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ギャルにガチ恋するオタクはいない!?
しおりを挟む「はよーっす」
と教室に入って自分の席に座る。
ソッコウで取り出したスマホにイヤホンを接続して耳にも装着。いまどき有線のイヤホンを愛用している理由は音ズレしないから。アニメでもゲームでも何でも、映像モノを観るならイヤホンは有線の一択だ。どんなに高級、高性能のイヤホンでもワイヤレスであれば確実に音ズレはする。それが0.07秒だろうが0.04秒だろうがオタクな奥山透の鋭敏な耳には確かな違和感として引っかかってしまうのだ。
(……まあ、再生アプリの方で補正することも出来るが……。)
朝のこの時間、教室で動画を観るなら有線のイヤホンでなければいけない。というか「有線のイヤホンを耳に装着すること」の言い訳に動画を観ているとも言える。
有線のイヤホンはワイヤレスに比べて「耳に装着している=耳が塞がっている」ということが他人に認識されやすい。わかりやすいから。
(A.T.フィールドだ。……俺は今、昨夜に放送されたアニメの見逃し配信に集中している。リアルタイムでも見たが。改めてもう一度、観ている……。)
だから、
「おっはよー!」
と今日も元気に登校してきた伊東彩子には「気付かない」。目もくれてやらない。
「あ。チバちゃん、前髪 切ったんだねー。ウン。かわいー」とか「青木んぐ、何でジャージ着てんの? 制服、切り裂かれた?」とか「元気じゃないよー、ちょーねむい。あはは」とか、すれ違うクラスメートたちと楽しげに会話しながらこちらにやってくる彼女は、明らかに左右非対称な髪型であったりと少しばかり奇抜なオシャレを見事に着こなす、アクティブでポジティブなジョシコーセーだ。いわゆるギャルか。
透とは同じ中学校の出身ながら、別に「友だち」ではなかった――はずなのだが。
「おはよーん」「うん、はよー」「え、マジで?」と彩子が徐々に近付いてくる。
透は手元のスマホに視線を落としたまま、視界の端っこで彼女の姿をこっそりと捉えていた。……じゃねえ。アイツの存在が派手過ぎて勝手に入り込んでくるだけだ。
なにも彩子だってクラスメートの全員に声を掛けて回っているわけじゃない。別のヤツと会話中だとか、何をしているんだか必死にスマホをイジってるヤツなんかは、フツウにスルーしている。……だから。こうして、わかりやすくイヤホンを装着してスマホの動画に集中していれば、彩子は俺に声を掛けてきたりしない。仮に掛けられたって俺は今イヤホンをしているから「聞こえない」しな。これで防御は万全だ――……「そんなふうに考えていた時期が俺にもありました」。
彩子は透の席の横を通過する際、
「…………」
と無言ながらポンとその小さくて柔らかい手を透の右肩に置いた。今朝もまた。
――BIKURIッ!? と体が跳ねてしまいそうなところをどうにかPIKURIに透は抑える。それでも彩子には気付かれているだろう。……屈辱的な恥ずかしさだ。
彩子は透の肩に手を置き続けたまま、その場を通り過ぎる。自然と手が離れるまで彼女は透の肩から手を離さない。
(……俺の肩は手すりかッ!?)
透は自身のココロの中をツッコミで満たそうとしていた。……伊東の行動に深い意味は無い。深い意味は無い。伊東は俺の肩を手すり代わりに使ってるだけだ……ッ!
……他のヤツらにはそんなことしねえじゃねえか。何で伊東は毎朝、俺の肩にだけ手を置くんだ。俺が「おくむら」だから「置く」のか? んなわきゃねえだろ。伊東のことだからきっと深い意味も浅い意味なくやってんだろ……てか、そんなことしてる自覚さえなさそうだ……。
(そう。きっと全ては俺の自意識過剰だ……。……わかっちゃいるけども。)
「惚れてまうやろー!」と叫びたい。ギャルがオタクにガチ恋なんかされたら厄介なことにしかならねえぞ。おい、伊東。「気をつけなはれや!」だ。
手元のスマホをじっと見詰めながら透はそのココロの中でだけ「大ジタバタ」していた。
――伊東彩子は溢れる笑みをこぼさぬように赤く塗られた唇をキュッとくわえる。手を握る。握られた小さな拳をもう一方の手で大事そうに包んだ。胸元に寄せる。
ドキドキ……していた。
(にへらららんらん。)
背中に目の無い奥村透は、今にもスキップし始めてしまいそうな彩子のウキウキに全く気付いていなかった。
*********
読んでくださって ありがとうございました。
前回、読み切りのつもりで書いた短編に初めて感想をいただきまして、浮かれパワー全開で急きょ もう一本 書いてしまいました。
ご期待に添えられる内容には達していないかもしれませんが、ちょっとでも ニヤっとしていただけましたら しあわせです。
もし楽しんでいただけていましたら「いいね」押していただけるとめっちゃ励みになります! 「いいね」は無記名みたいですので是非お気軽に!!
お願いいたしまぁ~すっ!
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