汚れるよりは死を

環希碧位

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前編「きっかけと後悔」

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──この胸を締め付けるような感情は一体何なのだろう。

 抑えきれぬ呻きとも嘆きともつかぬ声と共に、熱に浮かされ、荒い呼吸を重ねながら、互いに命を貪り合う。

「アルテュール……」

 掠れた声と共に耳朶へと舌が射し入れられる。
 丁寧で律儀な愛撫に苦笑したくなる。

 愛してなどいない。
 彼も自分も互いに想い人は別にいる。
 ──そのはずだった。

 ただ、彼が自分にとって決して代えのきかない存在であった事もまた、紛れもない真実であった。
 これまでも、これからも。

 もし目指す理想にこの手が届かなかった時、遺志を託せるのはこの男しかいない──ずっとそう思っていた。
 そして、彼にとっても利用するだけの価値がある自分であるのならば、ただ、それで良かった。
 望むものはそれ以下でもそれ以上でもない。そんな関係。

 だが。目の前の彼の存在を認め、求めるこの気持ちを愛と言うのであれば──そうなのかもしれない。

「……ジル」

 湿り気を帯びた呼気と、濡れそぼり猛ったものが擦れ合う水音とが、未来を語るべきこの場所で卑猥な旋律を奏でている。

 矜持をへし折られ、その響きをすっかり心地良いものだと刷り込まれた身体は、この降り注ぐ快楽の一片さえ逃がすまいと、男の存在を深く締め上げて、日も高いうちに行われている自堕落な行為に意識を没入させていく。

 本来の職務を放り投げ、大の男が二人、そろって何をしているのか。

 突きあげられる度、腰の奥から湧き出してくる法悦に身体が震え、恥を感じる誇りすら歪んだ快感を覚える魂は、こうしている間にも悪魔の誘惑に蕩け落ちつつある。

 だったらせめて、私が私であるうちに──

「ああ、そう哀しそうな顔をしないでくれ。
 君は私の影なのだろう ?
 私が私を愛で慰めるのに何の問題がある ?だから……」

 被さる身体に足を絡ませ、腰を摺り寄せれば、その繋がりはより深くなり、男の唇からは甘い吐息が漏れる。

 ──果たして、実のところ一体どちらが光でどちらが影であったのか。
 気が付けば、傍らにいるのが当たり前になっていた。

 君は私で、私は君。
 互いに背負い、互いに分かち合い、かつて一人の少女が示した見果てぬ夢を追い求め、ひたすらに戦場を駆け抜けた。

 理想という絆で結ばれた、我が魂の半身よ。
 その道行の果てに、どうか幸多からんことを──



            ■■■



「……なあ、ジル」
「なんですか ?アルテュール」
「君は、今後私に何があっても……どのような無様を曝す事になっても、ついてきてくれるか?」

 その日。
 つと、執務中の手を止めて神妙な顔で言葉をかけてきた男に、

「何を今更」

 呼びかけられた青年──しばしの間、男の前任者として大元帥の地位にあった事もある才気に溢れた戦友は、笑って答えた。

「私は貴方の影です。
 貴方が貴方で居る限り、貴方の行くところ、どこまでもついて行きますとも。
 貴方がこれから成す偉業を支える事にこそ、私の喜びがあるのですから」

 都をおわれ、長らく辛酸を舐める日々を送っていた王太子シャルルの下に、伝説に謳われる奇跡の乙女──ジャンヌ・ダルクが現れてより二年。

 尊き聖女に導かれた軍勢により成し得た要所・オルレアンの解放を経て、悲境の王太子がランスでの戴冠を果し、フランス王シャルル七世として即位した後も、王国の利権を巡る策謀と闘争は未だ終わりをみせぬまま。

 人々の思惑に翻弄され虜囚となった乙女が、炎の中へと消えてからも、フランスが真の栄光を取り戻す為の戦いは未だ続いていた。

 今、シャルルとその王国の運命は、青年の目の前にいる男の双肩にかかっていると言って良いだろう。


「貴方の夢は、私の夢です」

 本来政敵の立場にあった自分の能力を評価し、あまつさえ近しい友として迎え入れてくれた男の存在は、青年にとって感謝しかない。
 求められ、気安く名前を呼びあうようになった今でさえ、尊敬の念は変わらない。
 それほど、男の存在は絶対的だった。

 一切の迷いなく言い切った青年に、古の騎士王の再来とまで言われる金髪の美丈夫は、一瞬目を見開き──

「そう……か……」

 小さく呟いた後、心底安心したように、

「ああ……そうか……
 ありがとう……ジル……」

 何か眩しいものでも見るかのように目を細め、柔らかく微笑んだ。
 同じ軍人として尊敬してやまない男が見せる、どこか儚げな表情に、青年は思わずどきりとする。

「アルテュール…… ?」
「あ……いやなに、改めて人材に恵まれた私は幸せ者だ、と思っただけさ」

 男はらしくなく、どこか照れたように言い繕ってから視線を外すと、言葉を続けた。

「では、ジル。今度、少々やっかいな面倒事につきあってもらえるかな ?」
「面倒事 ?」
「ああ、君も一緒に居てくれると、とても心強いし……とても、嬉しい」

 一瞬──大元帥の言葉の語尾に、どこか普段とは違う「何か」を感じつつも、今は彼の腹心として仕える高潔な騎士は、友であり上官である男の頼みに応じたのだった。

「はい。もちろんご一緒しますとも。
 私がお役にたつのであれば、なんなりと御命令を。アルテュール」



            ■■■



 正直、このところのアルテュールはおかしい。

 先日のやりとりを思い返し、青年──大元帥アルテュール・ド・リッシュモンの懐刀たる騎士、ジル・ド・レイは思う。

 さすがに軍で指揮を執っている際はそうでもないが、この間のように机仕事をしている時や会議中の時、心あらずというか、どこかここではない遠くを見ているような表情をしている事が度々ある。
 そして、時折吐く、妙に艶めいた溜息。
 
 友人に違和感を感じているのはまだ自分くらいのものだろう。ごく近くにいるからこそ分かる、微量の齟齬。歯に物が挟まったような落ち着かなさ。

 また、もう一つ。
 最近とみに気になっているのは、気が付くと自分に注がれている彼からの視線だった。
 それもどこか熱や何らかの期待を帯びているような……いや。彼に限って。まさかとは思うが。
 
 一瞬脳裏を過ぎった考えを、頭を振って否定する。

 今は大事な時だ。
 何かあったのなら、自分が動いて不調和の素を絶たねば。
 彼は今の国にとって要石のような人間なのだから。

 大元帥に負けず劣らず美貌と才能に恵まれた青年は、改めて決意する。

 こんな時代に甘い考えだとは思うが──もうこれ以上、大切な人を失いたくはない。
 己を慕ってくれた少女を失った記憶とその痛手はまだ癒えず、自分にとっても軍にとっても根深く残ったままだ。

「しかし……一体こんな場所に何が……」

 思考を巡らせながらたどり着いた先。上官に指示された場所は、うらぶれた繁華街の終着点──客引き女達がさざめき合い、男達が一夜の快楽を求め集う娼館が立ち並ぶ界隈だった。

 周囲が自分に寄せる好奇の視線にうんざりする──ああ、わかっていれば顔を隠してきたのに。

 腰まで伸びる長い白髪に、一見美女と見紛うまだ幼さの残る中性的な美貌──こんな場所でなくても、自分の容姿がどれだけ目立つかは、重々把握していた。

「……ジル殿ですね ?」

 前触れもなくかけられた声に振り返ると、そこにはフードを深々と被った男が背後に立っていた。
 見るからに堅気の小市民とは言い難い風情の男に、ジルは訝しむが、

「どうぞこちらに」

 有無を言わせず男が同行をうながす先に、あまり流行っていないらしい一軒の娼館が見えると、ますますその表情は堅くなった。

「……大元帥閣下がお待ちです。
 ええ……それはそれは、首を長くしてお待ちですよ」

 ──アルテュールが ? 何故 ?こんなところに ?
 
 男の口元には笑み。
 何か嫌な笑い方だな、とジルは感じた。

「…………」
 
 入り口は昏く、中は見えない。
 そのありふれた小さな扉が、その時の青年にはまるで、現世にぽっかりと空いた地獄への入り口のように思えた──



            ■■■



 ──何故。彼に何の落ち度や罪があって。あんな事になってしまったのだろう。
 その日以来、何度も記憶はよみがえり、答えの出ない問いかけが頭の中に反響する。


 「……例の薬の話なのだが」

 やってきた教皇庁からの使者に、軍装に身を包んだ白銀の貴公子──ジルは明日の天気の話でも振るかのようなごくさりげない口調で切り出した。
 
「君達の技術で何とか出来ないだろうか?
 世俗のものより数世代進んでいる〈管理局〉の知識と、研究成果であれば──」
「恐れながら閣下」

 席を外している友人の代行として、今も淡々と執務に勤しんでいる青年の指が止まる。

「私があえて説明せずとも……答えは聡明な軍人である貴方自身が一番御存知なのでは ?」
「…………」

 問いに対する[[rb:応 > いら]]えはない。
 使者の男は続ける。

「凶器に付与されていた魔術的な呪いの類であれば、解除する事は可能でしょう。
 ただ、媒介物として体内に蓄積された薬物の完全な除去については……」

 騎士の中の騎士、戦場の華と謳われた美貌は相変わらずの無表情。
 ただ、卓上に置かれた指先が、小さく震えていた。

「あの手の薬物の最も性質の悪いところは、依存性や幻聴・催眠と言った大脳皮質の機能を低下させ、悪癖を刷り込ませるといった本来の効果以上に、人格や身体機能自体に深刻な爪痕を残すところにあります」

 使者の言葉をきっかけに、思考の沼地から再び浮かび上がってくる映像──
 
 ──普段は一部の隙一つ見られない着衣は乱れ放題。汗じみた金髪は額に張り付き、戦場では常に凛々しく引き結ばれていたはずの口元は、情欲に蕩けきった笑みを浮かべ、薄く開いた唇からは、唾液と精液が入り混じったものがだらしなく零れ落ちている。
 群青色の瞳は熱く潤み、官能に支配された彼の視線は、あれほど近くに存在を感じながら、決して目の前のジルを見てはいない──

「───ッ……」

 再生される記憶と共に、込み上げてくる吐き気。

 ──訳も分からぬまま、床に押さえ付けられた記憶の中の自分の上に、重い影が被さってくる。
 無責任にはやしたてる野次と、ただ己が抱く昏い望みを肉悦に変えて打ちつける獣と化した男の声が重なり合い、熟れた粘膜が擦れ合う耳障りな音と共に、悲愴で滑稽なハーモニーが奏でられていく。

 まだ雄の匂いがする唇に呼気を奪われ、苦しげに呻く自分に、笑い声と混ざって降り注ぐ言葉。

 ──最中に何度もアンタの名前を呼んでたよ。
 ──アンタとしたくてたまらなかったんだってさ。
 ──ほら、もう犬みたいに夢中で腰振っちゃってさ、よっぽどアンタのこと──

 そうだ──あの時。品のない男達が薄笑いを浮かべ、下卑た視線が降り注ぐ部屋の中心で、最も敬愛していた男に自分は──

「……しかも、今回使われたのは、整った設備で生成されたしかるべきものではなく、地下で出回っているような粗悪品ときている。
 ……身体にかかる負担は通常より大きい」

 相手の抱える思いを知ってか知らずか、使者は変わらぬ調子で話を続ける。
 それは青年にとっては救いであり、同時にまた苦行でもあった。

「だが、私は……」

 悪夢を振り切り、なんとか絞り出された反駁の言葉にも、死者の[[rb:応 > いら]]えはにべもなかった。

「……貴方は何分『特殊な体質』ですから。
 薬物に対する依存性も、今後体内に影響が残る事もないでしょう。
 ですがあの方は──」

 ここにはいない『誰か』を指して、残酷に使者は告げる。

「──正直、今も公人として生活出来ているのが不思議な程です。
 ただ伯爵が常人以上の胆力をお持ちでも、いずれ──」

「もう……どうにもならないのか」

 苦悩が声帯を締め上げたような声が、端正な唇から漏れた。
 しかし、ただ現実だけを伝える使者の声はあくまでも平坦だった。

「残念ですが……愛する女性に続き、大切な存在を二度も失う心中、お察し致します。
 しかしながら、我々が目指すより良き世界の為、どうか冷静で公平なご決断を──前・元帥閣下」


            ■■■


「お前達。何故ここに呼び出されたのか、分かっているな…… ?」

 公職に就く貴族の為、宮廷の中に設けられた部屋の一室。
 強面の傭兵隊長数名を前に、男は氷刃めいた視線でその場を一薙ぎした。

「私は確かに命じたはずだぞ。
 進軍経路と占領地における掠奪行為は控えるようにと」

 全身から漂う威圧感だけで、女子供が見たら泣き出しそうな大柄な男達に囲まれてなお、金髪の美丈夫の厳しい口調は衰えない。

 白皙の麗貌に浮かぶ表情は険しく、群青色の瞳に閃く光は鋭い。
 彫刻のように均整のとれた体躯に一部の隙なく纏った元帥の礼装も誇り高く、古強者共が放つ以上の獅子の気風でもって、いかにも不服そうな目でこちらを見やる配下達を律する。

「その為に、兵士達を養う為の給金は国庫から十分に──」

 しかし。
 メルランの予言にある常勝不敗の大英雄にすら例えられるこの国最高位の将軍から叱責を受けながら、男達の顔に浮かんだ奇妙な笑いは、不思議な事により深まった。

「……は ?十分 ?あれで ?
 これはこれは、伯爵様、なんの御冗談を」

 皮肉げな口調で傭兵隊長の一人が言う。

「それとも何ですか ?
 我々は正義に尽くす誇りだけで腹を膨らませろと ?大元帥閣下 ?」
「いやぁ、我々は神の子のように石をパンに変える事は出来ませんからねぇ……困ったもんだ」
「だいたい、腹を膨らませる意外にも、人間には楽しみが必要だってこと、わかってますかい ?」

 肩をすくませ、ヘラヘラと笑いあう男達の様子に、国王から軍権を預かる美丈夫──伯爵にして王国元帥たるアルテュール・ド・リッシュモンは柳眉を逆立てた。

「お前達。何度言えば──」
「ああ、では足りない分は伯爵様が個人的に補って下さると。そういう事でよろしいですかな ?」
「そりゃありがたい」
「だから──私の話を」
「ははは、元帥閣下もまったくお人が悪い」

 ぴしゃりと額などを叩きつつ、傭兵特有の軽口を叩いていた男達であったが、

「………〈正義の人〉ル・ジュスティセだか何だか知らねえが……気取ってるんじゃねえよ、雌豚が」
「な……っ」

 受け応えた傭兵隊長の声が一段低くなり、場の空気が一変した。

 刹那、踏み込んだ一人の手が荒々しくリッシュモンの顎を掴み上げ、それ以上の彼の抗弁を無理矢理中断させる。

「大層な綺麗事を語っているその口で、何人の聖職者様の逸物をしゃぶってきたんだ ?ええ ?」
「っ、く……ッ…うぐっ…かはッ……」

 一人が動くと、他の男達も次々と伯爵の周囲を取り囲み、その青白くなった顔を覗き込む。

「アンタに付きまとってる噂、俺達が知らないとでも ?」
「………………」

 伯爵は答えない。答えられるはずもない。
 物理的な意味でも。心情的な意味でも──

「嘘か本当か知らないが、場末の娼館でアンタそっくりな男が買われているのを見た、っていう部下がいるんだよ」
「常識的に考えれば見間違えなんだろうが……とはいえ、こんな目立つ容姿のヤツ、そうそういないだろ ?」
「ほら、大元帥閣下は随分と男前でいらっしゃるから」
「でもそんな御婦人方を虜にする涼しい顔をした男前が、実際は男色家で、あまつさえ誰彼かまわず足を開く色狂いときた」
「なんでも昼間も疼く身体を慰めるのに、でっかい張り型を尻の中に仕込んでるとか。
 本当なのかな…… ?」
「うぁ…、よ…よせ…… !」

 背後に回った男が無造作に伯爵の腰を引き寄せ、尻たぶを掴むと、乱暴にこねくり回す。
 更に引き締まった太腿を撫で上げると、そのまま不届きな手は股の間に──

「あァ、……や、やめろッ !」
「声色が変わったなあ ?
 ん?嬲られて興奮してきたのかよ変態。硬くなってきたじゃねえか」
「……ぅ……うぅ……」
「おお、耳まで赤くなっておりますよ、元帥閣下。
 大の男がまるで年端のいかない乙女のようだ」

 布越しに、ごつごつとした指が伯爵の恥部を何度も往復し、擦り上げる。
 そこがますます火照り張りつめて、じんわりと湿り気を帯びてきた気配に、男は息を呑んだ。

「おいおい……コイツ、冗談でなく本物なのか ?」
「ぁあ、……うう……いっ……やっ……」
「はっ、すかした野郎が良いザマじゃねえか」
「……あああッ !」

 尻たぶを揉んでいた手が、双丘の谷間へと喰い込む。
 ぐいぐいと太い指が、伯爵にとって最も触れられたくない場所へと押し込まれてくる。
 布越しとはいえ、刺激にひくひくと反応する不浄の口が、ますます男達の無礼な態度を煽り立てた。

「ほうほう。尻穴も随分な緩みっぷりですが、この胸の先がまた乳飲み子を抱えた女のように大振りで立派だと聞きましたが ?」
「ぐ……ッ !」

 軍服の上から胸を弄られ、抱えられた身体から抑えた悲鳴が上がる。

「あっ、あっ、ああァ……あッ…… !」

 複数の男の手が、際どい箇所ばかりを攻め立ててくる。
 鍛え上げられた胸板の上を、不埒な掌や指先が何度も滑り、ねちねちといやらしく弄ぶ。
 その動きの執拗さに、威厳を示さなければいけない場面だというのに、伯爵の呼吸は嫌でも熱くなってきてしまう。
 
「……どこかな ?どこかな ?
 さすがにこれは服の上からじゃわからねえなぁ」
「いっ……もう……もうやめっ……」
「あれま、こんなにビクビクしちゃって……閣下にも可愛いところもあるんですねぇ」
「や……やぁ……ぁあ……」
「ったく、気色の悪い声を出すんじゃねえよ。
 俺達は別に野郎に興味はねえんだ……よっ、と !」

 ふいに。
 苛立った男の手が、隠しようもなく存在を主張し始めた伯爵の股間を一際強く握った。
 遠慮のない手が上官の羞恥を煽るように、膨張し露わになった欲望の形をなぞるように揉み上げる。

「────っ !」

 声にならない悲鳴と共に、羽交い絞めにされた長身が咢を上げて大きく仰け反り震え出す。

「さすがに御立派なものをお持ちで……ま、肥えたハゲ親父相手に尻を振って喜んでいるんじゃ、宝の持ち腐れだろうがよ」
「んじゃあ、一緒に後ろを弄ってやった方がいいのかな」
「──ッ !──ッ !」

 伯爵は頭を激しく振り動かしてこれを否定し、渾身の力で男達を振りほどこうとするが、武器も持たずに馬鹿力だけが取り柄の傭兵達に抑え込まれては成す術もない。

「お、嬉しそうだな。
 ま、俺は挿入れるのは御免だがな。せいぜい指で焦らしてやれや」
「ほいよ」
「ひ……あァ────ッ !」

 服こそ脱がされずに済んだが、それでも全身のあらゆる性感帯を容赦なく同時に暴かれて、されるがままに熟した身体は不本意な絶頂を迎えてしまう。
 漏れ出たもので濡れた布が肌に重く張り付く感覚が惨めさをより増して、伯爵は力無くその場にへたり込んだ。

「……ふん。
 結局、噂は本当だって事か」

 肉欲に敗れた哀れな騎士が、職務中にも関わらず、あっさりと興奮を弾けさせた様子を見やって、導いた男はといえば、悦ぶわけでもなく、単語ルビ無責任にも心底呆れたといった風情で大仰な溜息とともにこう吐き捨てた。
 
「身分に胡坐をかいて四六時中盛っている変態男が。恥を知れよ」

 幻滅しきった複数の視線が、息も絶え絶えになりながら羞恥に身を焦がす美丈夫の全身に突き刺さった。

「あーあ、
 流石に事実が事実として分かっちまうと萎えてくるな……一応、これでも俺達の総大将様だからな」

 つい先程まで冷徹だった伯爵が示すあまりに顕著な反応とその顛末を目の当たりにして、逆に興を削がれた男達は、熱の上がってきた貴人の身体を放り出し去っていく。

「……っは、は……くぅっ、う……」
「まあ、今日はこのぐらいにしておいてやるよ。
 だが……あんまりまた煩いことを抜かしやがると、本気で犯してやるからな。この淫乱」

 抗弁も出来ぬまま、苦しげに肩で息を吐く美丈夫を見下ろして、冷たく言い放つ。

「聖女もいなくなって、元帥閣下も腑抜けのオカマときた。
 もううちの軍も終いだな」
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