4 / 5
4
しおりを挟む イルファー様は、ルビィドに対して厳しい言葉をかけていた。
彼が、言い訳を作って、家に戻ろうとしない。その事実を指摘したのだ。
図星を見抜かれたからか、ルヴィドは目を丸くしている。自分の弱さを認めるということは、厳しいことだ。その苦しみを、今弟は噛みしめているのだろう。
「……イルファー様の言う通りです。僕は自分の弱さに甘えていたのですね」
「ああ、その通りだ」
少しの沈黙の後、ルヴィドはゆっくりとその顔を上げた。
その面持ちは、今までの自信がなさそうな表情ではない。何かを決意したような表情に、変わっていたのである。
「いい顔をするようになった……というよりも、今までのお前の顔がつまらないものだったというべきか」
「そうかもしれません」
「それで、お前は今自分が何をするべきかわかっているのだろうな?」
「ええ、わかっています。この家……フォルフィス家の人間に戻ります」
ルヴィドの口にした言葉に、私は驚いた。
話の流れからすれば、それはとても自然なことである。だが、それでもとても衝撃を受けてしまうのだ。
家出した弟が戻って来る。その事実は、喜ばしいことだ。長年の思いが込み上げてきて、私の心を揺さぶっているのだろう。
「今までお世話になりました……」
「違う」
「え?」
頭を下げた弟の言葉を、イルファー様は否定した。
そこで、否定したことには私も少し驚いている。
まさか、ここまできて弟がフォルフィス家に戻ることを許さないというのだろうか。いや、流石にそれはないはずである。
それなら、お世話になったのはこちらとでもいうのだろうか。しかし、それはイルファー様には似合わない台詞である。
「私とお前に、関りなど一切存在しなかった。お前は家出をして、他国にいて、そこで慎ましやかに生活していたのだ」
「それは……」
「私に私兵は存在しない。それを理解しろ」
「……はい」
イルファー様が言いたかったことは、私が予想したようなことではなかった。
彼が私兵を持っていることは、誰にも知られてはいけないことである。彼は、それをルヴィドに今から示したのだ。
「……」
ルヴィドは、少し悲しそうにしながら後退していった。
彼にとっては、家出してからずっと仕えていた主との別れなのだ。それは、かなり辛いことだろう。
しかも、今後二人は元の関係として出会うことはない。弟の心中を考えれば、とても悲しいはずである。
「……」
一方のイルファー様は、特に表情を変えていなかった。
もしかしたら、この別れは彼にとってはありふれた別れでしかないのかもしれない。今までも、こういう別れを彼は経験してきたのではないだろうか。その雰囲気が、そう物語っているようなのだ。
「さて……もう一仕事といくか」
「え?」
そこで、イルファー様は立ち上がった。
どうやら、まだやるべきことがあるようだ。
彼が、言い訳を作って、家に戻ろうとしない。その事実を指摘したのだ。
図星を見抜かれたからか、ルヴィドは目を丸くしている。自分の弱さを認めるということは、厳しいことだ。その苦しみを、今弟は噛みしめているのだろう。
「……イルファー様の言う通りです。僕は自分の弱さに甘えていたのですね」
「ああ、その通りだ」
少しの沈黙の後、ルヴィドはゆっくりとその顔を上げた。
その面持ちは、今までの自信がなさそうな表情ではない。何かを決意したような表情に、変わっていたのである。
「いい顔をするようになった……というよりも、今までのお前の顔がつまらないものだったというべきか」
「そうかもしれません」
「それで、お前は今自分が何をするべきかわかっているのだろうな?」
「ええ、わかっています。この家……フォルフィス家の人間に戻ります」
ルヴィドの口にした言葉に、私は驚いた。
話の流れからすれば、それはとても自然なことである。だが、それでもとても衝撃を受けてしまうのだ。
家出した弟が戻って来る。その事実は、喜ばしいことだ。長年の思いが込み上げてきて、私の心を揺さぶっているのだろう。
「今までお世話になりました……」
「違う」
「え?」
頭を下げた弟の言葉を、イルファー様は否定した。
そこで、否定したことには私も少し驚いている。
まさか、ここまできて弟がフォルフィス家に戻ることを許さないというのだろうか。いや、流石にそれはないはずである。
それなら、お世話になったのはこちらとでもいうのだろうか。しかし、それはイルファー様には似合わない台詞である。
「私とお前に、関りなど一切存在しなかった。お前は家出をして、他国にいて、そこで慎ましやかに生活していたのだ」
「それは……」
「私に私兵は存在しない。それを理解しろ」
「……はい」
イルファー様が言いたかったことは、私が予想したようなことではなかった。
彼が私兵を持っていることは、誰にも知られてはいけないことである。彼は、それをルヴィドに今から示したのだ。
「……」
ルヴィドは、少し悲しそうにしながら後退していった。
彼にとっては、家出してからずっと仕えていた主との別れなのだ。それは、かなり辛いことだろう。
しかも、今後二人は元の関係として出会うことはない。弟の心中を考えれば、とても悲しいはずである。
「……」
一方のイルファー様は、特に表情を変えていなかった。
もしかしたら、この別れは彼にとってはありふれた別れでしかないのかもしれない。今までも、こういう別れを彼は経験してきたのではないだろうか。その雰囲気が、そう物語っているようなのだ。
「さて……もう一仕事といくか」
「え?」
そこで、イルファー様は立ち上がった。
どうやら、まだやるべきことがあるようだ。
152
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話
雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。
主人公(受)
園山 翔(そのやまかける)
攻
城島 涼(きじまりょう)
攻の恋人
高梨 詩(たかなしうた)

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる