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陛下と殿下のかつてあったかもしれない話・邂逅編(4)

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(ど…どうしよう…他人の口の中に……しちゃった……)

 テルゼはおろおろするが、エリフォンは涼しい顔でテルゼの放った精を飲み干し、

「さっきよか良かったろ?
 な~に時化たツラしてやがるんだ。こんなもん、毒でもなんでもねぇんだから心配すんなよ」

 くしゃくしゃとテルゼの金髪を撫でる。

「それじゃ、今度は俺も良くしてもらうぜ……覚悟はいいな」

 不敵な笑みとかすれた声に、テルゼはぞくぞくした。普段はあけっぴろげで、軽い印象のあるエリフォンだが、今の彼はまさしく〈魔皇〉の名に相応しい凄みと妖艶さを持っていた。

 蒼い瞳に見つめられて、へたり、と全身から力が抜ける。
 もうどうなってもいい……そんな気分になった。
 ただ黙って小さくテルゼは頷いた。

 エリフォンはテルゼの細い腰を抱えると、蕾に自身を当てがい、ゆっくりと体重をかけるようにして中へと押し入り始めた。

「ふっ…ううう……ああっ」

 いくら慣らし和らげておいたとはいえ、元来細腰のテルゼのそこはやはり小さく狭くて、貫く瞬間の痛みは耐え難いものがあるようだ。
 少しでも痛みと不安を和らげようと、エリフォンは強ばる身体を優しく撫で、ついばむようなキスを繰り返した。

「……はっ…はあっ…ふう…」

 テルゼの方も何とか力を抜いてエリフォンを受け入れようと努めている。

「……キツイか?」

その様子がけなげで、たまらなくいとおしくなり、エリフォンが腰の動きを止めると、テルゼは首を振った。

「そうか……」

 エリフォンは焦らず、緩んだ時を見計らい、腰を回すようにして進めていく。

「ああ……」

 異物感が腰の奥まで達して、それが全て納まったのが分かった。

(は…入った…入れちゃった……兄さんの……)

 すうっと腹を撫でられると、その中の存在を余計に意識させられて、その羞恥がより興奮を高めた。知らずテルゼのそこが収縮し、エリフォンを締め付ける。

「うっ……」

 テルゼの身体を気遣いつつ、腰を使い始めていたエリフォンが思わず呻く。
 狭過ぎる感はあるが、テルゼの中は予想を遥かに上回る具合の良さで、経験豊富なエリフォンをしてお目にかかったことのない、素晴らしいものだった。

(『野郎と一度やるとヤミツキになる』……話半分だと思ってたが、これはマジでヤバイかもな……)

 いくら抑えようとしても、加減が効かず、動きは早くなっていく。
 本人に言ったら怒るだろうが、まったく、男に抱かれるためにあるとしか思えないような身体だ。

「んっ…んっ…あんっ……あああっ」

 その証拠にテルゼ本人も非常に感じているらしく、恥らうことも忘れ、ひっきりなしに嬌声を放っていた。あまつさえ自分から腰を揺らし始め、快楽を貪る。

「っ……すごいな…いいぜ…最高だよお前……」
「はぁっ…ああぁん……っ…ああっ……」 
「なあ…そっちはどうだ?……聞かせてくれよ…」

 問いかけながら前も扱いてやると、一際甲高い声でテルゼが鳴いた。

「んっ……いっ…あああっ……っ……も…ったまんな……いっ…」

 理性などとっくに吹き飛んでいた。
 強く突かれる度、はしたないと分かっていても、唇からはより強い快楽を求める言葉がこぼれ、腰を摺り寄せたくなってしまう。

(自分がこんな……卑しい身体をしていたなんて……)

 しかしそんな自分をエリフォンは受け入れてくれる。求めてくれる。
 それが何よりテルゼの心を満たしてくれた。

「気持ち……良いか?」

 このまま止めて欲しくなくて、問われると間髪入れずに答えた。

「すごっ……きもち…いっ…ああっ」
「いい子だ……たっぷり楽しみな……」

 耳に吹き込まれる言霊だけで、思わず達してしまいそうになる。

「はっ……あああっ…っく…あぁ……あ…!」

 自身も限界が近かったが、中のエリフォンもまたそう長くはもちそうにないことが分かる。

「あ…うんっ…あ…ああっ…」

 責め立てる快感によって小刻みに身体が震え、いよいよ頭の中が真っ白になったその瞬間。

「─────!」

 エリフォンの手の中で己が弾けるのと同時に、自分の中で彼が溢れ出したのを感じて、テルゼはぐったりとその身をソファに沈めた。

        ■■■
 
「っ…ふう……」

 全てを注ぎ込んだエリフォンは大きく息を吐くと、自身をテルゼから抜き放った。

 テルゼはしばらく荒い呼吸を繰り返していたが、次第にそれは小さく穏やかになっていき、やがて寝息へと変わった。
 激しい情事の後とは思えないほど安らかな……うっすらと微笑みさえ浮かべて眠る彼を見て、エリフォンもまた小さく微笑むと、自分のコートをかけてやった。

「……やっちまってから言うのも何だが…やはりとんでもないことをしでかしちまったかもしれん……俺」

 自分はまぁともかくとして、全てがこれからのテルゼにとって、最初の相手が男、しかも叔父というのは……
 加えてそのバックの感度の良さが、エリフォンを余計に不安にさせる。

(女を知る前に、男に溺れるなんてことにならなけりゃいいが……)

 とは言え、今更何を後悔しても意味がない。とりあえず、神の称号を持つエリフォンはいずこかへ祈るのだった。

(どうかあの、イグナツの野郎にだけはバレませんように……)

        ■■■

 それから一日経ち、二日経ち……何事もなく一週間が過ぎた。

 こちらも一応公務を抱える身であるため、その都合上、しばらく甥とは顔を会わせられなかったが、人づてに聞く限り特に変わったところもなく、うまくやっているようだ。
 先日遊びに来たイグナツが、嬉々としてテルゼを話題にしている様子からも、まずまず不安になる必要はなさそうである。

(むしろ俺の方がかえってボロを出しそうだよな……俺の現在と奴の未来のために気をつけねば)

 そして、今日。
 久しぶりにテルゼの顔がエリフォンの目の前にある。
 相変わらず綺麗な微笑みを浮かべて。

「ご無沙汰していました。エリフォン兄さん」
「ああ、しばらくだったな」

 その落ち着き払った様子に、あの晩のことは自分の夢だったのではないか、と一瞬、錯覚すら覚えたエリフォンであったが……

「今夜は僕、時間があるんです」
「……なに?」

 いきなり彼の口から飛び出した言葉に、我が耳を疑う。

「兄さんがよろしければ……いかがですか?」

 『何を?』と聞き返すのも野暮な話だった。
 テルゼの美貌を彩っている、はにかんでいるように見えて、その一方おそろしく艶やかな微笑が意味するもの……

 それは明らかに誘いだった。

 澄んだ紫紺に見据えられ、エリフォンは不覚にもドギマギしてしまう。
 顔は平静を保っていたが、激しく動揺する心を抑え、やっとのことで返した答えは一言、

「………………ああ…」

 心とは裏腹に、そうとしか答えられなかった。
 テルゼの顔がぱっと明るくなる。

「では、またこの前と同じ時刻に」
「わかった……待ってる」

 テルゼの姿が消えまた一人になると、エリフォンは額を指で押さえ、ひとしきり唸った後、呟いた。

「溺れているのは……俺もだな」
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