6 / 18
【5】守られる側
しおりを挟む飯田と休みが重なって八重子は久しぶりに喫茶店に入った。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる