10 / 33
10/33
しおりを挟む「宮下はどうしてそんなにも固い決意で自殺をするのか」
大輔は知世の核心を突いた問い掛け――「……それってつまり私たちに宮下君の自殺を止めることはできないってこと?」――を受け流して話を更に進めた。
「今日、何か決定的な出来事が宮下に起きたのか? 例えば、やってもいない窃盗の濡れ衣を着せられたとか」
「んぐッ!?」と知世が分かりやすく狼狽した。
そんな知世の姿を見せられてしまった大輔は、
「いや、今思い出してみてもあれは最低の行為だったな」
何故かいじわるな追い打ちをしてしまうのであった。
「ううう、うるさいわね。確かに誤認逮捕……じゃなくて誤認告発だったけど。可能性のひとつとして明示しただけじゃない。間違ってたってわかったらすぐにリセットしたんだから。リセットしちゃえば全部、全部、無かったことになってるはずだったのよ! ……なのに。本当になんで真田君は覚えてるのよ……」
「可能性の一つにしては思いっきり振りかぶってた気がするが。『南河君のお財布を盗んだ人物。それは――宮下ワタル君! アナタよ!』だったか」
「す……過ぎたことどころか完全に無くなってることをいつまでもぐちぐちと……」
知世は一度下を向いた後、勢い良く顔を上げて大輔に言い放った。
「やるからには思いっきり全力でやらないと意味がないのよ!」
その顔が赤いのは興奮のせいかそれとも羞恥心からか。知世は再び下を向く。
「……リセットする前のことを覚えてる人がいるなんて思わないじゃない……」
「宮下も――」
と大輔もそれ以上は知世をつつかずに本題へと戻った。
「――俺みたいに巻き戻される前の事を覚えていると思うか?」
「……多分だけど。それはないと思う」
知世も本題についてきてくれた。
「どうしてそう思う?」
「行動が……なんていうんだろう。全部『一回目』な感じがするから」
「うん」と大輔は頷くだけをして知世に次の言葉を促した。
「真田君の行動と比べて……うーん。なんとなくとしか言えないけど。違う気がするのよね。……ごめん。はっきりとは言えなくて。でも。宮下君は覚えてないと思う」
「……いや。俺も同じように感じていた。でもやっぱり言葉で表すのは難しいよな。『なんとなく』同士だけど意見が一致して良かった。……宮下ワタルは巻き戻される前の事を覚えていない――という事にしよう――となると今日、宮下は『窃盗の濡れ衣は着せられていない』という事になる。一番最初の回は例外として、それ以降の自殺は今日の宮下に何か大きな出来事があったせいではなくて、これまでの日々で積み重なってきたネガティブな感情がたまたま今日という日に蓄積の限界を超えたって事なんだと思う。宮下にとっては今日一日だけの問題ではなかったんじゃないか」
大輔の仮説に知世は「ああ。そっか」と軽く頷いた後、
「だったら。もっともっと深くリセットして、そのネガティブが積み重なる前の日々からやり直す?」
と首を傾げた。大輔は、
「いや」
とすぐに首を振った。早とちりした知世に年単位で世界を巻き戻されでもしたら、かなわない。
「自殺の理由が『明確な原因は無い日々の積み重ね』だとしたら、それこそ高校で宮下と同窓生になってから卒業して完全に離れるまでの三年間、彼を付きっ切りで見守らないといけなくなる。フォローし続けないといけないという事になる」
「私も真田君も宮下君の為に学校生活を送らないといけなくなるってことね」
「そう。この案もまた現実的ではない。却下だ」
「じゃあ、どうしたらいいの。……どうしようもないのかな」
弱気を打ち消そうとするかのように知世は「ああ、もうッ」と頭を振った。
「振り出しから全然、話が進まなくない? 作戦会議になってないよ」
大輔に勿体ぶっているつもりはなかったが確かに前置きが長くなっていたかもしれない。先を急ごう。
「やっぱりヒントは三例目。俺たちが目を離してからも一日、正確に言えば半日かもしれないが宮下は生きていたという事実だ」
「だから、それは飛び降りようとしていた宮下君を物理的に止められたからでしょ。でもそれを毎日は続けられないって話になったじゃない」
「本当にそうなのか?」
大輔は知世の答えを待たずに続ける。
「ゲームじゃあるまいし。物理的に阻止したボーナスでその日はクリアになるなんてルールがありえるのか?」
「ありえるのかって言われても。実際にあったんだからしょうがないじゃない」
知世は「何が言いたいのよ?」と大輔の事を軽く睨んだが、大輔は勿論、怯んだりせずに話を進める。
「俺が思うに。宮下がその日に死ななかった理由は飛び降りを阻止された事自体ではなくて、その後に俺たちと話をしたからじゃないのか」
大輔は知世に口を挟ませずに「覚えてるか?」と続けた。
「……このまま線路に飛び込むとか。しないよ。……君たちに迷惑はかけない」
「……少なくとも今日は。もう死のうとしたりしないよ」
それらはあの日に宮下が口にした言葉だ。
「そんな口約束にもなってないようなただのオシャベリで? ……律儀ね」
知世は半信半疑の顔をする。
「そういう生真面目な性格だからこそ自殺なんて道を選んでしまうのかもしれないな……。閑話休題。宮下は話せば分かる、話が通じるとも言える。今から積み重なった死にたい理由を全て排除する事は難しくても、それ以上に『生きたい』とか『生きなければいけない』と思う理由を与えてやれれば、作ってやれたら死なないんじゃないのか」
「どうにかして宮下君に『もう二度と自殺しようなんてしません』て言わせようっていうの?」
「そこまではっきりとは難しいと思うが。言葉にさせられなくても、とにかく明日も明後日も生きたい、生きなければいけないと思わせられれば」
「うーん。まあ。言いたいことはわかったけど」
知世が言った。
「具体的にはどうするの?」
大輔が答える。
「それを今から二人で考えよう」
「…………」
「…………」
互いに互いの顔を見合ったまま、数秒。その沈黙を破ったのは知世の方だった。
「……おーけー。がんばって考えましょう」
――そうして立てられた「作戦・其の一」は、
「そうだ。宮下君を遊びに誘いましょう。人生は楽しいことでいっぱいで、いま自分から死ぬなんてもったいないと思わせましょう。楽しいことと言えば『遊び』よね。カラオケでもゲームセンターでもボーリングでも何でもいいから」
であったが知世が実際に宮下ワタルを遊びに誘ってみると、
「……いいです」
「うん。じゃあ行こう」
「じゃなくて。いらないです。行かないです」
と素っ気なく断られてしまった。
「何で急に長崎さんがおれを……誰かに何か言われたんですか? ……サイアクだ」
宮下ワタルはそう言い残して窓から落ちた。作戦失敗である。
「……ああ。親しくもない異性から急に誘われたら悪質なドッキリかと思うわよね」
「もしくはカワイソウな宮下を見兼ねた先生に頼まれた優等生の長崎が義務的に優しくしてくれようとしていたと思われたか。どちらにせよプライドは傷付くわな」
「うーん。人選ミスだったかしら。次は真田君が誘ってみなさいよ」
というわけで。続いては「作戦・其の一の2」だ。
「宮下。放課後、付き合ってくれないか?」
「……何で」
「宮下と遊んでみたいと思ったからだ」
「……だから何で」
「…………」
「…………」
この作戦も失敗に終わった。
反省会だ。
「そもそも一緒に遊びに行こうというところに無理があるんじゃないか」
「うーん。この前は一緒に帰ったりしたのに」
「あれは一緒にというか俺たちが無理矢理に付き添っただけだが」
「じゃあ今回も無理矢理に連れ回して遊べばよかったのかな」
「その状況で宮下に『楽しい』とか『死ぬなんて勿体ない』とか思わせる事は無理だろう。宮下と遊ぶ事はあくまでも手段であって目的はその先だからな」
「うーん。じゃあフツウに遊べるようにまずは宮下君とフツウに仲良くなるべき? 仲良くなるには一緒に遊ぶのが手っ取り早いけど、まずは仲良くならないと一緒には遊べないから……ってアレだね。『にわとりが先か、たまごが先か』問題」
「どちらかと言うと『服を買いに行く為の服が無い』の方が近いかもな」
「あー……うん。まあ、どっちでもいいんだけど」
「そうだな。どちらでも良い話だ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
田沼さんは陰キャわいい。
春待ち木陰
キャラ文芸
田沼素子、15歳。高校一年生。前髪ぱっつんの黒髪ロングで痩せ型。やや猫背。
独特なネガティブ思考でクラスに友達が一人も居ない彼女だったがその裏で、常人には理解されがたい田沼さん特有の言動がクラスメイト達には(今日も陰キャわいいな。田沼さん。)と何故か大好評であった。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる