追憶令嬢のやり直し

夕鈴

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第二十三話 伯爵家

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私はリオとマオと一緒にメイ伯爵家を目指してます。馬が借りられてよかったです。
お弁当の準備もバッチリです。リオとは関わりたくありませんが、マール公爵の命令には逆らえません。3時間ほど馬を走らせると、メイ伯爵領につきました。
馬を木に繋いで、リオとマオには離れていてもらいます。警戒心の強い海の皇国民を引き付けるには一人が一番です。
人で賑わう展望台に立ちストーム様に頼んで、帽子を海に飛ばし水魔法で波を操り、帽子を手に取り被ると、視線が集まってます。

「皇女様だ」
「落とし子様」

笑顔で私を落とし子と勘違いして集まる人達に礼をします。話しかける声に答えながら、上品な服を着た青年に笑いかけます。

「すみません。内密にメイ伯爵に用があるんですが」
「領主様はよく人魚の洞窟にいるよ」
「地図を書いてあげるよ」
「ありがとうございます。皆様に恵みの加護がありますように」

海の皇国の挨拶を告げ、地図を受け取り礼をしてマオ達に合流して地図を見ながら進みます。物言いたげなリオの視線は気にしません。
道を進むと小さい洞窟があります。ここからは運ですね。

「マール様、私はここで待ちますので別行動しましょう。」
「いや、父上に頼まれてる」
「伯爵と会う時は声をかけます」
「邪魔?」

邪魔ですが正直には言えません。

「公爵子息をずっと外で」
「気にしなくていい」
「かしこまりました」

本人が了承するなら気にせず、洞窟から離れてぼんやりと待ちますが誰も現れません。
食事を用意してきてよかったです。リオとマオと一緒に食事をしながら待ちましょうか。お茶を飲んでいると洞窟に細身の品の良い服を着た男性が入って祈りを捧げてます。そっと立ち上がり気配を消して洞窟の中に入ります。祈りを捧げ終わるのを待ち、立ち去ろうとする記憶よりも若いメイ伯爵の前で礼をします。

「メイ伯爵様、無礼を承知でお願いがあります。お時間をいただけませんか」
「君は」
「御息女のことでご相談があります。」
「ここを出ようか」

眉を吊り上げたメイ伯爵に背中を押されて洞窟から出ます。

「失礼するよ」

メイ伯爵に抱き寄せられ、視界が真っ白になりました。腕から開放されると真っ白な壁に囲まれた部屋に移動していました。

「すまない。あの場所では密談ができない。ここの空間だけは安全だ」

よくわかりませんが安全なら構いませんわ。ローブを脱いで、礼をします。

「ご配慮ありがとうございます。フラン王国ビアード公爵家レティシア・ビアードと申します。貴方はローナ様のお知り合いですか?」

メイ伯爵に肩に手を置かれ真剣なお顔で詰め寄られました。

「娘、ローナは無事なのか!?」

「そのことで相談に参りました。ローナ様はうちで保護しておりますが記憶を失ってます。思い出そうとすると発狂してしまいます」

メイ伯爵の手が私から離れました。

「そうか・・・。無事なのか。良かった。子供は」

顔に手を当てています。声が震えており、きっと安心しているんでしょう。

「二人のお子と共に保護しております。メイ伯爵家のことは魘された言葉から拾い、調べさせていただきました」

ごめんなさい。生前のことは言えないので嘘をつきました。

「ありがとう。感謝する」
「今後もうちで預かっても構いませんが、どうされますか・・?」
「ローナは笑っているかい?」
「はい。いつも穏やかな笑みを浮かべて子供達と過ごしてます」

顔から手を外して、優しく微笑まれました。ローナに笑い方が似ていますわ。

「よかった。子供の父親は」
「わかりません。」
「子供の瞳の色は」
「兄は黄色の瞳を」

メイ伯爵が真剣な顔で考え込んでいます。

「このまま預かってもらいたい。」
「貴族ではなく平民としてですがよろしいですか?」
「ああ。あの子には苦労をかけたから平穏に過ごさせてやりたい。だがうちの妻には子供は決して会わせないでほしい。もし訪ねたら会わせてくれるかい?」
「はい。歓迎致します。一つだけお願いがあります」
「何かな?」
「もし我が国に亡命されることがありましたら、皇子様は同じ皇族の皆様にしっかり説明されてからにしてください。海の女性は強いと聞きます。兄を探しに来た妹に国が荒らさせるのは望みません」
「よく調べてあるんだな。さすがかのビアードのご令嬢。ローナ達のことは私の胸に留めよう」
「かしこまりました。ビアード領民として保護するためにビアード公爵家には報告します。それ以外には私も他言しないとお約束します。時に、ローナ様の騎士様はご存知ですか?」
「生きてはいるが・・・」

生きてるなら希望はあります。

「私、治癒魔法が得意です。会わせていただくことはできますか?」
「ローナのことはこの空間を出たら口にしないでほしい。海の国での会話は全部皇族の耳に入る」

皇族は人数が多いと聞きますが国中を監視してますの…?
恐ろしいことを知りましたが平静を取り繕い笑みを浮かべます。

「かしこまりました。うちは騎士の名門。喜んで受け入れますわ」
「治癒魔導士として我が家に招いても構わないかい?」
「お任せください」
「妻には気をつけて」
「かしこまりました」
メイ伯爵夫人と対面するのは気が重いですが、仕方ありません。もしかしたら今世はマトモかもしれませんわ。
メイ伯爵の腕に抱かれて、目を閉じるとすぐに人魚の洞窟に戻りました。どんな魔法か気になりますが、他国の魔法の詳細は教えてはもらえません。軍事的な理由で。

「お嬢様」

穏やかな顔のマオと真顔のリオが駆け寄ってきたのでにっこり笑いかけます。

「メイ伯爵家に治癒魔導士として訪ねます。食事を片付けないといけませんね。メイ伯爵よければお食事をいかがですか?海の皇国のお話を聞かせてくださいませ」

ローブを着てメイ伯爵を誘って食事を再開しました。言いたいことのありそうなリオは笑顔で圧力をかけて黙らせました。食事の用意をしている振りをして、荷物からペンを取り出し、海の皇国監視されてるので余計なことは話さないでくださいと掌に書きました。

「マール様」

にっこり笑ってリオの口元にクッキーを運び、添えてある手に視線を誘導します。掌を読んだリオが目を見張りましたが、目を合わせて笑顔を浮かべると頷いてくれました。マオにもさりげなく見せて忠告を読ませました。食事をおえ、片づけをしながら、掌の文字を魔法で消しました。
会話が筒抜けなら監視の目があるかもしれません。
私達はメイ伯爵邸に案内されました。

「そやつは誰じゃ」

入った途端にメイ伯爵夫人に睨まれ、リオが社交の笑顔を浮かべて礼をしました。

「高貴な方。ご挨拶をさせていただいてもよろしいですか」
「かまわぬ。そちは見る目がありそうじゃ」
「ありがとうございます。フラン王国マール公爵家リオ・マールと申します。彼女は治癒魔導士のレティシアです。」

令嬢達に人気の笑みを浮かべているリオの紹介に合せて礼をします。

「治癒魔導士かえ。そなたには茶を用意しよう」
「彼女は私が預かろう。」

伯爵夫人はリオに夢中なようなので任せました。ありがたいことに私に興味はないようです。私は伯爵に案内されて移動します。マオは私に着いてきます。リオの物言いたげな視線は気付かないフリをします。
部屋の中に入ると眠ってる男性がいました。包帯が巻かれ、左腕がありません。
手を取って治癒魔法をかけますが生きているのが不思議なほど生命力を感じません。臓器の傷を癒していきます。失った左腕は戻りませんが。最後に体力回復の魔法をかけ、これで大丈夫でしょう。
男性が目を開けました。

「俺は・・・」
「養生してくださいませ。貴方を待ってる人にいつか出会えることを祈っております。伯爵様、治療は終わりです」
「感謝する。死にかけたお前を助けたのは彼女だ。騎士として忠義があるなら彼女に仕えなさい」

伯爵の言葉の意図がわかり、笑顔を浮かべます。

「私、荷物持ちが欲しかったので助かります。本当にいただいてもよろしいのですか?」
「ああ。うちには必要ない」
「ありがとうございます。私は自分の家臣を大事にします。役に立つならご褒美を用意しますわ。」

戸惑う暗い顔の騎士様の同意を得る気はありません。
私がローナだったら騎士様に生きてほしいと願います。かつての恋人にはどんな形でも幸せになってほしい。それに帰国すれば会わせてあげられます。

「え?」
「先に療養が必要ですわ。このまま連れて帰ってもよろしいかしら?」
「どうぞ。屋敷まで送り届けましょう」
「ありがとうございます。」

騎士を残し、伯爵と共に伯爵夫人とお茶をしているリオのもとに向かいます。

「終わったのかえ?」
「終わったよ。傷も治ったし、うちにおく必要もない。彼女に譲る」
「あやつは目障りじゃ。欲しいならくれてやろう」
「感謝いたします。マール様、私、念願の荷物持ちを手に入れましたの。連れて帰ってよろしいですか?」
メイ伯爵夫人の酷い言葉に息を飲むのを我慢します。目障りって、人の命をなんだと…。好都合と思いましょう。説得しないといけない、不満そうなリオの顔をじっと見つめます。無言なので、笑顔で圧力をかけます。

「私が公爵にお願いします。」
「わかったよ。」
「ありがとうございます」

視線を感じたので振り向くと伯爵夫人にねめつけられるように見られ、頬に手を添えられ、体が動きません。突然全身が光りました。

「この娘をわらわにくれんかのう」

はい?人は物ではありませんが、今の私は騎士様のことがあるので反論できません。
どうして伯爵夫人はリオに聞くんでしょうか。

「申しわけありません。お断りさせてください」
「そちの望むものを授けよう。皇帝陛下の覚えも目出度くなる」

私はリオの所有物ではありません。

「彼女は他国のご令嬢だ。陛下は」
「友好の証になるじゃろう。養女にしてもよい。わらわが教育しよう。褒美にローナを探させるのじゃ」
伯爵の言葉を遮り、堂々とした物言いですが、言っていることがおかしいです。養女にしたら友好の証にはなりませんし、私を差し出して夫人が褒美をもらう理由もわかりません。

「ありがたい申し出ですが、彼女は我が国の武門名家の公爵令嬢です。我が国の第二王子殿下の治癒魔導士として同行しております。彼女に婚姻を申し込まれるならフラン王国に話を通してください。彼女は正妃になれる血筋ですので、養女の話もお断りさせていただきます。」
「力を持つ令嬢か・・」

向けられる視線は獲物になった気分ですわ。

「ただ彼女は体が弱いためお役にはたてません。わが国との友好の証を望むなら彼女以上にふさわしいご令嬢達がたくさんいます」
「体が弱いなら子は産めぬか。興醒めじゃ」

病弱設定が初めて役に立ちました。

「では私達はこれで失礼します。」

礼をしたリオに視線で促されて立ち去ります。
メイ伯爵が馬車で騎士は送り届けてくれるので、私達は馬で帰ることにしました。

「マール様、ありがとうございました」
「いや、気にしないで。」

兄のロダ様には申しわけありませんがロキ達はビアード領民として迎え入れましょう。メイ伯爵夫人のような理不尽な方のいる世界にロキ達を帰したくありません。私を皇帝の妾に差し出した褒美でローナ様を探そうなんて恐ろしすぎます。夫人は私の同意を得る様子はありませんでしたし、捜索するのも遅すぎます。

マール公爵に古語でこの国での会話は全て皇族の耳に入ること、私の用が済んだこと、騎士を一人亡命させて連れ帰りたいと紙に書いて渡すと読んだ後に無表情になりました。

「レティシア、社交は出なくていい。君は殿下の体調管理が役割だ。空き時間は見聞を広めておいで」

情報を集めてこいと命じられ笑顔で頷きます。

「かしこまりました。この国では冒険者ギルドが有名なので、貴重な経験を積んでまいりますわ」

マール公爵はきっと冒険者ギルドに立ち寄ると思います。あそこには貴重な文献が多いのでお役にたつと思います。
私はレオ様とお茶をして休みました。まさか社交を免除されるとは思いませんでしたが嬉しい誤算ですわ。大事なことが片付いて良かったです。気分がいいので、明日はエイベルにお手紙を書きましょう。
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