指先で描く恋模様

三神 凜緒

文字の大きさ
上 下
31 / 64

男子高校生の校外学習 その2

しおりを挟む
秋の風はどこか夏を思わせるような蒸した空気を感じながらも、葉は瑞々しい蒼い色から、段々と赤く染めながら、からからと乾いた音を立てて風に揺らいでいる。
山は人を拒絶するかの如く、木々を激しく揺らし、こちらの体温を奪っていく。
寒さを堪えるように体を震わせ体温を維持しつつ、三々五々に散っていく生徒たちの中から、同じ学ラン姿の幼馴染を探して顔を左右に振る。

「東谷…何をキョロキョロしてるんだ?」
「樹の奴…どこいったんだ?」
「お前はいつも、そいつの事を考えているな~」
「そういう訳じゃないよ。ただ一緒に回るって約束したからさ」

何やら茶化してくる友人をあしらいながら、確か樹のクラスは向こうだったよなと歩くと、女子二人と談笑している樹を見つけた。
工業高校という特性上、女性は数が少なく目立っているのが幸いしたかな。

「お~い、樹~~」
「あっ…東谷君♪ やっほ~~~(‘◇’)ゞ」
「おお~愛しの彼が来たか~♪」
「もう~、止めてよ葵~!」
「あっはっはっは……」

どうにも、女子同士の会話ってのは男は混ざりにくい気もする…
恥ずかしくて頭を軽く掻いていたら、二人は空気を読んで離れて行ってくれた。
風が騒ぎ、熱い吐息は流れていき、頬の熱を取っていく。

「ああ~~相変わらずにぎやかな二人だね」
「一緒にいて楽しい二人だからね~♪」
「そっか、そっか~♪」

類は友を呼ぶとは言うけど、この三人結構馬が合って、仲良くやってるんだよな…
タイプはそれぞれ違うなっておもうけど、その方が人間関係バランスは取れるのかもな…

「東谷君もあの地図貰ったんだよね? まずはどこへいこうか?」
「そうだな~とりあえず~」

周りの生徒の波を見るに、ほぼ全員が肩を抱きしめながら一点に向かって集中しているのが分かる…
その様子に乾いた笑みを浮かべながら……

「土産物屋に入って、防寒具がないか調べた方が良いかもな…」
「ああ~~それは大事だね…うん」

普段部活で筋肉を増やしている自分と違って、この寒さは帰宅部の樹には辛いようだ。
土産物屋の外見は暖房も兼ね備えた感じの厚い壁に覆われており、中には黄色い照明が窓ガラスから外へ漏れている…
何か上着とか手袋とか…何でもイイからあれば~~楽なのだが…う~ん
周りを見れば、他の生徒たちは食品などには目もくれず、何・故・か! ふんだんにある防寒具コーナーへ直行していた。

「は~~い!! 買った買った! 今日は皆さまの為の出血大サービス! ここにある商品はどれもこれもお買い得商品! 学生さんのお財布に優しい暖かいモノが沢山あります!」
「うぉぉぉぉぅ!!」
「おっ!? そこのノリの良い男前のお兄さん! どうだい? この暖かい赤い手袋とマフラー! 隣の彼女さんにプレゼントしてみたらどうだいっ?」
「いや…この子は彼女じゃ…いや…でも…ほっ…欲しいかい?」
「ええっ~? どうしようかな~買ってくれるの?」
「あ…ああっ…もちろんだ…おじさん…それと…えっと…そこのセーターもくれるかな? ブレザーの下に着たら温かそうだ…」
「おおっ!? 太っ腹だね♪ 男前のお兄さん~! まいどっ!!」

何ともノリの良さに圧されたのか、あっさりと防寒具一式を購入し、彼女にプレゼントする男子高校生…うん…知らない二人だけど~値段も合わせて7000円とぼったくりではないけど、安くもない適正値段で買っていた。

「向こうには昭和の叩き売りのおじちゃんのような人がいるね~?」
「そうだな~、ああいうノリがまだ現代に残ってるとは思わなかった…」

その後も次々と商品を売りさばいていくおじさん。その手際は素晴らしく、安い安いという呪文のような言葉を繰り返しながら、生徒たちを洗脳している。

「何か向こうには逆さになったテルテル坊主がいるね…なんだろ……あれ?」
「そうだな~向こうは雨具を売ってるようだけど~誰も客が来ないな~」

そうなのだ…防寒具のコーナーはおじさんが景気良く売りさばいているのだが…隣の雨具コーナーには落ち込んで、くら~い影を落としているおじさんがしょげている…

「なんで…ここしばらく雨が降り続いたのに…天気予報でも雨だと言っていたのに~どうして雲一つない晴天なんだ~~~シクシクシクッ……」

何やら訳の分からない事を呟きながら、逆さまになったてるてる坊主を恨めしそうに見つめている…(-_-;)

「確かテルテル坊主を逆さにすると、雨が降るんだっけ?」
「ああ…確かに、そんな話もあったな~うん…」
「…………」
「…………」

………………………‥‥――――――う~~ん

「……別の場所いきましょ?」
「そうだな…」
「ちょっと、ご両人~~! そこまでじっくり見て、放置はないんじゃないですか!?」
「いや~だってねえ~」

雨具が売れずに落ち込んでるのは分かるけど、観光客の前で堂々と逆さまになったテルテル坊主をぶら下げるような人とはお知り合いになりたくないな~って…( 一一)
そう思っちゃったんだけど~、こちらの視線を救いに感じ取ったのか、半泣きしながらこちらに近づき、必死にセールスしてくる…

「どうですかご両人! こちらのお揃いのカッパと傘! 在庫処分でお安くしておきますよ!!」
「ええっ!?」
「おいおいおい~~~んん??」

びっくりして硬直している樹に、首を傾げてしまう俺。
ウソが吐けないのか、はっきりと『在庫処分』と『同じ大量』生産のデザインの青とピンクの雨具を押し付けてくる…
そんな商魂逞しい様はしつこいようでいて、ガッツがあって結構好感が持てていたりもするのは、俺が変わってるのだろうか? 
それよりも…気になったのは…

「今、ご両人って言ったよな? それって…俺とこの子の事か?」
「そうですよ♪ もちろんです~カワイイ子ですね~♪」
「あうぅぅぅぅ~~」

樹は普段学ランしか着ないから、普段は線の細い男の子にしか見られなかったのだが…
最初は全く買う気はしなかったんだけど…値段は手ごろだし、カッパも折り畳めば小さくまとまり、傘も折り畳みでバックに入る…
それにデザインも大量生産でも、カワイイなと思えて、樹に似合うかな?

「東谷君、それ買うの?」
「ああ…おじさん、それ2セット買うよ」
「毎度あり!! 全部で1000円になります!!」

本当に在庫処分だったのか、それなりに安かった…
手に持てば作り自体もしっかりしていて、値段相応以上だと感じれる。
びっくりやら、ご両人と呼ばれて恥ずかしそうにしている樹に口元を緩ませると、その頭を優しく撫でる。その感触にビクっと肩を震わせる姿にそっと手を放し、上向きにこちらを見つめる視線の先に、買った物をそっと差し出す。

「山の天気は変わりやすいしな。持っていて損はないだろう? 後は向こうで手袋とマフラーと…足元を温かくするモノがあればいいのだが…」
「耳当てとかもあればイイよね~うんっ!」

こうやってプレゼントするのはあまりなく、正直やってみるとかなり恥ずかしい。樹もそれは同じなのか、受け取ったモノをいそいそとバックに入れると、何事もなかったように防寒具を求めて歩いていく。
そんな後ろ姿を腕を組みながら眺めると、何だろう…すごくこそばゆい…!

「この雨具と防寒具の話とか、殆どの生徒が俳句とかのネタにしそうだな…」

提出された俳句などは、収集後、廊下に掲示されるらしいので、その大半がこのネタだとしたら…それはそれで、滑稽のような気もする…

「それも生徒たちの選択であるならば…ワシはそれで良いと思っとるよ?」
「いや、俺もそれを否定するつもりはないんだけど、無個性というか、そんなのでイイのかなとか、思っちゃうんだよね…」

ナンバー1じゃなかったらダメだとか、オンリー1じゃなきゃいけないとか、そんな歌も昔あったなと思いながら、

「それはお主が若いからじゃろ? 歳をとると個性と同じぐらい、無個性と言うのも大事であると気づく」
「そんなものなんですかね~? って…鳥羽校長!?」

一体いつから来ていたのか…ばりばりの登山服と装備で、隣に立っていた。
さっきまで普通の背広を着ていたと思うんだけど…一体いつ着替えたんだ?

「何でそんなに気合入っているんですか?」
「それは勿論、お主らと一緒に山を散策する為に決まっておるだろうが」
「なははは~~」

うん…何だろうか…この人って、見た目は立派な老紳士で好感を持てる人なのに、中身は何か子供のような輝きを持ってる人だな~つまりは…何事も全力投球…

「無個性である事は良い事なのですか?」
「そういう訳ではない。若い内は、個性を追い求めて良いと儂も思う」

腕を組み、うんうんと頷いてる姿には、こちらの意見を肯定してくれている。
ただ、それだけではない…何か別の理由があるようだ…

「それでは…何故?」
「これは歳を取ると本当に分かるのだがな…ジジィになっても個性的だと……」
「うんうん…」
「同年齢の者たちから煙たがれるのだ…!」
「……‥‥‥」

このセリフって、腕を組んで胸を張ったまま絶叫するような事なのだろうか?
未だ高校生の自分には分からないが、きっとそこにも大切な理由があるのだろう…そう思っておく! うん~~(;’∀’)
しおりを挟む

処理中です...