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しおりを挟む「ひ、あっ、あ、待っ」
乳首を指で転がされ、唇に肌をあちこち吸われ噛みつかれ。同時にガツガツと穿たれる。全身の細胞が真っ白に焼けるようで、何もかもが気持ちいい。気持ちよすぎて苦しいだなんて信じられない。
小刻みな律動を繰り返し、もっと奥へ、更に奥へ進みたい!と熱望するヨージスの欲が、少しずつ少しずつ、今まで触れたことも無い場所を推し開いていく。ガツガツと。もっと、もっとと。貪欲に。どこが気持ちいいなんてわからない。どこかが痛いような気もする。自分の身体なのにカザリスにはもう把握し切れない。脳が焼ききれるような、網膜がいかれるような、涙腺が壊れるような、そんな絶望すら甘美でダラダラと陰茎の先から蜜を零す。
「はぁ!カザリス!お前は俺のものだ!」
「は…、あ!ふ、か、ああッ」
返事は嬌声にしかならず。より一層深い場所を荒々しくこじ開けられてカザリスは涙を撒き散らし、衝撃から逃れようと上半身を捩る。逃がすまいと食らいつく捕食者は止まらない。
「らめ、つよ、だ、んぐぅ…っ」
「っ、」
カザリス自身気付かぬうちに、うねるようにヨージスを締め付けて。勿体ないと呟きながら、耐え切れずにヨージスは熱をカザリスの胎内へと吐き出す。
「あつ…い…、あ、ま…、ぅん」
びくびくっと小刻みに小さく甘イキを繰り返し、浅く荒い息をして。カザリスはキスを強請る。貫く欲望が中で再び硬度を取り戻すのを肉壁で感じながら、言い表せない充足感に汗を流した。
「───殺さない。公国に送り返せ」
疲れ果てて意識を飛ばしたカザリスの頭を太腿に乗せ、ヨージスは水で喉を潤す。空になったグラスを受け取ったグレリルは嘆息した。
「正気ですか?」
「ああ。あれでもカザリスの兄───俺の妻の兄であり、俺の義兄になるからな。公国復興に向けたサポートの名目で人員を派遣して見張れ。反乱でも起こされると面倒だ」
「正気ですか?」
くどい!と言おうとしたヨージスは、ポカンと口を開けたまま固まっているグレリルの間抜け面を前に、くつくつと笑う。
「自分以外の男の手で色香を増し、幸せそうに笑うカザリスを、遠くから見ることしか出来ない。カザリスに惚れている者にとって、これ以上辛いこともあるまい?」
「あ、そういう…。安心しました、いつも通りの鬼畜で」
「目を背けようにも、カザリスが皇妃の立場にある以上、嫌でも現実を突きつけられる。…しかし義兄があのように愚かでは、可愛い甥が心配だ」
カザリス以外を妻に迎える気は無い。故に皇后は不在のままになるだろう。
問題は後継者だ。
「悪い顔をしてますよ、陛下」
「可愛い甥を、俺の後継者に指名して引き取ろう。希望するなら母親である義姉の同行も許可する。───ああ、その前に、義兄が何をしようとしたのか、きっちり説明してやらないと」
「…うわぁ、皇妃様だけでなく妻子も取り上げるんですね。さすが鬼畜です」
皇妃として祝賀会が中断されたお詫びの品を手配し、一息ついたところでカザリスは窓の外を見遣る。意外なことに、カザリスの甥とヨージスがボールで遊んでいるのが見えた。子供が好きというより、ヨージスは甥と同レベルで張り合っている。…大人気ない。
兄のキーフェアに愛想を尽かした義姉は兄と離縁し、気楽な独り身となって平民として暮らしている。私は自由だと言い、不倫相手だった商人の手を取ってパン屋を開いた。
甥は正式に皇帝の後継者として、ヨージスとカザリスの養子になった。───たぶん、甥本人は状況をよくわかっていない。
甥は母親より乳母と過ごす時間が長かった為か、母親と離れたことに対して周りが驚くこと何とも思っていないらしく。父親に関しては、たまに会う偉い人、くらいの認識で。唯一祖父母である公王夫妻になかなか会えなくなったことだけを嘆いていた。…なんと言うか、それはそれで想定とは別な方向に心が痛い。
「皇妃様もご一緒されれば宜しいのに」
侍女と護衛の勧めに首を横に振る。
「体力が持ちませんから」
むしろ何故あの男は昼も夜もあんなに激しく動けるのだろう。毎晩愛でられている側としては今だって欠伸を噛み殺しているだけに、苦笑するしかない。
目の前の封筒の山から、一枚便箋を手に取る。中身はどれも似たようなもので、『皇妃なのだから皇帝に皇后を勧めよ』というものばかりだ。
法律上、男は皇妃になれても皇后にはなれない。特になりたいとも思わないが。
そして、現状唯一の妃であるカザリスが後宮の主であり、夫である皇帝の為の女達を管理する立場で。故に、確かに、側室などを世話するのは皇妃の仕事だ。
「でも、これ、私が動いたらこの手紙の差出人全員死にますよね?」
カザリスの疑問に、侍女と護衛は迷いなく頷いた。
侍女のメリーと護衛のテリルはヨージスの妹弟だという。ヨージスの絶対的な信頼の大元がそこにある。───ただし、この妹弟は、前皇帝の子ではなく、前皇帝が戯れで他人に前皇后を襲わせた結果生まれた為に、皇室の血を引いておらず。故に身分が低いのだという。それを聞いた時、前皇帝にはドン引きした。
何はともあれ、この2人が即答するのだから粛清という名の血の雨が降るのは間違いない。後継者にカザリスの甥を指名したことも各地からの反発を招いている要因だ。
「…もう、諸侯を招いた場で彼らがいつも通り遊んでいる姿でも見せつけます?」
「ついでに皇妃様と陛下が仲睦まじくする姿を見せつければ、多少は諦めるかもしれません」
カザリスの提案に侍女が案を上乗せしてきた。
「───要検討ということで」
保留である。
今は幸せだから、まぁ、いいか。
「お茶にしよう」
とカザリスは自身の家族である夫と子を呼びに行くことにした。
[完]
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