執着と恋の差

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1) とある男子高校生の幸せ

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 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 熱いほどに痛いのか

 痛いほどに熱いのか

 息ができない

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい

 なんでもいい

 なんでもするから助けてくれ

「いいぞ、助けてやろう」

 ニヤリと笑う口元が見えた気がした。





 次に覚えたのは下腹部の圧迫感。痛みはない。苦しみもない。ただ違和感がある。

「あ、あ、っ、」

 体が股の間から揺さぶられる反動で意図せず唇から声が出る。女のように高く響いて、まるで喘ぎ声のよう。自覚すると恥ずかしくなり、唇を噛み締めた。

 不意に揺れが止まった。下腹部の圧迫感は相変わらずだ。

「目が覚めたのか」

 聞き覚えのあるような声。思い出すのはニヤリと笑う口元。

 目を開けると、見知らぬ銀髪のイケメン。

「誰だ!?」

 驚いて引き下がろうにも体に力が入らない。全身が脱力して、弛緩している。

「!!」

「ちゃんとアナル洗浄はしてあるし、ゴムも着けてる。衛生面は心配ないから安心しろ」

「あな?ごむ?」

 一体何が行われているのか。力の入らない中、必死に視線を動かし、男の手によって自分の両足が大きく開かれM字開脚をさせられているのは理解した。理解したくないけど、理解した。そして自分は全裸だ。銀髪イケメンの下半身が着ているのかは見えないが、取り敢えず引き締まった上半身をさらけ出しているのが見えた。最大の問題は、銀髪イケメンが自分の股の辺りにいるということだ。そして、この下腹部の圧迫感は…

「初回だし、快感を得ることはできないだろうが、回数をこなせば問題ない。今日は体を麻痺させたが、早く俺のを素で受け入れられるようになるまで頑張ろうな」

 麻痺って、何。どこのRPGだ。全身に力が入らないってことは筋弛緩剤的な薬物か何かか?何かヤバい薬物でも使われたのだろうか。

 いやいや、それよりも、

「俺、犯されてる!?」

 銀髪イケメンは、にっこりと天使のように微笑んだ。

「っあ!」 

 男は腰の動きを再開させた。ぐちゅぐちゅと粘度の高い音が響く。内側から体を揺さぶられる感覚。

「毎日こうやって俺ので拡げてやる。覚えておけ。俺は道具にすら嫉妬する男なんだ。ココに入るのは俺だけ。俺だけだ」

 内臓が揺さぶられて気持ち悪い。

「やめろよ…っ」

 体が全く動かないことへの絶望と、目の前の男なら宣言通り実行するだろうという根拠のない確信とで、混乱する。

「今日は前立腺まで届かないから、前でイカせてやろう」

 男へと頭を垂れる俺の陰茎はまるで男に服従しているかのようだ。その陰茎に男の手が触れる。

「や…!!」

 冷たい男の手が俺の陰茎を優しく握る。形を確かめるように、握ったままゆっくりと上下に動き出した。

「っ」

 焦らされているとしか思えない緩慢さに口出ししたくなる。もう少し強く握って欲しい、もう少し早く動いて欲しい。それを見覚えのない男に願うとなると話は別だ。羞恥心が勝って言えるわけがない。

「固くなってきた。素直で可愛いペニスだな」

「ぅあ…」

 陰茎を扱きながらも、男の腰は止まらない。奥に入りたいと主張しては途中で引き返していく。あくまで男の手に陰茎を握られている方で快楽を得ているのだと自分に言い聞かせないと、男に体を貫かれて喜んでいるのだと錯角してしまう。それだけはダメだ。

「やっ」

 ダメだと思うのに、ギリギリまで楔が引き抜かれる度に切なくなる。

「本当に可愛いヤツ」

 射精感が高まる。なのにあと一歩の刺激が足らず吐精に至らない。

「何でこんなこと、するんだよぉぉぉ!!」

「お前が『なんでもするから助けて』って言ったんじゃないか」

「『なんでもする』のは俺であってお前が『何でもしていい』わけじゃな…あああああ!!」 

 一気に高みへと追いたてられ、不満の言葉が嬌声へと変わる。びちゃびちゃと先端から飛び散った精液が腹を汚してしまった。男の手でイカされたショックと吐精の反動で敏感になっている陰茎を男は更にしごく。

「前立腺に頼らずとも俺がココに入っているだけで気持ちいい、そう脳が学習できるようにしてやろう」

 嫌がって身を捩りたいのに動くのは頭だけ。男を制止したくても口を開けば情けない声しか出なさそうで言葉を呑み込む。

「もっと早く動いても大丈夫そうだな」

 苦しい。圧迫感が、詰めた息が、苦しい。

「んんんんんっ」

「ごめんなぁ、これでもまだ俺のペニス、先っぽしか入ってないんだ」

「はあ!?マジで!?こんなに苦しいのに!?」

「苦しくない、苦しくない。気持ちいい、だろ?」

「んっ、んっ、」

 陰茎をしごく手が加速する。こちらに集中しろと。気持ちいいだろうと。下腹部がぞわぞわして、再び追い上げられる快楽に期待が膨らんで心臓がきゅんきゅんする。

「んふ、ああああっ」





 目が覚めると、普通に自分の家で、自分の部屋で、自分のベッドにいた。あれは淫らな夢だったのだろうか、そう思いたかったけれど全裸だし、体に、主に下腹部に違和感がある。怠い。

 高校の制服に着替えて階下へと下りる。初めて手摺の有り難みを実感した。

「おばさん、料理上手ですね!俺、日本食大好きになりそう」

「もぉ、ディーデリヒくんったら!お世辞でも嬉しいわー」

 ダイニングキッチンにて、母と銀髪イケメンが盛り上がっている。目の前の光景に唖然として開いた口が塞がらない。

「──お、お前何で馴染んでるんだよ!!」

 こちらの戸惑いなどどこ吹く風。銀髪イケメンは当たり前のように箸を使い、肉じゃがと白米を同時に食べる。

「カケルったら、何を怒ってるの?」

 母は母でお玉を手に不思議そうで。

「コイツ、俺が冗談でちゅーしたらずっと怒ってるんですよ」

「ディーデリヒくんにとってはキスくらい挨拶なんだから、そんなに怒ることないじゃない」

「ファーストキスを奪った責任をとって俺がカケルを嫁に貰います!」

「きゃー!こんな愚息でいいなら喜んであげちゃう!」

 奪われたのはファーストキスじゃなくて処女だ。とはいえ、そんなことを母親に知られるわけにもいかず、どうツッコミを入れたらいいのだろう。取り敢えず自分の味方はいないらしい。

「カケル。ディーデリヒくんとしばらく一緒に暮らすんだから仲良くしなさい」

「は?」

「ディーデリヒくん、物置の片付けが終わるまでカケルと同じ部屋になっちゃうけど大丈夫?」

「ずっとカケルと同じ部屋でいいですよ。居候させて貰えるだけでも有り難いので」

 もう、意識を手放したい。その場で数歩よろけた。そんな俺を、銀髪イケメンは生暖かい眼差しで見守っている。





「えっと、ディーデリヒ?」

「ディーでいいぞ」

 銀髪イケメン───ディーデリヒは、俺と同じ制服を着ている。

「ドイツ人と日本人のハーフで、両親の仕事の都合により遠い親戚であるお前の家に居候することになった、という設定だ」

「で、本当は何者なんだよ」

 清々しい朝。閑静な住宅街。駅へと続く道。何故不審者と二人で登校しなくてはいけないのか。振り向く女性たちの多さ、その年齢層の幅にうんざりする。

「何者でもいいだろう?お前は助かったんだから」

 ディーデリヒはキラキラとした笑みを浮かべる。

「何から助かったんだか、全く記憶がないんだけど…?」

 そう。熱いような痛いような何かがあった。それが何だったのか。昨日の放課後の記憶が全くない。気づいたらディーデリヒに犯されていた。

「知る必要のない些細なことだ」

「いやいや、そのせいでお前に関わるはめになったんだから大事だよ!」

 俺の処女が!とはさすがに町中で言えないけれど。

「まぁ、もうすぐわかるさ」

「はぁ?」

 何がわかるのか。不満から口先を尖らせつつ駅のホームに降り立つ。不意に、スーツ姿の男がぎょっとして此方を振り向き、

「ば、ばけもの───ッ」

 と、叫んで指差してきた。

「え?」

 戸惑う俺と目が合うなり、相手は身を翻し、走り出す。思わず一歩踏み出した俺の肩を、ディーデリヒが掴む。

「あの男に見覚えは?」

「駅でよく見かけるなぁ、くらいだけど…、お前、あの人に何かしたのか?」

 俺の母親に施した暗示といい、どこからともなく手配した制服。コイツが人間でないことは確信していた。美しすぎる顔立ちは人間離れしている。確かに化け物と呼べるだろう。

「奴には何もしていない」

「奴、には?」

「お前にはしたぞ。色々と」

 体を麻痺状態にされたり、色々とされた。納得して小さく頷く。

「……………」

 自分が把握していないことまで何かされていそうで怖い。そんな心の声が聞こえたのか、ディーデリヒはにっこりと綺麗に微笑んだ。

「切れ痔になりにくいよう、多少柔軟性を弄っておいたぞ」

「なんつーピンポイントな人体改造!!」

「あと便秘と下痢にもなりにくいようにもした」

「目的があからさまだな!?」

 完全にアナルセックスが目的だろう。

「義母様にも許可は得たし、ちゃんと嫁に貰ってやるよ」

「へ?」

 不意に顎を捕まれ、ディープキスが襲ってきた。驚愕している間に舌まで絡めとられ、腰を抱き寄せられる。下腹部がゾクゾクして抵抗できない。

 が、ここは朝の駅である。周辺の女子学生から嘆きとも歓喜とも区別のつかない悲鳴が上がる。その声に驚いて理性が戻ると、慌ててディーデリヒを突き飛ばした。

「───何すんだよ!」

「お前は俺のものなんだからいいじゃん」

「誰がいつお前のものになった!?」

「今夜も頑張ろうな、カケル」

 何を、なんて、聞かなくてもわかる。俺の生死はコイツに握られているんだってことも、わかる。

 きっと、俺は昨晩一度死んだのだろう。認めたくはないが、薄々わかっていた。

 でもまぁ、隣で幸せそうに笑うディーデリヒを見ると、そんなのは些細なこととしか思えない。だって、自分は今ここにいて、俺に生きていて欲しいと思ってくれる人たちがいる。それでいいじゃないか。

 俺は今日も幸せだ。




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