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いち
しおりを挟む白いシーツの上に仰向けに転がる男の姿に祥司は瞬いた。二度三度と瞬いた。
祥司の兄は25歳で医療従事者だ。手術室を中心に従事しており、緊急手術の呼び出しがあれば真夜中でも出勤する。その兄から『部屋に友人が寝てるから、俺が仕事に行ったことを説明しておいて。なんなら朝飯でも食わせてやって』と連絡が来たので、兄の部屋に知らない男がいること自体は別に驚かない。
祥司の目を釘付けにしたのは、その男の股間だ。窮屈であろうハーフパンツに負けじとテントを張る朝勃ち。同じ男だし、生理現象だし、まぁ、分かる。分かるが───
「でか…」
またその角度が若々しいというか、力強いというか。
服の上からでも目立つそれに、祥司は唾液を飲み込む。ごくん、という音がやけに大きく体内に響いた。
三次会のカラオケで徹夜し、朝帰りの祥司は、自身の纏うアルコールで足元が浮き上がるのを覚えた。ふんふわと、危うい足取りで近づき、塊に触れる。熱さと、湿っぽさと、硬さ、脈動。ふにふにと触れ、持ち主が起きないのをいい事に、ハーフパンツを下着ごとズリ下げた。
押さえ付けていた壁を失ったソレは、びよんっと大きく跳ねるように飛び出し、祥司の頬を打つ。ぬちゃりとした先走りが触れて、でも嫌ではなくて、ドキドキしながら間近で見つめる。布越しでも大きいと思ったのに、実物は予想以上だ。予想以上に長くて、予想以上に太くて、熱くて、湿っぽくて。もわっと漂う汗の匂い、青臭い体液の匂い。口の中に唾液が湧いてくる。気分は目の前にニンジンをぶら下げられた馬だ。
酔ってるから仕方ない。働かない理性に理由を与え、恐る恐る未知のソレの根元に両手を添え、先端を口に含んでみる。びくびくと舌の上で跳ねるのが面白くて、好奇心が満たされていくのが心地よい。きゅん、と下腹部が切なく疼くが、酒をしこたま飲んだせいで祥司の股間は下腹部に熱を溜め込むだけで起き上がりはしない。生温い気持ち良さと、軽度な痙攣を繰り返す下腹部と、今までになく高鳴る心臓と。
───嗚呼、愉悦とは、こういうことか。
───いや、これ、どういう状況?
いつにない気持ち良さ、覚えのある快感で起こされた隼太は、己の股間を咥える、見覚えのない青年に瞠目した。先端をちろちろ舐めたり、じゅぞぞぞぞとはしたない音を立てて吸い込んだり。気持ちいいが、拙くて、焦れったい。
「悪い」
吐き捨てるように謝罪して、青年の頭を鷲掴みにし、喉奥まで突き立てる。
「~~~ッ」
息ができないのか苦しさに喉が痙攣して、陰茎をビクビクと細かな振動で締め付けてきた。
「はぁ、出るっ」
「─────!」
射精を流し込まれた青年の喉仏が大きく動き、嚥下したことを知らせる。おかしなところにまで入ったのか、萎えた陰茎から逃げるように顔を背けると、床に座り込んでゲホッゲホッと盛大に噎せ込み始めた。慌てて衣類を正しながら起き上がり、青年の背中をポンポンと叩いて宥める。
「悪い、悪い」
つい口内発射をしてしまったことを反省しつつ、勝手に咥えてきた青年に謝罪するのもどうなのかという疑問が横切る。
視線を上げた青年の顔は酷かった。涙でぐちゃぐちゃだし、精液で口元が汚れているし、紅潮しているし。酷い顔なのに、目が離せない。征服欲が刺激されて、ゾクゾクと背中に甘い痺れが走る。隼太は自身が凶悪な笑みを浮かべているのだろうなと自覚して更に笑みを深くする。
───だが、待て。
理性が強い制止を告げた。寝る前のことを思い出す。確か親友と、親友の実家の部屋で宅飲みをしていたはずだと。視線を上げて周囲を見渡せば間違いなく親友の部屋だった。まさかこの場でこれ以上致す訳にはいかない。
「………お前、誰?」
「おれ?俺はショウジ。兄ちゃんは仕事」
ぽやんとしたまま、こてんと首を傾げて名乗った彼は随分と眠そうだ。不意に思い立ったように、自身の手についた隼太の精液を舐め取り始める。まるで猫の毛繕いのよう。口周りについたままだった精液もペロリと舐め、満足したように目を閉じ、こてんとそのまま隼太の太腿に頭を預ける。そんな光景に隼太の心臓はギャンギャン騒いで喧しく、見逃すまいと相手の言動を注視していた。
「───って!ちょ、寝るな!ここで寝るな!」
「んー…」
返ってくるのは意味を持たない柔らかな唸り声だけ。
隼太は天井を仰いだ。確か、親友の弟の部屋は隣だったはず。運んで、あと、この部屋も換気しないと。さすがに親友に対して申し訳が立たない。
□□□□□□□□
祥司は痛む頭を抱えて起き上がった。自室にいることに安堵したのも束の間、意識を失う直前のことを思い出して項垂れる。
今まで異性愛者だった。今も異性愛者だと思いたい。
───なんで咥えたんだ、俺!!
思い出す。圧倒的な雄を思い出しただけなのに、ぎゅ、と心臓を鷲掴みにされたかのように苦しい。ドキドキする。支配されたい、身体をこじ開けられたい。そんな願望が自身の中にあったなど、今まで全く知らなかった。
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