指先で描く恋模様

三神 凜緒

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休み時間の授業 その2

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授業なんて楽しいと思った事がない…という生徒はそれなりに多いのではないだろうか?
誰もが苦行のように授業を受けて、ただ通り過ぎるのを待ち望む。
教科書のめくるページの音に、記憶を一つ一つ増やし、思い出をページと共に重ねる。

人は何の為に勉強を重ねるんだろうか…? それは決してテストの為ではない…だけど、ボクたちは…それを繰り返している。

テストの為の勉強、勉強の為の授業、そして授業の為の休み時間を…その時間を~!
どうして授業に費やすのかな~~、東谷君は…!!

せっかく普段は会えない休み時間…どこかで二人きりで話せたら最高なのに…!
東谷君は勉強したいと美人教師に釘付け…! 牽制の為にも放って置く訳にはいかない…

「あらあら…また来たのね~」
「はい~恰好良い句や歌を作ってみたいので~」
「感心感心~♪ 張り切って教えてあげるわ~」
「樹もわずかの間に、古文の魅力にハマったのか~うんうん」

東谷君と教室の前で待ち合わせをし、次の休み時間も工藤先生の元へ。
先生はコーヒーを飲みながら、何かの報告書を書いていたみたいだ。

「前回の解説で助詞と助動詞を重点的に学べと言ったわね?」
「はい…それが基礎になるとか…そんな話でしたよね?」

綺麗で達筆な字に嫉妬を覚えながら、静かに音も無く啜り上げる上品さにびっくり…
何か男勝りな自分とは全然違うその仕草に、打ちのめられそうだ…

「問題はその基礎をどうやって…覚えればいいと思う?」
「どうやってって…助詞の本でも読むんですか?」
「それも良いわよね~。私もやったわ…。でも、殆ど丸暗記であまり覚えれないのよね~未然、連用、終止、連体、已然《いぜん》、命令とか…助詞の色々な体系を覚えるには便利だけど…」

「何ですか? その呪文は…」
「現代語にもあるにはあるのよ? 同じようなモノがね~」
「東谷君…古語の授業で言われなかった? その話…」
「言われたような気もするが…覚えてないな~~あははは」
「こらこら~それじゃ、次の期末テスト赤点になっちゃうわよ? ふふふ…」

どうやら東谷君は、元々は古語の授業をちゃんと受けていなかったようだ…
それじゃ何で、今回古語の授業に目覚めたのだろう? やっぱり、工藤先生に会いに…!

「正直な話なんだけど、テスト勉強するんなら、その助詞がどの形態なのかしっかりとマスターする必要があるんだけど、俳句や短歌作るなら今回は勉強しないわ」
「どうしてですか?」
「言ったでしょ? 古語と現代文の違いは、旧仮名使いをしてる事と、助詞と助動詞が違うだけだって…」
「はい……」
「東谷君たちは、日本語を覚える時にそれが未然形なのか、連用形なのか~とか考えてマスターした?」
「いいえ…全くありませんね…そういうのは…何か気づいたら自然と覚えました…」
「でしょ~? つまり喋れるようになるだけなら、そんな形式を覚える必要はないのよ」
「ぶっちゃけちゃった…この先生は!!」

まだまだ若いからなのかな~、発想がすごく柔軟…だよね。
自分の授業を全部否定するような事を、まあ……ボクの教室の担当は工藤先生じゃないけど…あのおじいちゃん先生なら何て言うかしら…ね

「感覚でどの助詞を使うか分かるようになれば、どんな古文もスラスラと読めたりするのよ~ただ助詞の量って膨大だから、いっぺんに全部覚えるのはかなり難しい…」
「説明を増やせば増やすほど、訳が分からなくなりそう…ううううっ…」

自然と使ってるから分からないけど、現代文でも膨大な量らしい。だから、外国人が助詞を扱えずパニクっていてもある意味普通だなって思った…
そんな風に嘆いていたら、先生は人差し指を立て、子供みたいにとっておきを披露するような表情を浮かべながら話を続けた…

「そんな嘆く事はないわよ。覚えるコツはとてもシンプル…現代文と学んだのと同じように、何かの文章を読んでその内容を覚えて、使われてる助詞を覚える…いわゆる関連記憶法ね」
「えっと~分かるような分からないような…」
「知識ってさ…わりと関係ない所から覚えたりする事って多いでしょ? マンガで書いていたとか、ドラマで見た知識とか…一見関係ないけど、関連的な話題があるから覚えれる…」

「それは…あるかも…知れませんね…専門的な知識を出すマンガやドラマって多いですもんね。それでその作品が好きだと尚《なお》、覚えやすいかな? って…そういう事か…」

「一番適したサンプルはやっぱり…百人一首かな? 古文の入門にも使えるし、文学的にも優れていてオススメだよ…」
「助詞を覚えれて、文学センスも学べるなら、一挙両得ですね~それは…」

東谷君が、いきなり慣れない四字熟語を使っている…って、これは失礼かも…(;^ω^)
有名過ぎてパクれば、速攻でばれるだろうが、それを真剣に覚えれば、もしかしたら凄い作品が作れるかも知れない…うん…

「私の百人一首の解説書を貸してあげるから…二人で頑張って勉強してみなさい。一日三首、内容を覚えて、助詞と助動詞の部分を重点的に記憶するようにしてごらんなさい。記憶ってのは、本当に辛かったり、楽しかったりすると色濃く残るモノだから…二人で和気あいあいとやれば楽しく覚えれて、…記憶しやすいでしょ?(軽くウィンク)」
「ンンンンッ!?(ドキッ)」

何なんだ何なんだ…この意味深なウィンクは…こっちの気持ちを知ってか知らずか、掌の上で踊らされてる気分だよ…何を考えてるか分からないから、怖いよ~~

「でも…関連記憶かあ~~」
「どうしたんだ? 一体……」
「何でもない……」

関連記憶というキーワードを聞いた時、ボクは自然と胸ポケットに入れている押し花のしおりに触ると、鮮明にこれを貰った時の記憶がよみがえってくる…
ああ……確かに、楽しくて嬉しい記憶は何時までも忘れないかも…知れない…ああ…

「もしかして…これなら…いけるかも!」
「どうしたんだ? 一体……」
「楽しく二人でこの本読む方法を考えたっ!!」
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