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豪華な会場で少年はダンスを踊る。
美女も美少女も慣れた手付きでリードしてステップを踏む。
初めて少年が選んだパートナーをリードした時は緊張した。緊張しながらも丁寧にリードした少女は成長し、リードせずとも息の合うステップを披露する。
少年に必死にアピールする瞳を潤ませる美少女の言葉にどんどん冷えていく少年の瞳に気付かない。
少年の笑みに騙されず瞳の感情を読もうとする少女はいない。
弱さをアピールする美女とは正反対の強がりな少女が恋しくなる。
常に浮かべる心の籠もっていない笑みに頬を染める令嬢に少年はとうとう嫌気がさした。
***
レティシアはクロードに付き纏われるので昼休みはリオの部屋に避難していた。
レティシアにとってリオ以外には相談できない問題が起きていた。目の前に高い壁が現れ卒業を早める考えは捨てた。
常に完璧を求められた王妃教育の考えが抜けないレティシアはリオ以外にわからないと言えず、満点を目指して必死に試験勉強をしていた。
レティシアは湾曲した言い回しや芸術への解釈が苦手である。
知識で補えないものが壊滅的に苦手とはマール公爵家とクロードしか知らないことである。
「これわかりません」
「最初から違ってるよ」
「嘘?勉強なんて嫌いですが成績を落とせばお母様が…。留年も許されません」
ノックの音にレティシアは拗ねた顔をやめて令嬢モードを纏い穏やかな顔を作る。
リオは笑いながら侍従に声を掛け、客人を招き入れる。
「礼はいらないよ」
「ごきげんよう。失礼します」
「送るよ。次は移動教室だろう?」
「シア、そろそろ行けよ」
レティシアの勉強道具をリオの侍従が片付け、すでにクロードの侍従の手に渡されている。
レティシアはリオに追い出され、強引にクロードにエスコートされて訓練場まで送られた。絶対の味方のはずのリオが本当に味方か生まれて初めて悩んでいた。
「ルーン!!」
「え?あら?」
「魔力が多いと危険も伴う。集中するように」
レティシアは教師の声に我に返り周囲を見渡した。集中力を乱していたため、魔法のコントロールを誤り、泉の水を操るはずが雨雲まで呼んだ。慌てて魔法の発動を止め、教師の指示通りに泉の水を操って、実技試験の合格を受けた。
レティシアは結界の中でシエルが作った報告書を真顔で読んでいた。
「ルメラ様が転校し、婚約者探しが面倒な殿下に付き纏われてるんですよね。リオが頼りにならないなんて。でも私も殿下も従兄ですから板挟み、それなら仕方ありませんわ。候補者がほぼ卒業されてますわ。我が儘は言えません。大事なのは意欲と執念ですわ」
レティシアは結界を解除して忌々しそうに睨むクラスメイトに笑みを浮かべて近づく。
新しい婚約者を紹介したくてもクロード好みの令嬢はクロードには興味はない。そのためクロードを慕う婚約者候補を利用することにした。
「マートン様、お茶をしましょう。二人っきりで。よろしいですわね?」
魔法の実技試験が終わりレティシアよりも家格が低い、敵対派閥のアリッサ・マートン侯爵令嬢を笑顔でお茶に誘う。
アリッサ・マートンはレティシアを敵視しているアナベラ・パドマ公爵令嬢の取り巻きの一人である。アナベラによく似た高慢で執念深い性格でも成績は優秀で魔力量も十分にありクロードが望めば正妃として迎え入れられる後ろ盾もある。一番のポイントはクロードに憧れている所である。
アリッサを連れてサロンに入り、レティシアは影に聞かれないように厳重な防音の結界で覆う。
「何を考えているのよ。魔法の使用は授業以外は禁止なのに」
「全て私が責任を持ちます。防音の結界だけですわ。教科書の結界では意味がありません。不安でしたら扉の前の席にお座りください。鍵もかけません。この結界はマートン様が魔石を作って結界の中心に投げれば霧散しますよ。もしや私に嵌められると怖がってますか?」
穏やかな笑みを浮かべながら明らかに棘を含んだレティシアの言葉に挑発されたアリッサが渋々と席に座った。レティシアは向かいに座りシエルの用意したお茶を飲む。警戒しているアリッサに微笑みながらお菓子を口に含み毒味をすませた。
「毒などいれてませんわ。お疑いなら口をつけずとも構いませんわ。今は全ての無礼を見逃しますわ。単刀直入に言いますわ。私は王家の婚約者になりたくありません。ですから協力しますわ」
「は?」
間抜けな声を出したアリッサを気にせずレティシアは穏やかに話す。
「内緒にしてください。他言すれば命の保障はしませんわ。クロード殿下は公務が増やされるのがお嫌いです。きちんと引継ぎ、相応しい教養を持つなら新たな婚約者として受け入れるでしょう。本当はリール様が殿下のお好みですがリール様が殿下に興味がありません。秀才と名高いレート様は卒業されております。殿下に興味のあるマートン様が適任です。殿下の情報を流しますから手を組みませんか?」
「な、何を企んでるのよ」
いつもは笑みを浮かべて感情を悟らせないどんな嫌味も通じず、時には倍返しするレティシアが初めて意図を口にする様子にアリッサは警戒する。
レティシアは綺麗に一つにまとめられている髪を解いた。
髪の乱れはマナー違反であり平常で髪を解いた姿をあえて見せるのは素を見せているというアピールである。
恋人同士のやりとりで使われるがレティシアが使ったのは初めてである。平等の学園では髪の乱れは気にされないが淑女の鑑を意識して行動するレティシアにとっては勇気のいる決断である。アリアや母親に知られればお説教とわかっていても必要な駆け引きだった。
目を見張るアリッサにレティシアは警戒を解くために精一杯優しく微笑む。
「ルーン公爵家として王家の婚約者に利がありません。恋はよくわかりませんが正妃の条件に合いますし、マートン様の性格の悪、いえ社交能力ならアリア様ともお付き合いできますわ。もちろんアリア様のお気に入りになるコツも教えますわ。これは命令ではなくお願いですわ。うちの派閥の反対は私が黙らせます。ルーンを廃そうとしない限り全面協力を約束します。貴方のお心次第です。昔から私に相応しくないっておっしゃっていたんですもの。相応しくない私が精一杯お手伝いしますので頑張ってくださいませ」
「性格変わってない?貴方はずっと殿下を」
呆然としているアリッサの呟きにレティシアは小さく笑う。
レオとの不貞が囁かれたのにアリッサがクロードの関係性を信じているのは意外だった。そして動揺しているアリッサを初めて可愛らしいと思った。
「婚約者の義務を果たしていただけですわ。婚約破棄されたので興味はありません。令嬢なんてそんなものでしょう?破棄した関係の終わった相手に捧げる時間はありませんよ」
病み上がりを理由にクロードを付き合わせているレティシア。視線を絡めて甘えているレティシアをクロードが優しさで付き合っているとアリッサは思っていた。クロードの優しさに付け込んでまた婚約者の座を狙っていると。
「嘘でしょ…」
「本当ですよ。私は一度も妃など望んでません。気付いたら婚約者に選ばれていただけですわ。婚約者候補に選ばれた記憶さえありません。お父様と陛下の命に従っただけですわ。私と殿下に特別な関係はありません」
「もういいわ。本気なの?」
「ええ。精霊の誓約でも構いませんわ。私」
完璧な王子の婚約者は令嬢の憧れの的だった。
呆れた顔でため息をつくレティシアの本音にも雰囲気にも驚きを隠せなかった。
アリッサはレティシアの空気にのまれていた。
精霊の誓約を破ると精霊の加護を失い、魔法が使えなくなる。
フラン王国貴族は精霊の加護を受け魔力を持つことに誇りを持つ魔力絶対主義者が多い。
貴族の家に精霊の加護のない者が生まれれば、実子と認めず処理されることもある。
魔力を突然失えば貴族として資格を失うこともある。精霊の誓約を破るのは貴族の禁忌である。
また大量の魔力を使う精霊の誓約をするには事前準備がいる。
軽々しく使うものではないのに、今のレティシアなら使いそうな雰囲気にアリッサは慌てて言葉を遮る。
「こんな所でやめなさいよ!!そ、そこまで言うなら」
勘違いして慌てるアリッサを楽しそうに眺めながらレティシアはお茶を飲む。
意地っ張りなアリッサが協力してと言えないのをわかっている。レティシアにとってはアリッサが前向きになってくれれば充分な成果である。
「ありがとうございます。まずは外見からですね。殿下はふわふわしたお髪で愛らしい笑顔の無邪気な方がお好き」
「まさか、ルメラ男爵令嬢のことを?」
「そうですよ。ルメラ様が転校され、誰一人妃候補がいなくなり面倒な殿下が私に持ち掛けているだけですから」
「あんな馬鹿なフリを私にやれと?」
淑女の仮面が剥がれ落ち、嫌そうなアリッサを楽しそうに眺めていたレティシアは立ち上がった。
結界を無効化され 扉を見ると不機嫌な金の瞳の持ち主が現れ、背中に冷たい汗が流れる。
「何をしてるんだ?」
結界で外の音を遮断していたレティシアは不機嫌な瞳で穏やかな笑みを浮かべるクロードに頭を下げた。
「申し訳ありません。すぐに授業に戻ります」
「頭をあげて。何をしているんだい?」
防音の強固な結界の中で、常に綺麗に結んでいる髪が解け、顔が強張っていたレティシアを見たクロードは冷たい眼差しをアリッサに向け、冷たい声で問いかけた。
クロードの冷たい声に免疫がついたレティシアは固まっているアリッサを背に庇い視界を遮る。
「結界は私が作りました。授業以外の魔法の使用についての咎は私です。大事なお話をしておりました。マートン様は私が無理に付き合わせました。生徒会に反省文を提出すればよろしいですか?」
「レティ、隠さなくていいよ。また嫌なことを」
クロードはレティシアを敵視し嫌がらせをするアリッサを知っていた。レティシアを優しく見つめ首を横に振る。
レティシアは言葉の通じないクロードに平等の学園という免罪符を使うことを決め、絶対零度の眼差しで見つめ返した。
「いい加減になさいませ。そのような事実はありません。結界を無効化した殿下なら私が作ったものとご理解いただけると思いますが。醜聞持ちの元婚約者の言葉を信用できずとも公正な判断をお願いします。私はルーン公爵が認めるルーン公爵令嬢です。言葉の責任も自覚しております。私は殿下と婚約破棄されてもルーン公爵令嬢としての誇りは捨てておりません。私を公爵令嬢としてふさわしくないなら裁いてください。斬首でも国外追放でもお好きにどうぞ。殿下の信用はありませんが、歴代宰相一族を務めるルーン公爵家の令嬢の言葉として進言しますわ。紳士としてご令嬢に向ける態度ではありませんわ。恋に狂った曇った目を覚ましてください。失礼しますわ」
礼をして立ち去ろうとするレティシアの手をクロードが掴む。
「え?レティ、誤解だよ。送るよ。危ないから」
「どうか授業にお戻りくださいませ。生徒会に反省文を提出しますのでご安心ください。マートン様、授業に行きましょう。事情は言えませんが殿下がおかしいんですよ」
「レティ、送るよ。私と一緒なら咎められない。困っているなら私が」
「お気遣いなく。殿下、誤解される行動は慎んでくださいませ。ご自分の立場を思い出してくださいませ。不敬で裁くならご自由に」
レティシアは冷笑を浮かべ、感情を隠した穏やかな笑顔のクロードと睨み合う。
しばらくして強引なクロードに手を引かれて教室に戻った。クロードはレティシアに軽蔑されても危険なアリッサと二人にするのは許さなかった。
レティシアはクロードのおかげで教師に咎められることはなかったがクラスメイトから注がれる視線が痛かった。
気の強いアリッサさえも複雑な顔で見ていたのが一番辛かった。髪を解いたままと気付き授業が終わるとすぐにシエルを呼び出し整えた。
この日からレティシアはクロードから逃げるのをやめてアリッサと一緒にクロードを迎えた。クロードの部屋に誘われるとアリッサが一緒ならと頷く。クロードの部屋に入るとレティシアは椅子に座り書類の束に手を伸ばす。
「殿下、私はきちんとマートン様に引継ぎをしますのでご安心を」
「引継ぎは必要ないよ。もともと君の仕事ではない」
「でしたら、私がこの部屋に入る理由はありませんわ。どうか相応しいご令嬢を招いてください」
「私はレティを妃に迎えるよ」
「お戯れを。マートン様はレート様ほどではありませんが優秀な方ですよ。醜聞もなく、王太子妃に相応しいと存じます。マートン様、口元と瞳をよく見てください。殿下の笑顔に騙されてはいけませんよ。殿下は王族ゆえに常に隠しておられますが感情はあります。今はあまり機嫌がよくありませんわ」
「レティに醜聞はない。君が王家に相応しくない理由はないんだよ」
「お戯れを。アリア様とのお付き合いも私がきちんと教えます。殿下は何も心配いりませんわ」
クロードはアリッサに声を掛けられても全てを笑顔で流す。レティシアはアリッサに指導しながら必死にクロードにアピールをするもクロードは笑顔で話題を変える。
場所が変わっても同じだった。
「マートン様は美人ですし、魔力も豊富です」
「全てにおいてレティの方が優れているよ。私はレティを妃に迎えるよ。君以外は迎えない」
「お戯れを。相応しいマートン様を」
どちらも譲らないクロードとレティシアの笑顔の攻防戦を周囲は静かに見守っていた。
「マートン嬢も希望があるなら婚約者候補を紹介するよ」
「殿下が薦めたらお断りできませんわ。おやめくださいませ」
「レティの認める優秀な令嬢なら引く手数多だろう。強制はしないから」
「ですから殿下の婚約者として、未来の国母として推薦してます。人のことよりもご自分のことを考えてくださいませ」
レティシアの言葉を聞き流しクロードはアリッサの婚約を整えた。
「ありえませんわ。3日で婚約?良縁ですが……」
失意にくれて机に伏せっているレティシアをアリッサは同情的に見ていた。
レティシアは懐に入れたものだけにはきめ細かく世話をする。クロードの婚約者に相応しくするためにアリッサにクロードの表情の読み取り方、嗜好、王族との付き合い方はもちろん、魔法や勉強、社交の欠点等、全てにおいて厳しく指導していた。クロードの求婚は全て聞き流しながら。厳しくも丁寧に指導をされたアリッサはレティシアへの嫌悪はなくなっていた。
「殿下が嫌なら先に婚約すれば?殿下とはいえ婚約者がいれば」
「縁談はお父様のご意思ですから。でも恋人を作り、うちに婿入りしていただくのも…。名案かもしれませんわ。醜聞の一つも二つも三つも変わりませんわ。潔癖な王家は恋人がいる婚約者を選びませんし、そうすると」
「まさかマール様?」
「ありえませんよ。リオは外面はいいですが実際は小姑なのでお勧めしませんわ。それにマールの三男は安くありませんわ。醜聞持ちの私と婚姻するなら」
心労で令嬢モードが剥がれかけているレティシアの学園屈指の人気者の評価にクラスメイト達は驚く。
アリッサのありえない提案にも。
レティシアは顔を上げて教室を見渡し、丁度登校してきたクラスメイトに視線を止める。
「歴史も浅く家格の低い力のないカーチス様にでもお願いしようかしら。次男ならきっと私でも、醜聞よりもルーンのほうが価値がありますわ。弱小のカーチスならルーンの分家のほうが権力も、比べるまでもないですわ。序列も二桁ですし……どうとでもなりますわ。行ってきますわ」
「え?」
カーチス侯爵家は弱小貴族ではない。
レティシアにとって序列10位以上はすべて弱小という初めて聞く厳しい評価に視線が集まっているのは気にせず、アリッサの戸惑う声は聞こえずレティシアは立ち上がる。
「カーチス様、ルーンに婿入り前提にお付き合いしてくださいませ」
淑やかな顔で告白をされ、カーチス侯爵家次男のクラムは困惑して固まる。
「は?」
「両家は私が説得致します。どうか私を。失礼しました。先にご挨拶ですよね。おはようございます。私が責任持ってお世話しますわ。ルーンの」
「悪いな。まだ病み上がりでおかしいみたいだ。忘れてくれ。シア、休もうか。行くよ」
従妹を訪ねたリオは暴走しているレティシアの言葉を遮り爽やかに微笑む。
レティシアはリオに肩を掴まれ、振り返ると爽やかな恐怖の笑みに身構え礼をする。
「リオ兄様、おはようございます。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「おはよう。調子が悪いな。送るよ」
「私は、か、かしこまりました」
レティシアはリオの部屋に連行され、向かい合い恐怖のお説教をどう逃れようか考えこんでいると呆れた視線を向けられた。
レティシアがクロードに気に入られているのは学園中に知れ渡っている。
レティシアが婚約を申し込んだとすれば、受けても断っても大惨事がおこることを当事者が一番わかっていないことにリオは久しぶりに頭を抱えたくなった。
放っておけばルーン公爵家と王家の全面戦争である。
今のルーンはレティシアが望めば何をするかわからなかった。
「もう誰でもいいから婚約しようかな。お父様にお願い、いえ、お父様はしばらく留守ですわ。あら?この音は?授業が始まります。これ以上成績を落とすわけにはいきませんわ」
「あとでゆっくり話すか。昼休みに待ってるよ。反省文は書き直しだ」
「え?わかりましたわ」
レティシアは授業を理由にお説教から解放され上機嫌な笑みを浮かべて礼をして教室に戻った。
レティシアの奇行により教室内に緊張が走っていることは気づかずに授業の準備を始めた。
美女も美少女も慣れた手付きでリードしてステップを踏む。
初めて少年が選んだパートナーをリードした時は緊張した。緊張しながらも丁寧にリードした少女は成長し、リードせずとも息の合うステップを披露する。
少年に必死にアピールする瞳を潤ませる美少女の言葉にどんどん冷えていく少年の瞳に気付かない。
少年の笑みに騙されず瞳の感情を読もうとする少女はいない。
弱さをアピールする美女とは正反対の強がりな少女が恋しくなる。
常に浮かべる心の籠もっていない笑みに頬を染める令嬢に少年はとうとう嫌気がさした。
***
レティシアはクロードに付き纏われるので昼休みはリオの部屋に避難していた。
レティシアにとってリオ以外には相談できない問題が起きていた。目の前に高い壁が現れ卒業を早める考えは捨てた。
常に完璧を求められた王妃教育の考えが抜けないレティシアはリオ以外にわからないと言えず、満点を目指して必死に試験勉強をしていた。
レティシアは湾曲した言い回しや芸術への解釈が苦手である。
知識で補えないものが壊滅的に苦手とはマール公爵家とクロードしか知らないことである。
「これわかりません」
「最初から違ってるよ」
「嘘?勉強なんて嫌いですが成績を落とせばお母様が…。留年も許されません」
ノックの音にレティシアは拗ねた顔をやめて令嬢モードを纏い穏やかな顔を作る。
リオは笑いながら侍従に声を掛け、客人を招き入れる。
「礼はいらないよ」
「ごきげんよう。失礼します」
「送るよ。次は移動教室だろう?」
「シア、そろそろ行けよ」
レティシアの勉強道具をリオの侍従が片付け、すでにクロードの侍従の手に渡されている。
レティシアはリオに追い出され、強引にクロードにエスコートされて訓練場まで送られた。絶対の味方のはずのリオが本当に味方か生まれて初めて悩んでいた。
「ルーン!!」
「え?あら?」
「魔力が多いと危険も伴う。集中するように」
レティシアは教師の声に我に返り周囲を見渡した。集中力を乱していたため、魔法のコントロールを誤り、泉の水を操るはずが雨雲まで呼んだ。慌てて魔法の発動を止め、教師の指示通りに泉の水を操って、実技試験の合格を受けた。
レティシアは結界の中でシエルが作った報告書を真顔で読んでいた。
「ルメラ様が転校し、婚約者探しが面倒な殿下に付き纏われてるんですよね。リオが頼りにならないなんて。でも私も殿下も従兄ですから板挟み、それなら仕方ありませんわ。候補者がほぼ卒業されてますわ。我が儘は言えません。大事なのは意欲と執念ですわ」
レティシアは結界を解除して忌々しそうに睨むクラスメイトに笑みを浮かべて近づく。
新しい婚約者を紹介したくてもクロード好みの令嬢はクロードには興味はない。そのためクロードを慕う婚約者候補を利用することにした。
「マートン様、お茶をしましょう。二人っきりで。よろしいですわね?」
魔法の実技試験が終わりレティシアよりも家格が低い、敵対派閥のアリッサ・マートン侯爵令嬢を笑顔でお茶に誘う。
アリッサ・マートンはレティシアを敵視しているアナベラ・パドマ公爵令嬢の取り巻きの一人である。アナベラによく似た高慢で執念深い性格でも成績は優秀で魔力量も十分にありクロードが望めば正妃として迎え入れられる後ろ盾もある。一番のポイントはクロードに憧れている所である。
アリッサを連れてサロンに入り、レティシアは影に聞かれないように厳重な防音の結界で覆う。
「何を考えているのよ。魔法の使用は授業以外は禁止なのに」
「全て私が責任を持ちます。防音の結界だけですわ。教科書の結界では意味がありません。不安でしたら扉の前の席にお座りください。鍵もかけません。この結界はマートン様が魔石を作って結界の中心に投げれば霧散しますよ。もしや私に嵌められると怖がってますか?」
穏やかな笑みを浮かべながら明らかに棘を含んだレティシアの言葉に挑発されたアリッサが渋々と席に座った。レティシアは向かいに座りシエルの用意したお茶を飲む。警戒しているアリッサに微笑みながらお菓子を口に含み毒味をすませた。
「毒などいれてませんわ。お疑いなら口をつけずとも構いませんわ。今は全ての無礼を見逃しますわ。単刀直入に言いますわ。私は王家の婚約者になりたくありません。ですから協力しますわ」
「は?」
間抜けな声を出したアリッサを気にせずレティシアは穏やかに話す。
「内緒にしてください。他言すれば命の保障はしませんわ。クロード殿下は公務が増やされるのがお嫌いです。きちんと引継ぎ、相応しい教養を持つなら新たな婚約者として受け入れるでしょう。本当はリール様が殿下のお好みですがリール様が殿下に興味がありません。秀才と名高いレート様は卒業されております。殿下に興味のあるマートン様が適任です。殿下の情報を流しますから手を組みませんか?」
「な、何を企んでるのよ」
いつもは笑みを浮かべて感情を悟らせないどんな嫌味も通じず、時には倍返しするレティシアが初めて意図を口にする様子にアリッサは警戒する。
レティシアは綺麗に一つにまとめられている髪を解いた。
髪の乱れはマナー違反であり平常で髪を解いた姿をあえて見せるのは素を見せているというアピールである。
恋人同士のやりとりで使われるがレティシアが使ったのは初めてである。平等の学園では髪の乱れは気にされないが淑女の鑑を意識して行動するレティシアにとっては勇気のいる決断である。アリアや母親に知られればお説教とわかっていても必要な駆け引きだった。
目を見張るアリッサにレティシアは警戒を解くために精一杯優しく微笑む。
「ルーン公爵家として王家の婚約者に利がありません。恋はよくわかりませんが正妃の条件に合いますし、マートン様の性格の悪、いえ社交能力ならアリア様ともお付き合いできますわ。もちろんアリア様のお気に入りになるコツも教えますわ。これは命令ではなくお願いですわ。うちの派閥の反対は私が黙らせます。ルーンを廃そうとしない限り全面協力を約束します。貴方のお心次第です。昔から私に相応しくないっておっしゃっていたんですもの。相応しくない私が精一杯お手伝いしますので頑張ってくださいませ」
「性格変わってない?貴方はずっと殿下を」
呆然としているアリッサの呟きにレティシアは小さく笑う。
レオとの不貞が囁かれたのにアリッサがクロードの関係性を信じているのは意外だった。そして動揺しているアリッサを初めて可愛らしいと思った。
「婚約者の義務を果たしていただけですわ。婚約破棄されたので興味はありません。令嬢なんてそんなものでしょう?破棄した関係の終わった相手に捧げる時間はありませんよ」
病み上がりを理由にクロードを付き合わせているレティシア。視線を絡めて甘えているレティシアをクロードが優しさで付き合っているとアリッサは思っていた。クロードの優しさに付け込んでまた婚約者の座を狙っていると。
「嘘でしょ…」
「本当ですよ。私は一度も妃など望んでません。気付いたら婚約者に選ばれていただけですわ。婚約者候補に選ばれた記憶さえありません。お父様と陛下の命に従っただけですわ。私と殿下に特別な関係はありません」
「もういいわ。本気なの?」
「ええ。精霊の誓約でも構いませんわ。私」
完璧な王子の婚約者は令嬢の憧れの的だった。
呆れた顔でため息をつくレティシアの本音にも雰囲気にも驚きを隠せなかった。
アリッサはレティシアの空気にのまれていた。
精霊の誓約を破ると精霊の加護を失い、魔法が使えなくなる。
フラン王国貴族は精霊の加護を受け魔力を持つことに誇りを持つ魔力絶対主義者が多い。
貴族の家に精霊の加護のない者が生まれれば、実子と認めず処理されることもある。
魔力を突然失えば貴族として資格を失うこともある。精霊の誓約を破るのは貴族の禁忌である。
また大量の魔力を使う精霊の誓約をするには事前準備がいる。
軽々しく使うものではないのに、今のレティシアなら使いそうな雰囲気にアリッサは慌てて言葉を遮る。
「こんな所でやめなさいよ!!そ、そこまで言うなら」
勘違いして慌てるアリッサを楽しそうに眺めながらレティシアはお茶を飲む。
意地っ張りなアリッサが協力してと言えないのをわかっている。レティシアにとってはアリッサが前向きになってくれれば充分な成果である。
「ありがとうございます。まずは外見からですね。殿下はふわふわしたお髪で愛らしい笑顔の無邪気な方がお好き」
「まさか、ルメラ男爵令嬢のことを?」
「そうですよ。ルメラ様が転校され、誰一人妃候補がいなくなり面倒な殿下が私に持ち掛けているだけですから」
「あんな馬鹿なフリを私にやれと?」
淑女の仮面が剥がれ落ち、嫌そうなアリッサを楽しそうに眺めていたレティシアは立ち上がった。
結界を無効化され 扉を見ると不機嫌な金の瞳の持ち主が現れ、背中に冷たい汗が流れる。
「何をしてるんだ?」
結界で外の音を遮断していたレティシアは不機嫌な瞳で穏やかな笑みを浮かべるクロードに頭を下げた。
「申し訳ありません。すぐに授業に戻ります」
「頭をあげて。何をしているんだい?」
防音の強固な結界の中で、常に綺麗に結んでいる髪が解け、顔が強張っていたレティシアを見たクロードは冷たい眼差しをアリッサに向け、冷たい声で問いかけた。
クロードの冷たい声に免疫がついたレティシアは固まっているアリッサを背に庇い視界を遮る。
「結界は私が作りました。授業以外の魔法の使用についての咎は私です。大事なお話をしておりました。マートン様は私が無理に付き合わせました。生徒会に反省文を提出すればよろしいですか?」
「レティ、隠さなくていいよ。また嫌なことを」
クロードはレティシアを敵視し嫌がらせをするアリッサを知っていた。レティシアを優しく見つめ首を横に振る。
レティシアは言葉の通じないクロードに平等の学園という免罪符を使うことを決め、絶対零度の眼差しで見つめ返した。
「いい加減になさいませ。そのような事実はありません。結界を無効化した殿下なら私が作ったものとご理解いただけると思いますが。醜聞持ちの元婚約者の言葉を信用できずとも公正な判断をお願いします。私はルーン公爵が認めるルーン公爵令嬢です。言葉の責任も自覚しております。私は殿下と婚約破棄されてもルーン公爵令嬢としての誇りは捨てておりません。私を公爵令嬢としてふさわしくないなら裁いてください。斬首でも国外追放でもお好きにどうぞ。殿下の信用はありませんが、歴代宰相一族を務めるルーン公爵家の令嬢の言葉として進言しますわ。紳士としてご令嬢に向ける態度ではありませんわ。恋に狂った曇った目を覚ましてください。失礼しますわ」
礼をして立ち去ろうとするレティシアの手をクロードが掴む。
「え?レティ、誤解だよ。送るよ。危ないから」
「どうか授業にお戻りくださいませ。生徒会に反省文を提出しますのでご安心ください。マートン様、授業に行きましょう。事情は言えませんが殿下がおかしいんですよ」
「レティ、送るよ。私と一緒なら咎められない。困っているなら私が」
「お気遣いなく。殿下、誤解される行動は慎んでくださいませ。ご自分の立場を思い出してくださいませ。不敬で裁くならご自由に」
レティシアは冷笑を浮かべ、感情を隠した穏やかな笑顔のクロードと睨み合う。
しばらくして強引なクロードに手を引かれて教室に戻った。クロードはレティシアに軽蔑されても危険なアリッサと二人にするのは許さなかった。
レティシアはクロードのおかげで教師に咎められることはなかったがクラスメイトから注がれる視線が痛かった。
気の強いアリッサさえも複雑な顔で見ていたのが一番辛かった。髪を解いたままと気付き授業が終わるとすぐにシエルを呼び出し整えた。
この日からレティシアはクロードから逃げるのをやめてアリッサと一緒にクロードを迎えた。クロードの部屋に誘われるとアリッサが一緒ならと頷く。クロードの部屋に入るとレティシアは椅子に座り書類の束に手を伸ばす。
「殿下、私はきちんとマートン様に引継ぎをしますのでご安心を」
「引継ぎは必要ないよ。もともと君の仕事ではない」
「でしたら、私がこの部屋に入る理由はありませんわ。どうか相応しいご令嬢を招いてください」
「私はレティを妃に迎えるよ」
「お戯れを。マートン様はレート様ほどではありませんが優秀な方ですよ。醜聞もなく、王太子妃に相応しいと存じます。マートン様、口元と瞳をよく見てください。殿下の笑顔に騙されてはいけませんよ。殿下は王族ゆえに常に隠しておられますが感情はあります。今はあまり機嫌がよくありませんわ」
「レティに醜聞はない。君が王家に相応しくない理由はないんだよ」
「お戯れを。アリア様とのお付き合いも私がきちんと教えます。殿下は何も心配いりませんわ」
クロードはアリッサに声を掛けられても全てを笑顔で流す。レティシアはアリッサに指導しながら必死にクロードにアピールをするもクロードは笑顔で話題を変える。
場所が変わっても同じだった。
「マートン様は美人ですし、魔力も豊富です」
「全てにおいてレティの方が優れているよ。私はレティを妃に迎えるよ。君以外は迎えない」
「お戯れを。相応しいマートン様を」
どちらも譲らないクロードとレティシアの笑顔の攻防戦を周囲は静かに見守っていた。
「マートン嬢も希望があるなら婚約者候補を紹介するよ」
「殿下が薦めたらお断りできませんわ。おやめくださいませ」
「レティの認める優秀な令嬢なら引く手数多だろう。強制はしないから」
「ですから殿下の婚約者として、未来の国母として推薦してます。人のことよりもご自分のことを考えてくださいませ」
レティシアの言葉を聞き流しクロードはアリッサの婚約を整えた。
「ありえませんわ。3日で婚約?良縁ですが……」
失意にくれて机に伏せっているレティシアをアリッサは同情的に見ていた。
レティシアは懐に入れたものだけにはきめ細かく世話をする。クロードの婚約者に相応しくするためにアリッサにクロードの表情の読み取り方、嗜好、王族との付き合い方はもちろん、魔法や勉強、社交の欠点等、全てにおいて厳しく指導していた。クロードの求婚は全て聞き流しながら。厳しくも丁寧に指導をされたアリッサはレティシアへの嫌悪はなくなっていた。
「殿下が嫌なら先に婚約すれば?殿下とはいえ婚約者がいれば」
「縁談はお父様のご意思ですから。でも恋人を作り、うちに婿入りしていただくのも…。名案かもしれませんわ。醜聞の一つも二つも三つも変わりませんわ。潔癖な王家は恋人がいる婚約者を選びませんし、そうすると」
「まさかマール様?」
「ありえませんよ。リオは外面はいいですが実際は小姑なのでお勧めしませんわ。それにマールの三男は安くありませんわ。醜聞持ちの私と婚姻するなら」
心労で令嬢モードが剥がれかけているレティシアの学園屈指の人気者の評価にクラスメイト達は驚く。
アリッサのありえない提案にも。
レティシアは顔を上げて教室を見渡し、丁度登校してきたクラスメイトに視線を止める。
「歴史も浅く家格の低い力のないカーチス様にでもお願いしようかしら。次男ならきっと私でも、醜聞よりもルーンのほうが価値がありますわ。弱小のカーチスならルーンの分家のほうが権力も、比べるまでもないですわ。序列も二桁ですし……どうとでもなりますわ。行ってきますわ」
「え?」
カーチス侯爵家は弱小貴族ではない。
レティシアにとって序列10位以上はすべて弱小という初めて聞く厳しい評価に視線が集まっているのは気にせず、アリッサの戸惑う声は聞こえずレティシアは立ち上がる。
「カーチス様、ルーンに婿入り前提にお付き合いしてくださいませ」
淑やかな顔で告白をされ、カーチス侯爵家次男のクラムは困惑して固まる。
「は?」
「両家は私が説得致します。どうか私を。失礼しました。先にご挨拶ですよね。おはようございます。私が責任持ってお世話しますわ。ルーンの」
「悪いな。まだ病み上がりでおかしいみたいだ。忘れてくれ。シア、休もうか。行くよ」
従妹を訪ねたリオは暴走しているレティシアの言葉を遮り爽やかに微笑む。
レティシアはリオに肩を掴まれ、振り返ると爽やかな恐怖の笑みに身構え礼をする。
「リオ兄様、おはようございます。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「おはよう。調子が悪いな。送るよ」
「私は、か、かしこまりました」
レティシアはリオの部屋に連行され、向かい合い恐怖のお説教をどう逃れようか考えこんでいると呆れた視線を向けられた。
レティシアがクロードに気に入られているのは学園中に知れ渡っている。
レティシアが婚約を申し込んだとすれば、受けても断っても大惨事がおこることを当事者が一番わかっていないことにリオは久しぶりに頭を抱えたくなった。
放っておけばルーン公爵家と王家の全面戦争である。
今のルーンはレティシアが望めば何をするかわからなかった。
「もう誰でもいいから婚約しようかな。お父様にお願い、いえ、お父様はしばらく留守ですわ。あら?この音は?授業が始まります。これ以上成績を落とすわけにはいきませんわ」
「あとでゆっくり話すか。昼休みに待ってるよ。反省文は書き直しだ」
「え?わかりましたわ」
レティシアは授業を理由にお説教から解放され上機嫌な笑みを浮かべて礼をして教室に戻った。
レティシアの奇行により教室内に緊張が走っていることは気づかずに授業の準備を始めた。
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