追憶令嬢の徒然日記

夕鈴

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第二章

第百二十八話 追憶令嬢の現実

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ごきげんよう。
レティシア・ルーンです。平穏な人生を目指す公爵令嬢ですわ。
ステイ学園3年生です。


リアナ・ルメラ男爵令嬢に申し込まれた謎の決闘中に意識を失いました。
目を開けると保健室にいました。首にはネクタイの痕が残りシエルが真っ青な顔をしていました。シエルに大丈夫と微笑みかけるとそっと抱きしめられました。あえてシエルを側に控えさせていなかったのを嗜められたのは素直に謝罪しました。できればお父様に知られたくなかったのですがきっと報告されたでしょう。学園内で噂になっていたことも含めてごまかすのは無理があるかと思いましたが、もしかしたらと。そして私が目覚めたと知った生徒達による面会の嵐が起こりました。あの場で倒れたを見ていた生徒が多かったようでリオとセリアに抱きしめられ、反撃しなかったことをクラム様とニコル様に怒られました。ルメラ様の勢いに動揺して体術を決める余裕はありませんでしたわ。二人も小柄なルメラ様が筋力があるなんて思わなかったでしょう。人は見かけによらないものですわね。ハンナとステラ、アナとリナに泣かれました。ブレア様も瞳を潤ませてましたが物凄く興奮していたので私は引いてしまいました。サリア様にお任せしました。私からルメラ様を引き剥して保健室に運んでくれたのはリオだったようで、妄想の花が咲いたようです。その後はエイミー様にレオ様、同派閥のご令嬢、アリス様などの面会が続きました。ルーン公爵令嬢として丁寧にお礼を伝え、後日なにか贈り物を用意しましょう。平等の学園なのでお付き合いは気にしなくていいのですが、そうはいかないのが貴族ですわ。

私の事情聴取はリオが担当してくれたので生徒会にも王宮にも呼ばれることはありませんでした。お父様達の報告もリオが引き受けてくれるという言葉に甘えて私は面会の対応に専念させていただきました。後日お礼にチョコケーキを贈りましょう。優秀なリオ兄様が取り仕切っていただけることに感謝しかありませんわ。


リアナ・ルメラ男爵令嬢は私の殺害未遂で王宮に護送されました。
ルメラ様の罪状はルーン公爵令嬢殺害未遂とシオン伯爵令嬢の研究品の窃盗。セリアを蹴とばしたのは事故という主張のため罪状にはありませんでした。
ルメラ様にはフラン王国でも重罪人にしか試行しない記憶さらしの魔法が使われました。記憶さらしは全ての記憶が覗かれる魔法であり王族の使用許可がないと使えない魔法です。脳に作用させる魔法のため副作用は未知。記憶喪失や精神崩壊することも多いためあまり使われることはないものです。
ルメラ様は未成年ですが、社交デビューをしている貴族に歳は関係ありません。貴族は年齢を理由に情状酌量にはなりません。
権力不干渉の平等精神の学園内で起こったこととはいえ、男爵令嬢が公爵令嬢に危害を加えたこと、国の宝であるシオン伯爵令嬢の研究品を勝手に使用した事で重罪認定されました。
ルメラ様はセリアの薬を勝手に使ったそうです。その薬は国からの依頼品であり貴重な物。セリアは限られた予算の中で好奇心を満たすための研究をしています。同じ物は作らずにデータを収集しています。そのため研究品の使い道には物凄く拘りを持っているため、ルメラ様の行動はセリアの逆鱗に触れるものでした。セリアがルメラ様に物騒なことをしそうになるのは当然ですわね。
私は無事ですし、いささか大袈裟だと思いますが男爵家が公爵家と伯爵家に逆らったのでフラン王国の貴族としては当然の罰と言わざるおえません。王家が決めた罰に異論はありませんわ。

ルメラ様の記憶を覗いたことでいくつか明らかになったことがあります。
まずはルメラ様の部屋が荒らされたのは自作自演。
私が一番驚いたのは去年の武術大会の私の殺害未遂もルメラ様が関与されていました。私を殺害しようとしていた男子生徒はルメラ男爵領の出身でルメラ様にイチコロされていました。
クロード殿下の婚約者の私を邪魔に思い、殺害依頼し失敗した時の対処まできちんと指示を出していました。
また勘違いで殺されるところでしたわ。王家と関わると禄なことがありませんわ。ルメラ様の思考回路は特殊なのでどうして勘違いしたかは気にしません。ですが学園に入学してないのに武術大会について調べ上げて、事故として処理されるような計画を立てたのは見事ですわ。ルメラ様は実は賢い方でしたのね。可愛らしい容姿に腕力もあり、イチコロという特技を持つルメラ様は常識さえ身に付ければ優秀な貴族令嬢になれたかもしれません。私は能力はなくてもクロード殿下が望むなら今世はルメラ様が殿下の婚約者に選ばれても何も言う気がありませんでしたわ。これは考えても仕方のないことですわ、
リアナ・ルメラ様は修道院送り、ルメラ男爵家は取りつぶしが決まりました。

またもう一つ明らかになったことがあります。
パドマ公爵家の傘下の伯爵家が関与していました。
1年生の時の調査が打ち切られた茶会の事件についてです。伯爵家はどんどん力をつけるうちの派閥、特に筆頭であるルーン公爵家の力を抑えるために動いていました。
伯爵令嬢はカトリーヌお姉様の茶会が失敗すれば、うちの派閥の力を削げると期待し侍女に命じて私の部屋に忍び込みバイオリンを盗みました。カトリーヌお姉様の茶会を私が壊したとすれば私が醜態持ちになり、派閥の中でも弾きものにされると期待されたようです。私がいなくてもエイミー様さえいれば滞りなく終わりますし、バイオリンは借りればすむのですが・・・。それに茶会で失敗しても令嬢の評価は下がっても派閥は揺るぎません。学びの場で失敗を学び、本番ではきちんと主催できればいいのですから。
伯爵令嬢はバイオリンを盗んだ後に見つかることを恐れて部屋に隠していたそうです。そしてそのバイオリンはなぜか彼女の弟を通してルメラ様に贈られました。

ルメラ様と伯爵令息は恋仲でした。伯爵令息がルメラ様に別れを告げる時に贈られました。

「君と一緒にいたいけど家が許さないから。
このバイオリンを僕のかわりに傍においてほしい。
僕からの贈り物とは言わないで。君との思い出は二人だけのものにしたいから」

ルメラ様はバイオリンを渡され大事に保管していたようです。どこにイチコロ要素があったかはわかりません。私はリオに同じ言葉を言われたら確実に疑います。贈り物のセンスもですが、忍ぶ恋とはいえ明らかに怪しいですわ。ルメラ様が好きな方がいたのに、他の方々もイチコロしようとしていたことに驚きですわ。ここからは説明してくれたリオの推測も入ります。伯爵姉弟はバイオリンをルメラ様がどう利用するか楽しみにしていたみたいです。
最初はこの件は伯爵令嬢と令息の独断として調査が進められていました。
伯爵令嬢はリオのファンであり婚約者におさまりマール公爵家を取り込むこと、伯爵令息は私に取り入りルーン公爵を目指していたみたいです。
ルーン公爵家の嫡男はエドワードと公言しているのを知らなかったこともリオの婚約者になっても三男なので継承権が低く、取り込むこともできないと気づかなかったことに呆れて言葉がでません。外国語が堪能でなければ、マール公爵家の嫁は務まりません。そして私は一度も耳にしたことのない伯爵家だったので、マール公爵夫妻とも親交のない令嬢は迎え入れることはないでしょう。リオの婚約者の私が言える言葉ではありませんが、マール公爵家に迎え入れる令嬢は才女ばかりです。私の不足はリオが補うので心配しなくていいと言われたので気にしません。才女ではありませんが私も嗜み程度に外国語はできますしありがたいことにマールの皆様には可愛がっていただいていますので、嫁いだ後の心配はしていません。

伯爵家は派閥争いを学園に持ち込み混乱を招いたことで取りつぶしが決まりました。
伯爵令嬢の「お父様が望んでいたから」の一言で伯爵も関与したことに。あくまで恋に狂った伯爵令嬢達の独断と言い切れば伯爵家自体の罪は立証は難しかったですが…。
平等の精神、権力不干渉の学園の秩序を乱さないための見せしめの意味もあり取り潰しになりました。
また別の理由もあるかもしれませんが、それは殿下達の領分なので気にしませんわ。リオが話さないならそれは知らなくていいことですわ。
時間はかかりましたが、今まで起こった事件は全て片付きました。さすがクロード殿下の手腕です。混乱を見事に収めたので殿下の評価がまた上がるでしょう。


ルメラ様が退学されたので、私の監禁は回避されたのでしょうか…。
でも監禁の原因はレオ様の拗らせたブラコンです。
まだ油断しないほうがいいかもしれません。何がスイッチで人は変わるかわかりませんから。それは恋に狂った今の私が一番よくわかってますわ。
ルメラ様の件で心配なことは一つだけ。
ルメラ様にイチコロされたクロード殿下は大丈夫でしょうか。罪を持つルメラ様を後宮に入れることはできません。イチコロされても犯罪者を見逃さないのクロード殿下は流石です。殿下が苦渋の決断でルメラ様の修道院送りを決めたなら心配です。
好きな人と離れるのは胸が痛いこと。
殿下、本当に大丈夫でしょうか。殿下の周りにはたくさんの優秀な方がいますし、心に寄り添ってくれるでしょう。私は何もできないので立ち直れると信じて満天の星空に祈りを捧げましょう。

ルメラ様が退学され平穏な日を迎えられると思っていましたが甘かったです。
ルメラ様の親しくしていた殿方達が嘆かれていますが殿下と陛下の判断に反対の声は上げることはありませんでした。
罪人として修道院に入れば生涯修道院の敷地で過ごさなければいけません。修道院は男子禁制なので面会も不可能。ただし警備はそこまで厳しくありません。
修道女の連れ去り、逃亡の手伝いは重罪。愛ゆえに駆け落ちする方も時々現れますが国外に出ることはできません。国境は武門貴族が守っており、国外への亡命は正当な理由がないと許されません。駆け落ちしてもルメラ様の手には犯罪者の証の刻印が刻まれるので、穏やかな生活は送れないと思います。
修道院の皆様心中お察し致します。でもルメラ様の送られる修道院は訳ありの令嬢用の特殊な修道院なので、同情は無用ですかね。信仰心の強い生粋の修道女は決して足を運ぶことのない修道院ですから。


ルメラ様のために婚約破棄された殿方は、新しい婚約者を見つけることに苦労されています。
仲介してほしいと願い出る殿方がいますが、全てお断りしています。これが私の最近の平穏でない原因ですわ。私はお父様の命令がない限り、自分本位に令嬢を傷つけた殿方の味方は絶対にしません。
殿方が焦っているのには理由があります。
卒業式まで時間はありますが良縁探しの時期がきました。
フラン王国では政略結婚が多いですが、恋愛結婚もあります。お母様も伯母様も恋愛結婚です。恋愛結婚でもお互いの家に利があることが条件ですが。
卒業式は国王陛下が来られます。卒業生の同伴者は手続きをすれば婚約者を呼ぶことができます。
まだ先の話ですが私はリオかエドワードにお願いすることになると思います。卒業式の後のパーティでエスコートするのは家に認められている存在という他家へのアピール。同世代の貴族への婚約者のお披露目の場でもありますわ。

良縁の時期になると握手を求められることが増えます。
恋愛成就の魔法は使えませんが応援することにしました。秘めた想いを告げるのは勇気がいることです。成就すれば幸せ、成就しなくても前に進むための大きな一歩になります。色恋には関わりたくありませんでしたが、お断りするよりも穏便です。恋が叶えばいいと公爵令嬢として失格な願いを抱きそうになりますが・・・。平等の学園なので道理さえ守ってもらえるならいいでしょうと素直に応援することにしました。

「ルーン嬢、あの」

声を掛けられたので足を止め、ほのかに頬を染めて言いよどむ男子生徒の手を両手で包み笑みを浮かべます。

「頑張ってくださいませ」
「いや、あの」

手を解いても目の前に立ち言いよどむ男子生徒に首を傾げます。男子生徒の目が大きく開いて勢いよく立ち去った行きました。きっと思いを伝える気合いが入ったのでしょう。直接伝えられませんが、どんな形であれ上手くいくことを願っていますわ。

「シア、何事?」

聞き慣れた声に振り向くと真後にリオがいました。最近のリオは気配を消して近づくので驚きます。動揺すると令嬢モードが剥がれるので驚きを隠して笑みを浮かべます。

「ごきげんようリオ兄様」
「手を握ってたのは何?」
「応援です」
「は?」
「恋愛成就の祈願に握手を求められます」
「嫌なんだけど」
「え?」
「俺がシア以外の令嬢の手を握って応援しても平気?」

頭に浮かんだのはリオの腕を抱くルメラ様の姿。ズキりと痛む胸は覚えのあるものです。私は恋でおかしくなっても理性を失いたくありません。目を閉じて気持ちを落ち着けて剥がれそうになっている令嬢モードを再び装備して優雅な笑みを浮かべる。顔を上げて銀の瞳を見つめます。

「リオが望むなら構いませいわ」

そっと抱き寄せられて宥めるように頭を撫でられました。急に抱きしめられると胸の鼓動が大きくなります。まずいですわ。この後に自分がどうなるかはわかってます。

「泣きそうな顔して言われても。そんなことしないから安心して、な?」

先程よりも優しい声に頷きそうになった自分に気づき自制します。貴族は感情を見せてはいけません。私はリオの行動を制限しませんわ。昔の無知な自分を振り払います。

「私は気にしませんわ。どうぞリオの心のままに」
「意地悪言ってごめん。令嬢となら構わないから男にはやめて。シアが応援する男は俺だけがいい」

私の話ですか?

「リオも胸が痛いですか?」
「ちょっと違うな。嫌なだけ」

なんとか令嬢モードを装備し顔を上げるとリオの眉間に皺があり嫌そうな顔をしていました。エイベルと違ってリオの眉間に皺ができるのは珍しく物凄く嫌なときのお顔です。
こんな顔をさせてまで、皆様のおまじないに付き合うつもりはありません。
私と握手しても何も効果はありません。どちらが大事なのかは考えるまでもありませんわ。

「わかりましたわ。お断りします」
「ありがとう。しつこい奴には俺の名前を出していい」
「いえ、」
「迷惑じゃないから。…油断してた。最近虫が増えてきたな…。邪魔ものを潰すのに夢中すぎてシアの周りが手薄になってたか」
「りお?」
「気にするな。もう一つあるんだけど、俺以外から絶対に魔石を受け取らないで」

当分課外授業もありませんし、魔石を個人的にもらう機会は思いつきません。
私は魔法が使えない設定なのでリオにたくさんもらってますが…。セリアが実験用に集めてるのは例外でしょうか?リオが用件だけ言うなら理由は知らなくていいことでしょう。人生は知らなくていいことばかりですわ。

「わかりましたわ」
「ありがとう」

リオの顔が近づき胸の鼓動がまた大きくなってきました。そっと頬に口づけされて胸の鼓動が速くなり、顔が熱くなります。甘い笑顔で見つめられもうどうすればいいかわかりません。甲高い悲鳴が響き、悲鳴?恐る恐る周囲を見ると視線を集めており、ここは廊下でした。リオの胸を力一杯手で押して距離を取ります。

「リオ、ここ廊下」
「それが?」

甘く微笑み私の髪に手を伸ばすリオに捕まらないようにトンズラしますわ。顔は赤く公爵令嬢としてありえません。追いかけてくるリオのために足を止めたりしません。追ってくるリオなんて無視ですわ。恋に狂いたくないのに、自分が制御できませんわ。



翌日、クラスメイトのご令嬢が魔石を贈られたと喜び、お友達に祝福されている姿が目に映りました。そこまで喜ぶ魔石の使い道について気になり近くにいたブレア様に聞くと目を見開いて固まりました。しばらくしてサリア様がブレア様の肩をポンと叩くと何度か瞬きをして大きく目を開けたまま私を見ました。

「レティシア様、知らなかったんですか!?ハンカチは?マール様にハンカチは贈りましたか!?」

あまりの勢いに驚きながら、動揺を隠して口を開きます。

「ハンカチは贈りましたわ」
「自分の象徴を刺繍しました?」
「象徴?」
「何を刺繍しました?」
「マール公爵家の紋章を」

ブレア様がまた固りました。そして今度はサリア様も同じく…。何かを書いていたセリアが顔を上げて笑っています。物凄く嫌な予感がします。これって知らない方がいいことの予感が…。
ブレア様の肩が震え出しました。撤退いえトンズラしたほうがいいでしょうか。

「ハンカチは傍にいない時も自分を思い出してもらうために贈ります。いつでも自分を想っていてほしいって令嬢達の決死の告白です」

決死の告白?いつも?
興奮しているブレア様、動き出して淑やかに微笑むサリア様。セリアは頼りになりません。声を掛けるなら一番安全そうな、

「サリア様、贈られるご令嬢がいますの?」
「たくさんいますよ。皆様必死です。快くハンカチを受け取ってもらえれば晴れて両思いです」
「マール様もレティシア様以外に渡されたことあると思いますよ?」
「リオは優しいので断れませんわ。強引に押し付けて受け取っていただくことに意味はあるのでしょうか」
「思いを向けてもらえなくても、受け取ってもらえるだけでも幸せですよ。ハンカチを見て自分を思い出してもらう。令嬢達の流行ですわ」

うっとり話すブレア様。恋人同士でも怖いのに、片思いでも成立しますの!?怨念の籠ってそうなハンカチを持ち歩くのは……。

「殿方に迷惑では、」
「人にもよりますが、誰にもハンカチを渡されない方は惨めだと思います」
「ハンカチに込める思いが強すぎて怖いです」
「レティシア様には刺激が強いかしら?」

サリア様が笑ってますがどれだけ理由を聞いてもドン引きですわ。いくつかエピソードを話してくれますが恐怖しかありませんわ。ハンカチに込める思いを聞けば聞くほど令嬢達の怨念いえ恋心も行動も積極的すぎて怖いですわ…。

「マール様には贈りますか?」

目を輝かせるブレア様に首を横に振ります。

「贈れません。そんな怖いもの」
「喜ばれると思いますが」
「ありえませんわ。引かれて苦笑される未来が見えますわ」
「そんなことはないと思いますが…。でもレティシア様、マール様から魔石を受け取ってますよね?」

リオに贈られた制服に常に付けている魔石のブローチをじっと見られていますが、嫌な予感がします。

「自衛のためにいただいてますが」

「手作りの魔石をもらうのは殿方からの告白です。受け取るのは了承の証。身につけるのは、私は貴方のものですよってことです。殿方から所有印をつけられたようなものです」

ブレア様の言葉の意味を理解するのを頭が拒否しました。いえ、思考を止めれば人は死にますわ。
待って。私はいつから魔石を?

「リオはきっと知りませんわ。誤解を招かないように外したほうがいいですね。無知とは恐ろしいことですわ」

ブローチを外そうとする手をセリアに掴まれました。

「レティ、リオ様は確信犯よ。気にせずつけてなさい」

「いえ、まさか。それに恥ずかしいですわ」

「今更よ。ずっと身につけてたんだから、もう見慣れてるわ。自衛のために必要なものでしょ?」

確かに身の安全が優先ですわ。そしてブローチはいつもシエルに確認されます。必要なものなら仕方ありません。リオからの贈り物と言わなければ気づかれませんよね。
あら?
魔石と言えばセリアも…。

「セリアがたくさん魔石をもらってるのは?」

「セリア様にお近づきになりたい方々のアプローチですわ」
「そんなにたくさんの人からもらって大丈夫ですの?」
「セリア様のお力になりたい方ばかりなので問題ありません」

セリアはもの凄く人気があったんですね。
興味なさそうなので気づきませんでした。セリアは社交は駄目なので相手は私が見極めないといけませんわ。

「レティ、私のことは心配しないで。余計なことはしないで」
「セリア、心の中を読まないで」
「顔に出てるのよ」

ポンと肩を叩くセリアの呆れた声に睨みかえそうとするも先生が来ましたわ。
魔石もハンカチも恥ずかしいです。知らなければいいことでしまわ。
もう無理です。朝なのに今日は疲れましたわ。取りあえず授業の準備を始めましょう。人生は知らなければ幸せなことばかりですわ。
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