据え膳食わぬは男の恥

ひづき

文字の大きさ
上 下
1 / 3

いち

しおりを挟む



 白いシーツの上に仰向けに転がる男の姿に祥司は瞬いた。二度三度と瞬いた。

 祥司の兄は25歳で医療従事者だ。手術室を中心に従事しており、緊急手術の呼び出しがあれば真夜中でも出勤する。その兄から『部屋に友人が寝てるから、俺が仕事に行ったことを説明しておいて。なんなら朝飯でも食わせてやって』と連絡が来たので、兄の部屋に知らない男がいること自体は別に驚かない。

 祥司の目を釘付けにしたのは、その男の股間だ。窮屈であろうハーフパンツに負けじとテントを張る朝勃ち。同じ男だし、生理現象だし、まぁ、分かる。分かるが───

「でか…」

 またその角度が若々しいというか、力強いというか。

 服の上からでも目立つそれに、祥司は唾液を飲み込む。ごくん、という音がやけに大きく体内に響いた。

 三次会のカラオケで徹夜し、朝帰りの祥司は、自身の纏うアルコールで足元が浮き上がるのを覚えた。ふんふわと、危うい足取りで近づき、塊に触れる。熱さと、湿っぽさと、硬さ、脈動。ふにふにと触れ、持ち主が起きないのをいい事に、ハーフパンツを下着ごとズリ下げた。

 押さえ付けていた壁を失ったソレは、びよんっと大きく跳ねるように飛び出し、祥司の頬を打つ。ぬちゃりとした先走りが触れて、でも嫌ではなくて、ドキドキしながら間近で見つめる。布越しでも大きいと思ったのに、実物は予想以上だ。予想以上に長くて、予想以上に太くて、熱くて、湿っぽくて。もわっと漂う汗の匂い、青臭い体液の匂い。口の中に唾液が湧いてくる。気分は目の前にニンジンをぶら下げられた馬だ。

 酔ってるから仕方ない。働かない理性に理由を与え、恐る恐る未知のソレの根元に両手を添え、先端を口に含んでみる。びくびくと舌の上で跳ねるのが面白くて、好奇心が満たされていくのが心地よい。きゅん、と下腹部が切なく疼くが、酒をしこたま飲んだせいで祥司の股間は下腹部に熱を溜め込むだけで起き上がりはしない。生温い気持ち良さと、軽度な痙攣を繰り返す下腹部と、今までになく高鳴る心臓と。

 ───嗚呼、愉悦とは、こういうことか。





 ───いや、これ、どういう状況?

 いつにない気持ち良さ、覚えのある快感で起こされた隼太は、己の股間を咥える、見覚えのない青年に瞠目した。先端をちろちろ舐めたり、じゅぞぞぞぞとはしたない音を立てて吸い込んだり。気持ちいいが、拙くて、焦れったい。

「悪い」

 吐き捨てるように謝罪して、青年の頭を鷲掴みにし、喉奥まで突き立てる。

「~~~ッ」

 息ができないのか苦しさに喉が痙攣して、陰茎をビクビクと細かな振動で締め付けてきた。

「はぁ、出るっ」

「─────!」

 射精を流し込まれた青年の喉仏が大きく動き、嚥下したことを知らせる。おかしなところにまで入ったのか、萎えた陰茎から逃げるように顔を背けると、床に座り込んでゲホッゲホッと盛大に噎せ込み始めた。慌てて衣類を正しながら起き上がり、青年の背中をポンポンと叩いて宥める。

「悪い、悪い」

 つい口内発射をしてしまったことを反省しつつ、勝手に咥えてきた青年に謝罪するのもどうなのかという疑問が横切る。

 視線を上げた青年の顔は酷かった。涙でぐちゃぐちゃだし、精液で口元が汚れているし、紅潮しているし。酷い顔なのに、目が離せない。征服欲が刺激されて、ゾクゾクと背中に甘い痺れが走る。隼太は自身が凶悪な笑みを浮かべているのだろうなと自覚して更に笑みを深くする。

 ───だが、待て。

 理性が強い制止を告げた。寝る前のことを思い出す。確か親友と、親友の実家の部屋で宅飲みをしていたはずだと。視線を上げて周囲を見渡せば間違いなく親友の部屋だった。まさかこの場でこれ以上致す訳にはいかない。

「………お前、誰?」

「おれ?俺はショウジ。兄ちゃんは仕事」

 ぽやんとしたまま、こてんと首を傾げて名乗った彼は随分と眠そうだ。不意に思い立ったように、自身の手についた隼太の精液を舐め取り始める。まるで猫の毛繕いのよう。口周りについたままだった精液もペロリと舐め、満足したように目を閉じ、こてんとそのまま隼太の太腿に頭を預ける。そんな光景に隼太の心臓はギャンギャン騒いで喧しく、見逃すまいと相手の言動を注視していた。

「───って!ちょ、寝るな!ここで寝るな!」

「んー…」

 返ってくるのは意味を持たない柔らかな唸り声だけ。

 隼太は天井を仰いだ。確か、親友の弟の部屋は隣だったはず。運んで、あと、この部屋も換気しないと。さすがに親友に対して申し訳が立たない。



 □□□□□□□□



 祥司は痛む頭を抱えて起き上がった。自室にいることに安堵したのも束の間、意識を失う直前のことを思い出して項垂れる。

 今まで異性愛者だった。今も異性愛者だと思いたい。

 ───なんで咥えたんだ、俺!!

 思い出す。圧倒的な雄を思い出しただけなのに、ぎゅ、と心臓を鷲掴みにされたかのように苦しい。ドキドキする。支配されたい、身体をこじ開けられたい。そんな願望が自身の中にあったなど、今まで全く知らなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

趣味で乳首開発をしたらなぜか同僚(男)が近づいてきました

ねこみ
BL
タイトルそのまんまです。

どうしてもお金が必要で高額バイトに飛びついたらとんでもないことになった話

ぽいぽい
BL
配信者×お金のない大学生。授業料を支払うために飛びついた高額バイトは配信のアシスタント。なんでそんなに高いのか違和感を感じつつも、稼げる配信者なんだろうと足を運んだ先で待っていたのは。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

処理中です...