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3巻

3-2

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「では、僕はこれで」

 名残惜なごりおしさは感じながらも、僕はライムを抱えて一歩を踏み出す。
 外でクロリアも待っているんだし、もう少しお話をしていたいなんて甘えたことを言ってはいけない。
 何より、長居したらペルシャさんの商売の邪魔じゃまになる。
 僕は寂しさを紛らわすように、相棒を強く自分の身に引き寄せた。
 そこに――

「ちょっと待って! あっ、えっとぉ……」

 不意に後ろから呼びかけられた。
 振り向くと、魔石鑑定士のお姉さんは、何か言いたげな様子で中途半端にこちらに手を伸ばしていた。
 気まずいというか恥ずかしそうに目を逸らし、それでも僕たちを引き止めるように白くて細長い腕を伸ばしている。
 若干頬が赤らんでいて、反対の腕では僕と同様に自分の従魔をぎゅっと抱き寄せているのも可愛かわいらしい。
 無性にからかってみたい衝動に駆られたものの、僕はなんとかその気持ちを押しとどめた。そして、彼女の羞恥しゅうち心に触れないように、至って事務的な発言をする。

「あの、追加で魔石鑑定の依頼をしてもいいですか? お代は後払いで」

 そう言って、僕は手持ちの魔石をいくつか彼女に手渡す。

「えっ……?」

 ペルシャさんはきょとんと目を丸くしていたが、少しの間を置いて、はっとなった。どうやら、僕の意図を理解したらしい。
 つまりこれは再会の約束。
 いずれ鑑定結果を聞きにこの街に戻ってきて、ペルシャさんに会いに来るという約束だ。
 彼女は猫耳のおもちゃをピコピコ揺らし、頬が緩まないように口元をもにょもにょさせている。
 彼女の意外な一面を見て、僕は思わずくすっと小さな笑い声を漏らしてしまう。

「むむっ……なるほど、そうやっておさげちゃんも落としたわけか?」

 魔石鑑定士のお姉さんは、少し頬を膨らませながらぼそっと呟いた。

「はいっ?」
「うんにゃ、なんでもない。魔石鑑定の依頼ね。りょーかいしました」

 心なしかない感じでそう言うと、ペルシャさんはつくえの引き出しをあさりはじめた。
 たぶん依頼内容をまとめる紙を取り出そうとしているのだろう。
 そんな彼女の後ろ姿を見ながら、僕は考える。
 おそらくここを訪ねるお客さんは、ベテランの冒険者か生産系の職業についている人たちばかりなんだと思う。そんな中、僕とクロリアは久しぶりに来た年下のお客さんで、たぶん弟や妹のような存在に見えたんじゃないだろうか。
 いずれにしても、久しぶりに来たからみやすいお客さんだったことは間違いない。
 だからこそ、こうしてお茶に誘ってくれたり、時々からかったりしてくれるんだ。
 きっとペルシャさんも、僕と同じような気持ちになったんじゃないかな。
 そうだったらいいなぁ……
 なんて思っていると、振り向いたペルシャさんと目が合う。
 書類を差し出す彼女はどこかくやしそうにむっとしていて、それでいて頬っぺたが赤くなっているような気がした。



 2


「二人とも、ご苦労だったな」
「「い、いえ」」

 クールな赤髪の女性ギルド職員――シャルム・グリューエンさんの労いの言葉に、僕とクロリアは少しばかり緊張をにじませて応える。
 久しぶりに戻ってきたグロッソの街は、テイマーズストリートには及ばないながらも相変わらずにぎわいを見せていた。
 テイマーズストリートを旅立ってから三日。
 僕たちは無事にグロッソの街まで帰ってきて、ようやく魔石運びの依頼を完了させることができた。
 日数にしてみれば二週間も経っていないのに、一ヵ月は働いたような感覚がある。
 ともあれ、これで依頼達成。僕とクロリアは報酬ほうしゅうの五万ゴルドを受け取った。
 なんだか割に合わない気もするけど、仕事量が増えたのは全部自分のせいなので、何も言うまい。
 心中で不平を漏らしていると、シャルムさんが従魔たちにも労いの言葉を掛けてくれた。

「お前たちも、ご苦労だったな」
「キュルキュル」
「ミュウミュウ」

 頭上で嬉しそうに揺れるライムをちらりと見ながら、僕は疲れから可愛げのない一言を口にする。

「まあ、ただ魔石を運んだだけですけどね……」

 するとシャルムさんは肩をすくめて、あきれ笑いを浮かべる。

「私が言ったのは、そちらのことではない」
「……?」
「もちろん、依頼の方もだが、私が言いたかったのは〝組織〟のことだよ」
「あ、あぁ……そういうことですか」

 ギルドの情報網のおかげだろうか、シャルムさんはすでに向こうで起きたモンスタークライムとの事件について把握はあくしているらしい。
 まあそれこそ自業自得じごうじとくなので、労ってもらえる立場にないのは自覚している。
 ……なんて思っていたら、目の前のシャルムさんは頭を下げた。

「大変なことに巻き込んでしまい、申し訳なかった」
「な、なんでシャルムさんが謝るんですか!? 勝手に首を突っ込んだのは僕の方なのに」
「いや、それでも謝らせてくれ。君の性格なら、事件の詳細を知れば当然止めに入ることは予想できた」
「……?」
「とにかく、本当に申し訳なかった。ギルドの職員としても、一人の人間としても責任を取るつもりだ。私にできることがあるならなんでも言ってくれ」
「「えぇ!?」」

 なぜかクロリアは僕以上に大きな驚きの声を上げた。
 まあこの場合だと、クロリアもシャルムさんの謝罪とつぐないの対象になるわけだから、びっくりするのも頷ける。
 けど、大人の女性に〝なんでも言ってくれ〟と言われてドキッとするのは、男の子の特権のはず。
 言葉のインパクトのせいか、ついつい僕は〝じゃあ、一回デートしてください!〟なんて返事をしたらどうなるか……と想像してしまう。
 しかしその瞬間――

「……っ!」

 背中に突き刺さるような視線を感じた。
 それだけは口にしてはいけないような気がする。
 冷や汗を流し、僕はやむなく至って紳士しんし的なお願いでこの場を切り抜けることにした。

「じゃ、じゃあその、依頼を紹介してもらえませんか?」
「……依頼?」
「は、はい。銅級ブロンズでも受けられて、なるべくかせぎのいい依頼を」

 シャルムさんはギルドの職員として責任を取ると言ったんだから、そちらのお願いをするのがこの場に相応ふさわしい。
 しかし彼女は、僕がなぜそんなことを言い出したのかと不思議に思っているらしく、しばし首をかしげてこちらを見据えていた。
 髪色と同様、クールな赤眼に見つめられた僕は、思わず目を逸らしてしまう。
 そして気恥きはずかしさを誤魔化ごまかすように、お願いの意図を話した。

「僕たち、いずれテイマーズストリートに拠点を移そうと考えているんです。そのための資金集めと言いますか、貯金くらいはしておこうかなぁ、と」

 ちらりと振り返ると、クロリアは無言で頷いて僕の言葉に同意してくれた。
 拠点を移す話は、グロッソの街に帰って来る間に彼女と相談したことだ。
 理由は色々ある。
 まずテイマー関連の施設しせつの規模が他の街とは違う。便利だし、テイマーとして成長するならあそこが一番と決まっている。活気ある街の雰囲気ふんいきも僕好みだ。
 それに、ペルシャさんとの約束もあるから。
 とは言うものの、拠点移動は良いことばかりではない。
 あそこにある冒険者ギルドは本部。依頼のほとんどが難易度の高い銀級シルバー以上のものになっている。もちろん、銅級ブロンズの依頼が一つもないわけではないけど、なんの備えもなしに行けば、受けられる依頼がなくて生活に困るのは目に見えている。
 だからこその貯金だ。
 シャルムさんは、そんな僕の考えを分かってくれたのか、やわらかい笑みを浮かべていた。
 しかしそれは、すぐに呆れ笑いに変わってしまう。

「……無欲だな」
「えっ?」
「いや、なんでもない」

 むしろ今のお願いは、金銭欲にまみれた超絶欲深いものだった気がするけど。
 今度は反対に僕が首を傾げていると、シャルムさんは受付の引き出しを漁って数枚の紙を取り出した。
 どうやら依頼内容が書かれた用紙のようだ。
 彼女はカウンターの上にそれらを広げて一枚一枚吟味ぎんみした後、小さくため息をいて肩を落とす。
 紹介できそうなものが見つからなかったのかもしれない。
 次いで彼女は、なんとなくといった感じで壁に備え付けられた掲示板に目をやった。
 話題の情報や急募の依頼などが貼りだされている、誰でも閲覧えつらん可能な掲示板で、主に冒険者からは『クエストボード』と呼ばれている。

銅級ブロンズでも受けられて、なるべく稼ぎのいい依頼だったな」
「……はい」

 シャルムさんはしばらく掲示板とにらめっこしてから、小さく頷いて僕たちに視線を戻した。
 シャルムさんのつややかな唇が魅惑みわく的に緩んでいるのを見て、僕は自然と身構えてしまった。
 期待する反面、ちょっと怖い気持ちも湧いてくる。
 そして彼女は、男心をくすぐる色っぽい笑みを浮かべて、その依頼内容を僕たちに教えてくれた。

「〝エリア探索〟なんてのはどうだ?」

 野生モンスターが出現する地域を、モンスターの強さや特性に応じて区分したもの――それがエリアだ。
 草原、森、砂漠、火山、遺跡など、様々なエリアがある。
 乱暴に言えば、野生モンスターが出現する地域はなんらかのエリアに組み込まれていると考えていい。
 エリアごとに出現するモンスターは異なり、そのエリアの特色が顕著けんちょに表れるとされている。もちろん、モンスターの強さ――ランクにも、エリアごとに大きな差がある。
 EやFといった低ランクモンスターのみのエリアや、CやBといった高ランクモンスターが大量に出没しゅつぼつするエリアまで。
 その危険性に応じて、エリアにもランクが定められている。
 未知の領域に入るときはこのランクを目安にするのが、テイマーとしての常識だ。

「エリア探索……ですか?」
「あぁ」

 どんな依頼内容だか想像がつかないな。それに、なぜそれがもうかるのかも。
 けれど、正確無比な仕事っぷりのシャルムさんが言うのだから、間違いはないのだろう。
 とりあえず、僕たちは黙って説明を聞くことにした。

「普段、君たち冒険者は、討伐とうばつをはじめとした依頼をこなしながらモンスターの魔石やそこらに落ちているアイテムなどを集めて換金するだろう? エリア探索というのは、言ってしまえば魔石やアイテム採取をメインにするということだ」
「は、はぁ……」

 にぶい返事をしながらも、僕は心の中で密かに納得する。
 確かにそれなら、銅級ブロンズの僕たちでも問題なく参加することが可能だ。
 エリアに入るのは自己責任であり、その成果もまたすべて自分のものにできる。
 でも……

「それが今、僕たちが一番稼げる依頼なんですか?」

 その疑問だけはどうしても払拭ふっしょくできないので、生意気にもそう聞いてみた。
 僕はまだ村を飛び出したばかりの新人冒険者だ。『虫群の翅音インセクターズ』のアジトがあった『クリケットケージ』という昆虫エリアを除けば、E、Fランクのエリアにしか入ったことがない。
 そんな低ランクエリアで手に入る魔石やアイテムを換金しても、その日の食費になるかならないかの金額だ。常時金欠の僕たちは、いつもそのことで頭を抱えている。

「まあ、ピンと来ないのは当然だと思う。エリア探索はいわばサブの依頼――ついでのようなものだからな。報酬の低さが何よりそれを物語っている」

 しかし彼女は前屈まえかがみになり、受付カウンター越しに顔を近づけて、声を落として続けた。

「……だが、それが今一番稼げる」
「えっ……?」
「最近の野生モンスターのレベル変動が原因で、魔石の換金レートにも混乱が生じているのは知ってのとおりだ」
「は、はい」
「今回ペルシャから受け取って来てもらったこの鑑定結果をもとに、モンスターの強さと魔石の換金レート、それからエリアのランクを再設定する予定でいる。……で、ここからが本題だ」

 僕たちが持ち帰った鑑定結果の用紙をひらひらさせて、シャルムさんはにやりと小悪魔的に笑った。

「再設定する予定でいる――ということは、今はまだ新しいランクは定められていない。注意勧告して立ち入りを制限する程度の対策しかとられていないのだ。そこで……」
「……?」
「エリア内のアイテムを、今のうちに大量に抱え込んでおけ」
「えっ? それってつまり……」 

 彼女は口元に手を当てて、内緒話をするように続けた。

「じきにこの辺りのエリアのランクも高く設定され、そこで取れるアイテムの価値も向上する。そのタイミングで換金すれば、今よりはるかに高い報酬を得ることができるぞ。おそらく、銀級シルバー依頼の報酬に相当する額だ」
「シッ――銀級シルバー!?」

 思わず目眩めまいを覚えたが、寸前で持ちこたえて、高鳴る心臓をしずめながら問いかけた。

「そ、それって、犯罪なんじゃ……」
「別に、罪に問われるようなことはない。換金価値が上がると予想した物を、事前に確保しておくだけのことだ。それに、実際にエリア内のモンスターたちは格段に強くなっているから、相応の実力がなければ実行不可能。近々ランクが再設定されてアイテムの価値が上がることに気が付いていても、力不足で手を出せずにいる冒険者だっているのだ。実力と推測がすべて。何が悪い?」
「……」

 ごもっともな意見を聞かされて、僕は言葉をなくしてしまう。
 だけど複雑な思いが消え去ることはなく、思わず口元をもにょもにょとさせた。
 確かに罪に問われることじゃないのかもしれないけど、今の悪環境を利用しているみたいで、ちょっとばかり気が引ける。
 でも、相応の危険が付いて回るのだから、当然の見返りか?
 などと悶々もんもんと思い悩んでいると、シャルムさんが取りつくろうように曖昧あいまいな笑みを見せた。

「まあ、その……無理強むりじいするつもりはない。言わばこれは裏道。自慢できるような方法ではないからな。君たちが気乗りしないのならば、私が担当している高額報酬の依頼を優先して回そう」

 いつも真面目まじめに仕事に取り組んできたシャルムさんが、珍しく口を滑らせて悪知恵を吹き込んだ。それを必要以上に気にしている姿を見て、ついくすっと小さな笑いが漏れてしまう。
 次いで僕はかぶりを振り、笑顔で返した。

「いえ、せっかく教えてもらったことですし、やってみようと思います、エリア探索。ねっ? クロリア」
「えっ? あっ、はい」

 突然話を振られたクロリアは慌てて頷いた。
 僕たちが断ると思っていたのか、シャルムさんは一瞬目を丸くした後、安堵あんどの息をついた。

「……そうか」

 魔石運びの依頼で僕たちをモンスタークライムと接触させてしまったことへの償いとして、シャルムさんはとっておきの高報酬の依頼を紹介しようと奮起ふんきしてくれた。
 それは悪いことではないのだし、モンスタークライムの件も彼女が気にすることではない。
 シャルムさんにはいつもどおり笑っていてほしい。
 僕がエリア探索の依頼を承諾しょうだくすると、シャルムさんはギルド職員として助言をしてくれる。

「おすすめ、というわけではないが、もしエリア探索をするならば、『フローラフォレスト』がいい。この街からも近いし、あそこで取れる花は元々高価値だからな」
「は、はい。なら、そうすることにしま……す?」

 途中で言葉をまらせた僕は、根本的なことに気づいて聞き返した。

「あの、フローラフォレストってどこですか?」
「んっ、そうか、君たちはそもそもこの街の住人ではなかったな。フローラフォレストというのは、ここから東にある森――君たちが冒険者試験を行なったあの森だよ」

 僕とクロリアは同時に〝あぁ〟と納得の声を漏らす。
 冒険者試験で、『マッドウルフの魔石』と『フェイトの花』という二つのアイテムを取りに行った場所だ。
 冒険者になってからも、ウィザートレントという樹木型モンスターの討伐依頼でおもむいたこともある。
 なんとなく〝東の森〟なんて味気ない名前で呼んでいたけど、フローラフォレストという綺麗きれいな名前が付いていたとは、全然知らなかったなぁ。

「試験のときに取ってきてもらった『フェイトの花』もそうだが、他にも高価値で希少なアイテムが存在する。その一覧を渡しておくから、なるべくその中のアイテムを取ってくるといい」
「は、はい。何から何までありがとうございます」

 そう言ってシャルムさんは席を立ち、受付の奥から一枚の紙を手にして戻ってきた。
 フローラフォレストで取れるアイテムの一覧表。
 それを受け取り、そして採取するアイテムにある程度の目星を付けると、僕たちはさっそくエリア探索に出発しようと立ち上がる。
 テイマーズストリートでの夢の生活のために、いざ出陣。
 その一歩を踏み出しかけたとき、不意にシャルムさんの声が背後から聞こえた。

「気を付けるんだぞ」
「えっ?」
「あの森は、試験当時はEランクエリアだったが、今では間違いなくDランク以上のエリアだ。今の君たちの実力なら問題ないと確信しているが、マッドウルフやウィザートレントなど、以前戦った敵は比べものにならないほど強くなっていると思え。だから……」
「油断するな、ってことですね」
「……あぁ」

 神妙しんみょう面持おももちで頷き返してくれるシャルムさん。
 他の冒険者たちが二の足を踏んでいるこのエリアの探索のことを、躊躇いもせず僕たちに教えてくれた時点で、実力を疑われていないのは分かっている。
 それでも自分が担当している新人冒険者の安否あんぴとなれば、心配になって当然だ。
 何が起こるか分からないし、僕たちは高ランクエリアでの経験が皆無かいむなのだから。
 僕はシャルムさんに不安を与えないように、曇りのない笑みを浮かべて口を開いた。

「心配には及びません。それに……ちょうど強い相手と戦ってみたいと思っていたところですから」

 その言葉に同調するように、頭上のライムが〝キュルル!〟と可愛らしい鳴き声を上げた。


 ********


 基本的に、エリアのランクは人里から離れるほど高く設定されている。逆に言えば、村や街に近いエリアほど、ランクは低い。
 今まで遠征らしい遠征はおろか、ろくに依頼の数もこなしていない僕らは、当然のごとく近場の低ランクエリアにしか入ったことがない。
 そんな中でいきなり到来した、Dランクエリア挑戦のチャンス。
 従来のランク設定のパターンをぶち壊し、街のご近所にあった森が、Dランクまで成長してしまった。
 この機をのがすわけにはいかない。
 報酬獲得の目的もあるけれど、何より僕の――僕たちの成長のためになる。

「「「グルゥゥゥ!」」」

 薄暗い森の中に、野太い獣のうなり声が響き渡る。
 数は三つ。全身の黒い毛を針のように逆立てて、するど眼光がんこうでこちらを睨みつけている。
 マッドウルフ、Dランクモンスター。
 かつて冒険者試験のときに対峙たいじしたそのモンスターと、僕たちはぶつかり合う。

「ライム、体当たりだ!」
「キュルキュル!」

 まずはライムが先行する。
 横一列に並んだマッドウルフの真ん中の一匹を狙い、勢いよく飛びついた。
 しかし黒狼は余裕を持ってそれを躱すと、ライムを取り囲むように三角形の陣を組む。
 初手は様子見、なんて考えていたけど、今の攻防だけでマッドウルフたちはかなり強くなっているのが分かった。シャルムさんが言ってたとおりだ。
 モンスタークライムとの一戦を経て、ライムはレベル20(ミドルライン)に到達した。
 そのライムの攻撃をあっさり躱すだなんて、冒険者試験当時のマッドウルフとは明らかに違う。
 その推測を肯定こうていするように、一匹の黒狼が牙を剥き出してライムに襲い掛かった。

「グルァ!」

 ライムはそれを回避して反撃を試みるけど、間髪かんはつれずに次の黒狼が飛び掛かってきて難しい。
不正な通り道ローグパス』の影響で強くなっているマッドウルフを、ライムだけで三匹同時に相手にするのは不可能だ。
 だからこそ、いい実験になる。
 僕は小さく息を吐き、左腰にびた木剣に手を伸ばした。


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