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しおりを挟む諒のスマホの画面の中の和彦の目線がやや下がっていた。カメラではなくて画面の方を見ているのだと分かる。画面の中の諒を真っ直ぐに見ているのだ。
「諒。諒。諒」
諒の名前を呼びながら和彦はもぞもぞと体を動かしていた。
それは「シュッ、シュッ、シュッ――」の前段階だった。
今さっき一仕事を終えたばかりでおそらく現在は通常の状態に戻っているであろうペニスを和彦は再び勃起させようとしているのだ。手動で。強引に。
……本気で「三日で50回」つまりは「一日17回」のペースでオナニーをしこなしてみせるつもりなのだろうか。
「大丈夫だ。諒の顔を見ながら弄れば何度でも勃つから」などとうそぶいていた和彦だったがその言葉に嘘はなかったらしい。
すぐにまたシュッ、シュッ――と衣擦れの音を鳴らし始めてしまった和彦を、
「和彦。和彦。待て待て待て。こら。ステイッ!」
諒は慌てて制止する。それ以上、精子を出させないように。……ダジャレか。
「今日はここまで」
諒は判定人だか審判員だかの権限でもって強制終了を宣言する。
「え、いや。俺はまだ十回しか」
「はいはいはいはい。おしまい。おしまい。おしまーい。またあしたーッ」
「あ、おい。りょ――」
――ブツンと諒は和彦とのビデオ通話を打ち切った。
つい最近、何処かで見たような展開であったが――今度の諒は掛け直してなんかやらなかった。
すぐに和彦からの折り返しがあったが諒は断固として取らなかった。出なかった。無視してやった。にも関わらずいつまでも鳴り続けていたスマホの主電源を落とす。
「何が『まだ十回しか』だ『十回も』だろう。本当に死ぬぞ。もしくは本当にチンコもげるぞ」
部屋で一人、冗談ぽく呟いてみたが残念ながらそんな事では誤魔化されなかった。
ぽっぽと高まってしまっていた諒の火照りは少しも収まらない。
……意図したわけではゼンゼン無かった「それ以上、精子を出させないように制止する」というダジャレ的な己の行為を思い返して赤面してしまっているのではない。
スマホの小さな画面越しでしかも映っているのは顔だけとはいえ恋している相手のオナニー姿を見てしまうどころか見せ付けられてしまうだなんて事は……何て言えば良いのか。諒にとってはまさに筆舌に尽くし難い経験であった。
最初はおおいに照れた。その照れを隠そうとSっぽく和彦をイジってみたりもしてみた。けれども和彦は全く意に介さず――後から思えば和彦も和彦で「ノルマである50回のオナニーをさっさと済ませたい」と必死だったのだろうが諒にしてみれば――少しの照れも躊躇も動揺も何も見せずに淡々とオナニーを繰り返していた。
照れて、強がって、斜に構えて、眺めて、見詰めて、見入って、食い入って、気が付けば諒はドキドキ、ハラハラ、ワクワクよりも、ぽっぽ、かっか、むらむらの色が濃くなってしまっていた。オナニーをしている和彦の顔を見ながら諒は劣情を催してしまっていた。猛烈に欲情してしまっていた。
スマホのカメラの画角の外、通話相手である和彦のスマホの画面には映っていない諒の下半身は――その局部は、痛いくらいに怒張してしまっていた。冗談抜きで今、それは諒史上最高値の大きさと硬さを誇ってしまっているかもしれなかった。
いますぐにでも処理してしまいたい。諒は思った。オナニーをしたい。オナニーがしたい。チンコを握りたい。擦りたい。扱きたい。射精したい。
……でも下手にペニスは弄れない。
局部がカメラの画角から外れていても、顔だけが画面に映し出されているとしても実際にオナニーをしてしまえば「している」と分かる――バレてしまうという事は、諒の手元の小さな画面の中の和彦がその身をもって実証していた。
表情や息遣い、衣擦れの音や画面の揺れ等でゼッタイにバレる。こっそりとするのは無理だ。……どうせバレるのなら。じゃあ。発想を転換させて。諒のオナニー顔を和彦に見せ付け返すか。
あられもない姿を見せ合いながら互いに自分のペニスを扱くか。
「――ゼッタイにムリッ!」
スマホにウイルスを仕込まれて諒がオナニーをしている最中の顔を和彦に盗み見られていた事実は過去のコトとして、もうしょうがない。だって今更どうしようもないから。仕返しに和彦のオナニーを見てやる事もまあ良い。でも。ここで和彦と一緒に諒までオナニーをし始めて、スマホの画面越しにオナニーの見せ合いっこだなんて、それはムリだ。恥ずかし過ぎるし、エロ過ぎる。
射精後、我に返って「死にたい……」となるに決まっている。
深く後悔して。自己嫌悪に陥って。非常に気不味く感じてしまって。和彦とは顔を合わせづらくなるに決まっている。そうなれば諒は和彦を避けるようになってしまうかもしれなかった。
同じ小学校に通っていた幼馴染ではあったが諒と和彦は現在、別々の高校に通っていた。同じ予備校や習い事に通っているわけでもなかった。放課後や週末にわざわざ会おうと思わなければ顔を合わさずとも済んでしまう。
「避けよう」と思えば簡単なのだ。普通に生活をしていれば交わらない。諒からは連絡を取らず、和彦からの連絡もスマホの設定で「和彦」を着信拒否にでもしておけばそれだけですぐにほぼほぼ完全に避けられてしまう事だろう。
……それはイヤだった。
でもオナニーはしたい。
だから諒は通話を打ち切った。
正直を言って十回も連続で射精しくさりやがった和彦の身体的な不具合を考慮して――健康を害さないかなどと憂慮したわけでは全くなかった。
他人のカラダの心配どころではなかったのだ。自分のカラダが異常をきたしていたのだから。
和彦との通話を一方的に打ち切って、すぐに鳴り出したスマホの電源も切った後、諒は、はち切れんばかりに膨れ上がっていた股間のせいでおおいに手間取りながらも可及的速やかにズボンと下着をずり下げた。
あらわとなった肉の鉄棒を諒は握った。その手を上下に動かす。
「んッ。おッ。おッ――」
まぶたを閉じて和彦の姿を思い浮かべる。思い出す。
上半身は服を着たまま下半身を丸出しにした和彦が、机の上に置いたスマホに目を落としながら自身のペニスを一生懸命に扱く姿だ。
今迄にもしていたお馴染みの妄想だったがしかし、今日からはただの想像ではなくなってしまった。
一生懸命にペニスを扱く和彦の顔を諒は見たのだ。エロい表情をしていた。
画面には映っていなくても事実として、現実の和彦が妄想の中の和彦と同じようにオナニーをしていた。何度も。何度も。
不埒な妄想にリアルが混ざる。見てはいないはずのシーンが鮮明に思い出される。
「和彦ッ、和彦ッ、和ひ――ッ」
あらかじめ丸めておいたティッシュを諒は急いで鈴口に押し当てる。
強く腹筋が締まった。腰が震える。びゅくんッ、びゅくんッ――。
諒にとっては約二時間ぶり二度目の射精であったが、過去最高に大量の精液が驚くほどの勢いで飛び出した。
「ふぅ……」と諒は自然と一息をついた。諒の全身から力が抜ける。
丸めたティッシュを突き抜けてしまったかのようにザーメンがティッシュの外側に滲み出ていた。溢れ出ていた。
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