魔女になった少女の物語

夕鈴

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魔女になった少女

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村のはずれには魔女が住んでいる。
常にローブを着て、決して顔を見せない魔女。
怪しい薬をつくり見目麗しい男を虜にする。

「あの小屋に近づいてはいけないよ」
「えらい人が魔法にかかってるから?」
「それもあるけど……。この村で薬を作れるのは魔女だけなんだ。ポストに手紙を入れると薬を届けてくれるんだ」
「ローブで顔を隠しているのは醜いのよ!!誰も顔を見たことがないんだもの」
「薬を餌に男を釣りたいのよ。気を付けなさい。ここには若い男はいないから、あんたが大きくなるのを待っているのかもしれないわ」
「むずかしい。よくわかんない」
「へぇ……」


村人達は魔女を怖れても、決して手を出さない。
大人は子供に教える。
身分の高いものに逆らってはいけない。
救いの手を伸ばしてくれるなら決して放してはいけない。
生きるためには手段を選ばない。
悪い未来のお妃様を追い出したのに。
豊かになると信じたのに生活は変わらないどころか悪化した。
税は上り、労役に若者は奪われる。
もちろん医師も従軍を課せられ、村から奪われた。
突然現れたローブで全身を隠した魔女が村人に求めるのは不干渉。
近づかないなら対価として必要なときだけ薬を届ける。
もしも魔女の暮らしを脅かすなら去る。
病に苦しんでいた村人にとって怪しい魔女は救いの女神でもあった。魔女のおかげで病で苦しむことはなくなった。
不満はあってもそれだけで満足するように村長にきつく言われていた。


謎に包まれた魔女のすみかでのやりとりを知るものは村には誰もいない。


魔法を使えるのは国で一握りの人間である。
村に住みついた魔女は魔法が使える選ばれた存在だった。
霧で包み、目眩ましの結界で常に棲みかを覆っている。ただ魔女の魔力を越える者に結界は通じない。
転移魔法で今日も現れた男に気づいた魔女はゴミを見るような視線を向けた。フードに隠れた顔は男には見えない。
今日は鍵の閉まった扉を通らずに笑顔で入ってきた男には。


「土産がある。茶を淹れてやろう」
「話すことはありません。答えも変わりません」
「先日茶器を贈ったから道具は揃ってるだろう。俺達の仲に遠慮はいらない」
「受け取った覚えはありません。不法侵入者と仲を繋いだ記憶もありません。もちろん怪しいものはしかるべきところに届けました」
「怪しい!?」

驚愕した男の反応を魔女は気にしない。
つい先日お茶を出すように要求した男に茶器がないと断った。心意は共に時間を過ごしたくない。もちろんお茶も飲みたくないということ。魔女はこの男に一生お茶を淹れるつもりはない。この男のためになにかするなら自害したほうがマシ。自害が許されるなら。
生きているのは生まれた義務を果たすため。
国外に出ていきたいのに、魔力のあるものは許可なしに国外に出られない。国で生まれた魔法使いを他国に流出したくない王族が作った浅はかな決まり。魔力を持つのは王族と高貴な血をひくものだけ。高貴な血をひく貴族は王に忠誠を誓っているため反感を抱かない。許可をとるのも簡単だから。ただこの魔女には決して許可がおりない。だからこそ義務を果たして命の灯火が消えるのを待っている。

「警備隊に届けました。兵は優秀なのでいずれ持ち主のもとに戻るでしょう」
「はぁ!?何が気に入らなかった!?」

魔女は言葉が通じない男に語りかける言語を知らない。過去の自分の黒歴史。男の存在は魔女にはいらない。かつて魔女は純粋な少女だった。少女の心を粉々に砕き、感情のない空っぽな魔女にしたのはこの男。先程からキャンキャンとほざいている、魔女にとって戯言が耳を通りすぎていく。

「俺は間違っていた!!君を愛しているんだ。だから、」


ローブで全身を隠した魔女は自分に伸ばされた手にビクンと体を震わせた。縋りつこうとする男から逃れるために一歩一歩後退りながら自分の体を抱き締める。

「近づかないでくださいませ」
「シルフィー」
「呼ばないでください。私に近づかないで、いや」
「俺が守る。何があっても」
「でしたら放っておいてくださいませ。私はもうその名は捨てました」
「悪かった。いくらでも謝るから戻ってきてくれ」
「ねぇ、殿下、もしも私に、あ、愛があるなら国外に出してくださいませ」
「危険だからそれは許せない。魔力がある者は狙われ捕まればどうなるかよく知ってるだろう?俺は愛しい君が辱しめを受けるのを許せない。シルフィー、意地をはらないで」

優しく囁く男に魔女は寒気に襲われる。

――――意地?かつての私を全て否定した貴方がおっしゃいますの?ねぇ、殿下?失ったものは戻りません。ひび割れ、砕き、踏み潰して、それだけでは足りませんの?これ以上なにを壊せば満足なさいますの?――――――

魔女の捨てた名前はシルフィーラ・フィーレ。
捨てたはずのシルフィーラの心は男の言葉にズキンと痛んだ。
苦しいのも痛いのも嫌。初恋を砕かれ、最後に全てのものを奪われた。余生を男への恨みに支配されて生きたくない。




シルフィーラは物心ついた時から王子の婚約者だった。
王子の堂々とした振る舞い、普段は唯我独尊だが、実は面倒見がよく年下のシルフィーラへの気遣いを忘れることはなかった。
シルフィーラの賢く優しい兄よりも視野が狭く、うっかりも多いがそこはシルフィーラが補えばいい。
完璧を装っているのに、肝心な所で抜けている無自覚の道化師をシルフィーラは大切に想っていた。
強がりだが頼りない少年が凛々しい王子様に成長したと気づいた時に婚約者に向ける感情が家族へ向けるものとは別なものに育っていたと気づいた。
婚約者が孤児の愛らしい少女に心を奪われたと気付いて、かつてないほどの胸の痛みに襲われた。
初めて見たとろけるような笑みを浮かべながら甘い言葉を少女にこぼす婚約者。シルフィーラの婚約者に伸ばされた手を両手で包み、愛らしい笑みを浮かべる少女。
シルフィーラは庭園で周囲に見せつけるように繰り広げられる光景に胸が痛くても受け入れる努力をして、見て見ぬフリをして踵を返した。
婚約者がシルフィーラに向けていたのは親愛。
それで満足しようと落とし所をきちんと見つけていた。
しばらくして約束の時間に婚約者の王子は姿を見せず、王子にエスコートされない夜会に参加すると気付いた時は一瞬息の仕方を忘れた。体が覚えている婚約者のエスコート。エスコートのない物足りなさ、見上げた時に目が合い無言でどうした?と気遣う婚約者のいない寂しさ。
夜会に息苦しさを感じたのは初めてだった。
公の場でシルフィーラを蔑ろにさえしなければその落とし所は揺るがなかっただろう。

「ここにはこんなに食べ物があるならみんなに振る舞えばいいのよ!!」

嵐に襲われ、不作となったため外国の援助が必要だった時のことだった。
シルフィーラ達が交渉のために用意した国産の香辛料を贅沢に使った豪華な晩餐料理を見た少女は無邪気な笑みで言った。
そしてメインの大皿料理を豪華な晩餐料理が用意された訳が理解できていない、下女下男達に振る舞ってしまった。
王子の寵愛を受ける少女の横暴を止められる者はいなかった。
そして外国との小麦の援助を安価で受ける取引が失敗し国は苦しくなった。
取引に使おうとしたのは国の技術力。
王国に食べ物が少なくなっても、装飾品や布の染色技術は世界屈指に磨きぬいていた。
武力も魔法も外国に及ばない。だからこそ人の手でしか形をなせない文化や技術の発展に力を入れてきた。
技術者の支援に力を入れてきた筆頭はシルフィーラの生家フィーレ侯爵家である。
民達へ課される税が増えても、技術者だけは優遇した。技術者を守るためにフィーレ侯爵家は私財の一部を王家に献上した。
シルフィーラの将来統治する国にとって技術者は金の卵である。
不作の時こそ金の卵は使いよう。最大限に生かして国の境地をのりきろうと策を練っていた。
シルフィーラ達の策を無知の少女はことごとく潰していかなければ、現状は変わっていただろう。
シルフィーラより視野の狭い少女は目先の欲と慈善を好んだ。
少女の慈善により少女の立場が悪くなり、力があるものに嫌われようともシルフィーラは気にしなかった。
最初からシルフィーラは婚約者の恋人に無関心を選んでいる。
婚約者から何も言われず、紹介もされないから関わりを持つ必要はないと思っていた。
少女を守るのも教育するのもシルフィーラの役目ではない。
それに王子に憧れる令嬢や少女に不満を持った者達からの嫌がらせに負けるような者は王族に相応しくないと思われて当然である。
王族を愛していようと、愛されていようと王族に相応しくあるために努力をしない者に向ける情はない。
社交界で、蹴落とし合いは日常茶飯事である。
シルフィーラは幼い頃から努力し、戦ってきた。
庇護すべき者、利用すべき者、親交を持つべき者、その他と線引きをしながら。
その線引きに含まなかった者はシルフィーラの宝物であるが、シルフィーラの宝箱が大きくなることは決してなかった。

「愛とは全てを犠牲にしてでも手に入れたいもの。宝は人それぞれ違うもの。守るために手段を選べないのは仕方ないこと」

王子から贈られた宝箱。いつも蓋を開けて飾っていた宝箱の蓋を閉じた。
シルフィーラは王妃教育を受けた。王族は民の前では王族という人ざるもの。ただ、只人になる瞬間もあると教わっていた。そしてシルフィーラの前の王子はいつも只人だった。ただ欲に目が眩み、利益を損なうような選択をする人ではなかった。でも王子は変わってしまった。




未来の国母王子として相応しいと評価を受けていたシルフィーラの立場が変わるのはあっという間だった。
王子の愛する少女にシルフィーラが嫌がらせをして、暗殺を計画していたという訴状を突きつけられた時は心底驚いた。
証拠を捏造され、王子がシルフィーラを切り捨てた。
シルフィーラをよく知る王子がシルフィーラの冤罪を信じたことに息が苦しく胸が痛くなった。
シルフィーラはバカじゃない。
お粗末な計画を立てるほど能無しと思われてたことにシルフィーラのプライドは傷ついた。


「失望した。お前がここまで愚かだとは知りたくなかった」

少女と少女の周囲は狡猾だった。
少女が台無しにした政策の責任や国民の不満を全てシルフィーラに向けるように仕組みはじめた。
名門侯爵家の優秀な令嬢を追い落とすには評判を落とさなけらばいけなかった。
腕のある技術者に嫉妬した者、優遇されるべき価値を理解できない者などを集め、シルフィーラへの不満の花を見事なまでに咲かせた。
シルフィーラが大事に育てた若葉が対抗しようとするのをシルフィーラは許さなかった。
どんなに根がきちんと生えた木も生命力の溢れる群れをなす草には敵わない。土壌を汚し、毒を撒き散らす支援者が育てる花に自然の力で育った純粋な木々は蹂躙されるのは明らかだった。

「侯爵令嬢様にはわからない。食べ物のない辛さが」
「お腹いっぱい大人が食べられ、子供が腹を空かせるなんておかしい!!」


王家から侯爵家への命令は、シルフィーラを勘当し、平民に落とし、代わりに王子の愛する少女を侯爵家の養女にするように。
シルフィーラの家族は証拠不十分のため、調査のやり直しを願い出た。
それが逆鱗に触れた。



「幸せになりなさい。シルフィー。ゆっくりよ」
「私達のもとに生まれてきてくれてありがとう。これは私達の選んだことだ。シルフィーが悪いんじゃない」
「俺の妹はお前だけだ。それ以外はいらない。事実をねじ曲げてまで生き延びるより、俺の真実を貫く」

王家からの命令に逆らうことを選んだフィーレ侯爵家。
ある娘を養女に迎え、王族に嫁げるように教育するようにという命令に決して首をたてにふらなかった。
シルフィーラにとって家族は宝物。厳格だが折り合いをつけるのが上手い両親と優しい兄を愛していた。

「嫌です。どうか受け入れてください。私のことなど」
「その先の言葉は許さないよ。私達の自慢の娘の悪縁を叩き切れるなら願ってもない」
「生き残れ。俺の妹はどんなに追い詰められようと幸せを掴めると俺は信じている」

父に抱き締められた記憶は一度だけ。
厳格な父の華奢なわりにがっしりとした腕で抱き締められた時の温もりを絶対に忘れないと絶望の中決めた。
淑女のお手本のような美しい微笑みを常に浮かべている母が慈愛に満ちた眼差しで抱き合う父娘を見つめていた。
いつも柔らかな笑みを浮かべていた優しい兄は冷笑を浮かべながら頭を撫でてきた。
涙を堪えたシルフィーラの頭を撫でる手は冷たく震えていた。
それでもあきらめきれないシルフィーラは王子を訪ねた。冤罪をかけられてもシルフィーラはまだ王子の婚約者であったため謁見願いを出さなくても会える権利は持っていた。
王子の部屋に案内され、目が合った瞬間にシルフィーラは王子の考えがわかってしまった。
いつもなら礼をするが、用件を伝える前に「下がれ」と命じられては訪ねた意味がなくなる。
シルフィーラは王子よりも先に口を開いた。

「私はどうなっても構いません。どうか皆は巻き込まないでくださいませ。フィーレ侯爵家は今まで王家に仕えて参りました。どうか」
「罪を認めるか?お前の過ちを」

王子は冷たい声音でシルフィーラに問いかけた。
シルフィーラの宝物である家族が命をかけても讓らなかったもの。
シルフィーラの冤罪をシルフィーラが認めれば、刑は軽くなる。
シルフィーラが愚か者に屈してまで生きながらえたいと思う家族ではない。自分を信じ支えてくれた大事な家族に軽蔑されるならシルフィーラは生きたくない。
家族からの最期の願いを叶えられる未来は見えない。それでもシルフィーラは家族の前で胸を張り、顔を上げて正々堂々とした自分でいたい。
シルフィーラを厳しくも大事に育ててくれた家族が誇ってくれるように。

「いいえ。私は後悔するような罪を犯していません。殿下が私達を裁く理由に何一つ心当たりはありません。ですが、殿下の気がすむなら跪きましょう」

シルフィーラは母親直伝の美しい微笑みを浮かべ優雅に跪いた。
王子は非を認めないシルフィーラを絶望に染めたい。泣き叫び許しを乞うなら考え直してもいい。ただシルフィーラは王子の希望を敵えることはないとわかっていた。利己主義でありプライドが高い。それでも王子の機嫌をとるために自分を曲げることはない。
そんなシルフィーラに王子がくだした罰は家族の処刑とフィーレ侯爵家の取り潰しだった。
シルフィーラは家族が殺された日、鍵をかけた宝箱を窓から放り投げた。
砕け散り、形を失った宝箱とともにシルフィーラの宝物はなくなった。家族を失い、婚約者と別れ、シルフィーラが心を動かすものはなくなった。
貴族令嬢の象徴である美しい髪を切り、これから王家のものになるだろうフィーレ侯爵邸をあとにした。
見慣れた美しい微笑みを浮かべるのではなく、澄んだ瞳で空をしばらく見上げた後、無一文になったと思えない仕草で歩き出すシルフィーラの姿を王子が見ていたことなど気付くことはなかった。



この頃のシルフィーラはまだ魔女になっていなかった。
家族のシルフィーラに幸せになってほしいという願いを叶えるために、前を向くようにしていた。
得意の薬草作りで生計をたて、生活にも慣れた頃に嵐がやってきた。
シルフィーラにとっての嵐が。
もう二度と会うことはないと思っていた王子がシルフィーラが住み着く小屋に訪ねてきた。

「元気そうだな」

恋人に向けていたのと同じ眼差しで、優しく微笑む王子。
前向きに生きようと努力していたが、実は家族からの祝福の言葉はシルフィーラにとって呪いの言葉でもあった。
ただただ生きることになんのおもしろみも活気もわかないシルフィーラはこの訪問は救いかと淡い期待を抱く。
現実は甘くなかった。
話を聞けば聞くほどシルフィーラの期待は裏切られていく。

「すまなかった。俺が勘違いをしていた。シルフィーは間違っていなかった。俺は失ってからようやく気付いた」

王子の懺悔はシルフィーラにとっての拷問だった。
シルフィーラに大きな衝撃を与えたのは王子が恋人を罰した話。
シルフィーラのいない不都合を少女は補えなかった。無能な少女への関心を王子は失い、見て見ぬフリをしていたシルフィーラの冤罪を利用して罰した。
愛のために王子が権力を用いて少女を守るならシルフィーラはかつて愛した王子のことを認められた。
幼なじみとの絆も利益も捨て、冤罪をつくってまでして手に入れた少女をポイっと捨てた。
シルフィーラには王子が少女を愛しているように見えていた。
利己主義な王子は慈しむべき民よりも愛する少女を優先していた。それならシルフィーラが捨てられても仕方ないと納得していた。

シルフィーラの顔が青くなり、呆然としている様子に王子は懺悔をやめて、シルフィーラの肩に手を伸ばした。シルフィーラは王子の手を振り払った。

「帰ってください。もう来ないで」
「また来る」

様子のおかしいシルフィーラの拒絶に王子は今は引くことにした。
シルフィーラは王子が出て行くと全身の力が抜けぱたんと膝をついた。
立ち上がる気力はなく膝を抱えて丸くなった。

「嘘でしょ?こ、この悪夢はなんですか」

髪を引っ張ると痛いため、現実ということにシルフィーラは絶望した。
絶望したシルフィーラは甲斐性も誠実さも欠片もない男を信頼し愛していた黒歴史に幻滅した。
大事な家族を失い、シルフィーラから宝物を奪った愛を信じられなくなった。
夜になると無性に遠くに行きたくなった。
王子に二度と会うことのないところまで。
王子の話を思い出せば、シルフィーラには罪はない。
シルフィーラは毎回申請しなくても海外に行くための権利を与えられていた。
頻繁に外交や取引のため異国に行くことも多かったため港の船乗り達とも顔見知りである。
シルフィーラは住んでいた小屋を出て、渡航手続きを申し込むと貴賓室に通された。そして顔見知りの者達に丁重にもてなしを受けれながら、申し訳なさそうな顔で乗船の許可がおりないかわりに王宮へ護送する手配をすると言われた。
その申し出は丁重にお断りして、王家が足を運ぶ必要のない王国で一番貧しい村に住み着いた。


そして王子が気まぐれをおこして会いにくるだろう現実にさらに絶望した。
「幸せに」という家族からの願いを叶える方法はわからない。
シルフィーラにとっての幸せはどんなものかも思い出したくない。
だから代わりに民を幸せにするために薬を配ることにした。
宝物も生きる気力も、信じるものも失ったシルフィーラは名前も捨てた。
二度とシルフィーラの宝は見つからない。
欲に目が眩んだ住人に襲われ、命が尽きるなら本望。
命が尽きるのを待つだけ。
俗世との関わりを断ち、理に縛られず、魔法に魅入られ魔法というものを追及するのが魔女といわれている。理に囚われないため忌避されることが多い。
シルフィーラは魔女になることを選んだ。
忌避され、疎まれ、いずれ駆逐されるように。
ただまだまだそんな日は訪れない。
シルフィーラは今日も自然の力でたくましく育つ植物を眺める。
今のシルフィーラにはちっとも羨ましくないたくましさ。
絶望ばかり与える王子様、人生の分岐に案内する魔法使い、押し付けがましい勇者、シルフィーラにとって望ましくないことばかりが訪ねる未来が待っていることをシルフィーラは知らず、知りたくもないだろう。
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