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パラレル レティシアの初恋の結末その1
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セリアに邪魔され、レティシアに会うことのできないリオはサイラスの助言通りにエイベルの部屋に向かっていた。
セリアはエイベルの部屋に近づくことはない。
そして生徒会の先輩であり、リオより家格の低いエイベルはリオの頼みを断れないのでレティシアと会うには最適だった。
リオがエイベルの部屋を訪問することはないと思っているレティシアは今日もエイベルの部屋で過ごしていた。
「全然わかりません。少し休憩しますわ」
エイベルの膝を枕にエイベルの部屋にある兵法の本を読んでいたレティシアは理解不能の内容に疲れて目を閉じた。
エイベルは自分の膝を枕にぐっすり眠っているレティシアを眺めているとリオが訪ねてきた。
レティシアが嫌がりそうだが、一度眠るとなかなか起きないからいいかとエイベルはリオの訪問に了承を伝えた。
リオは書類を持っているエイベルの膝の上で熟睡しているレティシアに目を見張った。
「これ?当分起きないから気にするな。用件は?」
「この状況は?」
「お前には関係ないだろう。気にしなくていい。用件は?」
エイベルはレティシアに関しては答えるつもりはなかった。
エイベルの膝で眠るレティシアを無言で見つめているリオにもういいかと関心を失い、手元の書類を睨み始めた。
生徒会から任される書類仕事が苦手なエイベルはリオのことは気にせず与えられた仕事を再開した。
書類を睨んでしばらくするのにエイベルの手は進んでいない。
エイベルの苦手な書類を片付けるレティシアは夢の中である。
リオはエイベルの膝で毛布もかけずに、ぐっすり眠るレティシアを気にしないなんてできなかった。
ここを訪ねたのはレティシアと話すためであるが、レティシアと話す前にこの状況をなんとかしたかった。
「その書類引き受けてやるから状況教えてくれないか?」
エイベルは意味のわからない書類から顔を上げ、不機嫌そうなリオを見た。
「お前の所為だよ」
「は?」
「お前、今までレティシアを甘やかしてただろ?人肌恋しいって、お前がしてた行動を俺に求めてくるんだよ。もっと丁寧に撫でろだの、抱きしめろだの、我儘すぎる」
心底迷惑そうな顔で言うエイベルにリオはまた言葉を失った。
「ダンスのステップを間違えてお母様に怒られました。私は」
リオには膝を抱えて丸くなっている小さなレティシアを抱き上げて、慰めた記憶は何度もある。
「魔力を持たない公爵令嬢なんて初めてですわ。私の存在は」
社交デビュー前に魔力のないことで誹謗中傷を受け、潤んだ瞳を細めてよわよわしく微笑んでいたレティシア。
抱き上げて頭を撫でながら慰めるとすぐに潤んでいた瞳が乾いて、愛らしく微笑んでいた。
ただし5年以上前の話であり、社交デビューしてからは頭を撫でるくらいしかしていない。
嫌そうな顔のエイベルがレティシアの要望に素直に応えているのもリオにはなぜかわからなかった。
「俺はお前がそこまでレティシアの我儘に付き合う理由を知りたい」
「妹分だからな。それに書類仕事も手伝ってくれるし、欲しい情報も調べてくれるし利害の一致だ」
いつもは静かなエイベルの部屋。
うるさい二人にレティシアの眉間に皺が寄った。
うなっているレティシアの頭をエイベルが撫でると眉間の皺とうなり声が消えた。
リオも幼いレティシアによくしていた動作である。口元を緩め、安心した顔で眠るレティシアを知るのは自分と兄だけだと思っていたリオの心は衝撃を受けている。
衝撃を受けながらもリオはエイベルの話す言葉を頭の中で必死でまとめる。
そしてレティシアがエイベルに利用されていることに気づいてさらに不機嫌になる。
リオはレティシアに仕事を手伝ってもらっても、面倒な情報収集を頼むことはなかった。
リオが口出す権利はなくても、エイベルに使われているレティシアが嫌だと思ってしまう。
「好きなのか?」
「まさか。猫みたいで時々可愛いけどな」
「軽率すぎないか。こんなに二人でいたら噂になるだろ?」
ありえないと笑うエイベルの軽率な行動をリオは咎める。
平等の学園であっても婚約者ではない男女が二人きりなど外聞が悪い。
この部屋にはエイベルの侍従もレティシアの侍女もいない。
従者もおかず二人っきりで会うことは特別な意味を持つ。恋人同士のはしたない行為がされていると噂されても仕方ない行為である。
リオは年上で男であるエイベルが配慮すべきと思っている。
エイベルは二人っきりを望んでいるのはレティシアでも、受け入れたのは自分だからと言い訳はしない。
「別に構わない。こいつならビアード公爵夫人として申し分ない」
魔力を持たないレティシアを公爵家嫡男が望むのはリオにとってありえないこと。実直なエイベルの膝で無防備に眠るレティシアを見てリオはありえない可能性が頭によぎった。
「シアを幸せにしてくれるのか?」
「まさか。俺はビアード公爵夫人に相応しい令嬢がほしいだけ。貴族の婚姻なんてそんなもんだろ?
家に不要なら容赦なく切り捨てて構わないって断言できる令嬢なんて中々いないだろ?ちゃんと大事にはするよ。まぁ俺は家と妻なら家を選ぶのは譲れないけど」
ポツリと溢したリオの小さな問いかけをエイベルは鼻で笑った。
エイベルの容赦ない言葉はビアード公爵家嫡男として当然のもの。王家に忠誠を誓うビアード公爵と正反対の外交一家で王家よりも家の利益第一のマール公爵家。特にリオは当主に従い気楽に生きれる三男の立ち位置を好んでいたから嫡男としての責任を背負うエイベルとは違う。
エイベルの立場を踏まえても、エイベルの飾らない本音を聞いて、公爵夫人になれるとはいえ嫁ぎたいと思う令嬢がいるとは思えなかった。
「それレティシアには?」
「言ったよ。マールを諦めるんなら俺が娶ってやるって。お前に婚約者ができたらたぶん外国に嫁ぐだろうってさ。お前に夢中の自分を望む人間は国内には少ないだろうともな。外国で苦労するのは可哀想だから利害の一致で俺が娶るよ。なぁ、お前、本当に妹分としか思ってないのか?」
ビアードが語るレティシアの考えはリオにも理解できた。ルーン公爵領が好きなレティシアが諸外国に嫁ぐのは好まない。
それでもルーン公爵が命じれば笑顔で頷くのは容易く想像できた。
そしてルーン公爵家第一のレティシアが、平等で無礼講の学園とはいえ自分の評判が悪くなるのをわかっていながら、リオを追いかけていた。そんなレティシアの覚悟を気のせいで片付けたリオにセリア達が怒る理由も。
レティシアのことをわかっているつもりが、脳筋のエイベルのほうがレティシアのことをよく知ってる現状にリオはさらに衝撃を受ける。
「俺に殺気を出してる自覚があるのか?可愛い妹分が悪い男に引っかかって心配しているだけか?起きたか」
興味なさそうなビアードの問いかけにリオは苛立ちを覚える自分に気づく。
レティシアはリオが放つ殺気に体を震わせて目を開けた。
レティシアは寒気に襲われながら、ゆっくりと体を起こし目の前の温もりに手を伸ばした。
エイベルは抱きついてくるレティシアとさらに殺気を放つリオにため息をついた。
「うるさい。寒い」
不機嫌な声を出す寝起きのレティシア。殺気に襲われてからの反応が遅いとエイベルは指摘するのはやめた。
「俺の部屋だ。嫌なら寮に帰れ」
「嫌」
「起きるか?」
不機嫌な声のレティシアと素っ気ないビアードのやり取りをリオは無言で眺めている。
「うーん」
「この体勢で寝られると邪魔なんだけど」
「もう少しだけ。エイベルあたたかい」
エイベルは苦笑しながら、冷たい体で抱きついてくるレティシアの頭を撫でた。
昼寝しているところで突然殺気に襲われれば寝覚めが悪いかと少しだけ同情して。
「もっと優しく撫でて」
「あんまり言うならやらないけど」
「嫌」
拗ねた声で駄々をこねるレティシアへのエイベルの雑な対応も、二人が密着してるのもリオには面白くない。
レティシアが目覚めてから殺気は消えたが不機嫌な顔をしているリオの相手が面倒でやるべきことをすませて、武術の訓練に励みたくなったエイベル。
「なぁ、レティシア後ろ振り向いてみろよ」
「邪魔だからってひどい。ちゃんと仕事も手伝います」
「振り向いてからなら好きにしていい」
頬を膨らませ、温もりがなくなることを拒むレティシア。
レティシアはエイベルが譲らない様子に諦め、ゆっくり振り向く。
リオが同じ状況で問いかければ、きょとんと首を傾げ「なんで?」っと問いかけただろう。
リオのことを知りたいレティシアだったらリオに問いかけた。
レティシアにとって単純なエイベルの意図はほとんど聞かなくても予想できる。何よりこの部屋の持ち主に逆らうのはいけないとわかっているので、素直に従ったなんてリオにも、エイベルにもわからないことである。
振り向いたレティシアはいるはずのない存在に青い瞳がこぼれそうなほど大きく見開き息を飲み固まった。
「リ、オ?」
「久しぶり」
レティシアは爽やかな笑みを浮かべているリオが本物であると認識した。
抱きついているエイベルの背中に隠れたいが公爵令嬢として許されないと令嬢モードをまとい、エイベルからそっと離れた。
レティシアはエイベルの横に立ち、優雅に淑女の礼を披露した。
エイベルは一瞬で雰囲気を変えたリオとレティシアはそっくりだと思いなが
「お久しぶりです。リオ兄様。ご婚約おめでとうございます。お祝いが遅れて申しわけありません」
感情を隠した美しい微笑みを浮かべ、完璧な令嬢モードでリオと向き合うレティシア。
レティシアの令嬢モードを直接向けられることはほとんどないリオは戸惑いを隠して、穏やかな声で話す。
「いや、婚約なんて決まってないけど」
「失礼しました。まだ公表されてないんですね。エイベルここでの会話は内緒にしてくださいませ。リオ兄様はエイベルに御用ですか?」
「いや、用があるのはレティシアだけ」
「こちらでよければうかがいますわ。もう二人で話すわけにはいきませんもの」
「なんで?」
「察しが悪いですわね。公表できずともお相手のご令嬢に失礼ですよ」
「そんな相手いないから」
「私は確かにリオ兄様をお慕いしてましたわ。ですがご令嬢に危害を加えるようなことはいたしませんよ。お二人を祝福致しますのでご安心くださいませ」
レティシアは令嬢モードの穏やかな口調と美しい微笑みを崩さない。
社交界では聞き上手で、リオに対してはいつも素直なレティシアはリオの心意を汲み取ろうとしなかった。
まだまだ準備中で心から祝福する心づもりにはなれないレティシアは会話を終わらせて逃げたい。
でも従兄でも自分より身分の高いリオへの無礼はもう許されないと立ち位置の変化に胸が痛くても、微笑みながら耐える。
リオにとってレティシアの社交的な態度も祝福も心を抉られるものだった。
無関心な者、ルーンにとって必要のないものに向けるレティシアの態度。
感情を隠しながらもリオと話したくないと会話を終わらせようとするレティシア。
レティシアの態度にショックを受けながらも誤解を解こうとするリオ。
らちのあかない二人の様子にエイベルは部屋の鍵をガタっと乱暴に机の上に置いた。
「マール、この書類は任せた。鍵は明日返せ。じゃあな」
「エイベル、私も」
エイベルが机の上に書類と鍵を置いて立ち上がるとレティシアが駆け寄り腕を掴んだ。
「しっかり二人で話せ。泣き言なら明日聞いてやるよ」
エイベルは無理矢理レティシアの手をほどき、声を掛けられる前に颯爽と部屋を出た。
「待って」
風のような速さで部屋を出たエイベルをレティシアが心細そうに呼びながら追いかける。
親に置いていかれた幼子のように必死に追いかけようとするレティシアの腕をリオは慌てて掴んだ。
リオには社交的な態度を一切崩さないのにエイベルには素で頼るレティシアへの不愉快な気持ちを隠してリオは微笑んだ。
「なぁ、頼むから少しだけ話さないか?」
レティシアはリオの瞳を部屋に入ってから初めて見つめ返した。
リオは青い瞳が不安で揺れているのに気付いても腕をほどかない。
レティシアはかたくななリオの態度に立ち去ることを諦め、静かに頷いた。
リオが手を放すとレティシアは来客用のソファの下座に座った。
下を向いて目を閉じたレティシア。
気持ちを落ち着け、再び令嬢モードで武装して上品に微笑みながらリオを見つめた。
心細げにエイベルにすがっていたのが嘘のような、別人のような変わりようだった。
「ご用件は?」
「ビアード公爵夫人になるの?」
レティシアはリオからの問いかけの意図がわからない。
何度も心の中で告げた初恋の従兄への別れの言葉を思い出し、互いの立ち位置を思い出す。
レティシアからの祝いの言葉は受け取らず、婚約の情報を隠そうとするリオはもう大好きな信頼できる従兄ではない。
たとえ信頼している従兄妹であっても婚約者のいる相手へ親しみを含ませた態度はいけない。
目の前にいるのは味方ではないと自分に言い聞かせ、レティシアは他家に教えてはいけない情報を聞き出そうと探るリオに警戒しながら微笑んだ。
「マール様には関係ありませんわ。今までご迷惑をおかけして申しわけありませんでした」
リオはレティシアに初めてマール様と呼ばれた。
家名に敬称をつける呼び方はレティシアにとって価値のない知人や他人への呼び方である。
穏やかな声で頭を下げるレティシアの全てになんの感情も込められてない。
「迷惑なんて思ったことはないよ」
「さすがご令嬢に大人気の殿方ですわ」
レティシアは微笑むリオの令嬢受けする解答に微笑みながら本音ではなく社交辞令として受け流す。
社交界では息をするように真実のような嘘も甘言も落とされる。
自分の持つ情報と観察眼を頼りに自分に利のある交流をこなすのが大事である。
「ビアードが好きなの?」
レティシアはリオからの残酷な問いに一瞬固まった。
令嬢モードが綻びそうになっているのに気付かれないようにレティシアはリオから視線を反らした。
「関係ありませんわ」
「俺のことは?」
リオの問いかけは失恋したばかりのレティシアへの気遣いの欠片のないひどい問いかけだった。
下を向きレティシアは無言を貫いた。
リオの知るレティシアはいつも即答していた。そんなやり取りをしていた頃がリオには遠い昔に感じた。
沈黙が続く中、レティシアはリオの問いかけへの答えを口にするのは勇気がいることだった。
優しく問いかける従兄の全てが好きだった。
叶わなくてももう少しだけ追いかけていたかった。でも現実は甘くない。甘くなくても慰めてくれる優しい人達のおかげで過酷ではないと知った。
「幸せを願っていますわ」
ゆっくりと顔をあげ、一瞬だけ泣きそうな笑いを浮かべたレティシア。
リオはレティシアの虚勢に気付いて、手を伸ばして、自分の腕の中に閉じ込めて、涙を拭いたくてたまらなくなった。
「認めるよ」
リオのポツリとこぼした独り言はレティシアには届かない。
寂しがりやのレティシアを王家第一のエイベルに任せるなんて許せない。
部屋に閉じ籠り、膝を抱えて一人で泣くレティシアを想像すると答えは簡単だった。
刷り込みだろうと、自分の隣で笑ってくれるならなんでもいい。リオの立ち位置は婚姻さえすればレティシアの側に四六時中いても問題にはならない。
「叔父上を説得するから俺と婚約してくれる?」
レティシアはリオのはっきりした言葉に息を飲んだ。
下を向いていたレティシアはゆっくりと顔を上げ、リオの顔が真剣で冗談でないとわかると体が震えた。
眉を吊り上げてリオを睨む。
レティシアの浮かべる怒りの表情にリオは驚いて目を見張った。
「バカにするのもいい加減にしてください。第二夫人も愛人もごめんですわ」
レティシアは醜聞があっても魔力がなくても、価値が暴落してもルーン公爵令嬢である。たとえ序列一位のマール公爵家の三男でもレティシアを日陰の身分に落とせるほどの力はない。
ルーン公爵家は直系の娘を正妻以外に迎える家に嫁がせるほど落ちぶれていない。
レティシアは自分だけへの侮辱なら受け入れるがルーン公爵家への侮辱は許さない。それが恋い焦がれた相手であろうとも。
「なんで、そうなんの!?誤解だから。本当に」
「留学生の侯爵令嬢と結婚して侯爵になるんですよね?知ってますわよ。お話されないからと何も知らないなんて思わないでくださいませ」
部屋の温度がどんどん下がっていく。
リオは冷笑を浮かべながら、冷たい声音で話すレティシアに初めて恐怖を覚えた。
「事実無根だけど」
「留学期間中にお二人で愛を深められたんでしょう?卒業式を終えたら旅立つんですよね?貴方が待ち切れずにご令嬢の成人を待たずに婚姻したいってプロポーズしたことも知ってますわ。いずれ縁戚になる私にご令嬢が挨拶とともに馴れ初めを丁寧に教えてくださいましたわ。二人の大切な思い出を駆け引きに使うつもりはありませんのでご安心くださいませ。おめでとうございます」
「してない。校内を案内しただけ。婚約の話は断った」
「抱きしめ愛を囁いたのに、最低ですわ」
「誰に聞いたんだよ」
「ご令嬢ご本人とお兄様にですわ。マール様は情熱的って語られましたが、そんな話に興味はありませんのに」
「嘘だから。俺から触れたのは転んだのを支えた時だけだ。愛も囁いていない。俺がプロポーズしたのはお前だけだよ」
「私のことなんて今まで見向きもしなかったのに、今更興味を持つなんて信じられませんわ。エイベルへの嫌がらせですか!?」
レティシアはリオにとって想定外の返答を返す。
エイベルと口論するとき以上に勢いよく話したレティシアは息を切らし、慌てて呼吸を整えている。
リオは自分の話を聞かない見たことがないほど荒れているレティシアに驚きながらも感情の見えない令嬢モードよりいいかと笑う。
「悪かった。いつも近くにいたから気づかなかった。お前が俺以外の男といるところなんて見たことなかったから。レティシアが好きだよ」
リオを睨みながら息を整えていたレティシアはリオの言葉に固まった。
しばらくしてパチパチと何度か瞬きをして、きょとんとした。
真剣な顔でレティシアを見つめるリオを見て頷いた。
「失礼しました。幻聴が聞こえましたわ」
リオはレティシアの突拍子のない発想に力が抜けそうになった。
レティシアは全て幻聴と結論を出したら怒りは静まった。レティシアの纏っていた冷たい空気が霧散し、納得した顔をしている。
リオは全てなかったことにしたレティシアを真剣な顔で見つめ、もう一度はっきりとした声音で言うことにした。
「お前が好きだ」
「申し訳ありません。やっぱり幻聴が聞こえるみたいです」
「幻聴じゃない。レティシアが好きなんだよ。今まで気づかなくて悪かった」
レティシアを先ほどから聞こえるありえない言葉に首を傾げる。
「好きだ。夢でも幻聴でもない。リオ・マールはレティシア・ルーンのことが好きだ。現実だよ。夢じゃない。俺はお前に恋焦がれているんだ。好きなんだよ」
リオは首を傾げているレティシアに何度も伝える。諦めと切り替えのはやいレティシアはしつこいものが苦手である。根気強く言い聞かせれば、意味がわからなくても折れる悪癖持ちであると知るのはレティシアと親しい者だけである。
「好き?」
何度も繰り返されるリオからの告白にレティシアはまた首を傾げた。
幻聴以外の返答にリオが笑った。
「ああ。お前が望むならいくらでも抱きしめるし愛を囁くよ」
「リオ兄様が?」
意味がわからないと首を傾げるレティシア。
遠まわしも気取った言葉もレティシアに通じないことをリオは知っている。
情けなくても本音をぶつけないと、リオを警戒しているレティシアは心を開かない。
「ああ。俺がいくらでもしてやる。お前がビアードに甘えてるの見るのきついんだよ。やめて、頼むから」
「リオ兄様?」
リオの特別になりたいから兄様呼びはやめると言った入学したばかりのレティシア。
好きにすればいいと返した過去のリオ。
過去に戻れるなら違う言葉を返しただろう。
マール様呼びよりもマシかと思いながらも、リオはそれ以上が欲しい。
そして伝わらない好意を伝えることをやめなかったレティシアの心の強さに感服した。
もう手遅れかもしれない。それでもリオは諦めたくなかった。
「まだ俺のこと好きなんだろ?」
リオの勇気を出した一言にレティシアは言いよどむ。
「それは…」
歯切れのわるいレティシアにリオの口元が緩んだ。
即答で断らないならリオにも勝機があった。
レティシアは捨てたものに未練は持たない。どうでもいいものは忘却するのも得意である。
「人恋しいならいくらでも甘やかすよ。おいで、シア」
先程まで不安に襲われていたのが嘘のように心に余裕が生まれたリオは優しく微笑みながら両腕を広げた。
優しく微笑むリオに懐かしい愛称で呼ばれたレティシアは揺れていた。
絶対に手に入らないと諦めたものが目の前にある。
恋しい笑みを浮かべて両手を広げるリオにレティシアがふらふらと近づくと腕を引かれて強く抱きしめられた。
レティシアはリオに抱きしめられることなどもう二度とないと思っていた。
エイベルに抱き着いても速くならなかったレティシアの胸の鼓動がどんどん速くなっていく。
「好きだよ。今までごめんな」
リオはレティシアを抱きしめながら、優しく髪を撫でた。
レティシアはリオの腕の中で葛藤していた。
それでも優しく撫でる手の持ち主に全てを委ね、甘えたい気持ちがどんどん大きくなっていく。
リオの腕の中で無言で動かないレティシア。
それでもどんどん熱を持っているレティシアの体にリオは静かに笑う。
「レティシア?聞いてる?」
「シアがいい」
ポツリと溢したレティシアの言葉にリオは頷く。
「シア?」
「うん」
レティシアは抗うのをやめた。
諦めようと努力したけど、リオへの恋心は捨てられていなかった。
優しく愛称を呼ぶリオの声にレティシアは頷いた。
しばらくしてレティシアはリオの胸から顔を上げた。リオの優しい瞳を見つめ嬉しそうに笑った。リオは久しぶりに見たレティシアの笑みに愛しさがこみあげてきた。
「シアが好きだよ」
リオからの言葉に幸せそうに微笑むレティシア。リオはレティシアの顔にゆっくりと顔を近付け、触れるだけの口づけを落とした。
レティシアは目を丸くして驚くとリオに優しく額に口づけられ頬を染める。
リオは幸せそうに微笑むレティシアへの愛しさが止まらない。
「俺と婚約してくれる?」
「私でいいんですの?」
リオのプロポーズに喜ぶ素振りはなく、笑顔を消して真顔で返すレティシア。
好意を全身で表していた愛らしいレティシアが恋しくても、リオは自業自得とわかっている。
「シアがいい」
「愛人絶対に許しませんよ?」
「持たないよ。シアだけでいい」
「我儘ですよ?」
「知ってる」
「外交についていくかもしれませんよ?」
レティシアは嬉しいはずのリオの言葉を素直には受け取れない。
諦められない初恋でも叶うと思っていなかった。
手に入ると手を伸ばしたとたんに手を振り払われれば立ち直れない気がした。
リオはレティシアの纏めている髪が乱れているのでそっと髪を解いた。
美しい銀髪を一房手に取り、そっと口づけた。
「シアが望むなら連れて行くよ。お前の我儘もできる限り叶えるよ」
レティシアはさらに顔を赤くし、解いた髪をきれいに結い直すリオの手の感覚に目を閉じた。
この手が欲しくてたまらないレティシアは小さく笑った。
「リオは私が幸せにしますわ」
ポツリとこぼしたレティシアの言葉と笑みにリオが優しく微笑み返す。
好意を寄せる相手に呼ばれる名前が特別だという父の言葉に初めて共感した。
「頼もしいな。俺はシアを幸せにできるように頑張らないとな」
「私はリオといられれば幸せですから傍において頂けるだけで十分です。リオ、本当にいいんですか?」
「なにが?」
「婚約したら絶対に破棄してあげませんよ」
「しないよ。シアが成人したら結婚しよう」
「離縁もしませんよ」
「俺はお前に夢中だよ。安心して」
レティシアはさんざんリオに確認をした。
リオは疑い深いレティシアに根気強く付き合う。
全面的にリオが悪いとわかっている。レティシアは思い込みが激しい一面があることもよく知っている。
必死でリオに確認するレティシアへの愛しさが増し、自然に微笑んでいるリオは自身の変化に気付いていない。
レティシアはリオの色気を纏う笑みにどんどん体の熱が上がっている。熱に身を委ねれば思考できなくなりそうだった。
令嬢モードを纏いたくても、自分の体がおかしすぎてできなかった。
「突然すぎて信用できませんが私と婚約することに異存はないんですね?」
「ないよ」
リオの即答に静かに頷いたレティシアは自分の欲に忠実になることにした。
リオの心境はわからないが了承を得られたならいいかと。レティシアの中で方針が決まれば思考は簡単だった。
「わかりました。私、用があるので失礼しますわ。戸締まりお願いします」
レティシアは淑女の礼をして部屋を出ていくために踵を返した。
優雅で綺麗な微笑みを浮かべて颯爽と立ち去ろうとするレティシアにリオは嫌な予感に襲われ、腕を掴んで抱きよせて拘束した。
「待て、シア、どこに行くの?」
「伯父様達を説得してきますわ」
マール公爵家に突撃するつもりだったレティシアが強気で優雅な笑みを浮かべるがリオは首を横に振った。
先程まで赤面していたのが嘘のような落ち着きでリオの腕の中にいるレティシア。
意識されてるんだか、されてないんだかわからないリオはとりあえず止めて良かったと安堵のため息を飲み込んだ。
「俺がするよ」
「私にお任せくださいませ」
マール公爵夫妻の交渉に自信のあるレティシアは自信に満ちた顔でリオを見つめる。
この顔のレティシアは失敗をすることはないがリオには任せることはできない事情がある。
「それ俺の役目だから」
「リオの気が変わらないうちに外堀を埋めてきます」
「必要ないから。気も変わらない」
「信用できません」
「わかったよ。今度の休養日に面会依頼を出すよ」
「今から行ってきます」
「父上がうちにいるかわからないだろ?」
「帰ってますよ。遊びにおいでってお手紙をいただきましたもの。わかりました。伯父様の説得は諦めます。お父様に会いに帰りますわ。リオは一筆書いていただければ結構ですわ」
リオは不在が多い父親の予定を知っているレティシアを止めるのは諦めた。
二人の婚約が認められても、年下の従妹に婚約の許しを得るための交渉を委ねたと知った家族に一生笑いのネタにされる。
交渉を得意とする外交一家の末息子としても、男としても役目を譲るわけにはいかなかった。
「わかった。一緒に行くよ」
「不要ですわ」
「シアには不要でも俺には必要だ。俺が許可をもらえるように話すから隣で大人しくしてて。なあ、その顔なに?」
レティシアは外堀を埋めて、リオの逃げ道を塞ぐつもりだったがあることを思い出して息を飲んだ。
突然固まり気まずそうな顔をしたレティシアにリオは嫌な予感に襲われる。
「忘れてましたが、お父様にお手紙を送ってしまいました」
「手紙?」
「リオのことは諦めましたのでビアード公爵夫人になろうと思いますって」
「馬鹿、先に言え。いつ!?」
「今朝」
「叔父上は縁談のことなんて?」
「私が選んで信用できる方なら構わないそうですわ」
「俺が行ってくるから待ってて」
「私も行きます」
窓の外は暗く、学生が出かけるのは危ない時間である。
リオがどんな言葉をかけてもレティシアには学園で待つ選択肢はなかった。
ルーン公爵家の決断したら迅速に動く方針を知っているリオはレティシアの説得は諦めた。
今までのようにリオが話しかけるだけで喜び、笑顔で快諾していたレティシアの姿はない。
それでもリオの顔を見て話す表情豊かなレティシアに愛しさを感じるリオに抗うすべはなかった。
恋は惚れたほうが負け。どんな汚い手を使っても恋した人を逃してはいけない。薄汚い世界に遠慮はいらないはマール公爵の教えでもある。
セリアはエイベルの部屋に近づくことはない。
そして生徒会の先輩であり、リオより家格の低いエイベルはリオの頼みを断れないのでレティシアと会うには最適だった。
リオがエイベルの部屋を訪問することはないと思っているレティシアは今日もエイベルの部屋で過ごしていた。
「全然わかりません。少し休憩しますわ」
エイベルの膝を枕にエイベルの部屋にある兵法の本を読んでいたレティシアは理解不能の内容に疲れて目を閉じた。
エイベルは自分の膝を枕にぐっすり眠っているレティシアを眺めているとリオが訪ねてきた。
レティシアが嫌がりそうだが、一度眠るとなかなか起きないからいいかとエイベルはリオの訪問に了承を伝えた。
リオは書類を持っているエイベルの膝の上で熟睡しているレティシアに目を見張った。
「これ?当分起きないから気にするな。用件は?」
「この状況は?」
「お前には関係ないだろう。気にしなくていい。用件は?」
エイベルはレティシアに関しては答えるつもりはなかった。
エイベルの膝で眠るレティシアを無言で見つめているリオにもういいかと関心を失い、手元の書類を睨み始めた。
生徒会から任される書類仕事が苦手なエイベルはリオのことは気にせず与えられた仕事を再開した。
書類を睨んでしばらくするのにエイベルの手は進んでいない。
エイベルの苦手な書類を片付けるレティシアは夢の中である。
リオはエイベルの膝で毛布もかけずに、ぐっすり眠るレティシアを気にしないなんてできなかった。
ここを訪ねたのはレティシアと話すためであるが、レティシアと話す前にこの状況をなんとかしたかった。
「その書類引き受けてやるから状況教えてくれないか?」
エイベルは意味のわからない書類から顔を上げ、不機嫌そうなリオを見た。
「お前の所為だよ」
「は?」
「お前、今までレティシアを甘やかしてただろ?人肌恋しいって、お前がしてた行動を俺に求めてくるんだよ。もっと丁寧に撫でろだの、抱きしめろだの、我儘すぎる」
心底迷惑そうな顔で言うエイベルにリオはまた言葉を失った。
「ダンスのステップを間違えてお母様に怒られました。私は」
リオには膝を抱えて丸くなっている小さなレティシアを抱き上げて、慰めた記憶は何度もある。
「魔力を持たない公爵令嬢なんて初めてですわ。私の存在は」
社交デビュー前に魔力のないことで誹謗中傷を受け、潤んだ瞳を細めてよわよわしく微笑んでいたレティシア。
抱き上げて頭を撫でながら慰めるとすぐに潤んでいた瞳が乾いて、愛らしく微笑んでいた。
ただし5年以上前の話であり、社交デビューしてからは頭を撫でるくらいしかしていない。
嫌そうな顔のエイベルがレティシアの要望に素直に応えているのもリオにはなぜかわからなかった。
「俺はお前がそこまでレティシアの我儘に付き合う理由を知りたい」
「妹分だからな。それに書類仕事も手伝ってくれるし、欲しい情報も調べてくれるし利害の一致だ」
いつもは静かなエイベルの部屋。
うるさい二人にレティシアの眉間に皺が寄った。
うなっているレティシアの頭をエイベルが撫でると眉間の皺とうなり声が消えた。
リオも幼いレティシアによくしていた動作である。口元を緩め、安心した顔で眠るレティシアを知るのは自分と兄だけだと思っていたリオの心は衝撃を受けている。
衝撃を受けながらもリオはエイベルの話す言葉を頭の中で必死でまとめる。
そしてレティシアがエイベルに利用されていることに気づいてさらに不機嫌になる。
リオはレティシアに仕事を手伝ってもらっても、面倒な情報収集を頼むことはなかった。
リオが口出す権利はなくても、エイベルに使われているレティシアが嫌だと思ってしまう。
「好きなのか?」
「まさか。猫みたいで時々可愛いけどな」
「軽率すぎないか。こんなに二人でいたら噂になるだろ?」
ありえないと笑うエイベルの軽率な行動をリオは咎める。
平等の学園であっても婚約者ではない男女が二人きりなど外聞が悪い。
この部屋にはエイベルの侍従もレティシアの侍女もいない。
従者もおかず二人っきりで会うことは特別な意味を持つ。恋人同士のはしたない行為がされていると噂されても仕方ない行為である。
リオは年上で男であるエイベルが配慮すべきと思っている。
エイベルは二人っきりを望んでいるのはレティシアでも、受け入れたのは自分だからと言い訳はしない。
「別に構わない。こいつならビアード公爵夫人として申し分ない」
魔力を持たないレティシアを公爵家嫡男が望むのはリオにとってありえないこと。実直なエイベルの膝で無防備に眠るレティシアを見てリオはありえない可能性が頭によぎった。
「シアを幸せにしてくれるのか?」
「まさか。俺はビアード公爵夫人に相応しい令嬢がほしいだけ。貴族の婚姻なんてそんなもんだろ?
家に不要なら容赦なく切り捨てて構わないって断言できる令嬢なんて中々いないだろ?ちゃんと大事にはするよ。まぁ俺は家と妻なら家を選ぶのは譲れないけど」
ポツリと溢したリオの小さな問いかけをエイベルは鼻で笑った。
エイベルの容赦ない言葉はビアード公爵家嫡男として当然のもの。王家に忠誠を誓うビアード公爵と正反対の外交一家で王家よりも家の利益第一のマール公爵家。特にリオは当主に従い気楽に生きれる三男の立ち位置を好んでいたから嫡男としての責任を背負うエイベルとは違う。
エイベルの立場を踏まえても、エイベルの飾らない本音を聞いて、公爵夫人になれるとはいえ嫁ぎたいと思う令嬢がいるとは思えなかった。
「それレティシアには?」
「言ったよ。マールを諦めるんなら俺が娶ってやるって。お前に婚約者ができたらたぶん外国に嫁ぐだろうってさ。お前に夢中の自分を望む人間は国内には少ないだろうともな。外国で苦労するのは可哀想だから利害の一致で俺が娶るよ。なぁ、お前、本当に妹分としか思ってないのか?」
ビアードが語るレティシアの考えはリオにも理解できた。ルーン公爵領が好きなレティシアが諸外国に嫁ぐのは好まない。
それでもルーン公爵が命じれば笑顔で頷くのは容易く想像できた。
そしてルーン公爵家第一のレティシアが、平等で無礼講の学園とはいえ自分の評判が悪くなるのをわかっていながら、リオを追いかけていた。そんなレティシアの覚悟を気のせいで片付けたリオにセリア達が怒る理由も。
レティシアのことをわかっているつもりが、脳筋のエイベルのほうがレティシアのことをよく知ってる現状にリオはさらに衝撃を受ける。
「俺に殺気を出してる自覚があるのか?可愛い妹分が悪い男に引っかかって心配しているだけか?起きたか」
興味なさそうなビアードの問いかけにリオは苛立ちを覚える自分に気づく。
レティシアはリオが放つ殺気に体を震わせて目を開けた。
レティシアは寒気に襲われながら、ゆっくりと体を起こし目の前の温もりに手を伸ばした。
エイベルは抱きついてくるレティシアとさらに殺気を放つリオにため息をついた。
「うるさい。寒い」
不機嫌な声を出す寝起きのレティシア。殺気に襲われてからの反応が遅いとエイベルは指摘するのはやめた。
「俺の部屋だ。嫌なら寮に帰れ」
「嫌」
「起きるか?」
不機嫌な声のレティシアと素っ気ないビアードのやり取りをリオは無言で眺めている。
「うーん」
「この体勢で寝られると邪魔なんだけど」
「もう少しだけ。エイベルあたたかい」
エイベルは苦笑しながら、冷たい体で抱きついてくるレティシアの頭を撫でた。
昼寝しているところで突然殺気に襲われれば寝覚めが悪いかと少しだけ同情して。
「もっと優しく撫でて」
「あんまり言うならやらないけど」
「嫌」
拗ねた声で駄々をこねるレティシアへのエイベルの雑な対応も、二人が密着してるのもリオには面白くない。
レティシアが目覚めてから殺気は消えたが不機嫌な顔をしているリオの相手が面倒でやるべきことをすませて、武術の訓練に励みたくなったエイベル。
「なぁ、レティシア後ろ振り向いてみろよ」
「邪魔だからってひどい。ちゃんと仕事も手伝います」
「振り向いてからなら好きにしていい」
頬を膨らませ、温もりがなくなることを拒むレティシア。
レティシアはエイベルが譲らない様子に諦め、ゆっくり振り向く。
リオが同じ状況で問いかければ、きょとんと首を傾げ「なんで?」っと問いかけただろう。
リオのことを知りたいレティシアだったらリオに問いかけた。
レティシアにとって単純なエイベルの意図はほとんど聞かなくても予想できる。何よりこの部屋の持ち主に逆らうのはいけないとわかっているので、素直に従ったなんてリオにも、エイベルにもわからないことである。
振り向いたレティシアはいるはずのない存在に青い瞳がこぼれそうなほど大きく見開き息を飲み固まった。
「リ、オ?」
「久しぶり」
レティシアは爽やかな笑みを浮かべているリオが本物であると認識した。
抱きついているエイベルの背中に隠れたいが公爵令嬢として許されないと令嬢モードをまとい、エイベルからそっと離れた。
レティシアはエイベルの横に立ち、優雅に淑女の礼を披露した。
エイベルは一瞬で雰囲気を変えたリオとレティシアはそっくりだと思いなが
「お久しぶりです。リオ兄様。ご婚約おめでとうございます。お祝いが遅れて申しわけありません」
感情を隠した美しい微笑みを浮かべ、完璧な令嬢モードでリオと向き合うレティシア。
レティシアの令嬢モードを直接向けられることはほとんどないリオは戸惑いを隠して、穏やかな声で話す。
「いや、婚約なんて決まってないけど」
「失礼しました。まだ公表されてないんですね。エイベルここでの会話は内緒にしてくださいませ。リオ兄様はエイベルに御用ですか?」
「いや、用があるのはレティシアだけ」
「こちらでよければうかがいますわ。もう二人で話すわけにはいきませんもの」
「なんで?」
「察しが悪いですわね。公表できずともお相手のご令嬢に失礼ですよ」
「そんな相手いないから」
「私は確かにリオ兄様をお慕いしてましたわ。ですがご令嬢に危害を加えるようなことはいたしませんよ。お二人を祝福致しますのでご安心くださいませ」
レティシアは令嬢モードの穏やかな口調と美しい微笑みを崩さない。
社交界では聞き上手で、リオに対してはいつも素直なレティシアはリオの心意を汲み取ろうとしなかった。
まだまだ準備中で心から祝福する心づもりにはなれないレティシアは会話を終わらせて逃げたい。
でも従兄でも自分より身分の高いリオへの無礼はもう許されないと立ち位置の変化に胸が痛くても、微笑みながら耐える。
リオにとってレティシアの社交的な態度も祝福も心を抉られるものだった。
無関心な者、ルーンにとって必要のないものに向けるレティシアの態度。
感情を隠しながらもリオと話したくないと会話を終わらせようとするレティシア。
レティシアの態度にショックを受けながらも誤解を解こうとするリオ。
らちのあかない二人の様子にエイベルは部屋の鍵をガタっと乱暴に机の上に置いた。
「マール、この書類は任せた。鍵は明日返せ。じゃあな」
「エイベル、私も」
エイベルが机の上に書類と鍵を置いて立ち上がるとレティシアが駆け寄り腕を掴んだ。
「しっかり二人で話せ。泣き言なら明日聞いてやるよ」
エイベルは無理矢理レティシアの手をほどき、声を掛けられる前に颯爽と部屋を出た。
「待って」
風のような速さで部屋を出たエイベルをレティシアが心細そうに呼びながら追いかける。
親に置いていかれた幼子のように必死に追いかけようとするレティシアの腕をリオは慌てて掴んだ。
リオには社交的な態度を一切崩さないのにエイベルには素で頼るレティシアへの不愉快な気持ちを隠してリオは微笑んだ。
「なぁ、頼むから少しだけ話さないか?」
レティシアはリオの瞳を部屋に入ってから初めて見つめ返した。
リオは青い瞳が不安で揺れているのに気付いても腕をほどかない。
レティシアはかたくななリオの態度に立ち去ることを諦め、静かに頷いた。
リオが手を放すとレティシアは来客用のソファの下座に座った。
下を向いて目を閉じたレティシア。
気持ちを落ち着け、再び令嬢モードで武装して上品に微笑みながらリオを見つめた。
心細げにエイベルにすがっていたのが嘘のような、別人のような変わりようだった。
「ご用件は?」
「ビアード公爵夫人になるの?」
レティシアはリオからの問いかけの意図がわからない。
何度も心の中で告げた初恋の従兄への別れの言葉を思い出し、互いの立ち位置を思い出す。
レティシアからの祝いの言葉は受け取らず、婚約の情報を隠そうとするリオはもう大好きな信頼できる従兄ではない。
たとえ信頼している従兄妹であっても婚約者のいる相手へ親しみを含ませた態度はいけない。
目の前にいるのは味方ではないと自分に言い聞かせ、レティシアは他家に教えてはいけない情報を聞き出そうと探るリオに警戒しながら微笑んだ。
「マール様には関係ありませんわ。今までご迷惑をおかけして申しわけありませんでした」
リオはレティシアに初めてマール様と呼ばれた。
家名に敬称をつける呼び方はレティシアにとって価値のない知人や他人への呼び方である。
穏やかな声で頭を下げるレティシアの全てになんの感情も込められてない。
「迷惑なんて思ったことはないよ」
「さすがご令嬢に大人気の殿方ですわ」
レティシアは微笑むリオの令嬢受けする解答に微笑みながら本音ではなく社交辞令として受け流す。
社交界では息をするように真実のような嘘も甘言も落とされる。
自分の持つ情報と観察眼を頼りに自分に利のある交流をこなすのが大事である。
「ビアードが好きなの?」
レティシアはリオからの残酷な問いに一瞬固まった。
令嬢モードが綻びそうになっているのに気付かれないようにレティシアはリオから視線を反らした。
「関係ありませんわ」
「俺のことは?」
リオの問いかけは失恋したばかりのレティシアへの気遣いの欠片のないひどい問いかけだった。
下を向きレティシアは無言を貫いた。
リオの知るレティシアはいつも即答していた。そんなやり取りをしていた頃がリオには遠い昔に感じた。
沈黙が続く中、レティシアはリオの問いかけへの答えを口にするのは勇気がいることだった。
優しく問いかける従兄の全てが好きだった。
叶わなくてももう少しだけ追いかけていたかった。でも現実は甘くない。甘くなくても慰めてくれる優しい人達のおかげで過酷ではないと知った。
「幸せを願っていますわ」
ゆっくりと顔をあげ、一瞬だけ泣きそうな笑いを浮かべたレティシア。
リオはレティシアの虚勢に気付いて、手を伸ばして、自分の腕の中に閉じ込めて、涙を拭いたくてたまらなくなった。
「認めるよ」
リオのポツリとこぼした独り言はレティシアには届かない。
寂しがりやのレティシアを王家第一のエイベルに任せるなんて許せない。
部屋に閉じ籠り、膝を抱えて一人で泣くレティシアを想像すると答えは簡単だった。
刷り込みだろうと、自分の隣で笑ってくれるならなんでもいい。リオの立ち位置は婚姻さえすればレティシアの側に四六時中いても問題にはならない。
「叔父上を説得するから俺と婚約してくれる?」
レティシアはリオのはっきりした言葉に息を飲んだ。
下を向いていたレティシアはゆっくりと顔を上げ、リオの顔が真剣で冗談でないとわかると体が震えた。
眉を吊り上げてリオを睨む。
レティシアの浮かべる怒りの表情にリオは驚いて目を見張った。
「バカにするのもいい加減にしてください。第二夫人も愛人もごめんですわ」
レティシアは醜聞があっても魔力がなくても、価値が暴落してもルーン公爵令嬢である。たとえ序列一位のマール公爵家の三男でもレティシアを日陰の身分に落とせるほどの力はない。
ルーン公爵家は直系の娘を正妻以外に迎える家に嫁がせるほど落ちぶれていない。
レティシアは自分だけへの侮辱なら受け入れるがルーン公爵家への侮辱は許さない。それが恋い焦がれた相手であろうとも。
「なんで、そうなんの!?誤解だから。本当に」
「留学生の侯爵令嬢と結婚して侯爵になるんですよね?知ってますわよ。お話されないからと何も知らないなんて思わないでくださいませ」
部屋の温度がどんどん下がっていく。
リオは冷笑を浮かべながら、冷たい声音で話すレティシアに初めて恐怖を覚えた。
「事実無根だけど」
「留学期間中にお二人で愛を深められたんでしょう?卒業式を終えたら旅立つんですよね?貴方が待ち切れずにご令嬢の成人を待たずに婚姻したいってプロポーズしたことも知ってますわ。いずれ縁戚になる私にご令嬢が挨拶とともに馴れ初めを丁寧に教えてくださいましたわ。二人の大切な思い出を駆け引きに使うつもりはありませんのでご安心くださいませ。おめでとうございます」
「してない。校内を案内しただけ。婚約の話は断った」
「抱きしめ愛を囁いたのに、最低ですわ」
「誰に聞いたんだよ」
「ご令嬢ご本人とお兄様にですわ。マール様は情熱的って語られましたが、そんな話に興味はありませんのに」
「嘘だから。俺から触れたのは転んだのを支えた時だけだ。愛も囁いていない。俺がプロポーズしたのはお前だけだよ」
「私のことなんて今まで見向きもしなかったのに、今更興味を持つなんて信じられませんわ。エイベルへの嫌がらせですか!?」
レティシアはリオにとって想定外の返答を返す。
エイベルと口論するとき以上に勢いよく話したレティシアは息を切らし、慌てて呼吸を整えている。
リオは自分の話を聞かない見たことがないほど荒れているレティシアに驚きながらも感情の見えない令嬢モードよりいいかと笑う。
「悪かった。いつも近くにいたから気づかなかった。お前が俺以外の男といるところなんて見たことなかったから。レティシアが好きだよ」
リオを睨みながら息を整えていたレティシアはリオの言葉に固まった。
しばらくしてパチパチと何度か瞬きをして、きょとんとした。
真剣な顔でレティシアを見つめるリオを見て頷いた。
「失礼しました。幻聴が聞こえましたわ」
リオはレティシアの突拍子のない発想に力が抜けそうになった。
レティシアは全て幻聴と結論を出したら怒りは静まった。レティシアの纏っていた冷たい空気が霧散し、納得した顔をしている。
リオは全てなかったことにしたレティシアを真剣な顔で見つめ、もう一度はっきりとした声音で言うことにした。
「お前が好きだ」
「申し訳ありません。やっぱり幻聴が聞こえるみたいです」
「幻聴じゃない。レティシアが好きなんだよ。今まで気づかなくて悪かった」
レティシアを先ほどから聞こえるありえない言葉に首を傾げる。
「好きだ。夢でも幻聴でもない。リオ・マールはレティシア・ルーンのことが好きだ。現実だよ。夢じゃない。俺はお前に恋焦がれているんだ。好きなんだよ」
リオは首を傾げているレティシアに何度も伝える。諦めと切り替えのはやいレティシアはしつこいものが苦手である。根気強く言い聞かせれば、意味がわからなくても折れる悪癖持ちであると知るのはレティシアと親しい者だけである。
「好き?」
何度も繰り返されるリオからの告白にレティシアはまた首を傾げた。
幻聴以外の返答にリオが笑った。
「ああ。お前が望むならいくらでも抱きしめるし愛を囁くよ」
「リオ兄様が?」
意味がわからないと首を傾げるレティシア。
遠まわしも気取った言葉もレティシアに通じないことをリオは知っている。
情けなくても本音をぶつけないと、リオを警戒しているレティシアは心を開かない。
「ああ。俺がいくらでもしてやる。お前がビアードに甘えてるの見るのきついんだよ。やめて、頼むから」
「リオ兄様?」
リオの特別になりたいから兄様呼びはやめると言った入学したばかりのレティシア。
好きにすればいいと返した過去のリオ。
過去に戻れるなら違う言葉を返しただろう。
マール様呼びよりもマシかと思いながらも、リオはそれ以上が欲しい。
そして伝わらない好意を伝えることをやめなかったレティシアの心の強さに感服した。
もう手遅れかもしれない。それでもリオは諦めたくなかった。
「まだ俺のこと好きなんだろ?」
リオの勇気を出した一言にレティシアは言いよどむ。
「それは…」
歯切れのわるいレティシアにリオの口元が緩んだ。
即答で断らないならリオにも勝機があった。
レティシアは捨てたものに未練は持たない。どうでもいいものは忘却するのも得意である。
「人恋しいならいくらでも甘やかすよ。おいで、シア」
先程まで不安に襲われていたのが嘘のように心に余裕が生まれたリオは優しく微笑みながら両腕を広げた。
優しく微笑むリオに懐かしい愛称で呼ばれたレティシアは揺れていた。
絶対に手に入らないと諦めたものが目の前にある。
恋しい笑みを浮かべて両手を広げるリオにレティシアがふらふらと近づくと腕を引かれて強く抱きしめられた。
レティシアはリオに抱きしめられることなどもう二度とないと思っていた。
エイベルに抱き着いても速くならなかったレティシアの胸の鼓動がどんどん速くなっていく。
「好きだよ。今までごめんな」
リオはレティシアを抱きしめながら、優しく髪を撫でた。
レティシアはリオの腕の中で葛藤していた。
それでも優しく撫でる手の持ち主に全てを委ね、甘えたい気持ちがどんどん大きくなっていく。
リオの腕の中で無言で動かないレティシア。
それでもどんどん熱を持っているレティシアの体にリオは静かに笑う。
「レティシア?聞いてる?」
「シアがいい」
ポツリと溢したレティシアの言葉にリオは頷く。
「シア?」
「うん」
レティシアは抗うのをやめた。
諦めようと努力したけど、リオへの恋心は捨てられていなかった。
優しく愛称を呼ぶリオの声にレティシアは頷いた。
しばらくしてレティシアはリオの胸から顔を上げた。リオの優しい瞳を見つめ嬉しそうに笑った。リオは久しぶりに見たレティシアの笑みに愛しさがこみあげてきた。
「シアが好きだよ」
リオからの言葉に幸せそうに微笑むレティシア。リオはレティシアの顔にゆっくりと顔を近付け、触れるだけの口づけを落とした。
レティシアは目を丸くして驚くとリオに優しく額に口づけられ頬を染める。
リオは幸せそうに微笑むレティシアへの愛しさが止まらない。
「俺と婚約してくれる?」
「私でいいんですの?」
リオのプロポーズに喜ぶ素振りはなく、笑顔を消して真顔で返すレティシア。
好意を全身で表していた愛らしいレティシアが恋しくても、リオは自業自得とわかっている。
「シアがいい」
「愛人絶対に許しませんよ?」
「持たないよ。シアだけでいい」
「我儘ですよ?」
「知ってる」
「外交についていくかもしれませんよ?」
レティシアは嬉しいはずのリオの言葉を素直には受け取れない。
諦められない初恋でも叶うと思っていなかった。
手に入ると手を伸ばしたとたんに手を振り払われれば立ち直れない気がした。
リオはレティシアの纏めている髪が乱れているのでそっと髪を解いた。
美しい銀髪を一房手に取り、そっと口づけた。
「シアが望むなら連れて行くよ。お前の我儘もできる限り叶えるよ」
レティシアはさらに顔を赤くし、解いた髪をきれいに結い直すリオの手の感覚に目を閉じた。
この手が欲しくてたまらないレティシアは小さく笑った。
「リオは私が幸せにしますわ」
ポツリとこぼしたレティシアの言葉と笑みにリオが優しく微笑み返す。
好意を寄せる相手に呼ばれる名前が特別だという父の言葉に初めて共感した。
「頼もしいな。俺はシアを幸せにできるように頑張らないとな」
「私はリオといられれば幸せですから傍において頂けるだけで十分です。リオ、本当にいいんですか?」
「なにが?」
「婚約したら絶対に破棄してあげませんよ」
「しないよ。シアが成人したら結婚しよう」
「離縁もしませんよ」
「俺はお前に夢中だよ。安心して」
レティシアはさんざんリオに確認をした。
リオは疑い深いレティシアに根気強く付き合う。
全面的にリオが悪いとわかっている。レティシアは思い込みが激しい一面があることもよく知っている。
必死でリオに確認するレティシアへの愛しさが増し、自然に微笑んでいるリオは自身の変化に気付いていない。
レティシアはリオの色気を纏う笑みにどんどん体の熱が上がっている。熱に身を委ねれば思考できなくなりそうだった。
令嬢モードを纏いたくても、自分の体がおかしすぎてできなかった。
「突然すぎて信用できませんが私と婚約することに異存はないんですね?」
「ないよ」
リオの即答に静かに頷いたレティシアは自分の欲に忠実になることにした。
リオの心境はわからないが了承を得られたならいいかと。レティシアの中で方針が決まれば思考は簡単だった。
「わかりました。私、用があるので失礼しますわ。戸締まりお願いします」
レティシアは淑女の礼をして部屋を出ていくために踵を返した。
優雅で綺麗な微笑みを浮かべて颯爽と立ち去ろうとするレティシアにリオは嫌な予感に襲われ、腕を掴んで抱きよせて拘束した。
「待て、シア、どこに行くの?」
「伯父様達を説得してきますわ」
マール公爵家に突撃するつもりだったレティシアが強気で優雅な笑みを浮かべるがリオは首を横に振った。
先程まで赤面していたのが嘘のような落ち着きでリオの腕の中にいるレティシア。
意識されてるんだか、されてないんだかわからないリオはとりあえず止めて良かったと安堵のため息を飲み込んだ。
「俺がするよ」
「私にお任せくださいませ」
マール公爵夫妻の交渉に自信のあるレティシアは自信に満ちた顔でリオを見つめる。
この顔のレティシアは失敗をすることはないがリオには任せることはできない事情がある。
「それ俺の役目だから」
「リオの気が変わらないうちに外堀を埋めてきます」
「必要ないから。気も変わらない」
「信用できません」
「わかったよ。今度の休養日に面会依頼を出すよ」
「今から行ってきます」
「父上がうちにいるかわからないだろ?」
「帰ってますよ。遊びにおいでってお手紙をいただきましたもの。わかりました。伯父様の説得は諦めます。お父様に会いに帰りますわ。リオは一筆書いていただければ結構ですわ」
リオは不在が多い父親の予定を知っているレティシアを止めるのは諦めた。
二人の婚約が認められても、年下の従妹に婚約の許しを得るための交渉を委ねたと知った家族に一生笑いのネタにされる。
交渉を得意とする外交一家の末息子としても、男としても役目を譲るわけにはいかなかった。
「わかった。一緒に行くよ」
「不要ですわ」
「シアには不要でも俺には必要だ。俺が許可をもらえるように話すから隣で大人しくしてて。なあ、その顔なに?」
レティシアは外堀を埋めて、リオの逃げ道を塞ぐつもりだったがあることを思い出して息を飲んだ。
突然固まり気まずそうな顔をしたレティシアにリオは嫌な予感に襲われる。
「忘れてましたが、お父様にお手紙を送ってしまいました」
「手紙?」
「リオのことは諦めましたのでビアード公爵夫人になろうと思いますって」
「馬鹿、先に言え。いつ!?」
「今朝」
「叔父上は縁談のことなんて?」
「私が選んで信用できる方なら構わないそうですわ」
「俺が行ってくるから待ってて」
「私も行きます」
窓の外は暗く、学生が出かけるのは危ない時間である。
リオがどんな言葉をかけてもレティシアには学園で待つ選択肢はなかった。
ルーン公爵家の決断したら迅速に動く方針を知っているリオはレティシアの説得は諦めた。
今までのようにリオが話しかけるだけで喜び、笑顔で快諾していたレティシアの姿はない。
それでもリオの顔を見て話す表情豊かなレティシアに愛しさを感じるリオに抗うすべはなかった。
恋は惚れたほうが負け。どんな汚い手を使っても恋した人を逃してはいけない。薄汚い世界に遠慮はいらないはマール公爵の教えでもある。
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