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しおりを挟む───国も、身分も、家族も、何もかも捨てて、私と生きてくれ
その言葉がカザリスに向けられるのを目の前にしたヨージスは我を忘れた。今がどういう状況で、どこで、何を、なんて、何一つ浮かばない。
自分ではカザリスを怖がらせるだけ。わかっているのに、止められない。カザリスの返事など聞きたくなくて、手で口を塞いだ。肩越しに大きく見開かれた目がヨージスを仰ぐ。
騎士達が集まってくる中、カザリスの身体を肩に担ぎ上げ立ち去る。背後で誰かがカザリスの名を叫んでいるが、優秀な騎士達に阻まれて遠くなる。カザリスは何も言わない。呼ぶ声に応えることもなく、ただ静かに担がれ、されるがまま。それが一層腹立たしい。
わかってはいるのだ。カザリスは人質で、祖国の行く末が盾にされている以上、ヨージスの機嫌を損ねないようにするのは当然のこと。そのような状況にカザリスを追い詰めたのは他でもないヨージスなのに、腹立たしい。なんて勝手で、傲慢なのだろう。
呼び止める臣下の声を無視し、寝室に滑り込む。プライベート空間のはずなのに、自分の部屋のはずなのに、どこか空気がよそよそしい。
やや乱暴に寝台へとカザリスを降ろし、体勢を立て直される前に伸し掛る。
白い布地に、金色の刺繍。カザリスが身に纏う花婿らしい服装のそれは、他でもないヨージスのための包装に過ぎない。包装ではなく、中身が欲しいのに、辿り着けないもどかしさがある。
「───ヨージス、」
「聞きたくない」
今は何を聞かされても信じられそうにない。
包装紙を乱雑に開封する子供か、あるいは知能のない熊が中身を求めて無策に爪を立てるかのように、躊躇いなく衣服を引き裂き、カザリスの鎖骨に歯を立て、下半身を弄る。まるでそこにしか用がないかのような性急さは一度目と何ら変わらない。濡れてもいない秘所に指を差し入れれば、玉座で無理やり割り開いて傷つけた一度目と異なり、何度か指を受け入れた覚えのある秘所はヒクヒクと喘いで指を締め付けた。
「ヨージス!」
体格差もあり、ヨージスに抑え込まれたカザリスは身動きも出来ずに声を上げる。
「待っ、頼むから話を───」
「黙れ!!」
至近距離で視線を合わせるのも煩わしいとばかりに唇に噛み付き、口を塞ぐ。んんんーッとくぐもった声が尚もヨージスを呼ぶ。歯列を優しくなぞってやれば、ふぅん、と甘えるような息を漏らして、身体をビクビクと震わせて。
カザリスの身体は快楽に従順で。覚え込まされた刺激に体温を上昇させる。例え心が拒絶しようとも、彼の身体はヨージスを拒めない。それでも足掻き、ヨージスの胸板を突き放そうとしていたカザリスの手が、縋るようにヨージスの首に回される。
───寝首を搔かれるかもしれない。
閨とはいえ、首という急所に手を回されるなど不用心にも程がある。刃物でも隠し持たれていたら簡単に殺されるだろう。皇帝として生き延びる為に培った防衛本能が警笛を鳴らす中、カザリスに殺されるなら本望だとも思う。他の誰でもない、カザリスの人生を血で汚すのは想像しただけで心地良い。
こじ開けた口内へと唾液を送り込んで、嚥下させると、内側からカザリスを汚す高揚感に目眩がした。
狭く、濡れもしない、本来雄を受け入れる場所ではない秘所を暴こうと必死になっていたヨージスの手に、ぬるりとした液体が触れた。血だろうかと思ったが、液体の出処は中ではない。外側だ。指を引き抜き、その液体を辿れば、カザリスの陰茎がやや硬度を上げて切なく震えていて。
唇を離して身体を少しだけ起こし、ヨージスはカザリスの陰茎を見つめた。
「そ…んなに、み…ない、で…っ」
羞恥に赤面しつつ顔を背けながらも、カザリスの両手はヨージスにしがみついて離れない。何故、突き放そうとしないのか。理解出来ずにヨージスは呆然とする。
「何故、拒まない」
拒絶されて当然で。それが聞きたくなくて口を塞いでいたというのに。希望が見えた途端、問いかける。己の弱さを自覚して、ヨージスは顔を歪めた。
対するカザリスは微笑む。花が開くように、カザリスは微笑む。この状況なのに何故そんなにも優しく微笑むのか。
「んぅ、ぁ、は…っ」
以前犯された時には、ヨージスの肉棒は先端しか入ってなかったらしい。しかし、あの時の痛みはそこにない。毎晩寝ている間に身体を弄ばれた成果なのだと思うとカザリスの心中は複雑だ。
潤滑剤の助けを借りて、ぬぷぬぷと入り込んでくる質量は指などとは比べ物にならない。
「…ッ」
「かは…ッ、あ、あ、あぁぁぁっ」
先端が、指などでは届かない場所をこじ開ける。宥めるように唇で乳首を転がされると堪らず逃げ出したくなる。痺れるような、内側から暴れ出したくて仕方なくなるような、そんなむず痒さが熱と共に心臓を支配して。ギュッと身体を縮こませたいのに、向き合うヨージスの苦しげな表情を見てしまえばそれも出来ない。
「はぅ…ん」
ヨージスの熱い手が、カザリスの下腹部を撫でる。ヨージスを受け入れたことで、膨らんだ下腹部を。
「もっと…、はいりたい」
「ひゃ!らめ、も、いぃぃぃぃあっ」
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