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しおりを挟むそれから、五年の時を経て。
割れんばかりな大歓声の中、瀬尾美空は表彰台の真ん中に立っていた。
眩くフラッシュのたかれるカメラ、カメラに向かって、金色のメダルを「ガブリ」とかじってみせる。最高の笑顔を見せる。
世界的スポーツの祭典、夏季オリンピック。瀬尾美空は見事、女子棒高跳び競技にて日本人初となる金メダルを獲得したのであった。大快挙である。
「おわ、わ……」
表彰台から降りた彼女は、わあっとマスコミ関係者の日本人達に取り囲まれる。
「今のお気持ちは――」やら「この感動を誰に――」やら、マイクを突き付けられる中、彼女は強く応えた。
「私は――今日の、この日、この色のメダルを獲るためだけに――幾つもの大切なモノを犠牲にしてきました。その『ハジマリ』は、中学生時代。私は……大切な友人達と過ごす、大切な時間と引き換えに、棒高跳びの練習を励みました。……大切だった友人達を捨て、そして獲たこの金色のメダルを――喜んでくれるかは分かりませんが――私の大切な友人達に捧げたいと思います。――ありがとうございましたッ!」
胸を張って、彼女は大きく叫んだ。
そして。うっすらと滲む、その視界の端っこに――美空は、忘れるはずのない「顔」を見付けたのだった。
「……来て……くれてたんだ……」
長い黒髪に長身で、鼻筋の通った美形顔。その傍らには、彼女よりかも幾らか年上と見られる、見知らぬ女性。……二人は遠くから、美空の事を見詰めてくれていた。
「……アリガト、皆……」
その背後。一人の男性が、駆けて来る。黒髪の女性に声を掛ける。……その傍らに居た年上の女性は、ふっと姿を消した。
男性に振り返った黒髪の女性は、ふいと横を向いてしまう。男性は、そんな彼女を強引に、強く抱き寄せた。
「……なによ」と、美空の頬は緩んでしまう。
そんな二人の様子を、少しだけ離れた場所から、先程の年上の女性とはまた別の女性が静かに見守っていた。……美空には見覚えの無い顔であった。彼女は寂しそうに、けれども嬉しそうに、微笑んでいた。
「……天下のゴールドメダリストを、渋谷の『ハチ公』と一緒に扱ってくれちゃってッ!」
金色のメダルを高く天に掲げ、瀬尾美空は、その日、一番の笑顔を咲かせたのだった。
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