11 / 33
11/33
しおりを挟む「今から急に信用を得たり、仲良くなる事は難しいとして。それでも宮下に警戒感を抱かせずに交流するには……必然性が欲しいな」
「必然性? たとえば?」
「この前の『飛び降りを阻止した俺たち』が『心配だから付き添う』のような」
「あー。なるほど……で。どうする気?」
――「作戦・其の二」だ。
まずは宮下を捕まえる。
「宮下。ちょっと話がある」
「……なに?」
続いて、
「連絡先の交換をしよう。宮下のケータイ番号を教えてくれ」
「は……? ……なんで」
「まあまあまあ。悪い事にはならないから」
「いや……普通に怖いでしょ」
「まあまあまあまあまあ……」
「マアマアじゃなくて。ちょ、ちょっと、おれのスマホ――」
多少、強引にでも宮下ワタルの電話番号を入手する。
「な、なにを……」と震える宮下ワタルの行く末は見なくとも分かってしまうので、知世に頼んでさっさと世界を巻き戻してもらう。
「すると俺は『まだ宮下には接触していない』状態なのに。宮下のケータイの番号を入手している――しっかりと記憶しているので」
大輔のスマホから彼のスマホに電話を掛けるだけで宮下ワタルは、必然的に大輔や知世と一緒に居たくなるという寸法だ。電話番号の入手方法や「その回」を簡単に犠牲にしている、軽んじている、弄んでいる等の批難はあろうが細工は流々、仕上げを御覧じろだ。
「……知らない番号だ。…………。…………。……はい。どちらさまですか?」
「……もしもし。宮下ワタル君のケータイで合っていますか?」
「はあ。あってますが」
「では。本日のあなたのラッキーパーソンは『親しくないクラスメート』です」
「……は?」
「『親しくないクラスメート』と放課後を過ごせばあなたはとても幸せになるで……あ、切りやがった。宮下の奴」
これでも大輔は真剣に取り組んでいた。
その隣で耳をそばだてていた知世は笑って良いやら怒って良いやらの困り顔をしていた。
「そりゃあ切られるでしょうよ。オレオレ詐欺なんて目じゃないレベルで怪しかったわよ。いまの電話」
それでも大輔は諦めない。
「……だが伝えたい事の八割九割は聞いてもらえたはずだ」
まだ作戦の途中だ。重要なのは過程ではなくて結果だ。
大輔は本作戦の遂行を目指して突き進む。
「宮下」
「……なに?」
「今日の放課後、一緒に」
「さっきの電話って真田君……? ……どこで俺の番号……いいや、もう」
「遊んでみないか? カラオケでもゲームセンターでもボーリングでも何でも」
「…………。……頭オカシイんじゃないの?」
「お、おい。宮下。待てって」
「…………」
取り付く島もなく「作戦・其の二」もこの後「明確な失敗」を迎えてしまった。
「……難しいな」と大輔は溜め息を吐いた。
「成功するまで何十回でも何百回でもリセットはするけど、何十も何百もパターンが無いのよね。正直、もう既にネタ切れな感じが……」
「……いっそ飛び降りさせるか。それで宮下の気が済むなら」
ぼそりと大輔は呟いた。
「諦めたら人生終了だけど? 宮下君の」と知世が勢い弱くツッコんだ。
「見捨てるわけでも見過ごすわけでもない。宮下が飛び降りる事は分かっているんだから先回りをして地面にクッションか何かを置けないだろうか。スカイダイビングやバンジージャンプで人生観が変わるなんて話も聞くし、パラシュートもゴムも付けずに本気で死のうと思って飛び降りたなら人生観が変わらないわけはないだろう。多分だが。それでもう自殺なんてしようとは思わないメンタルになってくれれば」
「そうね。この際だから。なんでもやってみましょう」
知世は「でも」と付け足す。
「校舎の三階から落ちても大丈夫なクッションてけっこうな厚みが必要だと思うけどどこから持ってくるの?」
「ああ。それだが体育でもたまに使っている高跳び用の分厚いマットを持ってこられないかと。陸上部の備品かもしれないが使ってたり使ってなかったりするだろう」
「なるほどね」と知世は頷いてくれたが――この高校で使用していた競技用マットは幅200センチ・長さ300センチ・厚さ50センチで重量は60キログラムもあった。
重さだけを見れば高校生男子が一人でも運べそうだが問題はその大きさだった。校庭わきの体育用具室から普通校舎の窓の下にまでこっそりと引っ張ってくる事自体は頑張りさえすれば無理ではないもののどうしても時間が必要になってしまう。
「あ……」
初回のチャレンジではマットを移動させている最中に宮下ワタルが窓から落ちた。
六時間目の後の終礼が終わってから体育用具室に向かうから間に合わないのか?
大輔は終礼をサボって体育用具室に先回りしてみたがその頃、教室では「真田君が居ない?」「早退? もうすぐ終わるのに?」「カバンなんかはまだ残ってるわよ」「どうした? 事件か?」と軽く騒ぎになってしまっていた。「前」に宮下ワタルが数学の授業に参加していなかった時とはえらい違いの反応だった。そのような状況で大輔が「こっそり」と大きなマットを移動させる事は無理だった。――やり直し。
「長崎。悪い。やっぱり手伝ってくれ」
と、か細い女子の手も借りて出来る限りに急いだ三回目もまた間に合わなかった。
「……一人二人じゃ無理か。でも誰にどうやって手伝ってもらう? こんな事をする理由をどう説明すれば良いんだ。宮下の飛び降り後を考えるとあまり大事にはしたくないんだが」
「んー。普通にクラスの皆に頼んで、マットを動かしてもらって、『ありがとー』で済むんじゃないの?」
知世が不思議そうな顔で言った。冗談では無いらしい。
「……そんなに簡単な話か? 何で、どうしては聞かれるだろう。マットの設置後も何が起こるのかと居座られるかもしれない。無理だろう」
無理じゃなかった。
「長崎さんが言うなら」
「手伝うよ」
「むしろ手伝わせてくださいレベルで」
何でもどうしても聞かれずに人手は十分に集まった。
マットの設置後も、
「みんな、ありがとう。すごく助かっちゃった」
知世が笑顔を見せると、
「いやいやいや。どういたしまして」
「こちらこそ手伝わせてもらってありがとうだよ」
「自分も何かやった感があるよな。正義を成した的な」
誰もその場に残ったりも後ろ髪を引かれている様子もなく皆、晴れ晴れしい笑顔でさっさと去って行ってしまった。
何とも簡単な話だった。
「――ね?」と知世が振り返った。大輔は眉間にシワを寄せる。
「長崎って……何なんだ?」
「ただの完璧美少女よ。ふふん。日頃の行いのおかげよね」
「……どうかしているのはクラスメートたちの方なのか? 何なんだ……」
何はともあれ、これでいつ宮下ワタルが落ちてきても大丈夫だ――と思っていたがいつまで経っても落ちてこない。見ている人が居ては落ちづらいかと思って大輔も知世も少しだけ離れた場所に隠れたりしていたのだが。
しばらくして――。
「キャーッ!!!」
遠くの方から悲鳴が聞こえた。尋常ではない声だった。
大輔と知世は顔を見合わせて、悲鳴が聞こえてきた方へと向かった。
集まりつつあった野次馬の流れに乗って二人が行き着いた場所は普通校舎の反対側だった。廊下ではなくて教室がある校舎の南側だ。
この高校の校舎にはベランダが無かった。三階にある教室の窓から身を乗り出せば地面まで一気に落ちる事が出来てしまう。
「……そうなるか」と大輔は呟いた。
一階にある三年何組だかの教室のすぐ横の地面に宮下ワタルは張り付いていた。
「死ぬつもりで飛び降りるんだから。マットが下に敷いてあるのが見えたら別の場所から落ちるわな。それはそうだ……」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる