指先で描く恋模様

三神 凜緒

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第二章

次の日の朝

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次の日の朝、いつも通りのクラスの風景があった。同じ顔触れに、同じ教室。
ここにいる事そのものが、自分が自分であると感じる空間。
いつもの三人で雑談していると、親友の想い人がまだ学校に通えていない事を知らされるが、毎日お見舞いには行ってるらしい。その度に、何かバトルが発生してるとか…
それ自体はいつも通りだし、さして驚く事でもないから別に良いんだ…問題は~~!

「………なあ~んて、話をずっとしてたのよ~もう~! あれは何なの…! モテないアタイは何か悪い事でもしたの!」
「どこの世界に親の馴れ初めを聞いて、嫉妬する娘がおるねん…かなり追い詰められとるな」
「前代未聞だろうな~うん」

他のクラスメイトたちの笑い声が、混じって聞こえる。ほぼ男性ばかりの学校で、クラス唯一の女子三人が集まれば、さぞ注目を集めるかと思えば~そんな事もない。
周りが話している内容はどれもこちらとは関係ない。やれどの配信者が好きだとか、どの音楽バンドの新曲が出たとか、人気アニメの話題で盛り上がってるグループもいる。
そんな中でアタイが本気で嘆いているのに、漫才好きな親友は関西弁で、普段から淡々としている親友は、あいつぢを打つだけで真剣に取り合ってくれない…

「アタイはただ母親に、恋路のコツを訊いただけなのに、なんでそれがああいう流れになるわけ!」
「あらら~、えっと~~~とりあえず涙拭けば?」
「こんな事で泣くか!」
「う~ん…そんな荒れるような内容じゃないでしょう?」
「そりゃ…そうなんだけどさ…そうなんだけどさ……」

樹に突っ込まれて、アタイは口ごもってしまう。そうなのだ。実は馴れ初めの惚気話そのものはそこまでダメージはなかった。今では考えられない位母さんはモテていたようだし、仲の良い両親というのは自慢でもある。それ自体は特に不満もない。

「何か全く別の理由で、不満がありそうな気がするんだけど?」
「(ギク…!?)そんな事ないわよ~ちょっと、自分が上手くいかなくて劣等感を刺激されただけだよ~」
「自分から劣等感って言葉を使い始めた…? 一体何があったの…」

ジト汗が流れてるような気分で、しどろもどろに言い訳をしていくが、長い付き合いのせいかこちらの内心を窺い知る様な表情が二つ目の前にある…
三人がしばし無言で見つめ合ってる間も、クラスメイトたちの楽しそうな雑談が聞こえ続ける…ここだけ時間が止まっているようだあ~

「え~~~っと~~」
「……‥‥‥」
「……‥‥‥」
「ほっ…ほらっ…! もうすぐ朝のホームルームだよ! 二人とも席に戻ったらどうかな?」

さすがに二人の無言の圧力に耐えきれずに、時計を指さし二人を促す。
二人ともそこまで問い詰めるつもりもなかったのか、大人しく引き下がってくれた。
その後も休みの度に集まって色々話していくのだが、この件に関してはそれ以降触れる事もなかった。

「はあ~結局は八つ当たりなのかな…先輩は…アタイの事をどう思ってるのかな?」

変なお坊さんが鉢巻して餅つきをしてる絵柄の鉛筆を口に乗せながら、上の空でぼやく。
目を閉じれば、聞こえてくる担任の太い声とは少し違う、テナーのような歌声の人が聞こえてくるようだ。
今日も天気が良くて、日差しが眩しくて…気持ちいい暖かさだな~………zzzzz

「………なあ、これはあれか? 先生がバカにされているから、こんな態度をされているのか?」
「いやいやいや…大丈夫ですって! 美桜は単に昨日から悩んでいて、寝不足なだけですって…」
「ありがとう…慰めなんぞいらんぞ…! 先生は泣いてなんかいないからな!」
「うおっ!! 先生がまた落ち込み始めたぞ…! 不味いぞ…これじゃまた次の授業が潰れる!?」

そう……次からの話題は担任の先生が落ち込んだ事による、トラブルばかりの話題になっちゃったんだよね~つまりは…ずっと周りから責められておりました…はい~
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