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選定式準備
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未来の女王の将来をかけた一大イベントである選定式が近付いている。
人は他人事ほど楽しめるものである。
双子姫の誕生祭に向けて、王都は賑やかになり、観光客が溢れ、経済はさらに潤っている。
王配を選ぶ選定式に参加する候補者を王家は公表しないが、さまざまな賭け事が行われている。
選定式は王都で一番大きな競技場で行われるがすでに観客席は完売である。
「あいつが出るらしい」
「噂ではあの家は騎士団長に金を握らせ護衛に雇ったらしい。騎士団長を護衛にして息子を出すなんてなぁ。ルール無用だから勝ちを譲られ、選ばれるなんてお貴族様の考えることはわかんねぇなぁ」
「お人形姫の伴侶になればやりたい放題。美女を侍らかし、豪華な暮らしも現実よ」
「しゃべらないなら意思もないようなもんだ。どうせ今もお人形姫の側近が好きにしてるんだろう?傀儡のお人形姫かぁ。この国は大丈夫なんだか」
参加するのは欲に目が眩んだ者ばかりである。
双子姫の生誕祭の準備に騒ぎ盛り上がる人達の中に一人だけ眉間に皺を寄せる男がいた。
「誰でも参加できるって適当すぎないか。アルのことを大事にしてくれる男を」
不機嫌を隠さずブツブツ不満を溢すイーサンに弟はため息をついた。
「女王陛下は強い男が娘に相応しいとお考えなんだろう。姫殿下の能力の高さとなんでも許してくれそうな寛容さ、意思表示しないつまらない姫殿下の隣の椅子は美味しいよね」
「お前⋯」
「アル姫殿下に惚れてる物好きは兄上くらいだよ。女王陛下の選定基準が気に入らないなら兄上も参加すれば?兄上がアル姫殿下を託せる男って誰なの?」
「惚れてる!?」
「隠してるつもりあったんだ…。全然隠せてないから気をつけなよ。うちの者は皆知ってるよ。成人してるイーサン兄上に婚約の話が一つも上がらないの疑問に思わなかったんだ…」
イーサンは生意気な弟にからかわれる。以前婚約者候補として双子姫のお茶会に招かれていたと勘違いしていたのは黒歴史である。
「セオドア兄上が次の宰相になるだろうし、うちは安泰だから妻くらい好きに選らばせてもらえそうだよね。セオドア兄上は僕達に甘いし、」
「そういえば最近帰られてないな。差し入れでも買っていくか」
「僕は行かないから一人で行って」
イーサンがセオドアを訪ねると留守だった。
イーサンは王宮の庭園のはずれに眠る鳥に花を供え、隣に座った。
庭園のはずれは静かで、騒がしい王宮とは別世界のようだった。
「お姉様のことなんて考えなくていい。イーサンの好きにしなさいよ」
「ルア!?」
「お姉様はイーサンに心配されるほど弱くない。お姉様がいらないイーサンの力を必要としている者は他にいるわ。もっと周りに目を向けて」
突然現れたルアがイーサンが初めて聞く優しい声で話している。
座っているイーサンの前に座り、目線を合わせ微笑むルアにイーサンは目を奪われる。
「誰かと比べなくていい。イーサンは才能に恵まれている。セオドアとは違うものよ。イーサンの才能は稀有で尊いもの。欲張らず、素直になって、大事なもののために力を使って。そろそろ雨が降るから戻ったほうがいいわ。この子のお供え物ももう十分だから、これからはこなくていいわ。私は先に行くわ」
ルアに見惚れて動かないイーサン。
ルアは優しく微笑みながら、立ち上がり優雅に立ち去っていく。イーサンは目の前の光景が信じられず、髪をかき上げた。
空からポツリポツリと雫が落ちてくる。
冷たい雨が火照ったイーサンの体を冷ましていく。
雨の中を歩くイーサンは窓越しでアルの腕を組んでいるルアと会った。
「濡れたまま歩かないで。汚れて迷惑よ。髪もぼさぼさでみっともない。さっさと直して、入ってきなさいよ」
迷惑そうな顔のルアといつも通り微笑んでいるアル。
イーサンの体は一瞬優しい風に包まれ、風が止むと身だしなみが整い、部屋の中に転移させられ、不機嫌な顔のルアの目の前に立っていた。
「ありがとう。アル」
「お姉様の手を煩わす前に自分でなんとかしなさいよ。わかりました。ごめんなさい。お姉様、イーサンなんて放っておいて行きましょう」
アルに見つめられたルアがイーサンへの文句をやめて、アルの腕を抱いたまま歩き出した。愛らしい微笑みでアルを見つめながら楽しそうに話す光景にイーサンの存在は忘れられている。
「イーサン?あぁ、入れなかったのか」
「兄上、俺は白昼夢を見たみたい。あれがルアだよな」
イーサンの話を聞いたセオドアは苦笑した。
「答えは自分で見つけるものだ。未来の女王陛下の婚約者の椅子に座るチャンスは平等に与えられている。継承権のない男達は特にアピールする機会は貴重だろう。婚約者になれなくても、うまくいけばアルの第二の騎士、側近になれる可能性もある。この機会をどう生かすか楽しみにしているよ」
イーサンの肩を叩いて、去っていくセオドア。
アルの側近はセオドアとジャクソンだけである。優秀で強すぎる二人のおかげで他の者は見劣りして選ばれない。
イーサンと違い目に見えてアルの役に立ち、頼りにされている二人が羨ましい。
「素直に大事なもののために力を使う。俺の大事なものは、なんだ。簡単じゃないか」
イーサンは兄のように賢くないが、兄以上に鍛錬を積んできた。アルに守られた日から訓練に真面目に取り組むようになり、アルの治癒魔法について知った日からさらに努力を重ねた。ずる賢い弟には負けるが、身体強化の魔法を使わなくても騎士団長と互角に戦える実力もつけた。幼い頃からの努力がイーサンを後押しする。
イーサンは自分にできそうなことを見つけ、力強い足取りで進みはじめた。
人は他人事ほど楽しめるものである。
双子姫の誕生祭に向けて、王都は賑やかになり、観光客が溢れ、経済はさらに潤っている。
王配を選ぶ選定式に参加する候補者を王家は公表しないが、さまざまな賭け事が行われている。
選定式は王都で一番大きな競技場で行われるがすでに観客席は完売である。
「あいつが出るらしい」
「噂ではあの家は騎士団長に金を握らせ護衛に雇ったらしい。騎士団長を護衛にして息子を出すなんてなぁ。ルール無用だから勝ちを譲られ、選ばれるなんてお貴族様の考えることはわかんねぇなぁ」
「お人形姫の伴侶になればやりたい放題。美女を侍らかし、豪華な暮らしも現実よ」
「しゃべらないなら意思もないようなもんだ。どうせ今もお人形姫の側近が好きにしてるんだろう?傀儡のお人形姫かぁ。この国は大丈夫なんだか」
参加するのは欲に目が眩んだ者ばかりである。
双子姫の生誕祭の準備に騒ぎ盛り上がる人達の中に一人だけ眉間に皺を寄せる男がいた。
「誰でも参加できるって適当すぎないか。アルのことを大事にしてくれる男を」
不機嫌を隠さずブツブツ不満を溢すイーサンに弟はため息をついた。
「女王陛下は強い男が娘に相応しいとお考えなんだろう。姫殿下の能力の高さとなんでも許してくれそうな寛容さ、意思表示しないつまらない姫殿下の隣の椅子は美味しいよね」
「お前⋯」
「アル姫殿下に惚れてる物好きは兄上くらいだよ。女王陛下の選定基準が気に入らないなら兄上も参加すれば?兄上がアル姫殿下を託せる男って誰なの?」
「惚れてる!?」
「隠してるつもりあったんだ…。全然隠せてないから気をつけなよ。うちの者は皆知ってるよ。成人してるイーサン兄上に婚約の話が一つも上がらないの疑問に思わなかったんだ…」
イーサンは生意気な弟にからかわれる。以前婚約者候補として双子姫のお茶会に招かれていたと勘違いしていたのは黒歴史である。
「セオドア兄上が次の宰相になるだろうし、うちは安泰だから妻くらい好きに選らばせてもらえそうだよね。セオドア兄上は僕達に甘いし、」
「そういえば最近帰られてないな。差し入れでも買っていくか」
「僕は行かないから一人で行って」
イーサンがセオドアを訪ねると留守だった。
イーサンは王宮の庭園のはずれに眠る鳥に花を供え、隣に座った。
庭園のはずれは静かで、騒がしい王宮とは別世界のようだった。
「お姉様のことなんて考えなくていい。イーサンの好きにしなさいよ」
「ルア!?」
「お姉様はイーサンに心配されるほど弱くない。お姉様がいらないイーサンの力を必要としている者は他にいるわ。もっと周りに目を向けて」
突然現れたルアがイーサンが初めて聞く優しい声で話している。
座っているイーサンの前に座り、目線を合わせ微笑むルアにイーサンは目を奪われる。
「誰かと比べなくていい。イーサンは才能に恵まれている。セオドアとは違うものよ。イーサンの才能は稀有で尊いもの。欲張らず、素直になって、大事なもののために力を使って。そろそろ雨が降るから戻ったほうがいいわ。この子のお供え物ももう十分だから、これからはこなくていいわ。私は先に行くわ」
ルアに見惚れて動かないイーサン。
ルアは優しく微笑みながら、立ち上がり優雅に立ち去っていく。イーサンは目の前の光景が信じられず、髪をかき上げた。
空からポツリポツリと雫が落ちてくる。
冷たい雨が火照ったイーサンの体を冷ましていく。
雨の中を歩くイーサンは窓越しでアルの腕を組んでいるルアと会った。
「濡れたまま歩かないで。汚れて迷惑よ。髪もぼさぼさでみっともない。さっさと直して、入ってきなさいよ」
迷惑そうな顔のルアといつも通り微笑んでいるアル。
イーサンの体は一瞬優しい風に包まれ、風が止むと身だしなみが整い、部屋の中に転移させられ、不機嫌な顔のルアの目の前に立っていた。
「ありがとう。アル」
「お姉様の手を煩わす前に自分でなんとかしなさいよ。わかりました。ごめんなさい。お姉様、イーサンなんて放っておいて行きましょう」
アルに見つめられたルアがイーサンへの文句をやめて、アルの腕を抱いたまま歩き出した。愛らしい微笑みでアルを見つめながら楽しそうに話す光景にイーサンの存在は忘れられている。
「イーサン?あぁ、入れなかったのか」
「兄上、俺は白昼夢を見たみたい。あれがルアだよな」
イーサンの話を聞いたセオドアは苦笑した。
「答えは自分で見つけるものだ。未来の女王陛下の婚約者の椅子に座るチャンスは平等に与えられている。継承権のない男達は特にアピールする機会は貴重だろう。婚約者になれなくても、うまくいけばアルの第二の騎士、側近になれる可能性もある。この機会をどう生かすか楽しみにしているよ」
イーサンの肩を叩いて、去っていくセオドア。
アルの側近はセオドアとジャクソンだけである。優秀で強すぎる二人のおかげで他の者は見劣りして選ばれない。
イーサンと違い目に見えてアルの役に立ち、頼りにされている二人が羨ましい。
「素直に大事なもののために力を使う。俺の大事なものは、なんだ。簡単じゃないか」
イーサンは兄のように賢くないが、兄以上に鍛錬を積んできた。アルに守られた日から訓練に真面目に取り組むようになり、アルの治癒魔法について知った日からさらに努力を重ねた。ずる賢い弟には負けるが、身体強化の魔法を使わなくても騎士団長と互角に戦える実力もつけた。幼い頃からの努力がイーサンを後押しする。
イーサンは自分にできそうなことを見つけ、力強い足取りで進みはじめた。
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