1 / 4
1
しおりを挟む───おれのよめになれ!
顔を真っ赤にして、叫ぶように命令してきた初対面の子供。王族特有の金色の瞳に、相手が誰か知る。
幼い第二王子と同世代の子供達が集められた茶会は、第二王子の未来の伴侶を選ぶ場所なのである意味間違っていない。しかしだ。同時に未来の側近を選ぶ場でもあって。
年齢が同じというだけで呼ばれた男爵家の次男であるレクスは、にっこりと微笑み、
───寝言は寝て言え
幼い子供だから、で許されると確信した上で暴言を吐いた。
「俺の嫁になってくれ、レクス」
デジャブだな、と。レクスは項垂れている銀髪の後頭部を見つめる。
「寝言は寝て言え、アシュート」
男爵家の次男如きが第二王子と親友だなんて有り得ないと陰口もよく叩かれるが、それでもレクスは第二王子のアシュートと親友になった。人目がないところでは敬語もない敬称もない。そのキッカケがあの出会いである。
「今回はお前を女と間違えたわけではない!」
「当たり前だ、バカ!」
硝子が贅沢品であることを忘れそうになるくらい、大きな大きな窓からの光を浴びてする会話がコレである。王城という場に憧れを持つ全ての人に、王子殿下に夢を見る全ての乙女に、こんな現実なんて見せられない。ましてや、従者である男爵子息に婚姻を迫るバカ王子なんぞ知られるわけにはいかない。
「頼む。俺と結婚してくれ」
眉根を寄せて難しい顔をするアシュートの考えは、言わずとも分かる。分かるが、レクスとしては分かりたくない。
第一王子と第二王子。年齢が近いこともあり、王位争いが年々激化していく傾向にある。旗印となっている第二王子のアシュートは王になりたくないが故に、ここまでのらりくらりと婚約者を決めずに逃げ続けてきた。国王夫妻もアシュートの婚約は本人に一任すると名言してきた。
「サリザート公爵が俺の護衛を買収した」
サリザード公爵は、アシュートの生母である側妃の父親だ。かの公爵は、王妃の座に、自分より格下のブラン伯爵家の令嬢が収まったことが気に入らないのだ。これは憶測ではなく、本人が夜会の席で宣言した事実である。当然それに連なる兄王子も気に食わない。
だから公爵は、自分の孫であるアシュートを次の王にして己の自尊心を満たしたいのである。ハッキリ言って小物だ。外戚としての権力を手に国をどうしたいとかではなく、あくまで自尊心を満たしたいだけなのだから。彼の能力や人望が飛び抜けていれば、彼が統治する公爵領は一目置かれるくらい豊かになっているだろう。それなりの結果しか出ないのを権力不足のせいだと言い訳して、誰も自分を認めない、見下しているからだと決めつけて騒ぐ。
そもそも、王妃一族への敵意を宣言した時点でアホだとレクスは思っている。必要以上に警戒されたら何も出来ないだろうに、そんなことも頭にないのかと。
「買収された護衛の手引きでご令嬢が夜這いにでも来たか」
レクスが呆れる人物だが、公爵という地位は本物だ。甘い汁を吸いたい人間が集まって派閥が形成されている。派閥の人間達は公爵と第二王子を傀儡にし、自分達の思惑通りに国を動かしたいのだろう。そんな派閥に属する貴族のご令嬢と第二王子を婚姻させ、確実に第二王子を取り込みたい、といったところか。
「未遂だったんだろ?」
「当たり前だ!だが、このままでは人間不信で俺の心が死ぬ!」
買収された護衛に命を預けることの恐ろしさ。護衛は役目上常に武器を携帯しているのだ。それを気が緩んでいる時に突きつけられたら呆気なく殺されるだろう。かといって立場上、護衛なしにはできないわけで。故に、護衛に求められるのは高い忠誠心なのである。それが買収される、とは。所詮護衛も人間、選ぶ側も人間。絶対は有り得ない。
「お前の気持ちは分かるが、この国では同性婚を認めてない」
婚約者がいないのが弱点なのだから、その弱点を埋めればいい。その発想は分かる。
下手な相手を選べないのも分かる。選んだ女性の家族が派閥に取り込まれたり、脅かされる恐れもある。アシュートが今を乗り越えても、アシュートの子供が利用される未来を否定できない。子供が出来た途端、アシュート自身が暗殺される恐れさえある。
レクスが相手なら、まず子供は出来ない。養子を迎えても、王家の血を持たない子供に利用価値はないだろう。レクスの実家を脅そうにも既に実家はない。両親は3年前領地で起きた洪水被害の際、人命救助に赴き、土砂崩れに巻き込まれて亡くなっている。男爵領は王家預かりとなっているが、レクスが望めばすぐにでも爵位を継げる状態だ。レクスがアシュートの最側近であることを考慮し、国王夫妻の温情で保留になっているだけ。というか、今レクスが男爵領の運営に乗り出したら、アシュートの請け負っている公務が滞るので困る、というのが王家の本音だったりする。
「法律ではない。あるだろう、生涯特定の人物しか愛せなくなる呪術が」
愛せなくなる、というのは、感情面では無い。物理的に性交出来なくなる。訳あり男女の政略結婚で使われることがある。子供に恵まれなかった際に血縁が途絶えるリスクもある為、そこまで一般的では無い。
35
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

キスで始まる関係
ひづき
BL
イーリーが淡い恋心を抱いた女の子はサイラスが好き。
サイラスは女の子からのアプローチに対し、イーリーを横に立たせて、
「コイツと付き合ってるから無理」
と言い放ち、キスまでしてきやがった。
次の瞬間───
え、誰???
2023/03/29 番外編追加

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。


乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる