と、異世界へ行く!【完結】

チャップスティック

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 ガタンガタン…… 

 電車の音がよく響く高架下。 
 ハァーと吹く息は白く、季節は真冬なんだなと思わせる。

 「今日はねー、サンタさんがくるんだよぉ」 

 と息子のカイトが嬉しそうに私を見上げた 

 トコトコと私も子供の、ペースに合わせながら歩く。 

保育園帰りはいつも買い物袋と 
この子で両手はいっぱいだが、 
今日は特別にケーキの箱も持って 
半額のチキンもあるので倍以上に、重い

 そう。今日はクリスマスイブ

 町はキラキラとしたイルミネーションが綺麗で時々すれ違う人達も明るい表情なのだ。

 なんとなく、気分が上がるのは
 皆、子供の頃にサンタさんからプレゼントを貰った経験からか、ご馳走を食べれるからか

 世の中は皆お祭りモードなのだ。


 このクリスマスを親子二人で過ごすのは5回目になる。

 未婚シングルマザーとしても
 5年目を迎え、子育てにも少し余裕が出てきた

 この子の父親は売れないバンドマンで、 
妊娠を告げると産まれる前に行方をくらました。

 産んでからはもう必死に、育てた。
 訳も分からず泣く赤ちゃんに、てんてこ舞いになりながら、やっと1歳、

 チョロチョロ周りを見ずに勝手に歩くカイトをいろんな事から守りながらの2歳…

 そして、3歳4歳5歳
 と大きくなるにつれて少しずつ手を抜くことを覚えた。

 最愛の、我が子。
 本当に、目に入れても痛くないのだろうと思う位に、溺愛しているし、両親の居ない私にとって唯一の肉親でもある。




 ガチャリ… 

 部屋に入ると外の温度と変わらないこのボロアパート
 すぐにピッとエアコンの、スイッチを入れる。

 ふぅー…と一息つきたい所だが、やることはたくさんあるのだ。

 お風呂洗って、お湯を張って、その間に洗濯をたたみ、棚に入れたり、あとは…あとは…


 「ママ~お腹すいたぁ…」

 ぐーっとカイトの腹の音がなった。
 時計を見れば間もなく20時。
 仕事をしながら保育園に預けているためいつもこの位の時間になってしまう。

 「まずはご飯にしよっか!ケーキもあるし食べよっか!」 

 袋から取り出される
 お惣菜達とチキンとケーキ

 カイトは大喜びで食べ始める。 
二人のささやかな、クリスマスパーティーの始まりだ。

 相当お腹が、減っていたのだろう。
 すぐにペロリ平らげてしまい、あっという間に満腹

 そうなるともうウトウトタイムになってしまうのが、5歳児


 お風呂を急いで入って、歯磨きを済ませ、超特急で布団に入る。

 横になると数分で寝息が聞こえはじめた。


 カイトの寝顔を見つめながら 

 本当に愛しいと感じる

 絶対に不幸にさせない、
 片親だからと寂しい思いはさせないと決めて育てている


 多少、不便な所もあるのは確かなのだが、
 この上無い幸福感で満たされる毎日なのだ。

 寒いが親子二人でくっついて寝れば寒くないものだ。

 今日もまた一日が終わった、
 また明日も変わらぬ毎日なのだろう

 そう思って目を閉じた。 

 ………よ…ざめ……よ… 

『…目覚めよ、勇者よ!』

 初老の男性の大きな声で目を覚ます

 ーーーパチッ…

目を開ければ見た事のない綺麗で優雅な天井 

花?鳥?よく分からない彫刻が彫られていて、
少し離れた所には大きな窓が数カ所

 そして、シャンデリア…

 「え?…なにこれ」 

 夢なのだろう、こんなにも綺麗な場所は見た事がない 

 夢は今までの記憶の中から出てくると聞いた事があるのだが、一切身に覚えがない


 そして、かすかに香る花のようないい匂い

 最近の夢って匂いも分かるのか~。

 と感心していると

 「目を覚まされたぞ!!」

 と先程とは違う男性の声、 

 その一声を皮切りにドドドっと津波が来たのかと思うほどの大歓声。

 左右を、見渡せば沢山の人、人、人 

泣いて居る人もいれば
はち切れんばかりの笑顔の女性や 
飛び跳ねて抱き合う男性 

小さな子供も居れば
腰の曲がっている高齢者もいる

そして、不思議なことに皆、物語にでてくる洋装
まるでシンデレラの世界の人達の様。

 「皆、静まれ、勇者が困惑しておる」

 一番最初に聞いた初老の男性の声が頭の方から聞こえた。

 ガバッと布団と共に飛び起きて、声がした方に振り向く。

 目の前には
 これぞ王様だわーって冠とマントを、着た小太りの金髪の男性がいた。

 「貴殿が勇者であるか?」

 は?
 何言ってるのこの人


 ポカーンとして、何も言葉を発しないでいると


 「勇者は貴殿か?それとも隣で寝ている者か?」

 隣?
 カイト?

 まだ布団に入って寝ているはずのカイトを確認する。
 スースー…と寝息を立て、穏やかな顔つき。

 こんなにも騒がしいのに、起きないなんて大したもんだ!と感心する。

 「カイト、カイト…ちょっと起きて」

 揺さぶるとムニャムニャ…言いながら目をこすりつつムクッと起き上がる。

 「ママぁ…なにーぃ…ぐぅ…」

 やはり眠いのだろう、
 抱きついてまた寝始めた。

 その姿を見てザワつきが増した。

 ザワつきと共に
 王様であろう
 あの男性が、ニコリとする。
 そして、また大きな声で


 「今ここに勇者降臨されたし!!」

 と叫び、持っていた杖を掲げた。
 それと同時に皆一同、こちらを観ながら片膝を付け、礼をとる。

 異様な光景に汗が止まらない。

 「…い、い、いえ、違います!勇者ってなんですか?ここはどこですか?あなた達なんですか?」

 シーンとしているこの広い部屋に、私の声だけが響いていた。

ーーー
ーーーーー
ーーーーーーーー……



「ママ~!これすんごい美味しいね!あーー!これも何だろう??このキラキラしたものなにぃ?」

子供は無邪気だ。
目の前には10メートルもあるだろう、 
ながーーーいテーブルの上に埋め尽くされたこのご馳走

それをパクパク怪しいがることもなく食べるカイト。

その変わらぬ姿に少し安心しつつ
ハァ…とため息をもらした。

夢だと思っていた。
いや、夢だと思いたい!!

いや、しかしこれは現実なのだ。
試しにおなじみの頰をつねってみるが痛くはない。

先程の部屋からこちらの食堂に移動し、 
話を詳しく聞く、
国王だろうと思っていた人は
ホワイトローズ国第16代目国王
なんだという

ホワイトローズ国とは?どこ?って感じなのだが。
 
孫を見ているつもりなのだろうか、 
カイトを見つめる目は優しく、顔付きもどこかしらほんわかしている様に感じる。

沢山お食べといって、アレが美味しいコレが美味しいと教えてくれている。

「…でもまさか此度の勇者様は…5歳だとは」

国王の右後ろに立っているヒョロヒョロのこれまた初老の男性が言った。

「だーかーらーその勇者ってやつじゃないっですって!」

さすがの私も声が大きくなる。


そりゃそうだ
いきなり意味の分からない事ばかり、オマケに最愛の息子が 

勇者~? 
はぁ??

息子はまだ5歳ですけど?? 

なに、そのファンタジーチックな役職は!


「我々も信じられんのだよ。だが、カイトには勇者の、証である黒髪黒眼…そしてなによりそのバラ模様のアザがあるからのぅ」 

カイトには
顔の右側こめかみ部分に生まれつきアザがある。
赤ちゃんの頃から比べれば大分薄くはなってきているのだが、少し目立つ模様と大きさなのだ。 


「いやいや、黒髪黒眼なんて日本人の特徴だし!アザはたまたまで…そのうち消えるって病院で言われてますし…」

と、何度目のやり取りになるのだろう。

あからさまに、困ってますアピールをしているのだが
相変わらず王様はほんわか笑顔のまま、
テーブル上にあるワインを一口飲むと

「魔力はどの位のものになるのだろうかの?」 

と言ってきた。

は?魔力??
何言ってんの?このじじぃ、

「魔力なんてありません!ただの人間です!ただの普通の私の子供です!!!早く家に帰してください!!!」

これまでに無い大声で叫んだ。

「…魔力が無い?」

と国王の後に立っている男性が驚いた様に言った。

「そちらの世界では魔術は使わないのか?」

と表情を崩さず穏やかに言う王様。

「当たり前です。そんな夢みたいな事を……なんの話をさっきからしてるんですか?…早く帰して…」 

とうとう涙が出てきてしまった。
もう私の中のキャパシティがかなりオーバー状態

涙で歪む視界に膝の上に座るカイトの後頭部だけがぼんやり見えていた

そして、聞こえるカイトの声 

「…ママ?泣いちゃった…おじさん達意地悪しないでぇ!!!」
 


その瞬間ピカリと視界が光る、

パリンッ…バラバラ…

カイトから強い光が出たかと思えば

天井にあった値段の高そうなシャンデリアが割れ、壁についていた電球も数カ所か割れた。

突然のことに静まり返る一室。

え?コレカイトがやったの?
なにこれ? どういうこと?


「…初めて使ってこれ程とは」 

「…ええ。勇者様のオーラで震えが止まりません…」


じわりと流れる汗と 
先程までほんわか笑顔が崩れる目の前の国王達。
 


そこに今まで部屋の端にいた、若い男性が声をかけた。

「失礼申し上げます。鍛えれば歴代最強の勇者になるかと……よろしければ私に預けて頂いても?」


国王の隣に来て膝を着けそう言った男は
サラリとしたストレートの黒髪が動くたびに揺れ、どこか品を感じられた

「元よりそのつもりじゃ」

思っていた返事だったのだろう。 
ハッと返事をして起ち上がる。スラっとしていて手足が長い。
 
そして、こちらも見る。

…バチ

と目が合った。



うわ…めっちゃ美形
芸能人かと思うほどの美形

大きくも凜々しい目元にスーっと通った鼻筋。 

誰しもがイケメンと言うと思う。 

そしてなにより惹きつけられるのはあのあかい眼だ。
夕焼けのような、炎の様な紅い眼。


自分の体温が変に上がる。

「勇者様そして、母君…どうか我らに力を、貸してくれないだろうか。出来る事ならなんでも致します。」

大きい声ではないがハッキリと彼は私達親子にそう言った。











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