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十二話
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ゴードンがコメリ男爵邸の書庫に住みついていた。レイモンドはゴードンの説得を諦め、シャーロットに幾つか頼んだ。
貴重な本を粗末に扱ったりしないから書庫への友人の出入り許可と本邸の書庫には必ずレイモンドと一緒に入るようにと。
了承したシャーロットは使用人宿舎の書庫整理を本好きの少年に教えていた。
「シャーリー、学び舎が出来たら僕も行ける?」
「うん。やる気さえあれば。それに大きくなればもっと立派な学園にも」
「お貴族様じゃないのに?」
「この国は変わっていくの。身分に関係なく能力がある者が認められる。平民でもお金持ちになれるのよ」
「旦那様みたいな?」
「残念ながら男爵様はお金持ちではないわ」
「シャーリーのお家は?」
「モール公爵家は国で2番のお金持ち。でもモール公爵家のお給金は国で一番良いから男爵様よりお金持ちになれるよ。賢くて礼儀をわきまえていれば誰でも雇うのよ」
「僕も?」
「頑張りと努力次第かな。やる気があるなら礼儀作法は私が教えてあげるよ」
シャーロットは勤勉な子供達がロレンスの担う時代を支えてくれることを夢見ている。王太子襲名が終わってから男爵領民達にロレンスの目指すものをわかりやすく伝えていた。能力主義の誰にでも無限に可能性が広がる国造りを。シャーロットも演説は貴族の仮面を被れば得意である。
男爵領にはシャーロットに悪意を向ける者はいないので、卑屈で弱気な性格も少しだけ改善されていた。一番は卑屈な思考をするシャーロットにすぐに気付いて慰めるレイモンドのおかげである。
少年と話しながら書庫の整理をしていると扉が開き、ゴードンが入ってきた。シャーロットは突然、手を伸ばされ後ろに下がるも間に合わず、肩に担ぎあげられ固まった。
「殿下、殿下、だめ、急いで、逃げて、捕まっちゃ駄目」
少年は真っ青な顔のシャーロットを見て本邸に駆ける。危ないものには近づかずに逃げる。何かあれば本邸で大きい声で叫ぶと少年はシャーロットに教わっていた。
「殿下、シャーリー、大変、殿下」
少年の声に執事や侍女が慌てて動き出した。
ミズノとヒノトはお使いのため留守だった。
「お嬢様はどこに!?」
「書庫で、大人に捕まって、殿下って」
呼ばれたレイモンドが執務室から飛び出し、第一王子はゆっくりと歩いてきた。
「捜索を」
玄関の扉が開きゴードンがシャーロットを担いでいる姿を見て、一人を除いて固まった。
「殿下」
真っ青な顔のシャーロットを見て、第一王子が近づき峰内してゴードンを気絶させた。投げ出されたシャーロットの服を掴んで座らせた。
「ありがとうございます。そしてお世話になりました」
正座して頭を下げた真っ青な顔のシャーロットは短剣を握っていた。
「シャーロット、ここでは迷惑だ」
ゆっくりと立ち上がったシャーロットに周囲が覚醒しはじめた。
「男爵家の皆様、短い間でしたがお世話になりました。コメリ男爵家の繁栄を」
抜き身の短剣を握り震える声で挨拶する様子にレイモンドは駆け寄り、肩に手を置いた。
「シャーロット、待って、それから手を離そうか。」
「男爵様、私は穢れております。触れないでください。穢れた私は死を以て償うしかありません。どうか次はまともな夫人をお迎えください」
「待って、何された!?」
「お許しくださいませ」
真っ青な顔で震え下を向き首を横に振っている。
レイモンドが顔を覗き込むと目を閉じ決して視線を合わせない。
「貴族令嬢はダンスとエスコート以外で身内と婚約者以外の異性に触れさせれば不貞行為。抱きしめられたら婚約破棄されても仕方ない。担がれたのは」
「襲われたわけでは」
「そしたらもう死んでるよ。辱めを受けるなら迷いなく自刃するものだ」
レイモンドは第一王子の言葉に絶句した。シャーロットは王族の婚約者として特に厳しくしつけられていた。人に触れられることが苦手な王妃のため国王が定めたものだった。王妃に触れるのは王妃が許した王族と血縁者だけである。そんな事情はシャーロットも第一王子も知らなかった。
シャーロットの身内には血縁者のコノバ公爵家や王家、ヒノトも含まれていた。それ以外は決して必要以上に触れさせなかった。
「シャーロット、ごめん。そこは常識の違いだよ。穢れてないから、死なないで。」
「私は・・・」
シャーロットは短剣を見つめていた。
「大丈夫だから。死なないで。」
「シャーロット、当主の命令は絶対だろうが。夫人ごときが逆らうな。なぜ、投げ飛ばさない」
呆れた第一王子の声にシャーロットは顔を上げた。
「子供がいました。それに護身用を持ってなかった」
「バカが。護衛つければ?」
「王子の婚約者でないなら狙われないと油断してました。短剣を返して」
第一王子が短剣を取り上げレイモンドに渡していた。レイモンドはシャーロットを見て決めた。
「自害は禁止。ごめん。命令ね」
「殿下、一思いにバッサリと。一振りでお願いします」
「他害も駄目。」
「ではどうすれば・・・」
第一王子がシャーロットの首に手刀を降ろすと意識を失い崩れる体をレイモンドが抱きとめた。
「気絶させて、起きたら夢と思い込ませるのが早い。こうなればシャドウの話しか聞かない。」
レイモンドはシャーロットを抱き上げて、ベッドに寝かせ寝顔を見つめた。
触れられただけで自害しようとするとは思っていなかった。シャーロットが第一王子を呼んだことも自分ではなく第一王子の言葉に反応したのも気に入らなかった。
兄妹として見ていてもレイモンドには二人が特別に見えていた。あどけない寝顔を見ながらレイモンドの中で今まで見ないフリをして抑え込んでいた感情が沸き上がる。
しばらくしてシャーロットは目を開けて、首を傾げた。暗い顔をしたレイモンドがいた。
「男爵様?」
「シャーロットは殿下が好きなんじゃないの?」
シャーロットは苛立ち顔を顰めるレイモンドに息を飲む。
「え?」
「いつも二人の世界で、何かあると殿下って」
シャーロットがレイモンドを頼って相談することはほとんどなかった。いつも震えるシャーロットを見つけて、駆け寄るのはレイモンドだった。シャーロットがレイモンドに提案することは全て第一王子が知っている気がした。指先や視線でのやり取りもレイモンドには意味のわからない会話も日常茶飯事だった。
「男爵様・・」
否定せず首を傾げるシャーロットにレイモンドが顔を背けた。
「俺の妻じゃなくて、殿下と結婚したかったんじゃないの」
髪を掻き上げて苛立つ声で部屋を出て行くレイモンドをシャーロットは茫然と見ていた。
「どういうこと・・?」
ベッドの上でシャーロットはぼんやりしてしばらくすると部屋から出て行った。
「ヒノト、男爵様は?」
「出かけたよ」
「そう・・。」
レイモンドの外出予定はなかった。シャーロットは厩に行くと、レイモンドの愛馬がいなかった。
「シャーリー、呼んでこようか?」
シャーロットがレイモンドを探す様子にヒノトが声を掛けると首を横に振った。
「なら中で待とう。もうすぐ食事だよ」
首を横に振るシャーロットにヒノトは苦笑して、手を繋いで本邸に戻った。
シャーロットはずっと玄関の前で立っていた。
「シャーリー、帰ってきたら知らせるよ。嫌なんだね・・・。せめて座って待ってて」
ヒノトが玄関の扉の横に椅子を用意するとシャーロットが頷いて膝を抱えて座った。
晩餐の時間になっても帰ってこないレイモンドをシャーロットはずっと玄関で待っていた。第一王子はシャーロットが頑固なのを知っているので放っておいた。
シャーロットは隣にいるヒノトに手を伸ばそうとしてやめた。レイモンドの言葉を思い出しミズノを呼んで抱きしめた。
「嫌われたかな。私が役立たずだから・・。」
犬姿のミズノに顔を埋めるシャーロットを見ながら、ヒノトは頭を撫でた。ヒノトは夜勤は自分達がするので人払いを執事長に頼み了承させた。
ヒノトはミズノに顔を埋めて動かないシャーロットに毛布を掛けて離れた。
この状態になった時の指示を受けていた。ヒノトはシャーロットの世界に入ってきたレイモンドに複雑な想いを隠して、命令通りに動き出した。
男爵夫妻の初めての夫婦喧嘩を使用人達が心配そうに遠くから眺めていた。
***
レイモンドは部屋を飛び出し厩に行き、乗馬し疾走した。しばらく駆け馬から降りて、湖をぼんやりと眺めていた。どれくらい時間が経ったかわからなかった。
「喧嘩したかい?」
振り向くとモール公爵とヒノトがいた。
「ヒノト、誰も近づけないで離れていてくれないか。誰にも聞かれたくない」
「かしこまりました」
ヒノトが礼をして離れ、モール公爵が驚いているレイモンドの隣に座った。
「どうしてここに」
「ヒノトに呼ばれた。ずっとシャーリーといてくれるかい?」
「俺はいたいです。でもどうしても悔しくて。両殿下達やヒノトに」
レイモンドを優しく温和な青年と思っているモール公爵は顔を顰めて頭を抱えている様子に優しく笑った。ヒノトはモール公爵に命じられていた。
モール公爵夫人が嘆いてもモール公爵はレイモンドに感謝していた。
第一王子がコメリ男爵邸にいるのはレイモンドのおかげである。シャーロットと第一王子が用もなく一緒にいるなどありえなかった。レイモンドがシャーロットの警戒心を解いて、的確な突っ込みをいれ、喧嘩を仲裁し二人の緩和剤になっていた。今まで誰にもできなかったことだった。シャーロットの味方でも王子に敬意を払い中立の立ち位置を保てる者はいなかった。
「どこから話そうか・・・。国王陛下は王妃にしか興味がないんだよ。王妃も殿下に興味はない。殿下は国王夫妻から愛情を与えられずに厳しく躾けられて育った。昔から王妃が気に入っていたのがシャーリーとロレンスとシャドウなんだよ。シャーリーは赤子の頃から王妃のお気に入りだったから国王は王妃が喜ぶと思い殿下の婚約者に選んだんだ。」
レイモンドは自分の隣に座り語り出したモール公爵に戸惑っていた。婚約の事情に驚きながら、母に認められたかったと願った第一王子を思い出した。
「子供の頃から二人は仲が悪かったよ。だから私が教え込んだ。何があっても婚約者だけは誰よりも信じるように。社交界では時に身内も敵になるけど、二人だけは敵になってはいけない。どんなことも協力して乗り越えられるようにしなさいって。
二人で取り組む課題も与えた。でも結局上手くはいかなかったけどね。王妃は殿下よりもシャーリーを大事にしていた。だから何かあれば殿下を盾にするように教え込んでいた。殿下にも婚約者は何があっても守るように厳しく教え込んでいた。王族の教えとしてはおかしいんだけど、刷り込みだ。だから何かあればシャーリーは殿下を探す。幼い頃からずっと後宮で育ったシャーリーと殿下は兄妹みたいなものだよ。そう言っても難しいよね。シャーリーは殿下が嫌いでも昔から両親に厳しく育てられた一人ぼっちの殿下に同情しているんだよ。シャーリーは殿下との婚約が決まった時はショックで1週間笑わなかったんだ。ヒノトとミズノを引き取ったおかげで笑顔が戻ったけどね。シャーリーの友達は二人だけだったから。小さい頃から王族に特別扱いを受けるシャーリーには敵しかいなかったから。私は君が殿下の友達になってくれて嬉しいけど、嫌なら追い出していいんだよ」
レイモンドは第一王子を好ましく思っていた。それでも好きな子と親しい姿に無理矢理理由をつけて我慢していた。とうとう必死で見ないフリをした不安と不満がこぼれてしまった。レイモンドにとってそれだけ衝撃的な光景だった。真っ青なシャーロットが呼んだ名前が・・。
「殿下が嫌なんじゃなくて、俺は・・・」
「シャーリー、ずっと玄関で待ってるんだよ」
「は?」
レイモンドとシャーロットはまだ夫婦として始まったばかりだった。第一王子が同居しているので、いつかレイモンドが嫉妬する可能性をモール公爵は危惧していた。仲が悪いのに周囲からは不仲に見えないように無意識に見せ方を知っている二人だから。
驚いているレイモンドに優しい笑みを浮かべた。
「君に嫌われたってミズノを抱いて動かないって。普段は子ウサギなのに、時々頑固で困った子だよ。レイモンド、正直に言ってごらん。仲良くするのが嫌だって。我慢しないで向き合うのも大事だよ。逃げたい気持ちもわかるけど。シャーリーの世界に入ってきた他人は初めてだよ。シャーリーは2度だけお願いしたことがあるんだ。1度はミズノ達を側におくこと、2度目は君と共にいること。それ以外のシャーリー個人での願いは聞いたことがない。」
レイモンドはシャーロットの過去はあまり知らない。モール公爵の優しい空気に冷静になった。シャーロットに傍にいたいと願われたのは嬉しかった。泣いてる姿が脳裏に浮かび立ち上がった。
「帰ります。すみませんでした」
「いや、喧嘩するのは悪い事ではない。できるだけ二人で解決しなさい。・・・コノバが怖いから。でもいつでも相談においで。君も大変だろう。コクに頼んでいいから」
自身の父親よりも頼りになる温和な義父に笑みを溢した。レイモンドにとって頼れる相手は少なかった。
「ありがとうございます。泊まられますか?」
「また今度ゆっくり訪問するよ。気をつけて帰りなさい」
レイモンドは礼をして男爵邸に馬を走らせると空は明るくなり始めていた。
男爵邸の扉を開けるとシャーロットがミズノを抱いていた。
シャーロットは扉の開く音に顔を上げた。
「ただいま」
「お帰りなさい。私、」
震えて真っ青な顔で涙を溢したシャーロットの頭にレイモンドは手を置いた。
「ごめん。嫉妬しただけ。俺は君が好きだから、君が助けを呼ぶなら自分が呼ばれたかった」
シャーロットは首を横に振った。
「男爵様は、危ないことは駄目。大事な御身、です。殿下はどうなっても構いません」
泣きながら溢された言葉にレイモンドが笑った。シャーロットにとって第一王子よりも自分が大事にされているのがわかった。
「好きな子を助けるのは自分でありたいと思うんだよ」
「いつも助けてもらってばかりです・・・。頑張るから嫌いにならないで」
「頑張らなくても君が好きだよ。嫌いになったりしない」
「私は殿下と婚姻なんてしたくない。男爵様でよかったって、ずっと。いかないで」
頬を伝う涙をレイモンドは指でそっと拭った。
「ごめん。でも俺は嫉妬深いから自信ない。身内でもシャーロットと親しい人間を見るとまたきつく当たるかもしれない」
「意地悪してもいいから、置いてかないで」
「気をつけるよ。休もうか」
シャーロットは立ち上がり、ミズノを毛布に包んで、椅子の上に寝かせた。
「ミズノは?」
「ミズノと夜は別に寝ようって話したの。一人で寂しい時だけ来てくれるって」
レイモンドはシャーロットの手を引いて寝室に行った。夜着に着替えるため離れようとするとシャーロットが手を離さなかった。
上着を脱いだレイモンドがベッドに横になるとシャーロットが抱きついた。
レイモンドはそっと抱きしめて眠りについた。
翌朝、ミズノから詳細を聞いた使用人達は寝室に近づかなかった。
明け方に眠った二人をゆっくりさせることにした。
お昼過ぎにレイモンドが目を覚ますと、胸を掴んで眠っているシャーロットを見て起きようか悩んでいた。しばらくするとシャーロットが目を開けて、首を傾げた。
「男爵様?」
「まだ寝ててもいいよ」
「一緒がいい」
「わかったよ。好きにして」
嬉しそうに抱きつく腕に力をこめるシャーロットが満足するまでレイモンドは抱きしめていた。シャーロットは置いていかれた不安からずっとレイモンドの後を付いて歩いていた。用事は全てミズノ達に任せて離れなかった。シャーロットにとってゴードンによる恐怖の出来事は頭から抜け落ちていた。レイモンドが出て行ってしまった不安に襲われ、嫌われていないことに心底安堵していた。
ゴードンは本の続巻が見つからずに本能のままにシャーロットを連れ出した。
第一王子に指導を受けるために訪問したケイルは事情を聞いて兄を叱り飛ばした。ゴードンはケイルに連れられ帰宅した。
レイモンドは自殺騒ぎのことを忘れたシャーロットに自害と他害の禁止を命じた。不思議そうなシャーロットの頭を撫でながら、しっかりと言い聞かせた。肩に担ぎあげられ自刃しようとするシャーロットを見て、自分のいない時の下位貴族との社交は参加させないことを決めた。触れ合いが禁忌ではない距離の近い自分達を見て何が起こるかわからなかった。
シャーロットに上位貴族の常識がわからないと相談すると、分厚い直筆の本が贈られた。読書が苦手なレイモンドは必死に読み進めながら、第一王子にも教えを乞いにいった。第一王子は完璧主義なモール公爵令嬢に呆れながらも要点だけ説明していた。
第一王子に負けないシャーロットは勝率はほぼ引き分けだった。そしてシャーロットの扱いを一応わかっている第一王子の方が上手なことに気付いていなかった。喧嘩に途中で飽きて勝ちを譲られていたことも。
第一王子はモール公爵家の優秀さを知っていた。完璧主義な一族が求める水準に付いていけない凡人が多いことも。
そして凡人の代表のようなレイモンドの面倒を気まぐれでみていた。
レイモンドは単体なら教師として厳しく恐怖の象徴だが二人一緒なら国一番の教師に教えを乞うていることに気付いていなかった。
貴重な本を粗末に扱ったりしないから書庫への友人の出入り許可と本邸の書庫には必ずレイモンドと一緒に入るようにと。
了承したシャーロットは使用人宿舎の書庫整理を本好きの少年に教えていた。
「シャーリー、学び舎が出来たら僕も行ける?」
「うん。やる気さえあれば。それに大きくなればもっと立派な学園にも」
「お貴族様じゃないのに?」
「この国は変わっていくの。身分に関係なく能力がある者が認められる。平民でもお金持ちになれるのよ」
「旦那様みたいな?」
「残念ながら男爵様はお金持ちではないわ」
「シャーリーのお家は?」
「モール公爵家は国で2番のお金持ち。でもモール公爵家のお給金は国で一番良いから男爵様よりお金持ちになれるよ。賢くて礼儀をわきまえていれば誰でも雇うのよ」
「僕も?」
「頑張りと努力次第かな。やる気があるなら礼儀作法は私が教えてあげるよ」
シャーロットは勤勉な子供達がロレンスの担う時代を支えてくれることを夢見ている。王太子襲名が終わってから男爵領民達にロレンスの目指すものをわかりやすく伝えていた。能力主義の誰にでも無限に可能性が広がる国造りを。シャーロットも演説は貴族の仮面を被れば得意である。
男爵領にはシャーロットに悪意を向ける者はいないので、卑屈で弱気な性格も少しだけ改善されていた。一番は卑屈な思考をするシャーロットにすぐに気付いて慰めるレイモンドのおかげである。
少年と話しながら書庫の整理をしていると扉が開き、ゴードンが入ってきた。シャーロットは突然、手を伸ばされ後ろに下がるも間に合わず、肩に担ぎあげられ固まった。
「殿下、殿下、だめ、急いで、逃げて、捕まっちゃ駄目」
少年は真っ青な顔のシャーロットを見て本邸に駆ける。危ないものには近づかずに逃げる。何かあれば本邸で大きい声で叫ぶと少年はシャーロットに教わっていた。
「殿下、シャーリー、大変、殿下」
少年の声に執事や侍女が慌てて動き出した。
ミズノとヒノトはお使いのため留守だった。
「お嬢様はどこに!?」
「書庫で、大人に捕まって、殿下って」
呼ばれたレイモンドが執務室から飛び出し、第一王子はゆっくりと歩いてきた。
「捜索を」
玄関の扉が開きゴードンがシャーロットを担いでいる姿を見て、一人を除いて固まった。
「殿下」
真っ青な顔のシャーロットを見て、第一王子が近づき峰内してゴードンを気絶させた。投げ出されたシャーロットの服を掴んで座らせた。
「ありがとうございます。そしてお世話になりました」
正座して頭を下げた真っ青な顔のシャーロットは短剣を握っていた。
「シャーロット、ここでは迷惑だ」
ゆっくりと立ち上がったシャーロットに周囲が覚醒しはじめた。
「男爵家の皆様、短い間でしたがお世話になりました。コメリ男爵家の繁栄を」
抜き身の短剣を握り震える声で挨拶する様子にレイモンドは駆け寄り、肩に手を置いた。
「シャーロット、待って、それから手を離そうか。」
「男爵様、私は穢れております。触れないでください。穢れた私は死を以て償うしかありません。どうか次はまともな夫人をお迎えください」
「待って、何された!?」
「お許しくださいませ」
真っ青な顔で震え下を向き首を横に振っている。
レイモンドが顔を覗き込むと目を閉じ決して視線を合わせない。
「貴族令嬢はダンスとエスコート以外で身内と婚約者以外の異性に触れさせれば不貞行為。抱きしめられたら婚約破棄されても仕方ない。担がれたのは」
「襲われたわけでは」
「そしたらもう死んでるよ。辱めを受けるなら迷いなく自刃するものだ」
レイモンドは第一王子の言葉に絶句した。シャーロットは王族の婚約者として特に厳しくしつけられていた。人に触れられることが苦手な王妃のため国王が定めたものだった。王妃に触れるのは王妃が許した王族と血縁者だけである。そんな事情はシャーロットも第一王子も知らなかった。
シャーロットの身内には血縁者のコノバ公爵家や王家、ヒノトも含まれていた。それ以外は決して必要以上に触れさせなかった。
「シャーロット、ごめん。そこは常識の違いだよ。穢れてないから、死なないで。」
「私は・・・」
シャーロットは短剣を見つめていた。
「大丈夫だから。死なないで。」
「シャーロット、当主の命令は絶対だろうが。夫人ごときが逆らうな。なぜ、投げ飛ばさない」
呆れた第一王子の声にシャーロットは顔を上げた。
「子供がいました。それに護身用を持ってなかった」
「バカが。護衛つければ?」
「王子の婚約者でないなら狙われないと油断してました。短剣を返して」
第一王子が短剣を取り上げレイモンドに渡していた。レイモンドはシャーロットを見て決めた。
「自害は禁止。ごめん。命令ね」
「殿下、一思いにバッサリと。一振りでお願いします」
「他害も駄目。」
「ではどうすれば・・・」
第一王子がシャーロットの首に手刀を降ろすと意識を失い崩れる体をレイモンドが抱きとめた。
「気絶させて、起きたら夢と思い込ませるのが早い。こうなればシャドウの話しか聞かない。」
レイモンドはシャーロットを抱き上げて、ベッドに寝かせ寝顔を見つめた。
触れられただけで自害しようとするとは思っていなかった。シャーロットが第一王子を呼んだことも自分ではなく第一王子の言葉に反応したのも気に入らなかった。
兄妹として見ていてもレイモンドには二人が特別に見えていた。あどけない寝顔を見ながらレイモンドの中で今まで見ないフリをして抑え込んでいた感情が沸き上がる。
しばらくしてシャーロットは目を開けて、首を傾げた。暗い顔をしたレイモンドがいた。
「男爵様?」
「シャーロットは殿下が好きなんじゃないの?」
シャーロットは苛立ち顔を顰めるレイモンドに息を飲む。
「え?」
「いつも二人の世界で、何かあると殿下って」
シャーロットがレイモンドを頼って相談することはほとんどなかった。いつも震えるシャーロットを見つけて、駆け寄るのはレイモンドだった。シャーロットがレイモンドに提案することは全て第一王子が知っている気がした。指先や視線でのやり取りもレイモンドには意味のわからない会話も日常茶飯事だった。
「男爵様・・」
否定せず首を傾げるシャーロットにレイモンドが顔を背けた。
「俺の妻じゃなくて、殿下と結婚したかったんじゃないの」
髪を掻き上げて苛立つ声で部屋を出て行くレイモンドをシャーロットは茫然と見ていた。
「どういうこと・・?」
ベッドの上でシャーロットはぼんやりしてしばらくすると部屋から出て行った。
「ヒノト、男爵様は?」
「出かけたよ」
「そう・・。」
レイモンドの外出予定はなかった。シャーロットは厩に行くと、レイモンドの愛馬がいなかった。
「シャーリー、呼んでこようか?」
シャーロットがレイモンドを探す様子にヒノトが声を掛けると首を横に振った。
「なら中で待とう。もうすぐ食事だよ」
首を横に振るシャーロットにヒノトは苦笑して、手を繋いで本邸に戻った。
シャーロットはずっと玄関の前で立っていた。
「シャーリー、帰ってきたら知らせるよ。嫌なんだね・・・。せめて座って待ってて」
ヒノトが玄関の扉の横に椅子を用意するとシャーロットが頷いて膝を抱えて座った。
晩餐の時間になっても帰ってこないレイモンドをシャーロットはずっと玄関で待っていた。第一王子はシャーロットが頑固なのを知っているので放っておいた。
シャーロットは隣にいるヒノトに手を伸ばそうとしてやめた。レイモンドの言葉を思い出しミズノを呼んで抱きしめた。
「嫌われたかな。私が役立たずだから・・。」
犬姿のミズノに顔を埋めるシャーロットを見ながら、ヒノトは頭を撫でた。ヒノトは夜勤は自分達がするので人払いを執事長に頼み了承させた。
ヒノトはミズノに顔を埋めて動かないシャーロットに毛布を掛けて離れた。
この状態になった時の指示を受けていた。ヒノトはシャーロットの世界に入ってきたレイモンドに複雑な想いを隠して、命令通りに動き出した。
男爵夫妻の初めての夫婦喧嘩を使用人達が心配そうに遠くから眺めていた。
***
レイモンドは部屋を飛び出し厩に行き、乗馬し疾走した。しばらく駆け馬から降りて、湖をぼんやりと眺めていた。どれくらい時間が経ったかわからなかった。
「喧嘩したかい?」
振り向くとモール公爵とヒノトがいた。
「ヒノト、誰も近づけないで離れていてくれないか。誰にも聞かれたくない」
「かしこまりました」
ヒノトが礼をして離れ、モール公爵が驚いているレイモンドの隣に座った。
「どうしてここに」
「ヒノトに呼ばれた。ずっとシャーリーといてくれるかい?」
「俺はいたいです。でもどうしても悔しくて。両殿下達やヒノトに」
レイモンドを優しく温和な青年と思っているモール公爵は顔を顰めて頭を抱えている様子に優しく笑った。ヒノトはモール公爵に命じられていた。
モール公爵夫人が嘆いてもモール公爵はレイモンドに感謝していた。
第一王子がコメリ男爵邸にいるのはレイモンドのおかげである。シャーロットと第一王子が用もなく一緒にいるなどありえなかった。レイモンドがシャーロットの警戒心を解いて、的確な突っ込みをいれ、喧嘩を仲裁し二人の緩和剤になっていた。今まで誰にもできなかったことだった。シャーロットの味方でも王子に敬意を払い中立の立ち位置を保てる者はいなかった。
「どこから話そうか・・・。国王陛下は王妃にしか興味がないんだよ。王妃も殿下に興味はない。殿下は国王夫妻から愛情を与えられずに厳しく躾けられて育った。昔から王妃が気に入っていたのがシャーリーとロレンスとシャドウなんだよ。シャーリーは赤子の頃から王妃のお気に入りだったから国王は王妃が喜ぶと思い殿下の婚約者に選んだんだ。」
レイモンドは自分の隣に座り語り出したモール公爵に戸惑っていた。婚約の事情に驚きながら、母に認められたかったと願った第一王子を思い出した。
「子供の頃から二人は仲が悪かったよ。だから私が教え込んだ。何があっても婚約者だけは誰よりも信じるように。社交界では時に身内も敵になるけど、二人だけは敵になってはいけない。どんなことも協力して乗り越えられるようにしなさいって。
二人で取り組む課題も与えた。でも結局上手くはいかなかったけどね。王妃は殿下よりもシャーリーを大事にしていた。だから何かあれば殿下を盾にするように教え込んでいた。殿下にも婚約者は何があっても守るように厳しく教え込んでいた。王族の教えとしてはおかしいんだけど、刷り込みだ。だから何かあればシャーリーは殿下を探す。幼い頃からずっと後宮で育ったシャーリーと殿下は兄妹みたいなものだよ。そう言っても難しいよね。シャーリーは殿下が嫌いでも昔から両親に厳しく育てられた一人ぼっちの殿下に同情しているんだよ。シャーリーは殿下との婚約が決まった時はショックで1週間笑わなかったんだ。ヒノトとミズノを引き取ったおかげで笑顔が戻ったけどね。シャーリーの友達は二人だけだったから。小さい頃から王族に特別扱いを受けるシャーリーには敵しかいなかったから。私は君が殿下の友達になってくれて嬉しいけど、嫌なら追い出していいんだよ」
レイモンドは第一王子を好ましく思っていた。それでも好きな子と親しい姿に無理矢理理由をつけて我慢していた。とうとう必死で見ないフリをした不安と不満がこぼれてしまった。レイモンドにとってそれだけ衝撃的な光景だった。真っ青なシャーロットが呼んだ名前が・・。
「殿下が嫌なんじゃなくて、俺は・・・」
「シャーリー、ずっと玄関で待ってるんだよ」
「は?」
レイモンドとシャーロットはまだ夫婦として始まったばかりだった。第一王子が同居しているので、いつかレイモンドが嫉妬する可能性をモール公爵は危惧していた。仲が悪いのに周囲からは不仲に見えないように無意識に見せ方を知っている二人だから。
驚いているレイモンドに優しい笑みを浮かべた。
「君に嫌われたってミズノを抱いて動かないって。普段は子ウサギなのに、時々頑固で困った子だよ。レイモンド、正直に言ってごらん。仲良くするのが嫌だって。我慢しないで向き合うのも大事だよ。逃げたい気持ちもわかるけど。シャーリーの世界に入ってきた他人は初めてだよ。シャーリーは2度だけお願いしたことがあるんだ。1度はミズノ達を側におくこと、2度目は君と共にいること。それ以外のシャーリー個人での願いは聞いたことがない。」
レイモンドはシャーロットの過去はあまり知らない。モール公爵の優しい空気に冷静になった。シャーロットに傍にいたいと願われたのは嬉しかった。泣いてる姿が脳裏に浮かび立ち上がった。
「帰ります。すみませんでした」
「いや、喧嘩するのは悪い事ではない。できるだけ二人で解決しなさい。・・・コノバが怖いから。でもいつでも相談においで。君も大変だろう。コクに頼んでいいから」
自身の父親よりも頼りになる温和な義父に笑みを溢した。レイモンドにとって頼れる相手は少なかった。
「ありがとうございます。泊まられますか?」
「また今度ゆっくり訪問するよ。気をつけて帰りなさい」
レイモンドは礼をして男爵邸に馬を走らせると空は明るくなり始めていた。
男爵邸の扉を開けるとシャーロットがミズノを抱いていた。
シャーロットは扉の開く音に顔を上げた。
「ただいま」
「お帰りなさい。私、」
震えて真っ青な顔で涙を溢したシャーロットの頭にレイモンドは手を置いた。
「ごめん。嫉妬しただけ。俺は君が好きだから、君が助けを呼ぶなら自分が呼ばれたかった」
シャーロットは首を横に振った。
「男爵様は、危ないことは駄目。大事な御身、です。殿下はどうなっても構いません」
泣きながら溢された言葉にレイモンドが笑った。シャーロットにとって第一王子よりも自分が大事にされているのがわかった。
「好きな子を助けるのは自分でありたいと思うんだよ」
「いつも助けてもらってばかりです・・・。頑張るから嫌いにならないで」
「頑張らなくても君が好きだよ。嫌いになったりしない」
「私は殿下と婚姻なんてしたくない。男爵様でよかったって、ずっと。いかないで」
頬を伝う涙をレイモンドは指でそっと拭った。
「ごめん。でも俺は嫉妬深いから自信ない。身内でもシャーロットと親しい人間を見るとまたきつく当たるかもしれない」
「意地悪してもいいから、置いてかないで」
「気をつけるよ。休もうか」
シャーロットは立ち上がり、ミズノを毛布に包んで、椅子の上に寝かせた。
「ミズノは?」
「ミズノと夜は別に寝ようって話したの。一人で寂しい時だけ来てくれるって」
レイモンドはシャーロットの手を引いて寝室に行った。夜着に着替えるため離れようとするとシャーロットが手を離さなかった。
上着を脱いだレイモンドがベッドに横になるとシャーロットが抱きついた。
レイモンドはそっと抱きしめて眠りについた。
翌朝、ミズノから詳細を聞いた使用人達は寝室に近づかなかった。
明け方に眠った二人をゆっくりさせることにした。
お昼過ぎにレイモンドが目を覚ますと、胸を掴んで眠っているシャーロットを見て起きようか悩んでいた。しばらくするとシャーロットが目を開けて、首を傾げた。
「男爵様?」
「まだ寝ててもいいよ」
「一緒がいい」
「わかったよ。好きにして」
嬉しそうに抱きつく腕に力をこめるシャーロットが満足するまでレイモンドは抱きしめていた。シャーロットは置いていかれた不安からずっとレイモンドの後を付いて歩いていた。用事は全てミズノ達に任せて離れなかった。シャーロットにとってゴードンによる恐怖の出来事は頭から抜け落ちていた。レイモンドが出て行ってしまった不安に襲われ、嫌われていないことに心底安堵していた。
ゴードンは本の続巻が見つからずに本能のままにシャーロットを連れ出した。
第一王子に指導を受けるために訪問したケイルは事情を聞いて兄を叱り飛ばした。ゴードンはケイルに連れられ帰宅した。
レイモンドは自殺騒ぎのことを忘れたシャーロットに自害と他害の禁止を命じた。不思議そうなシャーロットの頭を撫でながら、しっかりと言い聞かせた。肩に担ぎあげられ自刃しようとするシャーロットを見て、自分のいない時の下位貴族との社交は参加させないことを決めた。触れ合いが禁忌ではない距離の近い自分達を見て何が起こるかわからなかった。
シャーロットに上位貴族の常識がわからないと相談すると、分厚い直筆の本が贈られた。読書が苦手なレイモンドは必死に読み進めながら、第一王子にも教えを乞いにいった。第一王子は完璧主義なモール公爵令嬢に呆れながらも要点だけ説明していた。
第一王子に負けないシャーロットは勝率はほぼ引き分けだった。そしてシャーロットの扱いを一応わかっている第一王子の方が上手なことに気付いていなかった。喧嘩に途中で飽きて勝ちを譲られていたことも。
第一王子はモール公爵家の優秀さを知っていた。完璧主義な一族が求める水準に付いていけない凡人が多いことも。
そして凡人の代表のようなレイモンドの面倒を気まぐれでみていた。
レイモンドは単体なら教師として厳しく恐怖の象徴だが二人一緒なら国一番の教師に教えを乞うていることに気付いていなかった。
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