どうしてこうなった

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「その時助けてくれたのは他でもない貴方でした」

 大公家の令息を助けた?ソランは記憶を辿るが身に覚えがない。そんな大層な家柄の子供の誘拐なんて、余程大騒ぎになっているはず。むしろ、そんな案件が万年Dランク冒険者である自分に回ってくるはずがない。

「全く記憶にないけど、それは偶然だろ、たぶん。お前の親御さんだって、きっと自分が行きたいくらい心配して───」

「あ、それはないです。犯人からの身代金要求を両親が無視したせいで毒殺されかけたので」

 ジーンにとっては何の価値もない話なので感傷など微塵も湧かない。だが聞かされたソランは頬を引き攣らせた。「それは…」とフォローの言葉を探し、結局気の利いた台詞なんて浮かばなくて頭を抱える。

「は、話が重い!!」

「貴方が見た子供だった頃の僕は平民の子供にしか見えなかったのかもしれません。犯人達から森に放置され、毒に苦しんでいる僕に解毒剤を飲ませてくれたのは貴方です。あの時からずっと、僕は貴方が好きです。貴方に会いたくて冒険者になりましたし、貴方が大切だという領民を守るために両親を脅迫しましたし、貴方を手に入れる為に全財産注ぎ込みました」

「物騒なの混ざってる!重い!重すぎる!!」

 話も執着も重い。とにかく重い。ソランの訴えは最早悲鳴に近かった。

「領地経営はお任せ下さい。無駄に大公家で育った訳ではありませんからね。3年で黒字にさせて見せます。もちろん領民に課す税金を増やしたりしません。屋敷の使用人達も雇用契約を継続する方向で手続きをしていますのでご安心を。旧経営陣はだいぶ甘い汁を吸っていたようなので絞りますが、構いませんよね?」

「あ、あぁ…」

 最早決定事項なのだろう。不満もないのでソランは頷く。頷きつつ、後ろに下がろうとしたが、ジーンに腰を抱かれて狼狽した。助けを求めるように振り向くが、そこにいたはずの執事がいない。

 腰に回された手が臀部のラインを確かめるように撫でる。ん!とソランは微かな喘ぎを漏らした。ジーンが舐めずりする。それは酷く美しい凶悪さだ。

 腰を抱く手とは別の手がソランのネクタイの結びを解く。ソランは目眩を覚え、自分が立っている位置すら見失いそうだった。

「スーツ、似合いませんね。こうやって気崩している方が貴方らしい」

「俺を、どうするつもりだ」

 性奴隷か、良くて愛人か。飼い殺すつもりなのか、囲うつもりなのか。ソランは意を決してジーンを睨んだのに、ジーンはきょとんとするばかり。

「どうって?…えぇと、取り敢えず口説きます」

「は?」

 取り敢えず、とは。

「もちろん抱きたいですけど、無理強いするつもりはありませんよ。…まぁ、こうして性感帯を刺激したら貴方の方から音を上げて誘ってくれないかなぁとは考えてます」

「しりを、揉みながら話すなっ」

「貴方が承諾するまで待ちますから、まずは恋人になって、いずれ結婚しましょう」

 へらっと幸せそうにジーンが笑う。つまり愛人や性奴隷とか性欲処理係にされる心配はないのだなと解釈したソランは肩の力を抜いた。口先だけで信用してはいけないと思ったのも一瞬だけ。ソランの為に輝かしい冒険者人生を棒に振るという重い重い執着を見せた彼がソランを裏切るとも考えにくい。

「わかった、恋人な。浮気したら股間ちょん切るぞ。分かったら誓いのキスをしろ」

「はいっ!!」

 早まったかもしれないと思うほどに力強く抱き締められ、ソランはジーンに人生ごと唇を奪われた。



「一体どうしてこうなった…」

「貴方の善行が実を結んだだけですよ」




[完]
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