花、拓く人

ひづき

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「……………」

 カザリスは黙り込む。

「睨む気力があるのなら問題ないな」

 ちゅ、と触れるだけの口付けがカザリスの額に落ちた。そんなことをする皇帝の意図がわからず、カザリスは目を点にして更に黙り込む。

「……………………」

「俺の事はヨージスと呼べ」

 故郷とそこに住む民を人質にとられているカザリスに拒否権などない。理解しているからカザリスは望まれるままに口を開く。

「はい、ヨージス陛下」

「違う」

 何が気に入らないのだろうと、カザリスは訝る。

「………ヨージス様?」

「呼び捨てにしろ」

 とすん、と寝台に押し倒された瞬間、カザリスの身体は痛みを思い出して怯えを隠しきれずに震えた。

「………よ、ヨージス」

「良い子だ。襲ってしまわぬうちに俺は行く。お前は今日も休んでいろ」

 離れたヨージスが天蓋を開くと、数人の侍女が水桶や着替え、宝飾品などを手に控えているのが見えた。躊躇いなく裸体を晒し、されるがまま着付けされていく。そんな彼はまさしく帝王であり、支配者だ。

 ───状況が呑み込めない。

 カザリスは自身の身体が求めるまま、眠気に身を委ねる。夢現の中、考える。

 要求された兄家族の代わりに、一方的に人質として押しかけてきたカザリスを、皇帝ヨージスは公衆の面前で辱めた。そこまではいい。何故まだ生かされているのだろう。皇帝の気まぐれだとして、果たして故郷は、家族は無事なのだろうか。どうすれば機嫌を損ねずに情報を引き出すことが出来るのだろうか。





 公務を終えたヨージスが自室に戻れば、寝台にはカザリスが横たわっている。傷ついた身体には安眠効果のある香は効き過ぎるのかもしれない。自身には大して効果のないそれを一瞥する。

「俺の、カザリス」

 起きている時に同じように頬に触れたなら、恐らくカザリスは怯えるのだろう。自業自得なのでそれに関しては仕方ないと飲み込む。

 上掛けを剥ぎ取り、一糸まとわぬカザリスの肌に手を滑らせる。吸い付くようなそれは、自身のために存在しているのだと傲慢な錯覚をさせる程、酷く馴染んで離し難い。

「ん───」

 胸の突起を潰すように撫でると小さな声が薄い唇から漏れたが、それだけだ。一向に起きる気配がない。

 ヨージスはカザリスの腰を浮かせると枕を差し入れ、両脚を大きく開かせた。手入れされた恥部は下生えが見当たらない。彼の故郷の文化圏ではそれが常識だという。機会があれば是非下生えの色を見てみたいと下品な興味を抱きつつ、萎えたままの陰茎を指でなぞる。敏感な急所への刺激に、眠ったままカザリスは逃げるように身をよじる。当然、両脚を開かされ、押さえつけられているため、眠ったままの抵抗など些細なものだ。

 目的は戯れることではないので、ヨージスはカザリスの孔を覗き込んだ。無理やり男根で貫かれ裂けたそこはそうそう治りはしない。ヨージスも、カザリスが自分のものになったのだと見せつけるために無理強いしただけで、もう二度とあのような手荒な真似をするつもりはない。痛み止めと化膿止めを配合させた軟膏を指にたっぷりと塗り、ヨージスはカザリスの孔にゆっくり指を差し入れる。温かいそこは、侵入を拒もうと必死に食い付いてくる。

 いづれ快楽でグズグズにしてやりたい。その為に男として生きてきたカザリスの身体を、抱かれるための身体へと作り替える必要がある。ぐちゅぐちゅと中にこれでもかと軟膏を塗りつつ、指を一本一本と増やし、中にあるはずの弱点を探る。そこに指を入れられるのが気持ちいいのだと錯覚させるために、同時進行で萎えている陰茎を口で扱いてやる。

「あ、あぁ、なんで、こんな、だめ、」

 夢の中で淫らに喘ぎ、汗を浮かせつつ、身体の熱を上げていくカザリスは美しい。必死に足掻きつつも、目を覚ませないまま、淫夢に囚われて、快感に翻弄されて。

「ひ、やだ、や…」

 内側からも外側からも、ここが性感帯なのだと。教えこまれ、望まぬ快楽に押しつぶされ、塗りつぶされ、眠ったままカザリスはヨージスの口の中に精液を吐き出す。ヨージスは満足気に嚥下し、用意していた水桶と布で丁寧にカザリスの全身を拭い始めた。

「そのようなこと、閨係にでも教育させれば良いでしょうに」

 傍らに控えて一部始終を見ていた側近のグレリルが嘆息する。

 相手が女であれ男であれ、帝国では皇帝の夜伽相手にはまず閨係の宦官が房術の講義を行う。男ならば、媚薬を飲ませ、温めた棒で後孔を塞ぎ前後させる。それを毎日少しずつ棒を太くしながら繰り返し、同時に男根を口で奉仕する練習をさせるのだ。時折媚薬を抜いたり、乳首を器具で挟んだり、見物人の前に曝して羞恥心を煽りながら。皇帝のための淫らな男娼を作り上げていく。子を成せる女と違い、男はただ皇帝の性欲の捌け口として調教される。

「───絶対に嫌だ。俺以外が性的な目的でカザリスに触れるなど許容できぬ。侍女に着替えさせるのも嫌だ」


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