愉快な令嬢の遊び 

夕鈴

文字の大きさ
上 下
2 / 4

中編

しおりを挟む
伯爵令嬢ララは念願の夜会に参加しても恋するダミアンに近づけなかった。
豪華なドレスを纏う美しい令嬢に囲まれている人気者のダミアンはララに見向きもしない。
ダミアンがダンスするのは美しい令嬢ばかりで、もちろんララは誘われない。
令嬢を優しくエスコートする姿は王子様よりも格好良く、ダンスを披露する姿もうっとりするほど素敵で、美人でもなく豪華なドレスも着れないララが近づくなんておこがましいかと心が沈んでいく。
ダミアンに相応しくないとわかっていてもララは人からでダミアンの話を聞くたびに恋する気持ちが大きくなる。
令嬢達の恋の話題にいつも登場するダミアンの話をうっとりと聞きながら妄想を巡らすのがララの至福の時間。
幸せなお茶会の時間が終わり伯爵家に帰る途中に馬車の窓からダミアンを見つけ馬車を止めて慌てて降り、ララは勇気を出して近づく。
買い物をしているダミアンに話しかけると明るい笑顔を向けられ胸が高鳴る。
ララは自分の名前を呼ばれたことに喜び、ダミアンが思惑があり近づいたとは気づかずまた会えたらいいなと言われ頬を真っ赤に染めて頷く。
初めて話すダミアンは優しくて、話し上手でララの想像以上に素敵な人に感じさらに恋する気持ちがさらに大きくなる。
ララはダミアンの数いる恋人の一人で構わない。逢瀬を重ね、少しずつ近付く距離に歓喜していた。
新しく入った侍女のサナは聞き上手で、他の侍女達が聞き流すララの恋の話を熱心に聞いてくれる。
ダミアンの夜会に招待されたと話すと共に喜びドレスを選んでくれた。
他の侍女は場違いだとララの参加を止めるのにサナだけがララの味方だった。
サナの選んだドレスを着てララは夜会に向かう。興奮したララはサナが質素なドレスを勧めたのも、アクセサリーも選んだドレスに合わないことも気付かない。
サナは興奮するララに罪悪感を持っていた。
社交経験が少なく貴族の常識に疎いララは、ダミアンにとって普通のエスコートを受けて特別と勘違いしているが興奮したララにサナの言葉は届かない。
侍女は主の望み通りの役回りをこなすものである。笑みを浮かべてやんわりと訂正しても無駄とわかったサナは現実に気づくまで放置を選ぶ。侍女仲間がララの恋の話を聞き流す気持ちがわかり、どこの侍女も苦労するのかと現実逃避しながら主のために幼子の様な伯爵令嬢の傍で動いていた。

***

ダミアンは両親と兄が留守な日に私的な無礼講な夜会を催した。
招待しているのはミーアとダミアンの友人だけであり招待客達は二人をよく知っていた。
王族の覚えも目出度く、外面は完璧、社交もぬかりない。悪巧みが趣味の愉快犯という欠点を持つダミアンとミーアが憎まれないのは、悪巧みをしても全て甚大な被害がなく収まるからである。
友人達も自分に被害がなければ傍観者として楽しむミーア達と似た者同士の集まりである。
上機嫌なミーアはサナにララのドレスのサイズを調べさせ、ロットの好みを細かく反映したドレスを用意した。
ロットが絶対に外せない仕事があり遅れて参加するしかない日に夜会を組み、今度こそミーアの綿密な計画に抜けはないと人の悪い笑みを浮かべて準備を整え時を待っていた。


侯爵邸を訪ねた地味なドレスを着たララをダミアンが笑みを浮かべて出迎える。
豪華な侯爵邸に地味なドレスが浮いているとダミアンが指摘することはしない。
ララは頬を染めて差し出される手に手を重ね、ダミアンにエスコートされる夢のような時間にうっとりと足を進める。
うっとりしているララはダミアンと共に会場に入ると視線が集まるのに気付かない。
ワインを持ったミーアがうっとりしているララに近づき、躓くフリをして盛大にドレスにワインをかけようやく現実世界に戻る。
ダミアンはララの肌に一滴もワインをかけず見事にドレスだけを汚す器用な悪友に笑う。

「まぁ!?大変ですわ。失礼しました。お詫びに私の予備のドレスを差し上げます。私のダミアンの夜会ですもの。粗相は許しませんわ」
「ララ嬢、大丈夫か?ミーアが悪い。部屋を用意するから使ってくれ。ミーア、大丈夫か?」

ダミアンはララの手を離して甘い笑みを浮かべてミーアの肩を抱く。
ダミアンにもたれかかり甘えるミーアの牽制は動揺しすぎたララに認識されず無意味に終わる。
控えていたサナが目を丸くし固まったララを連れて移動し、罪悪感を覚えながらもミーアが用意したロット好みのドレスに着替えさせる。
サナはララの着付けをおえて、何度か呼びかけようやくララは我に返る。
ララは自分の家では買えない豪華なドレスに首を傾げ、サナが説明を始める。

「ワインをかけたお詫びにこのドレスを下賜していただきました。公爵家のご令嬢のお心を無碍にするのは無礼になりますから」
「こんな高価なドレスをいただけるなんて」

ララはサナの言葉に嬉しそうに笑う。
ミーアの家名を伝えてもララはミーアにワインをかけられたとは理解できていなかった。
ララは綺麗に着飾られた姿を鏡で見てこの姿なら豪華なお屋敷に住むダミアンの隣に立っても見劣りしないとにっこり笑う。
サナの選んだ似合わない地味でちぐはぐなコーディネートの後だったので、余計に映えて見えていた。
サナはアクセサリーや靴はミーアの用意したドレスに合わせて選び、ワインで汚されても、しみ抜きしやすそうなドレスをララに着せていた。
ララはダミアンに抱きしめられていた令嬢を思い浮かべ、今なら自分のほうが釣り合うと明るい顔で部屋を出て、サナに案内され会場を目指す。

サナはロットが夜会に足を運ぶ時間をミーアから聞き、ララを鉢合わさせるように指示されていた。窓の外からロットの到着を確認してララを誘導し傍を離れた。ミーアに与えられた絶対にロットにサナの姿を見せないという厳命を守るために。
サナの手でロット好みに仕上げられ部屋から会場に向かうララの後ろ姿をロットが頬を染めて見ていた。

「見惚れるのではなく誘うのですわ。ロットがこんなにヘタレとは思いませんでした。でも後ろ姿でアレでしたら、正面から見て大丈夫でしょうか」
「ロットが…」

ミーアとダミアンは物陰に隠れて逢引を装い観察していた。
ダミアンは冷静な幼馴染の初心な姿に必死に声を殺して笑う。隠れていなければ腹を抱えて床に転げ回りながら笑っていただろう。

「ダミアン、笑いすぎです。お酒でも飲ませて閉じ込めます?でもロットはお酒に強いんですよねぇ」
「面白いからこのまま見ようぜ。さて、どうなるかな」
「これ以上ララ様を誘惑したら許しませんよ。ダミアン」
「わかってる。上手くやるよ」

ダミアンの腕の中でミーアは不機嫌な顔で爆笑する頬を突っつく。
ダミアンの侍従は二人の距離の近さに慣れているため何も言わない。
ミーアは装飾のない紺色の質素で目立たないドレスを着て、髪をおろしていた。
豪華な装飾品に飾られ色鮮やかなドレスに包み髪を纏めている普段のミーアとは正反対である。
友人ばかりの無礼講な夜会だから許される装いでありロットに見つからないようにダミアンの腕の中に隠れて観察するための装いでもある。真面目なロットがミーアを見つけて、婚約者の義務としてエスコートするのを避けるために。


ロットは間の悪いダミアンからの夜会の招待に、迅速に外せない仕事を片付けて侯爵邸に馬車を進めさせた。
ミーアは侯爵家嫡男の婚約者と有名人なのに、男に人気がある。成長するにつれ魅了される男はどんどん増え、婚約者がいるのに諦めずにミーアを狙っている男の多さに嫌気がさしている。
最近はロットを全く意識していなかったミーアがようやくロットを意識し気持ちを受け入れてくれた。
ロットとは初めての口づけに頬を染める愛らしい婚約者の姿に口元が緩むのを堪え平静な顔を装うのが精一杯で、気のきく言葉を一言も言えなかった。
母に真剣な顔で自分の好みを教えてほしいと相談したという話を聞いたときはだらしなく顔が緩んだ。
侯爵邸に着き、母が教えた姿のミーアの後ろ姿を見て赤面し顔が緩み、すぐに声を掛けたくても無理だった。
必死に落ち着くように暗示をかけてミーアが会場に足を踏み入れる前に捕まえるため、後から腰を抱き寄せた。

「え?」

ララは突然腰を抱かれて驚いて固る。
ロットも聞き覚えのない声に目を見張り慌てて手を解く。

「失礼しました」
「いえ」

礼をして離れていく二人にミーアが盛大なため息をつき呆れた声を出す。

「抱き寄せられるのに、ダンスに誘わないんですか!?本能のままに手が?」
「笑いが…。まずい。あのロットが」

ロットは自分が観察されていることに気づかず、ミーアを探していた。

「ミーアを知ってる?」

ロットはいつも視線を集めて目立つミーアが全く見当たらないため親しい令嬢に声を掛ける。

「ミーア様はララ様にワインをかけてから出ていきましたわ」

ロットは詳しい事情を聞いて一瞬真顔になる。
運動神経抜群で礼儀作法も得意なミーアが転んでワインをかけるのはありえない。
大道芸を見て、翌日に大きい玉を手に入れダミアンと玉乗りしながらおやつをこぼさず食べるバランス感覚の持ち主である。
会場を見渡しても見つからないミーアは後にしてロットは謝罪するためにララに近づく。

「僕の婚約者がすまない」
「いえ。私は」
「後日伯爵閣下には謝罪に」
「お、お気持ちだけで」

ララはダミアンを探していたがロットに声を掛けられ足を止める。
ロットの話は理解できないが、豪華なドレスをもらったのでこれ以上のお詫びはいらない。
またロットが誤解していると思ってもしがない伯爵令嬢は名門公爵家の子息に反論できずに曖昧な言葉を並べる。
ララはミーアにワインをかけられたと認識できていないことをロットは気付かない。
ロットはララのドレスを見てミーアがきちんと謝罪したならいいかともう一度謝罪と何かあれば自分に言づけるように伝えて離れた。
ミーア達は庭園に移動し隠れて二人の様子を眺めていた。
穏やかな顔で話すロットに気まずそうなララの様子にミーアは頬に手を当てて憂い顔で何度目かわからないため息を溢す。

「全然駄目ですわ。ダミアン、あの二人どうすれば進展しますの?」
「ロットが、初恋って。愉快すぎる」
「私が彼女に無礼を働いて、謝罪にデート?あの奥手のロットには誘えませんわ」

笑いのツボに入っているダミアンの腕の中でブツブツとつぶやくミーアという異様な光景が広がっていた。
ララに謝罪を終えたロットはミーアを探していると見慣れた髪色を見つけた。
女癖の悪いダミアンが令嬢を連れ込んでいるのはいつものこと。主催のダミアンならミーアの居場所を知っているかもしれないと近づき声を掛ける。

「ダミアン、邪魔して悪いんだけどミーアを知らないか?」

ミーアはダミアンの胸に顔を埋める。ロットはダミアンの逢引相手の顔を確かめ、礼を強いるような無粋なマネはしないと知っている。
ロットに顔を見られたらミーアの計画は台無しである。
ダミアンは笑いが止まっていなかった。
令嬢を抱きしめながら爆笑する異様な光景にロットは嫌な予感がした。

「ダミアン、彼女は?」

ミーアは予想外のロットの行動にどうやってごまかすか悩んでいるのに、楽しそうに笑っている呑気なダミアンの足をヒールで踏みつけた。

「!?」
「ミーア、話したよね?従弟でも抱き合うのはよくないって。もう子供じゃないんだから」

ダミアンの足を躊躇なく踏み不満を訴えるのはミーアだけと本人は気付いていない。ミーアは迷いのないロットの声を聞いて正体を隠すのは諦め作戦を変更して、反省した声と顔を作る。

「私、反省してましたの。ララ様にワインをかけてしまいました。お詫びをしたいんですが怖がらせてしまい」

「関係ないよね。ダミアンから離れようか」

ミーアは作戦の失敗がわかった。
ミーアの話を聞いてララを心配したロットが慌てて謝罪に行く予定だったのに、エスコートを優先する真面目なロットにミーアは諦めてダミアンの体から顔を離す。

「その格好は何?」

公爵令嬢らしくない装いの指摘にミーアは笑みを浮かべ、笑っているダミアンが前に自分を置き去りに逃げた仕返しを決める。

「ダミアンの見立てですわ」

「は!?」

ミーアの公爵令嬢に見えない装いを用意したのはダミアンである。ミーアの変装用の服はいつもダミアンが用意していた。

「ダミアンの夜会ですもの。主催の好みをおさえるのは大事ですわ。親しき仲にも礼儀ありでしょう?」

解いている髪を指で弄びながら首を傾げて妖艶に微笑むミーアの思惑に気付いたダミアンは笑いが収まり背中に冷たい汗が流れる。

「ダミアン?」

ダミアンはロットに向けられる冷笑に寒気と共に全身に冷たい汗が流れる。

「私はお友達の所に行きますわ。失礼しますわ」

ミーアはロットの関心がダミアンに移ったので礼をして優雅に立ち去る。

「ミーア!!」

助けを求め呼ばれる声に別れの挨拶を忘れたことに気づき、ダミアンの頬に口づけを落とし立ち去ったミーアは火に油を注いだことに気づいていない。

「ダミアン、事情を話そうか。こそこそと動いているよね?」
「気のせいだろ」
「僕はイライラしてるんだ。さて、」

ダミアンはミーアよりも腕を組み聞いたことのないほど楽しそうな声を出すロットが怖い。
令嬢を魅了するロットの爽やかな笑みを向けられダミアンはさらに寒気に襲われながらゆっくりと口を開く。
ロットの初恋に腹を抱えて笑ったのを気付かれたくないがダミアンはロットに敵わない。
そして嘘をつくと恐ろしい報復を受けるのも身をもって知っている。
ミーア発案の初恋応援計画を聞いたロットは冷たい空気の中、極上の笑みを浮かべた。

「僕の初恋を応援か。婚約者の願いは叶えないと甲斐性を疑われるよね。もちろん協力するよね?結末は同じだよ。優しい幼馴染に感動したよ」

ブリザードを出す幼馴染みにダミアンは頷く以外の選択肢はなくミーアは悪友の裏切りに気づかずに夜会を楽しんでいた。
ララがダミアンを探しているのを見つけて、どうすればダミアンからロットへ鞍替えするか考えはじめる。

「ミーア、ロットが探してたけど」
「ダミアンとお話してますわ。大事なお話でしょう。殿方はいつも楽しそうで羨ましいですわ」
「ミーアもいつも楽しそうじゃないの」
「どんなときも楽しまないと」
「やりすぎてロットに怒られないようにね」

ミーアは友人から渡されたグラスを受け取りワインに口をつける。
ミーア達がやらかせばロットが収めるのは常識である。友人の言葉にミーアは曖昧に微笑みすでにダミアンがお説教を受けているとは口に出さない。
好みのワインをゆっくりと飲み干すと頭の中に鐘が響き閃きが浮かび妖艶に微笑む。

「今の私は公爵令嬢に見えませんか?」
「ええ。でもこの中にミーアを知らない者はいないわ」
「そうですね」

ミーアは目の前の友人を期待をこめて見つめる。

「ララ様にロットの良いところをお伝えしたいのですが」
「彼女はダミアン目当てでしょ?堅物のロットは無理よ」
「私は純真な令嬢がダミアンの餌食になるなんて…」
「ダミアンが盗られて寂しい?」
「いえ、いつかダミアンの被害者の会ができたらどうしようかと」
「ダミアンもね…。でもロットは貴方の婚約者でしょ?」
「形だけですわ」
「仕方がないから私が行ってあげる。楽しそうだし」
「感謝します」

ミーアの友人はララに上品な令嬢のフリをして近づいていく。
ミーアの友人も外面は良くても内心は愉快犯ばかりでつまらない貴族社会をうまく渡り合いながら楽しむことへの手は抜かない。
どう転んでも愉快なことが起こるのはわかっていた。友人はミーアとダミアンが知らないもう一つの噂を知っていた。

「ミーア、俺達とも遊ぼうよ」

一人になったミーアはダミアンの友人達に誘われ、笑顔でカードゲームに混ざろうとすると寒気に襲われる。

「僕への挑戦?」

ダミアンの友人達は爽やかな笑みを浮かべたロットの登場に真っ青になる。ダミアンとミーア主催の夜会にロットが顔を出すことは一度もなかった。

「冗談ですよ。いらっしゃってたんですね」

ミーアは顔色の悪いダミアンを見かけ、酷いお説教を受けたと察し、どうすれば不機嫌なロットから逃げられるか寒気に耐えながら悩んでいた。

「ミーア、僕は君が一人で夜会に出ているなんて知らなかったんだけど」

ミーアはロットのいない私的な夜会によく参加していた。
ロットにパートナーのいない夜会への参加は控えるように言われていたがロットがいるとハメを外せず楽しめない。
ダミアンとミーアによる無礼講な私的な愉快な夜会は絶対に秘密だった。バラしたダミアンを睨みたかったが今のロットは要注意でありミーアは曖昧な笑みを浮かべて無言を貫く。

「カードゲームがしたいなら僕達も混ざろうか」

ミーアは笑顔のロットに肩を抱かれ怯えながら頷く。
ごまかせるならなんでも構わないミーアは結果のわかるつまらないゲームに参加する。
ミーアにとって勝てないロットとのゲームをはつまらない。
ロットとの遊びは全て自分が負ける結果が見えてしまうからこそ、ダミアン達と私的な夜会で遊ぶのが気に入っていた。
ミーアは夜会が終わりロットに送られながら、お説教がないことに戸惑うもロットは初恋に浮かれて、見逃してくれたと思い直す。
馬車で物思いにふけるのはきっとララを思い浮かべていると思い込むミーアはお説教から逃れるためにロットの初恋を急いで叶えなければと背中に冷たい汗をかきながら思考を巡らせる。

***

第4回目の会議が始まった。

「お嬢様、やめませんか?私、罪悪感が」

ララは着飾ってもダミアンに全く相手にされず、夜会でも特別になれずに落ち込んでいた。
ララはミーアの友人からロットの話を聞いても興味を持てなかった。ダミアンと仲の良いロットと親しくなり、協力してもらうことさえ思いつかない純真な染まっていないララへの罪悪感でサナは胸が痛かった。

「ララ様に悪い話ではありません。公爵家への嫁入りですわ。それにダミアンの数多いる恋人の一人になりたいなら、ロットのたった一人の恋人のほうがいいのでは?まずはダミアンを諦めていただかないといけませんが」

長い髪を指で弄び、ため息をつくミーアにダミアンが苦笑する。

「計画失敗したからな。一目惚れ作戦?」
「あら?ロットは見惚れてましたわ。本命のララ様は駄目でしたが。匙加減を間違えたダミアンの所為ですわ」

ペチンと扇子で頭を叩かれたダミアンはミーアの肩に手を置いて真剣な顔で見つめる。

「なぁ、本当に婚約破棄していいの?」
「はい」

即答するミーアにダミアンは背中に冷たい汗を流しながら、恐る恐る言葉をかける。

「ロットの相手がララ嬢でなくても初恋を応援する?」
「違うんですか?もちろん悪役令嬢にならないために応援しますわ。ロットはララ様を諦めたんですの?」
「一服盛って既成事実が一番早い」
「犯罪に手を染めたくありませんわ」
「酒で酔わせて二人っきりにするだけだ。場所は俺が用意するよ。ミーアは来るだけでいい。今回は俺が計画するよ。後悔しないんだな?」
「ダミアンどうしたんですか?様子がおかしいですわ。やりたいなら任せますわ」

ダミアンは不思議な顔で見つめるミーアの肩から手を放して静かに部屋を出て行く。悪友が悲鳴をあげるのがわかっても助けられない。
ダミアンは怒らせてはいけない男を怒らせたことを後悔していた。
そして廊下に佇んでいるかつてないほど怒っている幼馴染みに恐怖する。

「僕も甘やかしすぎたかな。言質取ったしいいよね?ミーアも誰が相手でも応援してくれるみたいだし。優しい幼馴染みに恵まれて幸せだよ。楽しみだ」

ダミアンは極上の笑みを浮かべてミーアの父親に会いにいくロットの背中を見ながら逃げるように言おうか迷う。
ただロットがミーアを逃さないのはわかっていたので保身のために思い留る。これ以上刺激して被害を被るのは避けたい。
ダミアンは愉快なことは好きでも荒事には手を出さない。匙加減を間違えて身を滅ぼす遊びには関わらない。遊び人のダミアンもルールの上で遊んでいる。
地雷を引き当てたのは初めてでさらに踏みあてそうな大事な悪友に好物でも用意するかと、侯爵邸に帰り手配を始めた。
ミーアはダミアンの不審な様子は気にせず、乗り気ではないサナと共にさらなる緻密な計画を考えるのに夢中になっていた。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜

長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。 朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。 禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。 ――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。 不思議な言葉を残して立ち去った男。 その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。 ※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

処理中です...