5 / 5
5
しおりを挟む「その時助けてくれたのは他でもない貴方でした」
大公家の令息を助けた?ソランは記憶を辿るが身に覚えがない。そんな大層な家柄の子供の誘拐なんて、余程大騒ぎになっているはず。むしろ、そんな案件が万年Dランク冒険者である自分に回ってくるはずがない。
「全く記憶にないけど、それは偶然だろ、たぶん。お前の親御さんだって、きっと自分が行きたいくらい心配して───」
「あ、それはないです。犯人からの身代金要求を両親が無視したせいで毒殺されかけたので」
ジーンにとっては何の価値もない話なので感傷など微塵も湧かない。だが聞かされたソランは頬を引き攣らせた。「それは…」とフォローの言葉を探し、結局気の利いた台詞なんて浮かばなくて頭を抱える。
「は、話が重い!!」
「貴方が見た子供だった頃の僕は平民の子供にしか見えなかったのかもしれません。犯人達から森に放置され、毒に苦しんでいる僕に解毒剤を飲ませてくれたのは貴方です。あの時からずっと、僕は貴方が好きです。貴方に会いたくて冒険者になりましたし、貴方が大切だという領民を守るために両親を脅迫しましたし、貴方を手に入れる為に全財産注ぎ込みました」
「物騒なの混ざってる!重い!重すぎる!!」
話も執着も重い。とにかく重い。ソランの訴えは最早悲鳴に近かった。
「領地経営はお任せ下さい。無駄に大公家で育った訳ではありませんからね。3年で黒字にさせて見せます。もちろん領民に課す税金を増やしたりしません。屋敷の使用人達も雇用契約を継続する方向で手続きをしていますのでご安心を。旧経営陣はだいぶ甘い汁を吸っていたようなので絞りますが、構いませんよね?」
「あ、あぁ…」
最早決定事項なのだろう。不満もないのでソランは頷く。頷きつつ、後ろに下がろうとしたが、ジーンに腰を抱かれて狼狽した。助けを求めるように振り向くが、そこにいたはずの執事がいない。
腰に回された手が臀部のラインを確かめるように撫でる。ん!とソランは微かな喘ぎを漏らした。ジーンが舐めずりする。それは酷く美しい凶悪さだ。
腰を抱く手とは別の手がソランのネクタイの結びを解く。ソランは目眩を覚え、自分が立っている位置すら見失いそうだった。
「スーツ、似合いませんね。こうやって気崩している方が貴方らしい」
「俺を、どうするつもりだ」
性奴隷か、良くて愛人か。飼い殺すつもりなのか、囲うつもりなのか。ソランは意を決してジーンを睨んだのに、ジーンはきょとんとするばかり。
「どうって?…えぇと、取り敢えず口説きます」
「は?」
取り敢えず、とは。
「もちろん抱きたいですけど、無理強いするつもりはありませんよ。…まぁ、こうして性感帯を刺激したら貴方の方から音を上げて誘ってくれないかなぁとは考えてます」
「しりを、揉みながら話すなっ」
「貴方が承諾するまで待ちますから、まずは恋人になって、いずれ結婚しましょう」
へらっと幸せそうにジーンが笑う。つまり愛人や性奴隷とか性欲処理係にされる心配はないのだなと解釈したソランは肩の力を抜いた。口先だけで信用してはいけないと思ったのも一瞬だけ。ソランの為に輝かしい冒険者人生を棒に振るという重い重い執着を見せた彼がソランを裏切るとも考えにくい。
「わかった、恋人な。浮気したら股間ちょん切るぞ。分かったら誓いのキスをしろ」
「はいっ!!」
早まったかもしれないと思うほどに力強く抱き締められ、ソランはジーンに人生ごと唇を奪われた。
「一体どうしてこうなった…」
「貴方の善行が実を結んだだけですよ」
[完]
232
お気に入りに追加
84
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話
雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。
主人公(受)
園山 翔(そのやまかける)
攻
城島 涼(きじまりょう)
攻の恋人
高梨 詩(たかなしうた)


モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる